こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
134話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 見慣れぬシルエット
オーガストを下がらせ、公爵とロニが到着すると、ジェレミアは状況を整理して説明した。
「この魔法陣がロゼッタの力を完全に吸収しきれていないのが原因です。抑えつけられた力が、ロレッタの体そのものに悪影響を及ぼし始めています。」
「そ、それなら――治癒魔法では?ロレッタの体を癒せないの?」
ロニの問いに、ジェレミアは小さく首を振った。
「……無理です。火に油を注ぐようなものでしょう。むしろ今は……」
言葉を濁した彼に、皆の視線が集まる。
重苦しい沈黙の中、ジェレミアは深く息を吐いた。
「いっそ、彼女に力を使わせる方が良いかもしれません。」
「どういうことだ?」
「このまま力を発散させずに抑え続ければ、いずれ身体が限界を迎えます。今はかろうじて耐えていますが――長引けば、ロレッタはこのまま少しずつ命を削られることになるでしょう。」
「だが……ジェレミア、それでは――」
クロードが言葉を詰まらせた。
その先にある“最悪の選択肢”を、誰も口にできなかった。
クロードの指摘が終わる前に、彼は咳払いをして答えた。
「はい、ロゼッタも爆発に巻き込まれれば、最悪の場合、命が危険にさらされるかもしれません。規模が大きくなれば被害者も増えるでしょう。」
どうやっても厳しい結論しか出ない現実に、その場にいた全員が言葉を失った。
「……」
そのとき、ロゼッタが苦しそうに息を吐きながらゆっくりと目を開けた。
彼女は心配そうに自分を見下ろす家族たちを見回し、かすかに微笑んだ。
「ごめんなさい……」
その短い言葉を発するのも辛そうで、ロゼッタは再びジェレミアの肩にもたれかかった。
「ロゼッタ。」
公爵は彼女の前にひざまずき、氷のように冷たい手を握りしめた。
「お父……さま……」
クロードはそっと彼女の手を取り、その冷えた指先を両手で包み込んだ。
どれほど祈るように温めても、すでに冷たくなり始めた体にぬくもりが戻ることはなかった。
ロレッタはゆっくりとまぶたを開き、クロードを見つめてかすかに口を動かした。
「……メロディは?」
クロードはわずかに首を横に振った。
その仕草を見て、ロレッタの表情がわずかに曇る。
「……同じ家で……一緒に暮らすって……言ってたのに。」
その言葉を最後に、ロレッタの呼吸がまた浅くなっていく。
「メ……」
再び唇を動かしかけたロレッタに、クロードは慌てて彼女の手を強く握りしめた。
「迎えに行く!今すぐ連れてくるから!」
力なくなったロレッタの青い瞳が、わずかにクロードの顔を追いかけるように揺れた。
「だから、ロゼッタ。待っていなきゃだめだ。必ず、待っているんだよ。うん?」
最後に近くで手を握られたロゼッタの両目が、すっと閉じられた。
息が途絶えたわけではなかったが、まるで二度と目を開けるつもりがないかのようだった。
クロードはジェレミアの部屋を飛び出すと、最速の馬に乗って駆け出した。
一瞬のためらいもなく出発した彼の後ろを、従者のイサヤがすぐに追いかける。
目的地はベルホルドだった。
村ごとに馬を乗り換え、昼夜を問わず走っても十日ほどかかる場所。
彼がメロディを連れて戻ってくる頃には、すでに十日近くが経過しているだろう。
『……ロゼッタは持ちこたえられるだろうか。』
問題は、彼女だけではなかった。
現在、魔法陣を維持できるのはジェレミアとエヴァンだけ。
二人は何時間も休むことなく、ロレッタの暴走する魔力を受け止め続けていた。
(父上とロニが、無事でいてくれますように……)
指先で握りしめた馬のたてがみに、熱が伝わる。
彼はまたしても手袋を忘れたまま飛び出してきたことに気づいた。
だが、痛みや熱を感じている余裕などなかった。
彼はむしろ強く手綱を握り、馬の腹を蹴って速度を上げた。
皇帝が兄弟たちとの長い確執に終止符を打ち、犠牲者たちへの正式な謝罪を表明したという知らせは、ほどなくして国中に広まった。
長年多くの人々を苦しめた事件だっただけに、どの町へ行っても、その話題で持ちきりだった。
会話相手を見つけるのは簡単だった。
メロディが新たな拠点を構えたベルホルドも例外ではない。
ある者たちは、今こそ皇帝が正気を取り戻し、謝罪する決意を固めたのは幸運だと語った。
しかし別の者たちは、今回の一件の裏で皇帝が何か別の思惑を抱いているに違いないと噂した。
そうした意見のひとつは、新聞のコラムとして掲載されたこともあった。
皇帝がサムエル公との和解を演出しているのは、当時自分の側についていた人々を効果的に欺くための芝居にすぎない――という内容だった。
メロディは、皇帝がそこまでの人物だとは思わなかった。
それでも万一に備え、軽率に動かないことに決めていた。
『それでも……』
そう心に決めていたにもかかわらず、時折、別の疑念がふと頭をもたげてくるのを抑えることはできなかった。
サミュエル公爵とオーガストが皇帝と良好な関係を築いたことで、メロディもいずれ首都へ行けるのではないか――そんな希望を胸に抱くこともあった。
せめて手紙の一通でも許される日が来るのではないか、と淡い期待を寄せながら。
(……だめ、まだよ。)
そう自分に言い聞かせ、メロディは切なさを胸の奥に押し込んだ。
初めて首都の外に出たあの日、彼女は心に誓っていた。
ロレッタの無事が確かめられるまでは、どんな小さな波紋も立てないよう、静かに身を潜めていようと。
メロディはため息をつき、新聞を畳んで席を立った。
午前中に干しておいた洗濯物を取り込む時間だった。
空の籠を手に外へ出ると、ワイリーとミンディが頭を突き合わせて何やらひそひそと話し込んでいた。
「……何をしているの?」
興味を引かれたメロディがそっと近づくと、二人は驚いたように振り返った。
驚いて思わず身を引き、同時に首を横に振った。
「い、いえ!なんでもありません!」
「本当に、なんでもないです、先生!」
表情を見る限り、何か面白いことでもあったようだ。
メロディはにこりと微笑むと、羽織っていたショールを整えて神殿の奥へと戻っていった。
ミンディとニルはその背中を目で追い、同時にため息をついた。
「メイ先生に聞かれてるかと思ったじゃない。だから神殿の裏で練習しなきゃって言ったのよ。」
ミンディがニルの脇腹を軽く肘で突き、たしなめるように言うと、ニルは頭をかいた。
「……こんなの、本当に練習しなきゃいけないのか?」
「当たり前でしょ。」
ミンディは彼の腕をつかみ、誰もいない神殿の裏手へと引っ張っていった。
「ちょっと待って、ミンディ。俺だって一応大人だし多少のことなら私にもできると思うのに。」
「先生の率直なお言葉で告白すれば、メイ先生の心をきっとつかめますよ。」
「な、率直だと!?」
「自信があるんですよね? なら、どうぞ。」
ミンディが挑発的にあごを上げると、ワイリーは一瞬たじろいでから、茶色の帽子を脱ぎ、姿勢を正して座った。
「メイさん。お話ししたいことがあります。」
ミンディはこっそりうなずいた。
どうやらここまでは合格点らしい。
「メイさんが来てくださってから、神殿には多くの人が訪れるようになりました。寄付金も増え、おかげで村の事業も広げられました。ですから――これからも、どうかこの神殿を守ってください。」
興奮気味に続ける彼の“熱い(?)告白”を前に、ミンディは口元を必死に押さえていた。
彼の言葉とは裏腹に、ミンディの表情はどこか曇っていた。
「……いったい何なんですか、それ?全然ダメですよ!メイ先生までここを去っちゃうなんて、それは全部、先生の告白がはっきりしなかったからですよ!」
ミンディは思わず声を荒げるように言った。
「“メイ先生まで”って……誰が去ったんだ?」
彼が視線を合わせて問いかけると、少女は唇を尖らせて「知らない」とつぶやき、そっぽを向いた。
「とにかく、あんな曖昧な言い方、嫌いです! “いつかきっと会いに来る”なんていう、根拠のない言葉を残すのも嫌なんです!」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「い、いや……私はただ……」
ミンディは自分の服の裾をいじりながら言葉を飲み込んだ。
ニルはそれ以上追及しないことにした。
「わかったよ。じゃあ、ちゃんと言葉にして話そう。……先生にそんなことができるかどうかは分かりませんけど。」
「こ、この減らず口めが!」
顔を真っ赤にしたワイリーが、ミンディの頬を軽くつねると、ようやく彼女もいつものように屈託なく笑った。
ミンディとふざけ半分に“告白の練習”をしてはいたものの、ワイリーは案外真剣だった。
メイがこの地に落ち着いて以来、村の一部では「彼女は危険な人物かもしれない」と陰で噂する者たちもいた。
誰が見ても、彼女は貴族の娘のような品を漂わせており、そうした憶測が生まれるのも無理はなかった。
身分を隠さねばならない貴族の中には、反逆や重大な罪に関わった者もいるのだから。
しかしメイは日を追うごとに村の人々と親しくなり、彼らが助けを必要とする場面ではいつも真っ先に手を差し伸べていた。
ワイリー・ニルは、そんなメイの行動力に深い敬意を抱いていた。
そしてその尊敬が別の感情へと変わるのに、そう時間はかからなかった。
『……言葉にはできなかったけど』
気持ちを伝えることをためらい続けていたある日、ニルはメイの様子に何か違和感を覚えた。
首都のニュースが掲載された新聞を読みながら、彼女はいつになく長い間、深い思索に沈んでいたのだ。
ニルはその新聞の記事の内容が、彼女の過去と関係していることにすぐ気がついた。
『まさか、首都の貴族だったなんて……』
少し気圧されつつも、それ以上に重要なことを理解した。
――メイが、この村を去ろうとしているということを。
いつ彼女が去ってしまうかも分からない――それが、彼にとって一番の不安だった。
彼女はもう、この村にとってなくてはならない存在だった。
(ミンディまで心配している。やっぱり俺だけが、メイさんが離れていくような気がしているわけじゃないんだな……)
ワイリーはミンディの宿の近くで、野の花や草を摘んで小さな花束を作った。
それを神殿の裏の木の陰にそっと隠し、夜、神殿の仕事が終わるのを待った。
「メイさん。」
夕方、ダイニングルームへ行くと、メイはまたお茶を飲みながら新聞を広げていた。
記事の内容は、皇帝とその弟に関するものだった。
「あぁ、これは……ただ暇つぶしに読んでいただけです。」
視線に気づいたのか、メイは新聞を畳み、柔らかく微笑んだ。
だがその笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
再び胸の奥に不安が押し寄せる。
――もしこのままでは、本当に……。
「ニル、何かあったんですか?」
「もしよければ、お話を伺いたいのですが。」
「ええ、どうぞお話しください。ここに座ってくださいませんか?」
メイは彼のために椅子を引いて差し出した。
「いや、そういうことじゃなくて……うん。」
彼は気まずそうにしながら、ちらりと台所の方を見た。
管理人のおばさんが、翌朝の朝食用のパン生地をこねていた。
「ちょっと……」
「はい、わかりました。」
たどたどしい話し方にも、メイは笑顔を浮かべながら席を立った。
ニルはどこかぎこちない足取りで外に出ていった。
いつの間にか辺りはすっかり暗くなっていた。
ニルはメイに少し待ってほしいと頼み、昼間に作って隠しておいた花束を取りに行くつもりだった。
『こうなるなら、声をかける前に先に持ってきておくんだった……』
彼は漆黒の闇の中を手探りで進みながら花束を手に、彼は心を決めていた。
もう残されたのは――告白だけ。
「この村に残ってほしい」という、ただその一言。
ワイリーは再び決意を固め、メイがいるはずの庭へと歩を進めた。
だが、胸の奥の熱とは裏腹に、足は地面に縫いつけられたように動かなかった。
すぐそこ、月明かりの中で、メイの前に“見知らぬ男”が立っていたからだ。
――村の者ではない。
見慣れぬシルエットだった。
夜更けに、まったく知らない男が彼女に近づく様子を見ていながらも、ワイリーは何ひとつできなかった。
(……あの男は、きっと。メイさんが新聞を読みながら思いを巡らせていた、あの“誰か”なんだ……)
……。
手にしていた小さな花束が、ぽとりと地面に落ちた。