家族ごっこはもうやめます【１６７話】ネタバレ

「うっ……！」

ナビアは床に崩れ落ち、目をぎゅっと閉じた。

今日だけで爆発音を二度も聞いたなんて。

まるで赤ん坊の泣き声のように耐えがたい音ではなかったが、爆発に伴う空気の圧力も感じなかった。

ただ全身が強く揺さぶられたようなめまいを覚えただけだった。

ナビアは頭を抱える。

「うう……」

『めまいのせい？それとも、単に気分が悪いだけ……？』

「う、死にそう……」

ピタッ。

ナビアは動きを止めた。

さっき赤ん坊の泣き声を聞いたような気がする。

でも、それは錯覚だろう。

錯覚に違いない。

ここに赤ん坊がいるわけがない。

そう思っていたのだが、なぜか背中に冷たい汗が流れていた。

耳に聞こえた幼い声と短い言葉。

それはまるで自分の口から出てきたように思えた。

「な、何……？」

ナビアは再び口を開こうとしたが、すぐに閉じた。

どうやら聞き間違いではなかったらしい。確かにそれは赤ん坊の声だった！

『赤ん坊の声がどうして私の口から出てくるの？そんなのありえない。』

そう思いながらも、視界に映るものがどうもおかしいと感じた。

最近、身長がぐっと伸びて視線の高さが上がっていたはずなのに、今ではまるで床に近づいたように全てが高くて大きく見える。

ナビアは冷静になろうと努め、視線をゆっくりと下に向けた。

そして見た。

「これ、一体何なの！？」

自分の身体が赤ん坊のように完全に小さくなっていた！

髪の毛も胸元まで短くなり、黒いリボンでまるで結ばれているような状態だった。

「な、な、なんで？なんで私がこんなことに！」

ナビアは慌てて自分の体を確かめながら現実を否定した。

冷静になることができなかった。

いつものように思考が順を追って進むこともなく、頭の中は混乱と恐怖でぐるぐると回っていた。

心臓は早鐘を打つように激しく鼓動していた。

ナビアはとっさに手首のブレスレットを確認する。

何か異変があれば、間違いなくそれが反応するはずだ。

『ベクウォル！』

だが、何の反応もなかった。

ナビアは固く握りしめた拳を揺らしながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「ベクウォル！私が赤ん坊になってしまったってことなの！？」

ベクウォルは沈黙していた。

反応がないということは、何かが間違っているとしか思えなかった。

それがさらにナビアを混乱させた。

「普通の子供だった私が赤ん坊になったのに、何も問題がないだなんて、そんなことあるはずがない！」

ナビアは完全にパニックに陥った。

「これは夢？それとも幻覚？」

そう考えながらも、この状況を引き起こした原因が、使用可能なポリモーフ魔法によるものだと気づいた。

そして、それを解くために必要な懐中時計のことを思い出した。

「そうだ、懐中時計！」

ナビアは急いで周囲を見回し、時計を探し始めた。

ナビアは片手でしっかりと掴んでいた懐中時計を、両手で慎重に持ちながら蓋を開けた。

時計は完全に壊れて動かなくなっていた。

その上、再び大きな衝撃を受けたナビアは、気付かぬうちに唇を噛みしめながら時計をいじくり回していた。

「うぅ……！」

しかし、どれだけ頑張っても時計はまったく動く気配を見せなかった。

まるで、彼女の努力を嘲笑うかのように時計は無反応だった。

ナビアは苛立ちながら懐中時計を床に叩きつけた。

「トクッ！」

それでも、短い腕で叩きつけた時計は床に軽く転がっただけで、特に変化はない。

ナビアは少し震えながら考え込んだ後、急に違和感を覚えた。

「どうして私がこんなことでこんなに神経をすり減らさなきゃいけないの？」

これは少しも自分らしくない。

こんなことで慌てふためいているなんて、普通ならあり得ない。

「ということは、本当に赤ちゃんになってしまったのか……？」

違う！

ナビアは力強く自分の状態を否定した。

『ポリモーフ魔法は見た目を変えるだけのものよ。赤ちゃんになったからって、私の精神状態までそのレベルになるわけがないじゃない！』

何かがおかしい。

本当に、何か非常に奇妙だった。

ナビアは、もしかしてポリモーフ以上の何かが起きたのではないかという合理的な疑念を抱き始めた。

「……どういうこと……？」

もし通常であれば、この事態を解決する方法をすぐに見つけるはずだったが――。

ナビアはその場にへたり込み、床に崩れ落ちた。

『このまま本当に赤ちゃんから人生をやり直すことになったらどうしよう？』

彼女は以前にも何度か、6歳や7歳の姿に戻って人生を繰り返してきたことがあった。

しかし、今回はただの赤ちゃん。

誰がこんなことを信じてくれるだろう？

「ナビア」という存在そのものが完全に消え去ってしまったのではないだろうか？

その考えが胸を締め付けた。

ナビアの目には涙がにじみ出た。

「ひぃん……つらい……」

彼女は嗚咽を漏らしたが、それでも何とか気を取り直そうとした。

悲しかった。

『いや、方法はあるはず。こんなふうに泣いていても、何も解決できない！』

ナビアは自分の頬を軽く叩いた。

感情に流されずに冷静さを保とうとした結果、どこか不自然なほど冷静な赤ちゃんらしからぬ態度を取るようになった。

『こんなこと、パパに話せばすぐに解決するだろうけど……泣いている理由なんてないじゃない。』

ナビアは泣き顔を浮かべながらも、その涙を手の甲で拭い去った。

そして、小さな声で自分に言い聞かせるように言った。

「パパのところへ行こう。」

彼女は小さな足でヨタヨタと扉の方へ向かって歩き始めた。

だが、思ったよりも道のりは困難そうだった。

「なんでこんなに遠いの……？」

どれだけ歩いても、扉が近づいてこないように感じた。

一生懸命に歩いているうちに、すでに二回もよろけて倒れそうになった。

ナビアはふらつきながらも必死に冷静さを保とうとしていた。

自分は赤ちゃんではないのだから！

ナビアは、自分が赤ちゃんのように考えてしまっていることに気づき、はっとした。

このままでは本当に赤ちゃんとして一生を終えてしまうかもしれないという漠然とした不安が、彼女を急かしていた。

しかし、その強い意志と精神力に支えられ、赤ちゃんの体にもかかわらず何とか踏みとどまっていた。

「疲れた……」

赤ちゃんになったことで、この部屋がどれだけ広く感じられるかを痛感した。

汗が額ににじみ、足が重くなり、その場でへたり込みたい衝動が何度も頭をよぎった。

「ふぅ。」

忍耐強い赤ちゃんのナビアは、諦めることなくなんとか扉にたどり着いた。

ナビアは短い足でトントンと跳ね上がり、上にある取っ手に手を伸ばした。

「……」

しかし取っ手はあまりにも高かった。

「いーっ！」

彼女はつま先立ちをして必死に手を伸ばした。

短くてぽっちゃりした両腕を一生懸命取っ手に向けて伸ばしたが、到底届く距離ではなかった。

『手が全然届かない！』

足場が必要だが、この部屋には赤ちゃんの体で引っ張って動かせそうなものは何一つ見当たらなかった。

ナビアの目が大きく揺れた。

「じゃあ、私はこの部屋に閉じ込められたの……？」

「ど、どうしよう？」（「こ、これをどうしたら？」）

ナビアは困惑した表情で扉を力いっぱい叩いた。

ドンドン！

外に誰か偶然通りかかるだろうか？

シャーロットやマーガレットさんやミネラ……。

スレイマンは今、クリードを教育している時間だった。

ネロも夏休みを取った状態で近くにはいなかった。

ナビアは自分を助けてくれる人を外へ向かって呼びかけた。

「お父さん……！」

危機の瞬間にはいつも現れて私を救ってくれるはずなのに…。

助けてくれるお父さんのことを誰よりも思い出した。

だからお父さんを呼び求めたが、考えとは裏腹に喉が詰まったような声が涙とともに溢れ出てきた。

奇妙なことに、「お父さん」と口にした瞬間、心が楽にはならなかった。

蓋をして押さえつけていた感情が今、表に出てきたような気分だった。

ナビアは強かった。

いや、強いというよりは我慢することに慣れていた。

だから命の危険が迫る瞬間さえも、少しも動揺することなく耐えられた。

そんな彼女が「お父さん」と呼ぶ瞬間、目の前に立ちはだかる危機があまりにも重く、耐えきれず乗り越えられないように感じた時だった。

幼子になったような気持ちを、ナビアは自覚していた。

ただ、この事実だけははっきりと理解することができた。

今、彼女は危機にあったのだ。

「あ、お父さん……ふぅ……」

今すぐお父さんが必要なほど、ナビアの心は揺れていた。

この不安定さが恐ろしかった。

ドンドンと扉を叩く手が痛くなってきた。

一生懸命バタバタと動く足もパンパンに腫れて痛かった。

ぐぅぅっ！

さらにお腹も鳴り始めた。

しかしナビアは休むことができなかった。

部屋に閉じ込められたという事実に恐怖が胸いっぱいに広がった。

「お父さん！ 私、閉じ込められたよ！」

気持ちが高ぶると、足取りはさらに重くなった。

その事実がますます恐ろしく感じられ、力いっぱい叫び声を上げた。

「私、閉じ込められたの！」

短くなった息が彼女を追い詰めるように、さらに赤ん坊のような言葉が口をついて出た。

この状況がまるで悪夢のようだった。

あまりにも孤独で恐ろしい悪夢のように感じた。

耐えきれず、彼女は立ちすくんだ。

「ううっ……」

赤ん坊のようになったショックにも耐え、扉まで必死に歩いていこうとし、転びそうになってもこらえていた涙がとうとう溢れ出した。

ナビアはついに我慢できず、声を上げて泣きながらラルクを必死に呼び始めた。

「お父さん！お父さん、助けてください！」

そして。

ガチャ！

ラルクが慌てて扉を開けて現れた。

「何があったんだ！」

ラルクは緊張した表情で部屋の中を見渡したが、娘の姿は見当たらなかった。

「ナビア？」

確かに優しく呼ぶ声が聞こえたが、ナビアの姿が見えないため、不審に思い顔を曇らせた。

足に何かが小さく「トン」とぶつかる感触を覚えた。

「……？」

視線を下に向けると、自分の腕ほどの長さしかない小さな赤ちゃんが見えた。

「うわぁん！ お父さん！」

ラルクはその場で固まってしまった。

「……赤ちゃん？」