悪役なのに愛されすぎています【９話】ネタバレ

メロディが案内された場所は1階にある小さな浴室だった。

この邸宅で「小さい」と言うのは、一般的には小さくないことを意味する。

しかし、メロディはその広々とした浴室に驚きを隠せなかった。

「怯えた小羊みたいに目をパチパチさせてないで、さっさとその怠けた姿を洗い流しなさい！ まさか世話をしてもらうつもりじゃないでしょうね？」

おばあさんはそう言いながら、大きな浴槽を指さして促した。

まるで塩の結晶のようなものがぱらぱらと投げ込まれた。

メロディは慎重に服を脱いだ。

そして再びおばあさんを見つめた。

どこで体を洗えばよいのか分からなかった。

まさかこの大きくて立派な浴槽が自分のためだとは思えなかったのだ。

「怯えた小羊が感冒にかかったらどうなるか分かる？早く水に入らないと荷物のように放り出してやるわよ！」

その言葉は非常に恐ろしい脅しだったため、メロディは香りの良いお湯に飛び込んだ。

少し……熱かった。

おばあさんに文句を言う勇気はなかったが。

「本当の小羊でもないんだから、熱いなら熱いって言えばいいのに。」

それでも、メロディの顔が明らかに熱がったのを見て、おばあさんは冷たい水を注いでくれた。

それはちょうどいい温度だった。

長旅で馬車の中にこもっていた体の疲れを癒すには最適だった。

少し疲れていたが、おばあさんはさっと出て行ったように見えた。

「これから15分間はその中でおとなしくしていること。分かった？」

おばあさんは金で装飾された砂時計を近くに置いた。

「この砂が全部下に落ちる前に水の外に出たら、お尻を百回叩いてやるからね！」

彼女がそう脅かしたので、メロディは怯みつつも、おばあさんを安心させるために言った。

「気持ちが良いので、15分以上ここにいても平気だと思います。」

「なんてこった、どこからこんな図々しいやつが来たんだ？」

おばあさんはぶつぶつと文句を言いながら、どこかから小さな箱を持ってきて、浴槽の中にその中身を撒いた。

それはすべて水の上にぷかぷか浮かぶ、まるでおもちゃのようなものだった。

メロディは生まれてからこのような遊び心のあるものを見たことがなかった。

おもちゃはすべて動物の形をしていて、小羊や子牛もあれば、木の切り株の形をしたものもあった。とてもかわいらしかった。

「15分も浴槽に入っている間、おもちゃで遊んでいてと言われるなんて、この年寄りも随分と図々しいことをするじゃないか！ それで、お湯の温度はどうだい？」

「少し冷めてきましたが、大丈夫です。」

「まったく、手がかかるものだな。お湯の温度調節も何の形をしているんだか。」

おばあさんはまたもや不満を漏らしながら、今回は少し熱めのお湯をさらに注いだ。

すると、再び体が温まり、心地よいぬくもりに包まれた。

メロディはお礼の言葉を口にしながら、微笑んだ。

「ありがとうございます。とても気持ちが良いです。」

「たった半分浸かっただけで満足そうにしている小羊みたいなものだね。あの乱れた髪をこちらに寄せなさい。」

おばあさんはメロディの髪を丁寧にすすぎ、体も拭いてくれた。

「おやおや、この小娘ったら、こんなに薄いスープみたいな体をどうにかしてやらないとね。匂いが心地よくない？」

「私は石鹸の匂いしか感じません。とても良い香りだと思います。」

「今度は香油まで塗れと言っているのかい？全く生意気なことだね！」

「そんな意味ではありません。香油なんて見たこともないです。」

「無知な子だね。」

おばあさんは香油の瓶をいくつか取り出し、浴槽の近くに置いた。

メロディが「触ってもいいですか？」と尋ねると、許可するように頷いた。

メロディはその中から一番気に入った香りを選び、自分の髪にそっと塗った。

「ふん、そんなことをしたからって、子供みたいに見えるわけないだろうに。」

おばあさんはぶつぶつ言いながらも、メロディをきれいにしてくれ、美しく仕上げてくれた。

本当に良い香りが漂った。

間もなく、砂時計の砂がすべて落ちた。

しかし、実際のところ、メロディは15分以上も浴槽に入っていた。

長く水の中にいたかった。

しかし、ついに水から出る時が来た。

グルグルとお腹が鳴った。

「お腹の中に本物の小鳥か羊が入っている音みたいだね。」

おばあさんはクスクスと笑い、ゴワゴワしたタオルを持って近づいてきた。

「その弱々しい足に力を入れて立ち上がれ。浴室でぐずぐずしていたら3年分の財産を失ったも同然だよ。それに、この家には役に立たない小羊なんて必要ない。」

もちろんメロディはおばあさんの言葉を素直に聞いた。

この家で役に立たない人間になるのは絶対に避けたかったからだ。

両足に力を入れ、慎重に浴槽から出た。

すぐに温かいタオルが彼女の身体を包み込んだ。

「タオルをしっかり持っていなさい。それを落として風邪を引いたら、大きな木に縛り付けてやるからね。」

「おばあさんが面倒を見なくても済むように、タオルをしっかり掴みます。木に縛りつけられたりしないようにします。」

この答えはおばあさんの気に入ったようだった。

彼女はメロディの頭を軽くなでながら、穏やかに笑った。

「やれやれ。怠け者な子は全く気に入らないね。」

おばあさんは別のタオルを取り出して、メロディの体についた水滴を丁寧に拭いてあげた。

メロディは浴室を出た後、壁際に火が灯っている小さな部屋を見つけた。

それは誰かが住んでいるような生活感のある部屋で、メロディはきっとおばあさんが使う部屋だろうと思った。

「おばあさん、私の服はどこにありますか？」

「その汚らしい服をなぜ探すんだ？」

「服を着なければならないので。」

「そのボロボロになった子羊のような服で私の家の中をうろつくつもりか？さっきの風呂場では臭いがひどかった！」

おばあさんはソファの近くに置いてあった小さなワンピースを手に取った。

そして新しい下着を手渡しながら言った。

「着なさい。みすぼらしい子でも、裸でうろつかせるわけにはいかないからね。」

クリーム色の服は貴族たちにとっては普通の清潔なものだったが、メロディにとってはお姫様が着るような素晴らしい服に見えた。

少女はレースのついた服を驚嘆の眼差しでしばらく見つめていた。

「どうした？その目の輝きは、まさか気に入らないということか？」

メロディはこれまでおばあさんの行動を見てきた経験から、このまま黙っていれば彼女がこの素敵な服を持って行き、また別の素敵な服を取りに行くことが目に見えていた。

そこで急いでそのワンピースをしっかり抱きしめ、決して手放さないようにした。

「これがとても気に入りました！おばあさんのセンスは素晴らしいです！」

「ふん、当然だろう。この公爵家の使用人たちを指揮しているのは誰だと思っているんだ？」

彼女は肩に力を込め、壁際に寄りかかるように腰を下ろし、またぶつぶつと文句を言い始めた。

「どうしてこんなに火が弱いの？年寄りを風邪ひかせて死なせる気なのかい？」

メロディは、おばあさんが自分の母と似ていると一瞬思ったことを申し訳なく感じた。

二人は全く異なっていた。

相変わらず落ち着きなくぶつぶつ言っている点は共通しているように見えたが。

『良い人なのかもしれない。』

それとも、単に緊張していたからそう思っただけだろうか。

メロディはおばあさんに対する警戒心が和らぐと同時に、頭の中がぼんやりとして少し混乱する感覚を覚えた。

『あれ……？』

メロディは自分の体調に異変を感じたその瞬間、

ふらり。

彼女はすでにカーペットの床に崩れ落ちていた。

メロディは、今の感覚と似たものを感じたことがあった。

賭博に夢中になっていた母親が、何日も帰ってこなかったときのことだ。

メロディは何も食べられず、体を丸めて母親を待ち続けた。

何度か台所をひっくり返してみたが、食べられるものは見つからなかった。

お金があるわけでもなく、仕方なくじっと耐えるしかなかった。

それでもそのときは、今ほど頭がくらくらしたり、意識が遠のいたりはしなかった。

そしてまた別のとき。

メロディ自身ではなかったが、似たようなことが起きたのを見た記憶がある。

今ではその記憶も曖昧で、ほんの断片だけが頭の片隅に残っている。

いや、思い出したくない。

メロディは額に手を当て、少しずつ正気を取り戻した。

そして、なかなか閉じられない目をゆっくりと開ける。