こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
157話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 第1の関門
タタタタッ!
バルクス・オドレンの巨体が、凄まじい速度でこちらへ迫ってくる。
今の私は十字架と鎖に縛られた罪人の姿だ。機動力は大きく落ちており、回避もままならない。そのため、彼の攻撃を正面から受け止めるしかなかった。
そして――激突の瞬間。
「ふっ!」
老人の防御は容易には崩れなかった。私が手首をひねりながら力を流し込んでも、その腕には筋肉が盛り上がり、びくともしない。
だが、それで構わない。
「それでも、私は力がある方なんですよ!」
〈いったい何を言っている……ぐっ!〉
『女王の権能』が制限されるのは、十字架を背負っている間だけ。そのため、バルクス・オドレンを直接相手にしている今は正常に機能していた。
〈どうして……!〉
突然力負けし始めたことで、バルクスは激しく動揺した。だが、こちらに彼の事情を気遣う余裕などない。私はセーフェンスをためらいなく振るう。黄金の光が弧を描きながら走り、バルクスの首筋を狙った。
〈ぐっ!〉
バルクスは剣を立てて間一髪で受け止めた。しかし、力の差は圧倒的だった。彼の足は床を削りながら横へと押し流されていく。
〈なんという馬鹿力だ!〉
「褒めても何も出ませんよ!」
私はそのまま攻撃の手を緩めなかった。バルクスの額に冷や汗が浮かぶ頃、両腕へと権能を集中させる。手首、肘、肩――全身の筋肉が一斉にうねる。肉体に負荷がかかるほどの爆発的な力。
その瞬間、狙いを定める。そしてバルクスを力任せに弾き飛ばした。
ドォン!
〈ぐあっ!?〉
大男の身体が、まるで冷凍マグロのように宙へ吹き飛ぶ。自分が空中へ放り出されるとは思ってもみなかったのだろう、バルクス・オドレンは動揺を隠せなかった。
だが、さすがは歴戦の騎士。着地点を瞬時に見極め、乱れることなく着地して体勢を立て直した。
〈はぁ、はぁ……〉
「はぁ、はぁ……」
私と彼はしばらくの間、互いを警戒しながら荒い息を整えていた。
皮肉なことに、持久力では私の方が劣っている。時間が経っても疲労の色を隠せず肩で息をする私の様子は、彼に確信を与えたようだった。
〈もうずいぶん疲れているようだな、異端の聖女よ〉
隠しても仕方がない。私は素直に認めた。
「私の背中に……十字架が見えるでしょう? あの重いものを……ここまでずっと背負って来たんです」
〈異端者である貴様が背負う十字架の重さなど、自ら招いたものだ。誰を恨むというのだ。今からでも悔い改め、秩序教へ帰依する気はないか?〉
[『世界を構築する精霊』が怒りに満ちた目でこちらを見つめています。]
ならば、こちらもそれ相応に返すだけだ。
「滅びる運命の宗教に勧誘してくるなんて、ずいぶん良心的ですね」
〈……!〉
図星だったのか、反論の言葉は返ってこない。代わりにバルクスは静かに聖剣を構え、オーラをまとわせた。
〈ならば異端者を討つのみ!〉
空間を震わせるような絶大な剣気はない。英雄バルクス・オドレンも、オーラマスターの境地には到達していなかったようだ。
ならば、こちらも決着をつけるだけだ。
〈この一撃で終わらせよう、異端の聖女よ!〉
「ええ、来なさい――イレオネおじいちゃん!」
セーフェンスを立てて構えながら、私は不敵に微笑んで彼を呼んだ。その言葉を合図に、バルクスは地面を蹴る。光をまとった聖剣を真正面に突き出し、一気に突進してきた。
ズブッ――!
バルクスの聖剣は、狙った場所を正確に貫いた。
だが。
〈なっ!?〉
貫かれたのは、私の身体から切り離された防寒マントだけだった。
――次は私の番だ。
オーラは武器にだけ宿して使うものではない。そして幸運なことに、私の手の届く場所には扱いやすいものがあった。
ジャラララッ!
左手を拘束していた鎖が、生き物のようにうねりながら伸びる。そして一瞬でバルクスの首へと巻き付いた。
〈ぐっ!?〉
私は力いっぱい鎖を引いた。女王の鬼力によって、彼の身体は抵抗する間もなくこちらへ引き寄せられる。
〈……っ!〉
もはや回避は不可能。私はその隙を逃さず、セーフェンスにオーラをまとわせて構えた。
――来い!
驚愕に目を見開いたバルクスが目前まで迫る。私は真正面から彼を見据え、機を待った。
そして、その瞬間。
ザシュッ!
剣先で大きく斜めに薙ぎ払った。足の踏み込みから全身を連動させた、渾身の一撃。
研ぎ澄まされた感覚が伝えてくる。確かに斬った。綺麗に断ち切った確かな手応えを。
「……」
〈……〉
私とバルクスは、そのまま時間が止まったかのように動きを止めた。
――十秒。
心臓の鼓動だけが響いているような静寂を破ったのは、バルクスだった。
〈……見事だ。異端を討てなかったとはな〉
シュゥゥゥ……
最後まで皮肉げな言葉を残しながら、バルクス・オドレンの霊体は煙となって消えていった。
勝負は、私の勝ちだった。
「……ふぅ」
私はセーフェンスを鞘へと納めた。特別な緊張感はなかった。相手の力量に合わせていたため、神聖力すら使わなかったのだから。
ただ、少しため息が漏れる。
「問題児がよりによって秩序教の聖人だなんて。これから先も、きっとこんな感じなんでしょうね?」
そう呟きながら、私は肩をすくめた。毎回こんな異端扱いを受けると思うと、あまり気分の良いものではない。
[『世界を構築する精霊』は、本来ヘルモードになるまでは、最終ボスを除けば愛嬌のあるスライムのような存在だったのですが、仕様変更でこうなってしまったようです。]
[『均衡を司る読者』が秩序教の聖人たちを追い詰めるために配置された存在だと思っていたので、少し驚いています。]
[『世界を構築する精霊』には、そのような悪意はないと主張しています。]
「ああ、やっぱり精霊様の意図ではなかったんですね」
どうりで本気で私を殺そうとしてくるわけだ。ようやく納得がいった。私はしばらく考え込み、それから尋ねた。
「私が倒した英霊は、どうなるんですか?」
[『世界を構築する精霊』は、元いた場所――聖人の殿堂へ戻り、しばらく療養することになるだろうと語っています。]
「ああ、霊体を回復させるんですね。できれば回復期間は長めでお願いしたいです」
いつの間にかバルクスの霊体は完全に消え去り、その場には私の声だけが残った。
その時だった。システムメッセージが目の前に浮かび上がる。
[〈システム〉おめでとうございます。『巡礼者の道』第一関門の通過資格を獲得しました。報酬を受け取りますか?]
「報酬?」
私は思わず目を瞬かせた。まさか各関門に通過報酬まで用意されているとは思わなかった。
「おお、精霊様……!」
感激のあまり胸が熱くなる。私を救うために、システムそのものの仕様まで改変してくれたのではないだろうか。
「神聖力もかなり消耗していたのに、無理をしていませんか?」
[『世界を構築する精霊』は、自分ほどの神格にとっては大した負担ではないと答えています。]
[『魂を裁く天秤』は、もし本当に気前よく振る舞うつもりなら、もっと神聖力を注ぎ込んで主人公を助けるべきではないかと指摘しています。]
[『世界を構築する精霊』はむっとした様子で、黙秘権を行使します。]
精霊様を責める気にはなれなかった。結果として私もテシリドも無事だったのだから、それだけでも十分すぎるほどの助力だ。
それに、精霊様が神性を最小限しか消費しなかった理由も理解できた。詳しい事情は“事業本部長様”が説明してくれる。
[『創造経済管理者』は、これ以上強引な介入を行っていた場合、その反動を受け止めることが難しかっただろうと説明しています。]
「反動……ですか?」
[『創造経済管理者』は、『世界を構築する精霊』が一定期間封印状態になり、さらにあなた自身にも神聖力低下(能力値デバフ)が発生する可能性があったと説明しています。]
「ひぃっ!」
耐え難いほど重い代償だった。下手をすれば、精霊様そのものが封印されていたかもしれないのだ。
「それなのに、すぐに助けてくださったんですね……」
申し訳なさと感謝の気持ちが入り混じり、胸がいっぱいになる。ふと鼻の奥がつんとした。
私はこみ上げるものを堪えながら口を開く。
「待っていてください、精霊様。私が一生懸命、精霊教を広めて、失った神性を取り戻してみせますから!」
[『世界を構築する精霊』は、あなたを信じていると励ましています。]
「はい!」
私は力強くうなずいた。そして気持ちを切り替え、再びシステムウィンドウへ視線を向ける。
――そうだ。まずは関門突破の報酬を受け取らなければならないのだから。
やがて私の手の中に、一枚の紙が現れた。
【アイテム】『盗賊団アジト分布地図』
ヘゲリクス山脈一帯に潜む盗賊団のアジトの位置が記された地図。
不法に蓄えられた財産を没収し、生活資金の足しにしよう。
※備考:蓄積財産の多いアジトほど大きく表示される。
私は思わず目を輝かせた。
「これ、実質的にお金を稼げるアイテムじゃないですか!」
[『創造経済管理者』は、運営方針により直接的な金銭支援は禁止されているため、かなり工夫した報酬だと説明しています。]
いわゆる“変則的な支援”だ!
ダンジョンの企画意図が理解できた。ジャンル変更権を買うための資金を用意しろと、金銭に直結する報酬を案内してくれたのは間違いない。
信仰心が天を突き抜けそうだった。狂信者というのは、こうして生まれるのかもしれない。
「頑張ります!」
やる気がみなぎってきた。私は再び十字架を握りしめ、巡礼の道を歩み始めた。
・
・
・
同じ頃、魔塔最上階。
「……」
「……」
銀髪の聖騎士と黒髪の魔剣士が、十歩ほどの距離を挟んで対峙していた。
リードは冷ややかな視線でテシリドを見つめた。その赤い瞳は様々な情報を読み取っている。
混沌の力を受け入れて以来、彼は存在するだけで強大な威圧感を放つようになっていた。その力はあらゆる生命あるものを屈服させ、肺を締めつけるような窒息感すら与えるほどだ。
しかし今、目の前にいる銀髪のテシリドは、まっすぐに彼と視線を合わせていた。しかも、アイレット・ローデラインが傍らにいない状態で。
これに対するリードの感想は、「虫けらのくせに生意気だ」という程度では終わらなかった。以前から彼の神経を逆なでする、得体の知れない違和感。
今回もそれを感じ取ったリードは、試してみることにした。
彼の左右の虚空に、黒いオーラの刃が生み出される。そしてテシリドを威惑するように――一斉に放たれた。
だが――
ガガン! ガガン!
同じ数のオーラブレードがテシリド側にも出現し、リードの攻撃を正確に迎え撃った。
二人の中央で起きた爆発により、砂煙が舞い上がる。積み上げられていた書類は容赦なく吹き飛び、壁や本棚に叩きつけられた。
激しい風が収まると、リードの声が響いた。
「オーラマスター……か?」
確認した事実の意味を噛みしめるような、低い声だった。
ヒュルルル――。
二人のオーラブレードは、まるで約束でもしたかのように同時に消え去った。
互いに無駄な攻撃や反撃の意思を見せないまま続く対峙。その静寂の中で――まるで協定でも結んだかのような微妙な空気の中、再びリードが口を開いた。
「前から妙だと思っていたが……」
「……」
「やはりお前、17回目の回帰者ではないな」
「……」
テシリドは答えなかった。何らかの手がかりとなる反応すら見せまいとしたのだろうが、それは失敗だった。その態度こそが、17回目の彼らしくない反応だったからだ。
テシリド本人よりも17回目のテシリドをよく知るリードは、そう断定した。
「はっ、今までアイレット・ローデラインの前で猫をかぶっていたのか」
「……」
彼女の名前が出た。ここではテシリドもまた、弱みを突かれたかのような動揺を隠せなかった。
その様子を見逃さなかったリードの赤い瞳が、冷たい光を帯びる。
「興味深いな。何回目だ?」
しばらく固く口を閉ざしていたテシリドが、ようやく口を開いた。
「聞けば驚くぞ」
二人が最後に顔を合わせたのは、アナキシアのダンジョンだった。その時リードは、17回目のテシリドの愚かさを救おうとして、自分なりの歪んだ慈悲を示したことがある。結局のところ、二人は本質的によく似た人間だった。117回目のテシリドもまた、100回目のリードを軽んじることはできなかった。
「言え。何回目なんだ」
「……」
そしてテシリドは、短い沈黙の末に決断した。真実の一端を漏らすことを。
しばらく床へ落としていた海色の瞳が、ゆっくりとリードへ向けられる。過去を見通すような視線で、彼は言った。
「お前は今回も失敗する。この100回目の時間軸の果てで、お前を待っているのは破滅だけだ」
「……」
重苦しい沈黙が流れた。一帯の空気がさらに重く沈む。静かな怒りに満ちた気配が、周囲の空気すら息苦しくさせていた。
「……破滅だと?」
聞き覚えのある言葉だった。リードにとって、それは二度目に耳にする予言だったからだ。
その言葉はリードの胸中に混乱と苛立ちを呼び起こした。だが、表面上の彼は夜の湖のように静まり返っていた。
しばらくして、リードが沈黙を破った。その感情の読めない声に乗っていたのは、長年抱き続けてきた疑問だった。
「アイレット・ローデラインは、お前の前でも血を吐いたのか?」
彼はテシリドの言葉の真偽を確かめようとしていた。そして、その答えは――。
「どういう意味だ?」
テシリドは、アイレットという名前に反射的なほど正直に反応してしまった。本当にその意味を理解していないように見える。
その瞬間、リードでさえわずかに動揺した。驚いたように赤い瞳がわずかに見開かれる。
「お前……アイレット・ローデラインが天機漏洩の代償として支払っていたものを知らないのか?」
「……」
「その間抜けな顔を見る限り、アイレット・ローデラインはお前の前で天機漏洩をしたことがなかったようだな」
つまり、先ほどの予言の出どころはアイレットではなく、テシリド本人だった。
「……は」
これで十分だった。これ以上確かめる必要はない。リードの瞳から、わずかに浮かんでいた動揺がすっと消えていく。
「ああ、そうか」
以前から感じていた奇妙な違和感の正体を、ついに確信した。
「お前は私の未来じゃないな」
その口調は淡々としていた。リード自身が次元の壁を越え、時間軸へ干渉している存在だ。ならば、自分の知る未来とは別の存在が介入していても不思議ではない。時間という舞台に、自分以外の“異物”が紛れ込んでいる可能性を否定する理由はなかった。
その時だった。
ヒュッ――!
風を切る音とともに、リードの姿が一瞬でテシリドの眼前へと移動した。
テシリドは避けることなく、その場に立ち続ける。リードは無防備に差し出された首筋を見つめ、眉をひそめた。
「知っていることをすべて話せ」
「……」
「愚かにも失敗したお前と違って、私は必ず成功する」
リードを見つめるテシリドの瞳は、深く沈んでいた。まるで何千年ものあいだ光を失っていた記憶を映しているかのように。
知りたいというのなら、隠す理由はない。
「お前は世界の敵として認定され、討伐される」
「そしてその過程で、皮肉にも回帰者であることが暴かれる」
「今さらそれが知れたところで、私が困ることでもあるのか?」
「あるさ。回帰者には死刑が刑罰として成立しないという事実が知られてしまったからな」
「……」
リードの赤い瞳が一瞬だけ揺れた。だが、テシリドはそれに気づかなかった。すでに視線の焦点が遠くへ向いていたからだ。
本当の後悔は、ここからだった。
「死ぬことも生きることもできない身体となり……“罪の牢獄”という名の無間地獄に閉じ込められる」
「だが、世界を滅ぼした罪を、たかだか一度の死刑で償わせることはできなかった。だから……」
その瞳から光が完全に消える。
「刑期を延ばすために、無理やり寿命を引き延ばされる」
そして本人の意思とは無関係に、永遠にも等しい苦痛を味わい続けることになる。まるで家畜以下の扱いを受けながら――。
「その副作用で、気が狂いそうな日々を送った」
光もなく、音もない闇の中で。不眠、悪夢、幻覚、精神錯乱に絶えず苛まれ続けた。闇を恐れるようになったのは、その時からだ。
「アーティファクトのせいで死んでも、死んだ瞬間ではなく、再び牢獄に囚われていた時点へと回帰させられた」
さらにセーブポイントのように、回帰地点までも強制的に調整されていた。擦り切れた精神を押し込められた肉体は、指一本動かせない拘束された塊に過ぎなかった。
「……そうして17回分の人生を、刑罰として受け終えてようやく解放された」
100回目から116回目まで。その17回の人生は、それ以前の100回の人生よりもなお長く、過酷だった。
痛ましい諦観を滲ませながら、テシリドは告げた。
「私は、お前の117回目の未来だ」
「……」
重い沈黙が空間を支配した。すべてを聞き終えたあとも、リードはしばらく無表情のまま動かなかった。
だが、その思考までも止まっていたわけではない。テシリドが彼を観察していた、その時――
「はっ」
ようやくリードが反応した。その口元に浮かんだのは、愉快そうな嘲笑だった。
「見事な失敗だな。で、それで後悔でもしたのか?」
「……さあな」
テシリドは即答できなかった。アイレットが“罪の牢獄”から自分を救い出すまで、自分が何を思い、どんな感情を抱いていたのか、もう思い出せなかったからだ。
「いかにも敗者らしい目だな」
リードは空虚な海色の瞳を見つめながら、壁をつかんでいた手の力を抜いた。
「アイレット・ローデラインは、お前を17回目の回帰者だと認識していた。だが、この病んだ魂は一体どこを見て17回目だと言ったんだ?」
「私が君だった頃、時空を越えてたどり着いた回帰が17回目だったらしい。彼女は私の100回分の過去をすべて知っているようだからな」
「それはつまり……」
リードは重要な確信を得た。
「君が経験した100回の回帰には、アイレット・ローデラインは存在しなかったということか」
「ああ」
彼女はすべての回帰を貫いて、この時間軸にだけ唯一存在している。
テシリドは、まるで過去を振り返るような口調で説明を続けた。
「私の100回目の回帰では、17回目の私は間違いなく私の手で死んだ。だが今は、私がその身体を引き継いでここにいる。おそらく回帰地点を調整するアーティファクトが異常終了したことで生じた現象だろう。本来は16回ではなく30回使用できるはずだったからな」
「まったく、とんでもない話だな」
心からの嘆息だった。だが、それは妨害者の出現について言ったわけではない。
「お前も私も、よりによって17回目とはな……」
彼が注目したのは、この時間軸の本来の主が17回目のテシリドだったという点だった。
「偶然なのか……それとも、私が一番殺したかった相手が17回目の私だったからなのか……。はっ」
短いため息とともに、リードの乾いた笑いが虚空に広がった。テシリドは笑わなかったが、その胸中もまたリードと大きくは変わらなかった。
99回目まで、二人は同じ経験と記憶を共有していた存在だった。
(17回目……)
アイレットが知る世界線の17回目では、主人公は最終黒幕によって残酷に殺される。だが、その最終黒幕もまた主人公であり、それが100回目の主人公(リード)だった。
実際には、世界線に現れた17回目は本来の17回目ではなく、主人公の100回目の前日譚のようなものだったのだ。つまり、リードの誕生によって、この世界線では17回目が100回目へと新たに“上書き”されたのである。世界線に記録されているのは、本来の17回目ではなく、改変された「17-2回目」と考えるべきだろう。
では、リードが誕生する前に存在していた“本来の17回目”はどうだったのか。世界線に記録されていない「17-1回目」は、果たしてどのようなものだったのだろうか。
本来、この世界線ではそれほど重要な回帰ではなかった。16回目と18回目をつなぐ、ごく平凡な回帰に過ぎなかったからだ。
だが、ここは本来の原作の世界とは大きく異なる。憑依者アイレット・ローデラインがチュートリアル期間に介入し、すべての回帰の主人公に因果を刻み込んだ世界なのだから。
そのため、「17-1回目」は100回目の主人公にとっても、117回目の主人公にとっても、特別に記憶に残る時間軸となってしまった。
その理由は――
(その回帰で、アイレット・ローデラインを探し出したからだ)
16度の死を経験し、17回目のテシリドの精神は大きく疲弊していた。リードの介入がなかったとしても、彼は世界中のすべてが自分を憎み、自らの死を望んでいるかのように感じていた。一人ではまともに歩み続けることも難しくなった心には、寄りかかる先が必要だった。
ちょうどその時、自分の味方だと言ってくれた誰かの存在が、彼の頭の中を埋め尽くしていた。
だから彼は逃避した。あらゆる義務を放棄し、教団を離れ、アイレット・ローデラインを探し求めてさまよった。
自分が回帰を始めた瞬間に、彼女の存在が消え去ったことは薄々理解していた。それでも、この世界のどこかで誰か一人くらいは彼女を覚えているかもしれない。どこかに彼女の痕跡が残されているかもしれない。そんな希望を抱いていた。
もちろん、それは叶わなかった。大陸中を巡り歩いたが、アイレット・ローデラインの存在は蒸発したかのように跡形もなく消えていた。
その時間軸でテシリドが費やしたすべての時間は、無駄であり、絶望そのものだった。
「本当の17回目では、どれだけ探しても見つからなかったのに……」
「……」
恨みと嘲りが入り混じったような表情で、銀髪の美男子は顔をしかめた。テシリドには、それがまるで鏡に映った自分の顔のように思えた。
しばらく物思いに沈んでいたリードは、やがて冷めた表情に戻り、皮肉げに問いかけた。
「それで、お前はアイレット・ローデラインが思う存分“救世主ごっこ”をできるように、自分を17回目だと偽っているのか? 哀れな願望が現実になることを期待して?」
「……そうだったな」
リードのどんな非難に対しても、117回目のテシリドは苦笑を浮かべるだけだった。だからこそ、リードは少し拍子抜けしたようだった。
「そうだった? 過去形だな。では今は違うのか?」
「その哀れな願いが、叶ったようだからな」
「……」
まさか、ここで形勢逆転の言葉が出るとは思わなかった。油断していたせいか、その言葉は強くリードの心を揺さぶった。
敵意に冷たい光が鋭く宿った、その瞬間――
ガキィン!
十字の黒い長剣が、先ほどまでテシリドがいた場所へ突き刺さった。
砂煙を巻き上げながら回避したテシリドが体勢を立て直す間に、リードが口を開く。
「面白いことを思いついた」
「……」
「お前の立場を、私が代わったらどうだ?」
重要ポイントを3つにまとめました。
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アイレットの第一関門突破と変則的な報酬
英霊バルクス・オドレンとの激闘を圧倒的な力と機転で制したアイレットは、第一関門を突破。神々(システム)の配慮により、資金稼ぎに直結する『盗賊団アジト分布地図』を報酬として獲得し、やる気を新たにする。
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リードとテシリドの対峙と真実の発覚
魔塔最上階でリードと対峙したテシリドは、自身が「100回目の破滅を経て17回分の懲役刑を終えた117回目のテシリド」であることを明かす。また、リードもテシリドの反応から、彼らの過去の回帰にはアイレットが存在しなかったという確信を得る。
-
「17回目」の因果とリードの新たな企み
かつて「17-1回目」のテシリドがアイレットを捜し求めて絶望した過去が明かされる中、117回目のテシリドはアイレットとの出会いによって救われたことを示唆。嫉妬と敵意を募らせたリードは攻撃を仕掛け、「お前の立場を代わりに奪う」と宣言する。