公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【150話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

150話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 叶わぬ願い②

その日の傷は、今もなお、アルステアの顔に深く刻まれている。

「……は……」

彼は、憎悪と恐怖の入り混じった眼差しで、ノアを睨みつけた。

「お前さえ生まれてこなければ!あの日、ゴーレムと一緒に死んでいれば……!」

アルステアは両手で顔を覆ったまま慟哭し、やがて何かを思い出したように、はっと顔を上げた。

「お前を殺せないなら、せめてあの忌まわしい奴だけでも殺してやる。……それで俺が、このまま引き下がるとでも思ったか?」

歯を食いしばった彼の足元に、青い魔法の光が立ち上る。

ドン!

地鳴りのような巨大な音が響いたのは、その直後だった。

アルステアは、この音をはっきりと聞いた覚えがあった。

遠い過去――そして、まさに今、自分が立っているこの地で。

気づけば彼は、移動魔法を展開していたことさえ忘れ、音のした方角を静かに振り返っていた。

そこには何もなかった。

それでも、頭の奥がざわつくような異様な感覚に、彼はゆっくりと顔を上げた。

「……っ!」

太陽を覆い隠すほどの高さまで跳躍したゴーレムが、こちらへ向かって一直線に落下してきた。

ドォン!

巨大な衝撃とともに、ゴーレムはアルステアの目前――わずか数歩と離れていない地点へ、正確無比に着地した。

「……ゴ、ゴーレム……?」

引きつった表情のまま、彼はその巨体を見上げる。

何度目をこすっても、幻覚ではなかった。

紛れもなく、本物のゴーレムだ。

「あり得ない……ゴーレムマスターは……」

存在しないはず。

少なくとも、彼はそう信じ、疑ったことすらなかった。

この大陸をくまなく捜索した、あの優秀な探索隊でさえ、ついぞ見つけられなかった“存在”。

――それが、今、目の前にいる。

ふと、ゴーレムの肩の上に“誰か”が立っているのが見えた。

長い髪が風に舞い、そのシルエットが一瞬、視界を掠める。

アルステアは目を細め、さらに注視した。

朝日を受けて、淡く輝く分紅色の髪。

その姿を見た瞬間、彼の喉が、ひくりと鳴った。

彼はようやく、ノアが言っていた「少女は強い」という言葉の意味を理解した。

それは精神力が強い、という話ではなかった。

巨大魔獣級のゴーレムを組み上げるだけでも常軌を逸しているのに、さらに自分の体の何倍もの高さまで跳躍させる。

それは、彼女が常人の域を完全に超えた才能を持つ“ゴーレムマスター”であることの、何よりの証明だった。

――本当に、強かったのだ。

クラリスという少女は。

「嘘だろ……どうやって、どうやって隠したんだ?」

よほど動揺したのか、彼はノアを振り返り、焦った声で問い詰めた。

「魔法師団の捜索隊が、公爵邸の中まで徹底的に調べないはずがないだろう?」

「お前、それを知った上で……!」

「もちろん知っていた。彼女が母親譲りの才能を持っていることもね」

クラリス本人には、一度としてまともに話したことはなかったが。

クラリスは、巨大なセリデン邸の中で、腕と脚を取り付けて“歩ける”ものを作り出せるほどの才能を持っている。

彼女が本気で“望みさえすれば”、という前提の話だが。

おそらく、あの屋敷の壁でさえもそれを察して、最初から必要以上の魔力を欲していたのだろう。

だが、ノアの助言により、彼らはあくまで最低限の魔力だけを受け取った。

その結果、セリデン家の屋敷が魔法使いたちの目に留まることはなかった。

ノアは、どこか誇らしげな眼差しでクラリスを見上げた。

彼女に力を誇示してほしいと思ったことは一度もない。

それでも――巨大なゴーレムを自在に操る姿を目の当たりにすると、自然と胸の奥が温かくなり、誇らしさが込み上げてきた。

たとえ……彼女が自分の“もの”ではなかったとしても。

「もう、無意味なことはおやめください。魔法使いアスト」

ノアは、アルステアに向かって一歩、静かに踏み出した。

「そのゴーレムが守っている限り、あなたは少女に指一本触れることすらできない。そして……」

ノアは、いっそう鋭さを増した紫色の瞳を輝かせながら、彼を真っ直ぐに見据えた。

「私は生まれてから今日に至るまで、あなたより弱かったことは一度もありません」

「……!」

「あなたは確かに、比類ない力を持つ魔法使いです。だからこそ――私たちの間にある差が、どんな手段を使っても埋められないという事実を……誰よりも理解しているはずでしょう」

「ふざけるな!」

彼は激情を露わにして怒鳴りつけた。

「埋められないだと?この私が?お前ごときに、団長の座を譲ると思っているのか!」

「私はその座を望んだことなどありません。ただ――すべては“宝石”の選択に過ぎないのです」

あまりにも理屈じみたその言葉が、アルステアの怒りに火をつけたのは間違いなかった。

「このガキが……!」

「ノア!」

高所からクラリスの悲鳴が響き、その意図を察したマルランが、重々しい腕を振り上げた。

今にもアルステアを掴み、叩き潰さんばかりの勢いで。

――だが、その凶猛な気配を食い止めたものがあった。

驚くべきことに、それはノアの魔法だった。

柔らかな風を孕んだ障壁が、マルランの手を静かに、しかし確かに拒んでいる。

まるで、いかなる助力も望んでいないかのように。

アルステアは、その一瞬の隙を見逃さなかった。

「ノア!」

必死に彼を呼ぶクラリスの声と同時に、マルランが肩を震わせ、彼女を地へと降ろす。

クラリスは着地するなり、一直線にノアへと走った。

だが――すでにノアの眼前へと踏み込んだアルステアを止めるには、わずかに遅かった。

高々と剣を振り上げたアルステアは、今この瞬間――彼は、すべてを賭けるつもりのようだった。

彼が振るった短剣の先に、魔力が青く絡みつき、そのまま高速でノアの心臓へと突き進んだ。

ガキン!

その切っ先は、確かにノアに届いた。

「ノア!」

クラリスが悲鳴を上げる。

そしてノアは――静かに、自分の胸元を見下ろした。

鋭く尖り、明確に心臓を狙った刃が、確かにそこに突き立っている。

もし平凡な人間であったなら、心臓は貫かれていたはずだ。

だがノアは、なぜか……試してみたいと思っていた。

凄まじい殺意にさらされたとき、母が遺した魔法が、自分をどのように守るのかを。

今でなければ、それを確かめる術はないのだから。

キン!

本来ならば、平凡であるはずの彼の心臓。

その上に突き立てられた剣は、それ以上、微塵も食い込まなかった。

まるで、何か途方もなく堅牢なものに阻まれているかのように。

「…………」

ノアは自らの胸元へと視線を落とし、もはや認めるほかなかった。

彼が生涯を通して身につけてきた、あの赤い石――それは紛れもなく、彼を守るために母が施した装置だったのだと。

アデル・シネットは、誰よりも強大な魔法使いだった。

ゆえに彼女は、魔法師団の内部で公然と行われていた殺意を知っていたのだろう。

そして、多くの魔力を宿して生まれた息子が、その渦中から逃れられないことも。

それにしても――死して十年が経とうとも、なお失われぬ魔法など、あってよいものなのか。

これが、いずれ団長に至るほどの偉大な魔法使いの力なのか。

それとも、ただ母であるがゆえの力なのか。

どちらであれ、ノアは悟っていた。

自分がこの奇跡を、軽々しく受け取ってよい存在ではないということを。

「ちくしょう……!死ね!死ねって言ってるだろ!」

アルステアは何度も罵声を浴びせながら、ノアの身体を貫こうとしたが、まったく効果はなかった。

やがて刃が耐えきれずに折れ、その鋭い破片が勢いよく彼自身の顔へと跳ね返った。

「……ひ、ぐっ!」

剣の柄を取り落とした彼は、両手で左目を押さえ、そのまま床に崩れ落ちた。

「うあっ!ああっ!」

激痛のせいか、彼の手からは制御されていない魔力が、まるで暴走するように溢れ出しそうになる。

ノアは素早く、彼の額を指で押さえた。

「やっぱり……最後の切り札が残っていた、か」

意味の通らない言葉を呟きながら、アルステアは意識も、抵抗も、そして魔力すら失い、静かに床に横たわるだけだった。

「…………」

ノアは、彼から視線を外し、ゆっくりと顔を上げた。

こちらへ駆け寄ろうとしていたクラリスと、視線が交わる。

彼が無事だと理解した瞬間、彼女はようやく足を止めた。

小さな唇から、抑えきれない息がこぼれる。

そして、二人は数歩の距離を挟んだまま、向かい合った。

――ああ、何から話せばいいのだろう。

昨夜の出来事。

そして、今朝起きたすべてのこと。

思考も感情も、あまりに多くが胸をよぎり、言葉は簡単に形にならなかった。

ただ……。

ノアは、クラリスへ向かって、もう一歩だけ踏み出した。

今は、それだけでよかった。

何よりもまず、彼女を抱きしめなければならなかった。

互いの鼓動が重なり合い、確かに生きていることを、確かめたかった。

「来ないで!」

その叫びが、静まり返った空気を鋭く切り裂いた。

クラリスが首を横に振り、悲鳴を上げたことで、ノアはその場で動きを止めた。

「……少女」

「どうして……どうして、そんなことができるの?」

彼女の声は、底知れぬ恐怖に絡め取られたように震えていた。

それだけではない。

よく見ると、彼女は両手をじっと保っていられないほど、全身を小刻みに震わせていた。

「あ……」

ノアは胸を締めつけられるような息を漏らし、それ以上言葉を続けることができなかった。

少し前の出来事が、原因なのだろう。

アルステアがノアの心臓を狙ったあの瞬間、ノアは魔法によって、クラリスの助力をはっきりと拒んだ。

クラリスは、ノアの胸元へ剣先が迫る光景を、ただ呆然と見つめることしかできなかったに違いない。

「……実験を、してみたかった」

彼は言い訳のように、かすれた声でそう告げた。

母が遺したあの石が、決して“呪い”などではなかったことを、彼は自分の目で確かめたかった。

「……成功するって……そう、確信もあった」

だが、その言葉は、かえってクラリスの怒りに油を注いだだけだった。

「ふざけたこと言わないで!」

本気で怒ったクラリスは、瞳に強い光を宿し、彼の前へ駆け寄ると、胸元の衣をぎゅっと掴んで引き寄せた。

「もし失敗してたら?取り返しのつかないことになってたら……!」

「頼む、少女よ……」

ノアは、クラリスの手を振りほどくこともできず、懇願するように声を絞り出した。

それは怒りを鎮めてほしいという願いではなかった。

彼が恐れていたのは、怒りの奥に滲み出ている、彼女の瞳いっぱいの“恐怖”だった。

「……死なないで……私が……」

ついに堪えきれなくなった涙が、彼女の頬を伝って、静かに零れ落ちた。

そう言って、彼は言葉を切った。

「ぼ、僕が悪かった。だから……」

「嘘よ!」

クラリスは片手で自分の目元を押さえたまま、鋭い視線で彼を睨みつけた。

「本心ですらないくせに」

「……」

ノアは言い返すことができなかった。

たとえ時間を巻き戻せたとしても、彼が別の行動を取るとは思えなかったからだ。

「僕の体の中にある“核”が、深い傷に対して……どんな反応を示すのか……実際に見てみたかった」

「……本当に、ひどい」

クラリスは彼を掴んでいた手をゆっくりと離し、向こうを向いた。

「ねえ、少女。怪我は……」

ノアはその背中をおずおずと追いかけながら、クラリスが無事かどうか、慎重に問いかけた。

「違う。私は、自分の体で実験なんてしない」

「脚は……ちゃんと治療しないと……」

「戻って、診てもらうんだ」

「……本当に、私が悪かった。だから……少しでいい、怒りを解いてくれないか。な?」

「解かない。ずっと解かないから」

クラリスは、噛みつくような調子で言い切ったものの、その声音にはどこか後ろめたさが混じっていた。

ノアを見返すその瞳から、さっきまでの激しさはわずかに薄れている。

「……少女」

「魔法使いアストは……生きてるの?」

ノアは、ゆっくりと頷いた。

「命に別状はないはずだ。肩はしばらく不自由になるだろうし、片方の視力も落ちるかもしれないけど……」

「……どうするつもり?」

「まずは連れて帰って、治療を試すよ。その先のことは……彼が目を覚ましてからじゃないと、わからない」

言葉の端々に、彼自身の迷いと疲労が滲んでいた。

それでも、今はそれ以上の答えを持ち合わせていなかった。

「他の魔法使いたちが……このまま黙っていると思う?」

「それは私も少し気になるけれど、今はどうしようもないね」

クラリスは、遠くに見える北側の城壁へと視線を向けた。

行かなければならない道はかなり長いが、今の状況ではマランの力を借りることはできそうにない。

「……そうね」

そのとき、ちょうど城壁の方からこちらへ向かって、黒い馬に乗って駆けてくる人物の姿が見えた。

マクシミリアンだった。

 



 

マクシミリアンは状況を素早く把握した。

まず彼は、クラリスを城壁の内側へと連れて行き、医師の診察を受けさせた。

心地よい寝台に横になると、魔力の枯渇による深い疲労が一気に押し寄せ、彼女はすぐに意識を失い、そのまま深い眠りに落ちていった。

一方で、ほとんど死体同然の状態で倒れていたアルステアは、ノアの治癒魔法を受けてから、束の間ではあるが意識を取り戻した。

そして――自分を救った相手がノアだと悟った瞬間、顔を歪め、激しく取り乱した末、ついには自らの魔法で心臓を砕き、死を選んだ。

それは、おそらく最後の最後まで、ノアを傷つけるための行為ではなかったのだろう。

マクシミリアンは、正式な手続きを踏み、アルステアの遺体を魔法師団へと引き渡した。

あまりにも突然の死に、興奮した魔法師たちは、王室の兵が手を下したのではないかと疑い、怒りを露わにした。

しかし、魔力の残滓を識別できる者たちが、アルステアの心臓に残された彼自身の最期の魔法を感知したことで、それ以上追及することはできなくなった。

代わりに彼らは、この不穏な地に一刻も留まりたくないと告げ、強引に王室との協力関係を破棄すると、魔法師の城へと引き上げていった。

こうして一週間が過ぎた。

ゴーレムを持ち帰るために訪れていた魔法使いたちは、すべてセリデンを去った。

ただ一人、ノアを除いて。

 



 

 

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