こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
171話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 冷たい歓喜、暴かれる手紙
アメルダが処刑台の下へと落ちていく、その刹那――彼女は、エレオノーラの姿を見た。
気の弱いあの女は、こんな瞬間でさえ反射的に腕を伸ばし、アメルダを助けようとしていた。今にも泣き出しそうなほど、不安と恐怖に満ちた眼差しで。
――ああ、と。
その時、アメルダははっきりと思った。あの女を、絶望させてやりたい、と。
王の深い愛を一身に受ける王妃。聡明な息子を持ち、なおかつ自らも慈悲深い――そんな、あまりにも完璧な人生。その輝かしい日々に、取り返しのつかないほど残酷な一頁を、深く刻み込んでやりたいのだ。
「妹のように大切にしてきたアメルダ」を救えなかった――その罪悪感に、一生苛まれる程度でちょうどいいではないか。そうなれば、あの女はアメルダの死を抱えたまま、永遠に苦しみ続ける。
ついに――彼女に冷たい感情を教えてやれる。
その考えに至った瞬間、アメルダの胸の奥で、どす黒い歓喜が、深く、静かに燃え上がった。そう感じると、彼女は嬉しそうに自分の手を胸元へ引き寄せ、静かに目を閉じた。とても満ち足りた気分だった。
自分の命を自ら投げ出したという自覚は、彼女にはなかった。ただエレオノーラのことだけを想い、その存在だけが頭の中を占めていたのだから。
「…………」
――だが、彼女は再び目を開いた。
どこも痛まず、何の違和感もない、健やかな身体で。生まれて初めてだった。戻ってきた自分の命を、これほどまでに恨めしく思ったのは。
「……どうして……」
ふらつきながら振り返った先に、マクシミリアンがいた。あの女性の、誇らしき息子。アメルダが生きていたと知れば、エレオノーラがどれほど喜ぶだろう。その光景を思い浮かべた瞬間、胸の奥がぐしゃりと掻き乱された。
「…………」
そして、少し遅れてアメルダは思い出した。自分が――ずっと昔に、エレオノーラを殺したという事実を。その呼吸が完全に止まったことを、確かに自分の目で確認したことも。
それなのに、なぜだ。死んだはずのあの女が、今もまだ生きているように感じられたのは――?
だからこそ、アメルダは……。
「……あなた」
マクシミリアンが、低く抑えた声で語りかけた。
「……どんな資格があって、私の母を呼び、泣いている?」
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一方――ライサンダーの命により、王の軍勢は北の村の外で陣を敷き、主の帰還を待っていた。長きにわたってゴーレムに守られてきた王の幕舎には、今、新たな天幕が張られている。内部を保全するため――それだけでなく、あまりにも残酷な真実を隔てるための、静かな覆いとして。
マクシミリアンは、誰にも見られないようにして父の最期を確認すると、すぐにアメルダのもとへ向かった。驚くべきことに、彼女はブリエルの寝室にいた。心優しい彼の夫人が、こんな時でさえ彼女の身分を気遣い、最上の寝室を用意してくれたのだ。
マクシミリアンは周囲に事情を説明し、この部屋には誰も近づかないように取り計らった。そして、カーテンをきっちりと閉めた。日差しの差し込む部屋をゆっくりと見回しながら、彼はベッドの中央に力なく横たわる人物を、ようやく正面から見つめた。
王室の「赤い薔薇」と呼ばれ、いつも燃えるような華やかさを誇っていたその面影は、もはやどこにもなかった。自ら積み重ねてきた嘘の重みに押し潰されたかのように、ひどく疲れ切った顔をしていた。
その痛ましい姿を前にしても、マクシミリアンの胸に、もはや同情の念は湧かなかった。――いや、正直に言えば、今もなお怒りのほうが勝っていた。彼は、引き金を引く指に力を込めることができなかった。
『……愛する主を殺した者の、共犯者になれとでも言うのですか』
彼は、ぎゅっと目を閉じる。自分が今、倒れ伏したアメルダの喉元を見下ろしているのだと、はっきり自覚してしまったからだ。
――だが、今はまだ、彼女を生かしておかねばならない。マクシミリアンには、先王の息子として、彼女に伝えなければならない真実があった。
そう理解していても、閉じた瞼の裏には、母の面影が鮮明に浮かび上がる。当時の彼はまだ十代の少年にすぎなかった。それでも、世にある多くの貴族婦人たちと、自分の母とが決定的に違う存在だということは、はっきり分かっていた。
エレオノーラ・セファスは――手に触れるすべてのものを、心から愛する女性だった。生まれつきの天性が穏やかだったのかもしれない。だが、マクシミリアンの目には、それ以上に――そう在ろうと努め続けてきた人間だったように映っていた。憎しみや不快感を抱くよりも、寄り添い、理解しようとするほうが、きっと正しいと信じていたのだろう。
――だからこそ、その姿はあまりにも強く、彼の心に焼き付いていた。
そんなエレオノーラは、アメルダのこともまた愛していた。二人が一緒にお茶をする時間になると、マクシミリアンとライサンダーは近くでこっそり顔を見合わせ、笑い合ったものだ。エレオノーラの屈託のない愛情に、普段は毅然としているアメルダが、珍しく顔を真っ赤にして戸惑う様子が、どうにも可笑しくて仕方なかった。
誰に対しても冷静で近寄りがたいアメルダが、そんな表情を見せるのは、エレオノーラの前だけだった。
――あの記憶があったからだろうか。母の死を知らされた時でさえ、マクシミリアンがアメルダを疑ったことは一度もなかった。彼女が容赦のない人物であることは承知していたが、少なくとも、その二人の関係だけは、他の誰とも違う、特別なものだと信じていたからだ。
……信じていた、はずだった。自分がアメルダに対して、ある種の信頼を抱いていたという事実を、彼は今さらのように可笑しく思った。
マクシミリアンは再び目を開き、彼女の前に立った。
一瞬の激情が、その手を動かし――気づけば、彼女の喉元へと伸びていた。大きく開いたその手は、今にも彼女を締め殺してしまいそうだった。
――この女は、毒だ。生かしておけば、いずれまた誰かを殺す。それならば、ここで終わらせるほうがいい。
レノクス家が騒ぎ立てる可能性はある。だが彼女は、王の危機を捏造し、軍を自在に操った女だ。この事実が広まれば、レノクスは沈黙を選ぶしかない。彼の手は、すでに彼女の喉に触れていた。
――その時だった。
「エ……レオノーラ……」
なぜか、アメルダがその名を口にした。マクシミリアンは、ぴたりと動きを止めた。
再び彼女の唇が、母の名を呼ぶように動いた。何度も、繰り返し、もう届かない場所へ縋りつくかのように、必死に。
……なぜだ。彼女は、自分が殺した相手を、ここまで切実に求めているのだろうか。その問いに、涙さえ滲ませながら。
――あれは、悪意の涙ではない。
そう理解しつつも、マクシミリアンはそっと手を引いた。宙をさまよっていたその手は、結局、彼の背後へと戻っていった。彼はベッド脇に置かれた椅子へ、静かに腰を下ろした。
隠された真実とは、ただゴーレムの内側にのみ存在するものだと、彼は知っていた。だが、この女の胸の内にも、同じようなものが潜んでいるなどとは、考えたことすらなかった。
やがて、アメルダがわずかに身じろぎした。エレオノーラの名を探し続けていた唇は力を失い、ほどなくして、彼女は目を開いた。
「……なぜ……」
突然、彼女ははっとしたように彼を見返し、そしてすぐに――歪んだ笑みを浮かべて、顔をくしゃりと崩した。
マクシミリアンは、彼女に考える余地を与えなかった。
「……あなた。いったい、どんな資格があって、私の母の名を呼び、涙を流している?」
「……」
「その手で殺しておいて――よくも、そんな真真似ができるものだ!」
相手が重い病を患っていると分かっていても、抑えきれず、マクシミリアンの声は次第に荒れていった。
「……ああ……」
掠れた声で呻いたかと思うと、彼女は突然、喉を鳴らすような、ぞっとする笑い声を漏らした。それは、どう聞いても正気とは思えない、壊れた響きだった。ひとしきり笑い続けた後、彼女はゆっくりと身体を起こし、改めてマクシミリアンを見据える。
「……ようやく、分かったのですね。坊や。私は、あなたの母ではありません。正直に言えば……もう少し早く気づかれても、おかしくなかったのでは? ……心配していた時期も、ありましたから」
彼女はそっと両目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。
「私が、あの……女の人の名を、なぜ呼ぶのかって……憎んでいるから、ですか?」
そう問いかける口調には、迷いも、ためらいも、罪悪感も感じられなかった。
「……」
「私の人生で出会った、誰よりも――」
そのとき、マクシミリアンの手が、近くに置かれていた小さな箱に触れた。彼の指先には、血に汚れ、皺だらけになった手紙が何通も挟まれていた。紙は、ようやく文字が読める程度にまで傷んでいる。
その手紙が、そっとアメルダの目の前へと置かれた。久しぶりに見る、みすぼらしい筆跡。卑しい身分が、そのまま滲み出ているかのような文字。アメルダがかつて顔をしかめていた、あの字だった。
「――父の天幕で見つかった手紙です」
アメルダは息をのんで、それをひったくるように受け取った。琥珀色の瞳が、信じられない速さで文字を追っていく。紙を握る指に力が入り、便箋はわずかに歪んだ。
「……エレオノーラ……」
唇を噛みしめながらその文面を読むのは、そこに綴られている内容が――アメルダ自身の不貞についてだったからだ。
「私が知っていたよりも、ずっと……早くから気づいていたのですね。あと少し遅れていたら、すべてが露見していたでしょうに」
彼女は、あの日の選択が間違っていなかったと、どこかで自分に言い聞かせているようだった。マクシミリアンはそれに対して、何も答えなかった。
やがて、彼女は手紙の下段へと視線を移す。その内容を、マクシミリアンもすでに知っていた。エレオノーラは――あまりにも、無理な願いを書き残していたのだ。
それは、愛するアメルダの子どもたちを引き取ってほしい、かわいいライサンダーをこれ以上混乱させないでほしいという、切実な祈りだった。
アメルダは小さく笑った。その願いがどれほど無垢で甘いものかを、彼女はよく理解していたからだ。
「そんなことが、本当に叶うのなら……私はこの道を歩く理由すら、持たなかったでしょう」
アメルダを今日まで突き動かしてきたのは、まさにその瞬間だった。
『だめです、アメルダ! これ以上嘘を重ねれば、不幸になるのはあなたです。陛下に真実をお伝えすれば、きっと受け入れてくださいます。私もそばで一緒にお願いします。ね?』
生涯、愚直なほどまっすぐに生きてほしいと願ったその女が、すべてを悟ってしまったとき――アメルダは、彼女を殺さなければならなかった。
その後、先王を殺すことになったのも、もはや避けられない選択だった。先王はエレオノーラをあまりにも深く愛していた。彼女の死を、決して軽く受け止めることなどできなかったのだから。
――胸の奥で、何かが弾ける音がした。
王の名のもとに行われる捜査で、もしアメルダの行いがほんのわずかでも明るみに出れば――待っているのは、破滅しかなかった。家名の秘匿など、望むべくもない。レノクス家は、家門に害をなす存在と見なした者を、たとえ血縁であろうと一切の情なく切り捨てる一族なのだから。
愛されてはいなかったかもしれない。それでも、少なくともアメルダに対して誠実であろうと努めていた夫を、自らの手で殺してしまったことに、迷いがなかったと言えばそれは嘘になる。だが、もはや選択肢は残されていなかった。
血の匂いは、すでに広がり始めている。ここで正気を失えば、抗うこともできず、ただ濁流に呑み込まれていくだけだ。それでも――もし、ライサンダーが王位に就けば、この狂気じみた血の連鎖は終わるのではないか。そんな、かすかな期待も確かにあった。
しかし現実はあまりにも残酷だった。今の彼女には、自分が血の波をかき分けて進んでいるのか、それとも、ただ流されて沈みゆこうとしているのか――もはや、見分けることすらできなくなっていた。
それでも、後悔はなかった。たとえ歪んだ始まりだったとしても、結果として彼女は今も生き延びている。しかも、それは最も栄光ある地位で。
「私にとっては、これが幸福でした。ほかの道など、どこにも……」
かさり、と音がした。
そう語る彼女に、マクシミリアンは別の書類を差し出した。それはエレオノーラのものとは違い、破れ、擦り切れ、文字を判別するのも困難なほど血で濡れていた。
その凄惨な有り様と似た臭いに、アメルダは顔をしかめた。
「そしてこれは、永遠に失われたと思われていた――父上の返答です」
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アメルダの歪んだ「愛憎」とマクシミリアンの葛藤
処刑台から落ちる刹那にエレオノーラの幻影を見たアメルダは、自分を救えなかった罪悪感で彼女を「一生絶望させてやりたい」と願い、どす黒い歓喜の中で目を閉じた。しかし、マクシミリアンによって生き延びさせられ、自分がかつてエレオノーラを殺害した事実と、今なお彼女を必死に求めて涙を流す自身の矛盾に直面する。
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エレオノーラを殺害した「引き金」と転落の連鎖
アメルダの不貞に気づいたエレオノーラが「王に真実を話し、共に許しを請おう」と諭したことで、破滅を恐れたアメルダは彼女を殺害した。さらに、エレオノーラを深く愛する先王の捜査から逃れるため、そして自身の血筋(レノクス家)から切り捨てられないために先王をも殺害し、息子ライサンダーの王位継承だけを微かな希望として、血塗られた栄光の道を突き進んできた。
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突きつけられた「二つの真実(手紙)」
マクシミリアンは、病床のアメルダに父(先王)の天幕から見つかったエレオノーラの手紙を突きつける。そこにはアメルダの子供たちを救おうとする彼女の無垢な祈りが綴られていた。さらにマクシミリアンは、血に濡れ、永遠に失われたと思われていた「先王からの返答(手紙)」をアメルダの前に差し出す。