こんにちは、ちゃむです。
「私が主人公(ヒロイン)だと思ってたのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
41話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 3年早い邂逅
「いらっしゃい!」
私の誕生日を祝うために屋敷を訪れたルチとハリソンに向かって、私は明るく声をかけた。
すると、馬車から降りようとしていたルチが、ピタリと動きを止めた。そのまま完全に地面へ降り立つと、品定めるような目で私をじっと見つめてくる。
「おかしい」
「何が?」
「浮かれてる」
「今日はエスピンの誕生日なんだから、嬉しいに決まってるでしょ」
隣のハリソンは、何が変なのか分からないといった様子で首を傾げたが、ルチの疑わしそうな視線は外れなかった。
「誕生日だからって、普段よりずっと浮かれてる」
やっぱりルチは私のことをよく分かっている。一瞬焦ったけれど、どうせすぐに分かることだ。私は喜びを隠すのをやめることにした。
「そんなこともあるよ」
私がにやにやと意味深に笑うと、ルチはますます怪しむような視線を隠そうともしなくなった。けれど、その視線を浴びれば浴びるほど、私の気分はますます浮き立っていく。
「ひとまず中に入って話しませんか?」
玄関先で立ち話をするのは落ち着かない。でも、まだ中へ入るタイミングではなかった。
「ちょっと待って」
「何かあるの?」
それは、すぐにあなたたちも驚くことだから!
「今日は私の新しい友達が来るの!」
私は誇らしげに胸を張った。魔法道具店で出会ったあの魔法使いを、自分の誕生日パーティーに招待することに成功したのだ。すっかり得意満面だった。
友達を作れと口うるさく言っていたルチを、ようやく見返せる時が来たのだ。あの日、あの魔法使いは私と話したあと少し考え込み、それから素直にパーティーへ来ると約束してくれた。
実はその後も、気を取り直して何人かに招待状を配ってみたのだけれど――『行く』と返事をくれたのは、あの美形の魔法使いだけだった。連続で招待状を配り歩く私を見て、周囲の人々は不思議そうな顔をして避けていった。この黒歴史だけは、絶対にルチに知られるわけにはいかない。
それでも、とにかく一人でも新しい友達を連れてこられたのだから、もうルチも私に友達のことで小言は言えないはずだ。
得意げに胸を張って二人を見ると、ルチは驚いたように固まっていた。ハリソンもまた、愕然とした表情を浮かべている。
「新しい友達ができたの?」
信じられない、と言いたげな声だった。
「そう。私だって、友達くらい作れるんだから」
まるで私が友達を作れない人みたいに言わないでほしい。そう言わんばかりにルチを見つめると、彼の表情は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「……それで、その相手は?」
「その人はね……」
――そういえば、あのイケメン魔法使いの名前って何だっけ?
私は招待した相手の名前すら知らないことに、今さら気づいた。
答えられずに視線を泳がせると、ルチがすぐに眉をひそめた。
「誰が来るのか教えたくないの? どうせ会えば分かる相手なんだから」
違う。名前を知らないから言えないだけなのだ。
とっさに知らないふりをして誤魔化そうとすると、何かを察したルチの表情が一気に険しくなった。
「お前……」
ルチが私に詰め寄ろうとした、まさにその瞬間だった。
まるで私を助けるかのように、一台の見知らぬ馬車が滑り込んできた。
「ほら! あの馬車だ! 私の新しい友達が来た!」
初めて見る馬車だから、きっとあの魔法使いのものに違いない。不安を隠すため、私はわざと大げさに嬉しそうな声を上げた。
ルチは私を問い詰めようとするのをやめ、近づいてくる馬車へ視線を向けた。どうやら、相手が誰なのか自分の目で確かめるつもりらしい。
魔法使いという職業は稼げると聞いていたけれど……私の想像以上だった。近づいてくる馬車は、我が家のものよりも遥かに高級そうに見えた。しかも、車体に掲げられた紋章には見覚えがある。
――どこの家の紋章だったっけ?
その時、ルチとハリソンが身を寄せ合った。
「まさか……」
「えっ、あの馬車、どうして……」
もしかして、二人はあの魔法使いと知り合いなのだろうか?
そんなことを考える間もなく、馬車は目の前でゆっくりと停車した。
ガチャリと扉が開き、魔法使いが姿を現した。
パーティーだから気を遣ったのだろう。前に会った時とは違い、仕立ての素晴らしい礼服を身にまとい、端正に身支度を整えた彼は、さらに息を呑むほど美しかった。胸元に大きな花束を抱えている姿は、まるで一枚の絵画のようだ。
あまりの美しさに見とれてしまい、一瞬あいさつをするのすら忘れてしまう。
そんな私に気づいたように、魔法使いは優しく微笑んだ。
「迎えに来たこと、待っていてくれましたか?」
やはり、その声は人柄がにじみ出るような優しい響きを帯びていた。私は慌てて我に返り、急いで頭を下げた。
「ようこそ。私の誕生日パーティーへお越しくださり、ありがとうございます」
「エスピン、招待してくれてありがとうございます。これは感謝の気持ちです」
魔法使いは花束を差し出しながら、私の名前を呼んだ。
私は思わず目を丸くした。
『どうして私の名前を知ってるの?』
私は相手の名前も知らず、さっきルチに聞かれて困っていたというのに。一瞬あたふたしていると、彼は私が渡した招待状を懐から取り出し、ひらひらと悪戯っぽく振ってみせた。
『あっ、招待状に私の名前が書いてあったんだ……!』
ようやく気づき、差し出された花束をそっと受け取る。
「お花、ありがとうございます。とても素敵です」
「エスピンに似合うものを選びました」
お礼の言葉を自然な褒め言葉へと繋げるあたり、ずいぶんと女性の扱いに慣れている人のようだ。悪い気はしなかったので、私は思わずくすっと笑った。
「エスピン」
冬の寒波のように冷え切ったルチの声が響いた。
その尋常ではない気配に、私の身体は思わず硬直する。ぎこちない動きで振り返り、ルチの顔を見た瞬間、その表情に驚いて悲鳴を上げそうになった。
怒りを必死に押し殺したような、恐ろしい笑顔だった。
「そちらが、お前の新しい友人か?」
他人の前だからか貴族らしい話し方に戻っていたが、その口調はどこか尊大だった。私は思わず魔法使いの様子をうかがったが、彼は何事もないように穏やかに微笑んでいる。この人も、なかなか気の強い性格かもしれない。
「はい、私の新しい友達です」
「紹介してくれないか?」
ルチの声がさらに硬くなる。新しい友人があまり気に入らないのか、相手を値踏みするような視線を隠そうともしない。
「えっと、こちらはルチアーノ皇子殿下です」
私が魔法使いに向かってそっとルチの正体を伝えると、彼は驚いた様子も見せず、落ち着いた所作で丁寧に礼をした。
「高貴なお方にお目にかかれまして光栄です。初対面ゆえご挨拶が遅れましたことを、どうかお許しください」
貴族の礼儀作法の手本とでも言うべき、完璧で優雅な挨拶だった。ルチは魔法使いがそれほどの作法を見せると、腕を組み、不機嫌そうに相手を見下ろした。
そこで問題が起きた。私は彼の名前を知らない。紹介しなければならないのに、言葉が出てこなかった。
「こちらは、その……」
私がもじもじと言葉に詰まっていると、ルチが代わりに鋭く尋ねた。
「そちらは初めて見る顔だな。何者だ? それに、どうしてあの家門の紋章が入った馬車に乗って来た?」
どうやらルチとも面識はないらしい。それに少しホッとした。
「初めまして。デミアン・クウェイドと申します」
魔法使いは、まるでこの瞬間を待っていたかのような意味深な笑みを浮かべ、自ら名を明かした。
「えっ!?」
デ、デミアン……!?
どうしてあなたがここにいるの!?
予想外の登場に、私は完全に思考がフリーズしてしまった。
『ヒロインの後ろには、いつだってサブヒーローがついてくる』。そんな恋愛ファンタジーのお決まりを、すっかり忘れていたのだ。ここ数年、平和すぎて完全に油断していた。銀髪の魔法使いという特徴だけで、その正体に気づくべきだったのだ。
けれど、デミアンが原作で本格的に活躍するのはまだ先の話だったから、目の前にある分かりやすい伏線にまったく気づけなかった。
『はっ、そういえばルチとデミアンって、今出会ってもよかったんだっけ……?』
デミアンは最終的な黒幕だ。後にルチとヒロインを苦しめる、本物の悪役である。もしかして、裏ですでにルチにちょっかいを出しているのだろうか。彼がいつから動き出していたのか分からないのが問題だった。私が余計な出会いを作ってしまったのではないかという不安が、泥のように胸に広がる。だが、今さら招待を取り消すこともできない。
ルチとハリソンは、予想外の人物の登場に驚いたようにわずかに眉をひそめた。
「クウェイド家というと、私の知っているあのクウェイド家か?」
「はい。その通りです。クウェイド公爵が私の父です」
「クウェイド公爵に、これほど立派な息子がいたとは知りませんでした」
現在の社交界では、クウェイド公爵に子供がいるという話は知られていない。そのため、ルチが驚くのも無理はなかった。
『原作でもデミアンが初登場するのは3年後――つまり、ルチが20歳の誕生日を迎えた時だったはず。それをきっかけに本格的な対立が始まるのに、どうしてこんなに早く出会ってしまったんだろう……』
「ほとんどの方はご存じありません。幼い頃に塔へ預けられ、そのままそこで育ちましたから。これをご覧いただければ、ご納得いただけると思います」
ルチの疑うような視線にも、デミアンは穏やかな笑みを浮かべたまま落ち着いて答えた。その指には、確かにクウェイド家の紋章が刻まれた指輪がはめられている。それを見て、ルチはようやく疑いの色を消したようだった。
しかし、ルチは別の意味で目を輝かせ、デミアンを頭の先からつま先までじろじろと見回し始めた。あまりにも露骨な観察に、私はそっとルチの腕をつついた。
『変に敵を増やさないで』
そんなつもりだった。けれど、ルチから冷ややかな視線を返され、私はおとなしく引き下がるしかなかった。神経質なルチに、余計なちょっかいを出すものではない。
その時だった。
バサバサバサッ!
黄金色の鳥が、耳をつんざくような声で鳴いた。デミアンは驚いた様子だったが、私やルチは慣れたものだ。
この黄金の鳥は、昼寝から目を覚ますと私を探して大騒ぎするのがいつものことだった。この子、意外と分離不安が強いのだ。
バサッ!
私を見つけた黄金は勢いよく飛んできて、私の肩へ軽やかに舞い降りた。そして、どうして自分を置いていったのかと文句たらたらにつついてくる。
「わっ、痛いって。ごめんね。お昼寝してたから置いてきちゃったんだよ」
バサッ!と、羽を広げて抗議してくる。――それでも連れて行くべきだった、とでも言いたいらしい。
「だから、ごめんってば」
もう一度謝ると、ようやく黄金は私の肩で大人しくなった。今回は許してくれたらしい。
反抗期だろうか、日に日に頑固になってきて困る。
その時、隣から好奇心に満ちたデミアンの視線を感じた。前に魔法道具店へ行った時は、黄金は馬車の中で昼寝をしていたので、彼が見るのはこれが初めてだった。
「エスピンが飼っている鳥ですか? 初めて見る種類ですが、何という鳥なんですか?」
デミアンは興味深そうに黄金を見つめた。黄金を初めて見る人は、大体みんな同じ反応をする。
「偶然拾って育てたので、私にも分からないんです。たぶん野生種の一種じゃないかと思います」
こう答えると、大抵はそれで納得してくれるし、あながち間違いでもなかった。色々な本を調べたけれど、黄金の正体につながるような記述は見つからなかったのだから。
「野生種ですか? ですが、この子は……」
しかし、デミアンの反応は少し違っていた。何か思い当たることがあるような声を漏らし、観察するような目で黄金をじっと見つめている。
『まさか、何か気づいたの……?』
魔法使いは常識を超えた学問を修めた人物だ。もしかすると、私たちが分からなかった黄金の正体を見抜けるかもしれない。
「黄金が何という種類か、ご存じなんですか?」
「……いいえ。ただ、初めて見る鳥だったものですから」
デミアンはにこりと笑った。けれど、その笑顔はどこか作り物めいていて、私は妙な違和感を覚えた。そのままもう一度尋ねようとした、その時。
「ところで、その子の名前は“黄金”というんですか?」
――ピンク色の鳥なのに?
そんな視線を向けてくる。これもよく聞かれる質問だった。
「はい。この子、黄金が大好きなんです」
「黄金が好き……ですか?」
「はい。仲良くなりたければ、この子に金貨をあげればいいんです。たくさんあげるほど早く懐きますよ」
「…………」
デミアンは思わず言葉を失ったようだった。
それまで黙っていたルチが、再び口を開いた。
「それより、あなたはエスピンとどういう知り合いなんだ?」
質問されたのはデミアンなのに、なぜか私の方がぎくりとした。
「そんなことより、立ち話はこのくらいにして中へ入りましょう」
私は慌てて話を遮り、みんなを屋敷の中へ促した。昔の招待魔だった私の悪癖を、ルチに知られるわけにはいかない。『どれだけ呆れられるか分かったものじゃない』。
そう思いながら、私はルチの腕をつかみ、急いで屋敷の中へ引っ張っていった。
しかし、ルチはまったく動じず、追及するような鋭い視線でデミアンを見つめ続けた。その刺すような視線をものともせず、デミアンはにこりと微笑む。
「エスピンが突然、私を口説いてきたんです」
確かに突然招待状を渡したのは事実だけれど、その言い方はちょっと語弊がないだろうか。
「はっ、エスピンがお前を口説いた?」
ルチの声が鋭く低くなった。しかし、デミアンはまったく気にした様子もなく、滑らかに言葉を続ける。
「はい。会ってまだ10分も経っていないのに、そうしてきました。ほとんど言葉も交わしていないのに、です」
『これも黒幕の能力なの……?』
デミアンは、本当に人を誤解させるような言い回しが上手だった。嘘は言っていないのに、妙に不純なニュアンスに聞こえる。ルチは私を冷ややかな目でじっと見つめてきた。その蔑むような視線に、私は顔を真っ赤にする。
ハリソンもまた、裏切られたと言わんばかりの目で私を見ていた。
『この人たち、本当に!』
「そうですよ! 私が友達になろうって言ったんです! それに、皇子様が私の新しい友達に会いたいっておっしゃったじゃないですか!」
久しぶりに他人と一緒にいるせいか、つい砕けた口調になってしまい、慌てて敬語に直した。『あなたがずっと新しい友達を作れって言ってたから、私、頑張って友達を作ったんだからね?』と、デミアンがいなければ文句の一つでも言ってやりたいくらい悔しかった。
私がじとっとした目で見つめると、ルチはしばらく私とデミアンを交互に見比べた。
「まだ……私のために……」
ルチは小さくそう呟き、言葉にならない何かを口の中で転がしていた。
すると、一瞬にして周囲の張りつめていた空気が和らいだ。ルチは態度を一変させ、穏やかな笑みを浮かべた。
「うちのエスピンは、本当に裏表のない子なんだ。君もさぞ驚いただろう」
さっきまでの苛立ちや警戒心はどこへやら、突然柔らかな口調になったルチに、私の理解は追いつかなかった。
デミアンも戸惑ったように一瞬静かにルチを見つめ、それから私へ視線を向けると、ゆっくり微笑んだ。
「はい。少し驚きました。とても情熱的で、積極的に誘ってくださいましたから」
ルチと話していたはずなのに、なぜ私を見て言うのだろう。しかも、また誤解を招きそうな言い方をして。
『こいつ、ちょっと危険かも……』
私がデミアンをじろりと睨んだ、その時だった。
ルチの両手が、そっと私の肩に置かれた。
「ピィーッ!」
黄金が鳴きながら、ハリソンの頭上を飛び越えていく。
ルチが私を呼んだのかと思って振り返ろうとしたけれど、ぴったり後ろにくっつかれていて、首を回すことができなかった。
「誤解しないでくれ。エスピンは、そういう子なんだ」
私が何をしたっていうの!? 今日に限って、みんな言い方がおかしい。
「その通りです。エスピンの言葉を誤解してはいけません」
ハリソン、お前まで!?
「ピィーッ!」
黄金、お前まで裏切るの!?
「まあ、どうしましょう。もう誤解されてしまったみたいですね」
デミアンは私を見て穏やかに微笑んだ。
私の肩を抱くルチの手のひらに、ほんの少し力が入った気がした。急にひやりとした空気が流れる。
「誤解だと分かったなら、もうエスピンに構うのはやめたほうがいいでしょう。そうですよね、エスピン?」
ルチが少し身をかがめ、私の耳元で囁いた。
近すぎる声と、耳にかかる吐息。同意を求めるだけの一言なのに、説明できないほどのくすぐったさが背筋を駆け抜けた。
『ひゃっ!』
私は慌てて耳を押さえながら、ルチに向かって叫んだ。
「ルチ! 耳元で話しかけないでって言ったでしょ!」
悲鳴のような声が漏れた。私は耳をくすぐられるのが大嫌いなのだ。耳が弱いことを、長い付き合いのルチはよく知っている。それなのに耳元で話しかけるなんて、嫌がらせに違いない。
涙目でぶるぶる震えながら睨みつけても、ルチはゆっくりと満足げな、尊大な笑みを浮かべるだけだった。人を怒らせておいて笑うなんて、本当に頭がおかしいんじゃないだろうか。
今日こそ思い知らせてやる!と怒りが爆発しかけた、その時――
「お二人は、ずいぶん仲がよろしいのですね」
先ほどまでよりも少し硬くなったデミアンの声が、後ろから聞こえてきた。
『しまった!』
怒りのあまり、ついタメ口で話してしまったことを思い出し、慌てて振り返る。さっきまで優しく微笑んでいたデミアンの眼差しは、どこか冷たくなっていた。
「身分の違いがあるにもかかわらず、そのように気兼ねなく接するほど親しい間柄なのですね」
彼は私とルチを交互に見つめ、口元だけで笑うような、どこか冷えた笑みを浮かべた。
「えっと、その……」
「その通りだ」
この無礼とも取られかねない状況をどう説明しようかと必死に言葉を探していると、ルチがあっさり私の言葉を遮った。そして、私の肩へ自分の腕を回し、ぐいっと引き寄せる。気づけば、まるで彼の胸にもたれかかるような姿勢になっていた。
「これから親しくなろうとしているあなたとは違って、私たちは互いに知らないことなどないほど深い仲だ」
ルチの自信に満ちた声が響いた。
『……今、この空気がおかしいって感じてるの、私だけ?』
ルチとデミアンは私を挟むようにして、鋭い視線を交わしていた。ハリソンの表情も穏やかではない。二人の様子を見ていると、まるで原作の終盤で、ヒロインを巡って男性陣が火花を散らしていたあの張り詰めた空気を思い出す。
『まさか、私を取り合う三角関係になってる……?』
恋愛小説のお決まりどおり、主人公とサブヒーローが嫉妬し合っているように見えた。
昔ロマンス小説を読んでいた頃は、「どうしてヒロインはこんな状況でも鈍感なんだろう」「好きだってことくらい気づけよ」とヒロインを責めていたものだけれど――いざ当事者になってみると、本当に分からないものだ。
感覚的には、この人たちが私を挟んで牽制し合っているのは確かだった。だけど、いくら考えても、二人がこんな反応をする理由が思い浮かばない。
まず、ルチは親友だ。お互いの嫌なところも全部知っていて、今さら異性として意識することなんてあり得ない関係だった。
ルチと「イザベル皇妃・油断大作戦」を実行しながら、私はもう一度、子ども時代を思いきり満喫した。思いきり遊び、また遊んだ。子どもの体で、やりたいことを好きなだけできる毎日は本当に天国のようだった。
もちろん、私たちはいつも一緒だった。子どもらしく、冒険心いっぱいの遊びを思いきり楽しんだ。小さな騒ぎをしょっちゅう起こし、一緒に叱られることも多かったし、子どもらしい無茶もたくさんやった。友達になる前の泥まみれ事件で、すでに私の最悪な姿を見られていたから、ルチの前では今さら取り繕う必要もなかったのだ。
隙さえあれば、私とルチの間では「やめよう」「いや、やる」「危ない」「危なくない」というやり取りが繰り返された。私の計画どおりに進めるなら、もっと問題児らしく振る舞わなければならない。でも、ルチはそれを許さず、私を止めようとし、私は押し切る。
いくら止められても私が聞かないものだから、私が騒ぎを起こし、ルチが頭を抱えながら後始末をする日々が続いた。そんなことを繰り返しているうちに、ルチは親友というより、保護者のような立場になっていった。最近では、乳母よりもルチのほうがよほど小言が多い。
それなのに、この関係で恋愛感情なんて芽生えるだろうか?
『……いや、ないよね』
ルチも私のことを、手のかかる妹のように思っているはずだ。つまり、私たちの絆は恋愛というより、家族愛に近かった。その分、私たちの絆はとても強かったけれど。
それに比べれば、デミアンとはこの前少し会っただけだ。何か特別な感情が生まれるはずもない。私を見るデミアンの目だって、ハートマークが飛んでいるわけではないのだ。
感情が深まるような出来事なんて何一つないのに、私を巡って恋愛じみた牽制をし合うなんて。
私は本当に、この状況が理解できなかった。
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新しい「友達」の正体は原作の黒幕・デミアン
エスピンが誕生日に招待したイケメン魔法使いの正体は、原作で後にルチと敵対するクウェイド公爵家の隠された息子であり、最終的な黒幕であるデミアン・クウェイドだった。想定外の早すぎる接触に、エスピンは内心で激しく動揺する。
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デミアンの思わせぶりな態度と黄金への関心
デミアンは完璧な貴族の礼儀作法を見せる一方で、「エスピンに突然口説かれた」「積極的に誘われた」など、嘘ではないもののルチたちに誤解を与えるような言い回しを連発する。また、エスピンが飼っているピンク色の鳥「黄金」に何か気づいたような、奇妙な違和感を見せる。
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ルチとデミアン、エスピンを挟んだ火花
エスピンとルチのあまりに距離が近く気兼ねのないやり取り(耳元での囁きやタメ口での怒り)を見たデミアンは、笑みを消して冷ややかな視線を向ける。ルチも対抗するようにエスピンを抱き寄せ、「私たちは深い仲だ」と牽制。エスピンは「まるで原作の三角関係のようだ」と思いつつも、ルチとは長年培った家族愛のような絆しかあり得ないため、二人の張り詰めた反応が理解できずに困惑する。