公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【170話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

170話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 静かなる哀悼

ゴロゴロ――雷鳴のような轟音が処刑場一帯に響き渡った。

その音に馬たちはざわめき、台地で休んでいた鳥たちは一斉に空高く舞い上がる。

「な、何の音だ……?」

その場にいた者は誰一人として例外なく、顔を上げ、空を仰いだ。顎が限界まで引きつるほど見上げたその先で、彼らはようやく影の主を理解した。

「ご、ご……ゴーレム……!」

過去を知る誰かが、悲鳴のように叫ぶ。

石で造られた生命体は、堂々と直立し、片腕を前へ突き出していた。まるで、何者かを阻む盾であるかのように。その足元には、桃色の髪をした少女、クラリスがいた。ほとんど傷ひとつ負っていない状態だった。

クラリスはゆっくりと顔を上げた。この突然の状況にも、彼女は少しも動じていないような、落ち着いた表情をしていた。

「あなた……!」

アメルダの両肩が、小刻みに震えていた。彼女が振り下ろした剣は、ゴーレムの手によって止められ、もはや一歩も動かせない。その硬さを、人の力で打ち砕くことは不可能だった。

クラリスはアメルダから視線を外し、自分の頭を包み込むように守ってくれているゴーレムの手をそっと撫でた。深い感謝を込めて。

「魔法使いアデル・シネット様……私の魔法に……反応してくれたのね」

彼女の立場からすれば、クラリスの魔法など、あまりに単純で、あまりに幼稚で、拍子抜けするほどの代物だっただろう。そもそもクラリスは、魔法をきちんと学んだことなどなかったのだから。

それでも、もはや疑いようがなかった。――本当に、生きていたのだ。

クラリスは、その神秘的な事実を前に、思わず全身が震えるのを感じた。今すぐにでも駆け寄り、彼女に会ってみたかった。あの偉大なる魔法使いから学びたいことが、あまりにも多すぎたのだ。

「よくも……最後まで私の邪魔をしてくれたわね……!」

剣を構え直したアメルダは、再びクラリスへと腕を伸ばす。しかし、その前に立ちはだかったのは、あのゴーレムだった。

――ガンッ!

重厚な金属音が響き、堅牢な剣はゴーレムの手に真正面から叩き落とされ、二つに折れてしまう。鋭利だった剣先は処刑台から遠くへと弾き飛ばされ、地面に突き立った。

「……っ!」

次の瞬間、全身の力を込めてゴーレムにぶつかった反動で、アメルダの身体が大きく後方へ弾き飛ばされた。狭い処刑台の外へと、彼女の体が傾いていく――それは、ほんの一瞬の出来事だった。

混乱したアメルダは、本能的にクラリスへと手を伸ばした。だが、その琥珀色の瞳と目が合った瞬間、何かを悟ったように、彼女はその手を引っ込めた。

アメルダを引き止めようと、限界まで腕を伸ばしていたクラリスは、突然遠ざかるその手を、ついに掴むことができなかった。

「……どうして?」

一瞬、激しい混乱が胸をよぎった。生きるためなら、どんな手段でも選ぶ。それがアメルダ・セファスの本性ではなかったのか。

改めて見つめたアメルダは、なぜかどこか満ち足りた表情で、静かに目を閉じていた。

「ノア!」

クラリスの切迫した叫びと同時に、風の魔法がアメルダへ向かって奔流のように放たれた。青い魔力が、彼女の身体を包み込んでいく。彼女の身体は、まるで宙に浮かんでいるかのように見えた。そして、ゆっくりと地面へ降り立った彼女は、微動だにしない。――気を失っているのだろう。

あまりにも一瞬で起こった異変に、群衆はもちろん、騎士たちでさえどう動くべきか分からず、ただざわめくばかりだった。中には、事が失敗に終われば「幼い子どもを殺せ」という大王妃の命令を思い出し、青ざめる騎士もいた。

しかし、ゴーレムの出現によって混乱した場は完全に統制を失っており、いつの間にか村人たちは、小さな子どもたちを守ろうとするかのように、兵士たちから距離を取って固まり合っていた。

「は、反逆……反逆だ!」

「マクシミリアン公爵が魔法使いと結託して反逆を……!」

混乱の中で数名の騎士が剣を抜き放ったものの、その叫びには、もはや説得力の欠片もなかった。

「我が騎士たち、剣を収めよ!」

さらに、処刑台の上から――絶対的権力者、ライサンダーの声が響いた。

「王室の騎士となった者が、よくも我が民に害をなそうというのなら――この処刑台に自らの首を差し出す覚悟をしてもらおう!」

その威圧的な叫びに、これまで不安に揺れていたセリデンの人々は、即座にライサンダーとマクシミリアンに向かって大歓声を上げた。

クラリスは、なおも処刑台の上に腰を下ろしたまま、その光景を茫然と見つめていた。激情に駆られて声を張り上げる人々の中に、傷ついた様子の者は一人として見当たらなかった。本当に、誰一人として怪我などしていない。

「クラリス。」

やがてマクシミリアンが近づいてきた。彼はクラリスを縛っていた鎖を一息に断ち切り、そのまま彼女を高く抱き上げた。突然、幼子のように宙へと持ち上げられたクラリスは、驚きのあまり反射的に彼の首元にしがみつき、思わず声を上げた。

「じ、自分の足で歩けます! 魔法使いさん、公爵様、私、十六歳ですから!」

だが彼は、素早く階段を降りていくだけで、決してクラリスを地面に降ろそうとはしなかった。そうしてしばらく歩いた後、彼は小さな声で語りかける。

「……考えていたんだ」

「え?」

「お前が、まだ幼かった頃のことをな」

彼はずっと昔――二人が初めて出会った日の出来さを、静かに語り始めた。あの処刑場の床が、どれほど冷たかったのかを思い出すたびに、何度も何度も後悔したのだと。

「だから私は、いつか過去へ戻りたいと願った。あの日の幼いお前を抱き上げて……もっと温かな場所へ連れて行ってやれたらと、そう思い続けていた」

「……」

クラリスはすぐには答えず、ただ彼を強く抱きしめ返した。互いの頬が触れ合うその場所に、じんわりと温もりが広がっていく。それは、長い時を越えてようやく重なった、後悔と祈りの証だった。

場内は静まり返り、温かな気配が満ちていった。

「……運んでくださったんですね。私がこの世で、いちばん好きな場所へ。」

「……ああ。よかった……」

いつの間にか階段を下りていた彼は、ブリエルのもとで、そっとクラリスを地面に降ろした。

「ごめんなさい、クラリス。」

涙で目を潤ませたブリエルは、それ以上、彼女を抱きしめることができなかった。彼女は、どうにかしてアメルダにゴーレムを触れさせられると自信をもって前に出た。だが結果として失敗し、クラリスを処刑台へ上がらせてしまったのだから。

「いいえ。」

クラリスは静かに首を振った。

「仮にあのまま事が進んでいたとしても、処刑を止めてほしいと懇願した私のお願いが、どれほど残酷だったか……分かりますか。」

それはかつて、ノアの魔法がクラリスを止めてしまった時と同じだった。大切な人が危機に瀕しているのに、ただ見守ることしかできない――その残酷さと、無力さ。取り返しのつかない思いを、胸に残したまま。

「……ごめんなさい」

クラリスは、あの日の凄惨な記憶と感情を、ブリエルや周囲の人々すべてに背負わせてしまったことが、どうしようもなく辛かった。しかしブリエルは、すぐに首を横に振る。

「実を言うとね、ベンス卿には待機してもらっていたんだ」

「……え?」

「だから、もしゴーレムがほんの少しでも遅れて起き上がっていたら……ベンス卿の放った矢が、処刑台に届いていた」

そう言って彼女は、遠くの木陰で強弓を構えたまま佇むベンス卿を指さした。彼は今なお身体に包帯を巻いていたが、それでもどんな状況でも標的を外さない、比類なき名射手だった。

つまり――たとえゴーレムが動かなかったとしても、クラリスが命を落とする可能性は最初から存在しなかったのだ。アメルダの剣がクラリスの喉に届くよりも早く、ベンス卿の矢が彼女を射抜いていたはずなのだから。

クラリスは、妙にあたふたしながら、なぜか文句まで口にしてしまった。

「は、はあ……でも……それだと、かえって戦争になってしまったかもしれませんよ……」

とりわけ、アメルダの実家であるレノクス家が、黙ってはいなかったはずだ。するとブリエルは、腰に手を当てたまま、からりと明るく笑った。

「この世に、戦争が怖いからって自分の娘を死なせる母親がいると思う?」

「そ、それは……そうですけど……」

クラリスがしどろもどろになると、ブリエルは残った涙をぐいっと拭い、両腕を大きく広げた。

「もう、だめ! 今度は絶対に!」

そう言って、クラリスをぎゅっと抱きしめた。

「ちょ、ちょっと! そんなに強く抱きしめてたら危ないですって!」

クラリスは、彼女のお腹の中にいる大切な命のことを思い、慌てて声を上げた。その事実を、今さらのように思い出したのだ。

「危険なんて、なかったじゃない。私は、ただ……」

だがブリエルは、クラリスを抱きしめる腕に、さらに力を込める。

「私はね、クラリス。自分の娘が、心のままに人を愛せるようにと願っているだけなのよ」

気づけば、涙を流しているのはクラリスのほうだった。処刑台の上で、独りきりで命を差し出しているつもりでいた。けれど実際には、その瞬間でさえ、愛する人たちの手厚い庇護に包まれていた――その事実が、あまりにも胸を打ったのだ。

「……泣かないで」

ブリエルは優しく背を撫でながら、しかしどこか厳しさを含んだ声で告げる。

「まだ、すべてが終わったわけじゃないでしょう?」

「……はい」

クラリスは、ようやく小さくうなずいた。彼女の言葉は正しかった。

――今こそ、すべてを明らかにしなければならない。

ゴーレムが動き出したあの日。王の側近たちの目前で起きた、あの出来事の真実を――。それを知るべき時は、もう来ていた。いったい、何が起きていたのか。

* * *

アデル・シネットが、長い静寂の中で初めて異変を感じたのは、自分のゴーレムの内部に、見知らぬ者の魔力が入り込んだときだった。

彼女が設定していた魔法によれば、「真実」を知るために必要な六人が揃うまでは、この保存魔法は決して解除されてはならないはずだった。あえて「六」という少なくない人数を定めたのは、異なる立場の人間が集い、それぞれの視点から真実に向き合ってほしかったからだ。

しかし、数年ぶりに戻ってきた小さなゴーレムには、別の者の魔力が濃く染みついており、長年安定していた保存魔法は少しずつ揺らぎ、時間そのものへの干渉が始まっていた。それでも、その状況下でアデルは身動きが取れなかった。彼女は、非常にゆっくりではあるが、確実に――死へと向かう場所へ向かっていたからこそ。

彼女にできることはただ一つ。小さなゴーレムに頬を預け、ノアの身体から戻ってきたその存在が語ってくれる話に、静かに耳を傾けることだけだった。

息子の腕の中で、彼女は時に笑い、そして何度も涙を流した。守れなかったという罪悪感に、心が押し潰されそうになるたび――小さなゴーレムから、見知らぬはずの温かな魔力が溢れ出し、そっと彼女を抱きしめてくれた。その強大な力は、きっと……ゴーレムが語り継いできた、いつもノアの希望であり続けた少女から生まれたものなのだろう。

――クラリス。

石の身体は、少女の名を告げた。アデルは、少し遅れてその名を繰り返す。まだ会ったことすらないはずなのに、いつの間にか、その名を呼ぶ声には、確かな愛情が宿っていた。

そして――ある日のことだった。

アデルは、ゴーレムの向こう側から騒ぎを感じ取った。群衆によって地面が揺れるそのとき、ゴーレムの内部でも、数年ぶりに小さな石が震え、床を転がった。

――物が、動いている。

保存魔法が、その力を失いつつあることは明らかだった。それは彼女自身の力が衰えているためでもあり、同時に、小さなゴーレムの主であるクラリスの影響でもあった。真実を求めるあの子の心が、長い年月保たれてきた魔法を、少しずつ揺さぶっているのだ。

しかしアデルには、今が真実を開くのにふわさしい時期なのか、判断がつかった。彼女が時間を止め、この場所を保存してきた理由は、セファス王国の王であり、魔物と戦った戦友でもあるアチ・セファスの死が、あまりにも理不尽だと感じたからにほかならない。

その思案が、わずかに長引いたとき――。

一体の小さなゴーレム、マランがアデルのもとを訪れた。

堅牢な石の籠に身を収めた小さなゴーレムは、アデルが守っていた保存魔法の内側へと、強引に――しかし確かな意志をもって割り込んできた。この空間を維持していた力よりも、マランに宿っていた、不格好ながらも切実な魔法のほうが、なお強かったがゆえに成し得たことだった。

次の瞬間、ゴーレムはぽとりと、彼女の膝の上へ落ちる。同時に、長きにわたってほとんど遮断されていた――「時間の流れ」が、このゴーレムの内部へと一気に流れ込み始めた。

「……っ!」

アデルは、マランを両手にそっと載せたまま、はっと顔を上げる。この小さなゴーレムは、アデルを目覚めさせ、この空間が抱え続けてきた真実を、外の世界へ伝えてほしい――そのために、ここへ来たのだ。

だが顔を上げた時には、彼女が維持しているはずだった保存魔法は、すでにクラリスの圧倒的な力によって完全に掻き消され、痕跡すら残っていなかった。アデルはなおも身をすくめたまま、自分の腕に抱えられた、その小さな存在を見つめ続けていた。

小さなゴーレムを、軽く――とん、と叩いた。それだけで全てを理解したゴーレムは、その場で立ち上がった。

そして、アデルは――。

「……あなたの主人に、私の頼みを伝えてくれる?」

残された最後の力を振り絞り、かすれるほどの小さな声で、そう告げた。

* * *

崩れ落ちたゴーレムが起き上がると、深い地中に埋もれていた王の執務室が、そのまま姿を現した。

マクシミリアンが厳重に出入りを管理していたその場所へ、クラリスはゴーレムマスターという資格を理由に、誰よりも先に足を踏み入れることができた。

執務室の中央には、客を迎えるためのソファと、茶卓が置かれている。正面には、堅牢な木材で作られた、質素な書机が一つあった。一見すると高級そうなソファとは対照的に、その机は、どうやらセリデンから持ち帰った木材を使って、急ごしらえで作られたものらしかった。装飾と呼べるものはほとんどなく、広い板の上に、ただ脚が取り付けられているだけの簡素な造りだ。

そこには、三つの遺体が横たわっていた。ソファの上に一つ、床に一つ、そして机の前に一つ。

クラリスは、まず床に倒れている遺体へと近づく。わずかに窪んだ喉元には、まだ人の温もりが残っていた。命が失われてから、それほど時間が経っていないのだろう。

男は、深紅のマントと、堅牢な革で仕立てられた衣服と長靴を身に着けていた。肩に施された装飾は、金と宝石で丹念に細工された、明らかに高位の者の証だった。工芸に詳しいわけではないクラリスでさえ、その繊細な意匠を目にした瞬間、かつてマクシミリアンが語っていた言葉を思い出す。

――ただ、王家の品であることだけは分かる。父上が大切にしていた、あの職人の手によるものだ。

クラリスは、改めて倒れ伏した男の顔を見つめた。眉間に深く刻まれた皺が、なぜか彼の性格そのものを雄弁に物語っているように思えた。

「この方が……」

先王、アチ・セファス。

その頬を伝って流れ落ちた黒髪の色が、どこかマクシミリアンと重なって見えて、クラリスは胸が少し痛んだ。胸元から背にかけて深く刻まれた傷を見るに、心臓を貫かれたことで命を落としたのだろう。彼の身体から流れ出た血は、絨毯の上に粘つくように広がっていた。

彼は片手を必死に伸ばしており、クラリスもまた、その指先が指し示す先へと視線を向けた。

――そこには、凄惨な光景があった。

もう一人の遺体は、騎士の装束を身にまとっていた。何かに押し潰されるようにして、死に至った姿だった。おそらく……ゴーレムだろう。無惨な状態でありながらも、彼の髪だけは、陽光を受けてきらきらと輝いていた。クラリスが、どこか懐かしさを覚えたのは、その光だった。

「……マクレド卿。」

彼がユジェニを城の奥へと連れて行った理由も、これではっきりした。

――国王暗殺。

エレオノールから真実を聞かされたアメルダは、もはや王に知られるのは時間の問題だと判断し、先に手を下すことを選んだのだろう。魔族との戦争という、混乱に紛れやすい大義名分を利用して。眠る間もなく命を奪われたマクレドの亡骸は、どこか不気味でありながら、同時に哀れでもあった。

「……?」

クラリスは、彼の手に何かが握られていることに気づいた。慎重に近づこうとした、その瞬間――背後から追いついたマクシミリアンが、そっと彼女の肩を押さえる。

「私がやろう。君は、魔法使いシネットのほうを頼む」

低く抑えた声でそう告げられ、クラリスは振り返った。視線の先では、ノアがソファに腰掛けた母と、静かに向き合っている。

「……少女よ」

重く、しかしどこか慈しみを含んだ声が、その場に落ちた。クラリスが近づくと、彼は淡々とした声で先に口を開いた。

「ノア。」

剣で胸を貫かれた母の亡骸を前にするのは、誰にとっても酷く胸の悪くなる光景だろう。クラリスは、彼にかけるべき言葉を見つけられずにいた。

「……母を刺した剣には、マクレド卿の名が刻まれていた。」

「……先王陛下を先に殺し、そのまま母を刺したのだと思う。」

「普段の母であれば、騎士一人など相手にもならなかったはずだ。でも、たぶん原因は僕だ。」

「それはノアのせいじゃない。」

「さあな。」

彼は自嘲するように、かすかに笑った。

「……いずれにせよ、母をこのままにはしておけない。」

そう言うと、彼は無言で剣を握り、引き抜いた。粘つく血がアデルの膝を濡らし、ノアの衣はすでにぐっしょりと濡れていた。

――ぽとり。

彼は剣を手放し、前へと力なく崩れ落ちてきた母の身体を、全身で受け止めて抱き留めた。

「……正直に言うと、もっと大きくて、恐ろしい方だとばかり思っていました」

歴代でも屈指の大魔法使いと謳われた母が、想像していたよりもずっと小柄な女性だったことに、ノアは不思議な感慨を覚える。

「……とても、お美しい方です。本当に」

クラリスが静かにかけた言葉に、ノアは小さくうなずき、母の肩に顔を埋めた。初めて会った相手であるはずなのに、こうして抱きしめている感覚が、あまりにも馴染んでいる。それはきっと、彼女がノアの身体に遺してくれた――あのゴーレムのおかげなのだろう。ノアは、母が自分をただこの世に置き去りにしたわけではなかったのだと、今さらながら実感していた。

「……どうか、これからは安らかにお休みください。これまで、あまりにも重いものを、たった一人で背負ってこられたのですから……」

ノアは、再びアデルの身体をソファに楽な姿勢で横たえた。

「コオ。」

アデルのローブの隙間から、マランがそっと顔をのぞかせた。

「マラン。」

クラリスが手を差し出すと、マランはその上へ軽やかに跳び乗った。

「一緒にいてくれたんだね?」

マランはこくりと頷き、すぐそばにいたノアが、その小さな頭を優しく撫でた。

「ありがとう。母の最期を見届けてくれて。」

「コオ。」

「それに……」

クラリスは少し遅れて、マランの中にアデルの魔力が宿っていることに気づいた。それは、魔法使いアデル・シネットの、最後の想いだった。

感謝と愛情を宿したまま、その想いは静かにクラリスへと伝わっていく。

アデルの胸を貫いたあの刃は、確かに、彼女の心臓にまで届いていたのだった。

 



 

  • ゴーレムの顕現とアメルダの失脚

    処刑寸前のクラリスのもとにアデルのゴーレムが現れ、アメルダの剣を打ち砕いて彼女を圧倒しました。アメルダは処刑台から落下して気絶し、ライサンダー公爵が騎士たちを統制したことで、クラリスは駆けつけたマクシミリアンやブリエルらの愛に包まれながら無事に救出されました。

  • アデルの最期とクラリスへの託し

    大魔法使いアデル・シネットは、保存魔法が限界を迎える中でゴーレムを通じて息子のノアやクラリスの存在を感じ取っていました。最後の力を振り絞ったアデルは、小さなゴーレム「マラン」に自身の魔力と最後の想いを宿し、主であるクラリスへと託しました。

  • 地下執務室で明かされた「国王暗殺」の真実

    崩壊したゴーレムの先で見つかった地下の執務室には、先王アチ・セファス、マクレド卿、そして胸を貫かれたアデルの3つの遺体がありました。アメルダが自身の悪行の露見を防ぐために先王を暗殺し、さらにノアを人質に取られた(あるいはノアが原因で隙が生じた)アデルをもマクレドの剣で殺害したという、凄惨な事件の真相が明らかになりました。

 

 

 

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