残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【80話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

80話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 子どもの特権

イサベルが訪ねてくる前日の夜。

カリンは夜明けまで悪夢にうなされていた。

小さな壺の中から、頭に角の生えた悪魔が現れ、「お前は殺人者だ。もう皇女様のもとには戻れない」と囁いた。

世界は一面暗闇に覆われていたが、彼女には自分の身体だけが見えていた。

掌を見れば、赤い液体がじわじわと流れ落ちていた。

桶を持ち上げると、赤い雨が激しく降り注いだ。

――「洗いたい。」

だが、どれほど洗っても身体に染みついた血は消えなかった。

そのとき、小柄な人物が現れた。

イサベルだった。

彼女はカリンの姿を目にし、驚愕と恐怖の表情を浮かべていた。

夢の中のカリンは「お願いです、どうか私を嫌わないでください」と懇願していた。

イサベルは背を向けて離れていく。

その時、声が聞こえた。

「先生、カリン先生。起きてください、朝ですよ。」

夢なのか。悪夢はまだ終わっていないのか……。

カリンはゆっくりと目を開いた。

だが目はなかなか開かなかった。

昨夜あまりにも泣きすぎて、目が腫れて腫れぼったくなり、瞼がくっついていたのだ。

『明るい……』

不思議と、その日の朝はとても眩しかった。

カリンは思わず飛び起きた。

「……皇女様?」

いつも無表情を保っていたカリンだったが、今はそうではなかった。

普段とは大きく違う姿だった。

その姿はイサベルにはどうにも不審に映った。

『なぜそんなに驚くの?この程度で驚く人じゃないはずなのに。』

イサベルはまだ、カリンの魔力が消えてしまったことを知らない。

『私が近づいてくるのは分かっていたはずなのに……。』

やはり怪しい。

何かとんでもないことを隠しているのかもしれない。

イサベルは近づくと、ふっと笑みを浮かべた。

「先生はおちゃめですね。」

――私は無害ですよ、と言わんばかりの表情を見せた。

『それでも、私は少しは気にかけてもらえているみたいね。』

カリンは自分を好いてくれるという事実そのものが、どこか信じがたいものに思えた。

ただ、その好意の理由は「ナルビダルの落人」だからだと考えていた。

ナルビダルの落人を研究するための貴重な資料として、自分を大事にしているのだと。

『無害な子どもが近づけば、それでも心の壁は少しは和らぐだろう。』

カリンは席を立った。

あまりにも懐かしくて、あまりにも明るくて、あまりにも嬉しくて、イサベルを思わず抱きしめたかったが、そうすることはできなかった。

『私は不潔で醜い。皇女様を抱きしめるなんてできない。』

「先生、一ヶ月前に復帰されたんですよね?」

「……はい。」

「なのに、なぜ皇宮に戻ってこなかったんですか?」

「研究に集中するためだったんです。」

「待っていてくださったということですね。」

「……なぜ私を待っていたのですか?私はただの、怖い魔法の先生にすぎないのに。」

「それでも、あなたは私のそばにいてくれるでしょう!」

イサベルはそっと唇を噛んだ。

『カリンは絶対に皇宮に縛りつけなきゃならない。もうすでに覚醒しているのだから。』

先日、彼女は紛れもなく最終黒幕として覚醒していた。

小説の内容を実際に体で体感してしまったのだ。

――「彼女が覚醒したとき、周囲の人々は自然とそれを悟った。周囲の空気が一変し、彼女の雰囲気が変わり、彼女は以前とは別人のようになっていた。」

『けれど、今はまた雰囲気が違う……?』

それは、実際にはカリンから魔力が失われ、内面が大きく崩れていたためだった。

だがイサベルはそこまでは知らなかった。

『だまされない。最終黒幕のカリンなら、自分の雰囲気やオーラくらい自在に変えられるはずだから。』

カリンはしばし沈黙した後、再び問い返した。

「なぜ私が皇女様のそばにいなければならないのですか?私はその資格のない人間です。遠くから皇女様をお守りします、今回のように。」

イサベルは大きくため息をついた。

その顔には険しい表情が浮かんでいた。

そして子どもらしくはっきりと口を開いた。

「どうして先生は同じことを繰り返すのですか?」

「……え?」

「先生は、先生がいなくなるのは嫌だって言ったじゃないですか。」

「……」

「本当に覚えてないんですか?」

「……」

「恥ずかしいけど、勇気を出して言ったことなのに……あまりにもひどいです。とても残酷ですよ。」

実際、カリンはその日のことをはっきりと覚えている。

イサベルの吐き出す言葉一つひとつが、カリンの心の奥深くに根を下ろしていった。

「私が去ったら寂しいですか?」

「寂しいです。あなたが隣にいてくれたらいいのに。」

「なぜですか?」

「先生がそばにいると安心するんです。」

イサベルは大きく息を吐き出した。

腰に両手を当て、険しい表情――だが「私は無害ですよ」と言わんばかりの表情で口を開いた。

「それに職務放棄ですよ。私、全部調べました。先生、辞表も出してないんでしょう?まだ私の先生なのに、どうして出勤しないんですか?叱られなきゃだめですよ。私が叱りますからね。すごく怖いでしょ?私はもう子どもっぽくて騒ぐだけの子じゃありませんから。」

「……辞表は出しました。」

イサベルが首を回して後ろのビアトンを見た。

「ビアトン卿、辞表受け取りました?」

「受け取っていません。」

「私は確かに……」

カリンは言いかけて、飲み込んだ。

辞表は外城守備隊長キルエンに渡したのだが、どうやらキルエンが止めていたらしい。

その時、誰かの声が響いた。

「握りつぶしてたんだ。」

それはキルエンだった。

 



 

ビアトンが尋ねた。

「外城の守備隊長が、こんなところで何をしているんです?」

「ちょっと通りかかっただけです。」

「通りかかった顔には見えませんが?」

「巡回ですよ。」

「最近は買い物カゴを持って巡回するのが流行なんですか?」

「そうですね。多少は知ってるじゃないですか。」

キルエンの手には大きな買い物カゴがあった。

その中にはいろいろな食材がぎっしり詰まっている。

キルエンは買い物カゴから大きなネギを取り出した。

ネギをぶんぶん振り回しながら、無人島生活者の面持ちでキルエンは強引に押しつけた。

「これ一つで十分でしょう?」

「勤務時間、勤務地の離脱だから、きちんと作成してください。帝国首席補佐官として命じます。」

「えっ、本当に先輩……!」

「親しいふりは禁止。今は勤務時間です。」

世の中で恐れるものなどないキルエンだったが、白紙の報告書に字をびっしりと埋めなければならない作業だけは大の苦手だった。

キルエンが堂々と口にした。

「見逃してよ。優しく言ってるうちに。」

ビアトンはさらに堂々と返した。

「優しく言われても見逃しません。だからといって乱暴に言われても見逃さないでしょう。」

「本気でこんなことするつもりですか?

「本気でやりますよ。ほら、これあげる。」

手に持っていたネギを差し出した。

「賄賂ですか?賄賂帳簿に報告書としてでも残したいんですか?」

「先輩、そんなに堅物でしたっけ?私と付き合っ……いや、昔はそうじゃなかったのに。」

ビアトンはニヤリと笑いながらネギを受け取った。

「警務で使いたくないんですか?」

「もちろんです。」

「使いたくないなら?」

「だったら方法を教えましょう。」

ビアトンはカリンの方をちらりと見やった。

「私は後輩をカリンのもとに送り込んだのに、後輩は私には何も教えてくれなかったんです。残念ですよ。だから、カリンのことについてあなたが聞いたこと、知っていること、全部教えてください。」

「……」

キルエンはカリンとビアトンを交互に見ながら歩いていた。

カリンが口を開いた。

「サイン処理してください。」

「後にしましょう。まずは守備隊長の話を聞いてからです。」

カリンはなんとか話題を逸らそうと軽く言葉を投げたが、老練なビアトンは乗らなかった。

彼は指を軽く弾き、カリンに魔法をかけた。

それは音声抑制の魔法――サイレンス。

それだけでも大抵のことは誤魔化せる。

『これくらいの初級魔法が通じるとは……本当に魔力を失ったのか。』

ビアトンはそう確信すると、さらに拘束魔法をひとつ追加でかけてやった。

カリンはもう、動くことも話すこともできなくなっていた。

「さて、守備隊長?発言の機会を三分あげましょう。その三分の間に私を納得させてみなさい。」

「一番納得させなきゃならない部分って、何ですか?」

「どうしてカリン卿が、我が姫様を孤独にさせたのか。」

キルエンは一瞬、言葉を失った。

ビアトンもこれ以上助け舟を出さずに待っていた。

イサベルもじっと黙って、キルエンの言葉を待っていた。

――知りたい。カリンの本心を。

だが、キルエンの口から出た言葉は、信じがたいものだった。

イサベルをかばうために魔力回路がすべて破壊されたという話を聞いたときは、まさに衝撃だった。

『どういうことなの?』

いくら最終黒幕に相応しい狡猾さを持っていたとしても……本当にそんなことが可能なのか?

イサベルは混乱していた。

「……かくして、ミロテル魔法連邦の裏切り者として烙印を押され、追放されたのです。」

またしても信じがたい話だった。

ミロテル魔法連邦を誰よりも巧みに利用してきたはずの最終黒幕が、自ら魔法連邦の庇護を捨てて裏切り者となったとは。

「……その結果、仮面を被った者たちが我々を襲撃しました。」

「……」

「……皆を制圧することには成功しましたが、その後は……」

キルエンはカリンの視線をもう一度確認した。

カリンはその瞳で語りかけていた。

――お願いだから、これ以上は喋らないで、と訴えていた。少なくとも姫様の前では、そんなことを言ってはいけない、と。

イサベルもその眼差しを読み取った。

『あれが……演技でできるものなの?』

最終黒幕は演技の達人だ。

小説にもそう書かれている。

明らかに、最終黒幕は千の仮面を自由に操る怪物のように描かれていた。

『でも……』

カリンの表情は、これまでで一番切迫して、哀切に満ちていた。

その哀切ささえも演技だと……そう思おうとした。

『どうして……』

イサベルはカリンから目を離せなかった。

どう見ても演技のはずなのに。

最終黒幕のはずなのに。

『でも……』

イサベルの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

『なぜ私はこんなに痛むの?』

キルエンが言葉を継いだ。

「その後、カリンは『皇女様を救いたい』と口にしたのです。」

「私を?」

「その意味が何なのか、私にもよく分かりません。ただそう言ったのです。」

キルエンは深い溜息をついた。

実は彼女は、今日ビアトンがここを訪れることを知っており、あえてこの時間にカリンを探しに来たのだ。

『皇女様を何度もお会いできなかった私よりも、あなたの方が皇女様を知らないなんてことがあったらどうするの?』

キルエンにとって、カリンはいつも心配の種だった。

だから退勤後も、いろいろと気を遣いながら姉妹のように過ごしていた。

『姫様が、そんなことであなたを嫌うと思う?』

だから示さなければならなかった。

イサベルがどうして「帝国の陽光」と呼ばれるのか。

アルフェア王国の国民たちが、なぜイサベルを見るだけで笑顔になるのかを。

『あなたの目で直接見て。姫様がどんな人なのか。』

ついにキルエンが口を開いた。

「結局、襲撃者たちは全員死亡しました。カリン卿は、それが安全のための最善策だと判断し、私もその意見に同意しました。」

「やめて……!」

カリンの目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

イサベルにすべてを打ち明けたのだから、これ以上イサベルに近づくことはできないと思った。

血にまみれた汚れた殺人者がイサベルと共にいることはできない。

あの澄んで清らかなイサベルの心を汚してしまうから。

カリンは後ずさりした。

まるで逃げ出すかのように。

ここから逃げなければならないという強迫観念と執着心が、ビアトンの初級拘束魔法を解き放たせたのだ。

その時、イサベルの声が響いた。

「怪我してないんですか?」

その言葉にカリンの体は嘘のように固まった。

「……え?」

「先生、怪我してないんですか?」

イサベルの大きな瞳に、涙がじわりと溢れていた。

実のところ、イサベル自身も自分の本当の気持ちを分かっていなかった。

『どうして私はこんなに悲しいの?』

カリンは最終黒幕だ。

そのすべての姿が偽物かもしれないし、演技かもしれない。

それなのに胸があまりにも痛かった。

自分から逃げるようなその姿が、あまりにも切なく映ったのだ。

『分からない。』

今はただ、この感情に正直になろうと思った。

『私は子どもだから。』

子どもはあれこれ考えない。

泣きたいときは泣き、笑いたいときは笑う。

それが子どもの特権だ。

イサベルはしばし、子どもに戻ることにした。

「近づかないでください。」

「怪我してないんですよね?」

もしかして大きな怪我をして皇宮に戻るのが難しくなったのではないか、そんな考えがよぎり、カリンは心配になった。

キルエンが代わりに答えた。

「幸い、怪我は一つもありません。ただ心が大きく傷ついているようです。」

「暗殺者たちのせいですか?」

「いいえ。」

キルエンが首を横に振った。

カリンは哀切なまなざしを向けた。

どうか、それ以上言わないで。

そう叫びたかったが、声は出なかった。

「皇女様のせいです。」

「私のせいで心が傷ついたと?」

「カリンは自分を汚れていると思っているようです。だから、清らかな姫様にはふさわしくない存在だと考えているのでしょう。」

イサベルは言葉を失った。

頭の中でいくつもの考えがよぎったが、イサベルはもう理屈で考えるのをやめた。

「先生は、一つも汚れてなんかいません。」

「……」

イサベルはさらにカリンに近づいた。

カリンの背中は壁にぶつかっていた。

もう後ろに逃げ場がないカリンは、苦しげに口を開いた。

「近づかないでください。」

私の汚れが移ってしまいます。だから、どうか遠くに行ってください。

「……近づきますよ」

イサベルの歩みは思ったより速かった。

魔力を失ったカリンは無力で、イサベルから逃げることができなかった。

イサベルはカリンの腰をぐっと抱きしめた。

「怪我がなくてよかったです。」

「……」

「心配しました。」

「……」

イサベルはふと、カリンがとても弱々しく感じられた。

彼女はカリンを慰めたくなった。

「先生は何一つ不完全じゃありません。」

「……」

「たとえ少し不完全でも構いません。」

正面突破だった。

「それが汚れているというのなら――」

イサベルはカリンの腕の中にうずくまっていた顔を上げさせた。

イサベルの瞳からも、涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

「心ゆくまで汚してください。これは命令です。」

横でビアトンが口を挟んだ。

「カリン卿が姫様の命令を拒否するなら、罰を受けることになりますね!」

「その通り!」

「どうやって罰するおつもりですか?」

「とても恐ろしいです。」

「それはどんなものですか?」

最終黒幕をどうやって罰すればいいのか――イサベルには実のところ、よく分かっていなかった。

「泣いちゃう!」

こらえていた涙が溢れ出た。

イサベルが「うええん!」と本気で泣き出すと、カリンの顔は青ざめて固まってしまった。

 



 

 

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