残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【108話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

108話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 愛され皇女の秘密バースデー

少し寝坊をしてしまったらしい。

「ユリ……?」

いつもならこの時間、ユリが部屋へやって来て窓を開け、私のベッドを整えてくれているはずだった。けれど今日は、どこにもユリの姿が見当たらない。

私は体を起こした。

「どこへ行ったんだろう?」

そのとき、コンコンと控えめなノックの音が響いた。現れたのはユリではなく、デイルサ市場長だった。

「本日はユリの代わりに、私が市場および身の回りのお世話をしております」

「どうしたんですか? まさかユリが体調でも崩したんですか?」

「いいえ、そうではありません。ユリモール製菓に大事な用事があり、三日間の休暇を取っております」

デイルサ市場長は手際よく私の仕事を片付け、ユリの代役を務めてくれた。市場長はいつだってそうだ。何事においても徹底している。

「どうぞ、お掛けください」

私が勧められるまま椅子に腰を下ろすと、デイルサ執事長(市場長)は大きなほうきを手に私の後ろへ立った。どうやら髪をとかしてくれるつもりらしい。

「あの……私、短髪なんですけど?」

「それでも髪はとかす必要があります」

知ってはいたけれど、何をやらせても完璧に見える執事長も、髪をとかす腕前だけはユリに比べると少しぎこちない。もちろん下手というわけではない。比べる相手がユリだからそう見えるだけで、客観的に見れば何でもそつなくこなせる人だった。

「えっと……執事長」

「ブロッコリーは抜きません。ブロッコリーは緑色のうんちではありません」

「いえ、そうじゃなくて……」

私はおそるおそる尋ねた。

「今日は何日ですか?」

まさかとは思うけれど、私が日付を勘違いしているなんてことは――デイルサ市場長が何をしようとしているのか確かめようとした。

「本日は帝国暦522年4月27日です」

「それで、今日は何の日なんですか?」

「例年であれば、4月27日は5月に行われる中間決算の準備を本格的に始める日です」

「いえ、そういうことではなくて」

「気温は平年よりやや低めです。天気は良好ですね」

――そんなことは誰だって分かる。

「終わりました。アロエベラオイルを塗ってありますので、10分ほどは大きく動かないようにしてください」

「はい……」

「それでは、ごゆっくりお休みください」

デイルサ市場長は部屋を出ていった。いつも通り、あまりにも無愛想だった。

アレナ宮は、いつもより静かだった。

「はぁ……」

なんだか少し寂しくなった。去年は日付が変わる午前0時ちょうどに、お父さんがお祝いしてくれたのに。

「お父さんも皇宮にいないし……」

お母さんとお父さんは急用ができて、夜明け前に馬車で皇城を出発したらしい。キムベルルもどこかへ遊びに行ったのか姿が見えず、ビアトン卿は最近カリン卿と付き合っているみたいで、しょっちゅうどこかへ行ってしまう。

「いつも一緒に遊んでくれるって約束したのに……」

急に切なさが込み上げてきた。私はベッドへ戻った。どうせ今日は予定もないし、もう一眠りしよう。

……でも、確かアロエベラオイルを塗られたんだっけ?

それは10分ほどで自然に消えるヘアオイルだったが、消えるまでの間に周囲をひどく汚してしまう性質があった。そのまま横になれば、シーツを洗うのが大変になる。

「ふふっ!」

これは復讐だ。みんなが私の誕生日を忘れたことへの、ささやかな復讐!

急に痛快な気分になって、私はそのままベッドへダイブした。

――すると、不思議なことが起きた。

アロエベラオイルがベッドへ染み込んでいくように感じられた。

(ん……?)

正確には分からないが、一種の魔力反応が起きたようだった。

「えっ? えっ? えっ!?」

突然、ベッドがぐらりと浮かび上がった。

「ちょ、ちょっと待って! ベッド!?」

窓がバッと開き、ベッドは外へと飛び出した。

「きゃあああああっ!」

悲鳴を上げる私を乗せたまま、ベッドは空高く舞い上がっていく。落ちないよう、私は布団をぎゅっと抱きしめた。どうやらシーツを汚そうとした罰を受けているらしい。

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

ベッドは雲を突き抜けるほどの高さまで上昇した。

「えっ……?」

そして今度は、地面へ向かって真っ逆さまに落下し始めた。

(わ、私だけ置いていくの!?)

落ちていく恐怖に襲われる。飛行魔法なんて習ったこともないけれど、生き残るためには使うしかなかった。

(えっ……?)

けれど、魔法を発動させた覚えもないのに、突然落下感が消えた。恐怖がすっと引いていく。

気がつくと、私は誰かの温かい腕に抱きかかえられていた。それも、空の上で。

「……お父さん?」

ようやく我に返り、周囲を見回す。雲の上には【雲の養子、歓迎】という文字が掲げられており、ベルグルが雲の上に立っていた。ベルグルはまったく怖がっていないようだったけれど、エレベ山脈で実感した通り、私は高い場所が苦手なのだ。

「お父さん、離さないで。離したら私、泣くから。本当に絶対離さないでね!」

私がぎゅっと抱きつくと、なぜかお父さんは満足そうな様子だった。いや、私は本気で怖がっているのに、どうしてここで喜んでいるのか分からない。

「こんなに怖がっているのに、どうしたんですか、大公?」

「それでも陛下は、今うれしそうですよ?」

「……別に、そういうわけではありません」

「20年ぶりに、そんな生気のある笑顔を見た気がしますけど」

「…………」

話を聞くと、この「雲の養子」はロベナ姉さんとテイスロンおじいちゃん、それにビアトンさんとカリンさんが力を合わせて用意してくれたサプライズプレゼントだったらしい。

そのとき、お母さんの声が聞こえた。

「イザベルが怖がっているから、とりあえず降りましょう」

お母さんが間に入ってくれたおかげで、私は部屋へ戻ることができた。そこでようやく落ち着きを取り戻す。

「降ろして?」

「嫌です。抱っこしてください」

このまま降りたら、足に力が入らずその場にへたり込んでしまいそうだった。ビロティアン帝国の皇女として、そんな情けない姿は見せられない。……なぜか、お父さんはずっと嬉しそうだったけれど。

私はお父さんの腕に抱かれたまま、この場に集まった人たちの顔ぶれを見渡した。

(お母さん、お父さん、ベルグル、ビアトン卿、デイルサ市長、テイスロンおじい様、ナルモル、セレモンお兄ちゃん、カマンお兄ちゃん、ミハエルお兄ちゃん、ロベナ大公お姉様、アルミテル団長に……ラヘラ教皇様とバルキオ国王様まで!?)

ビアトン卿が一歩前に出た。

「皇女様のご希望に合わせて、できるだけ少人数で集めてみました」

「……少人数ですって?」

「ええ。普通、参加者が100人以下なら小規模な集まりですから。とても質素でしょう?」

そう言われても、集まった顔ぶれは十分すぎるほど豪華だった。ビアトン卿はニヤリと笑って続けた。

「いえ、まだ終わりではありません。皇女様のお誕生日をお祝いしたい方が、まだいらっしゃいます」

扉が開いた。ケーキを持った一人の少女が姿を現す。エメラルド色の髪と瞳をした、とても可愛らしい少女だった。

「リア!」

久しぶりに再会した私たちは、互いにぎゅっと抱きしめ合い、喜びを分かち合った。出張に出ていたはずのユリも、その後ろに立っていた。

「私も抱きしめてもいいですか?」

「もちろん!」

愛する家族と友人たちに囲まれていた。前世では味わえなかった、胸の奥からあふれてくるような満ち足りた幸福感。

(私が、こんなに幸せになってもいいのかな……?)

ふと、不吉な予感が胸をよぎった。この世界にはとても意地の悪い神様がいて、人が一番幸せな瞬間にその翼を折って奈落へ突き落とすのだから。

――そのときだった。

私の知らない騎士が一人、慌てた様子で駆け込んできた。

「陛下!」

「緊急でなければ、報告は後にしろと命じたはずだが」

騎士の胸当てに刻まれた紋章は『黒鯨騎士団』のものだった。騎士は片膝をつき、深く頭を下げた。

「至急ご報告すべき案件がございます」

「吉報か、それとも凶報か?」

「凶報でございます」

騎士は重々しく慎重に言葉を続けた。

「副長官閣下とデイルサ市長にも、ご同席いただく必要があるかと存じます」

ロンは顔をしかめながら部屋の外へ出た。

彼は良い父親になる方法をよく理解していない。それでも、娘のそばにいて、疲れたときには支えになり、少なくとも誕生日には一緒に過ごしてあげることが大切だということだけは理解していた。

「これは重要な問題だ」

ビアトンは不満そうに口を挟んだ。

「陛下、私はどうして外に出ないといけないんですか? まさか、陛下が不幸だから私も不幸になれ、なんて理屈じゃありませんよね?」

「……」

「そのとおり、そのとおり。ははっ。ところで聞きますけど、デイルサ市場長まで同席しなきゃいけない話って、一体何なんですか?」

ビアトンはぶつぶつと文句を言いながらも、ロンの秘書としての役目はきっちり果たしていた。

『黒鯨騎士団』の騎士が、静かに口を開く。

「……ランサー卿が……」

騎士はデイルサ市長の様子をうかがった。だが、もう黙っているわけにはいかなかった。

「ご報告いたします」

ビアトンの体が強張った。ランサーはビアトンに代わり、ビルヘルムを追跡する任務を与えられていた。その任務中に殉職したのだ。

ロンも言葉を失った。最初に口を開いたのはデイルサだった。

「それがどうした?」

「…………」

「今日は皇女様のお誕生日です」

もう九歳の誕生日。残された誕生日は、あと十二回しかない。

「今日を台無しにしたくないのなら、静かに日常へ戻って、自分の仕事をしろ」

「……承知しました」

報告を終えた騎士は退室していった。デイルサは表情一つ変えず、ゆっくりと皇帝へ向き直った。

「大したことではありませんね」

「……」

「何事もなく戻ってきていたなら、私が始末していました。言い逃れをしたということは、それだけ後ろめたいことがあるということでしょう。ビルヘルムを追う理由が、これではっきりしました。逃げる前に、それなりの功績は残していったようですね」

「デイルサ……」

「私は大丈夫です」

ロンはしばらく黙り込んだ。夫を亡くした女性とは思えないほど、デイルサはあまりにも冷静で、静かだった。けれどそれがあまりにも自然で本物らしく見えて、かえって痛々しかった。

ビアトンが一歩前へ出た。

「陛下。こちらは私が対応いたしますので、陛下は先にお戻りください」

「…………」

「可愛い皇女様との時間を、あと一秒でも長く過ごしたいのでしょう? 私にはお見通しですよ」

ロンは何も答えず、そのまま背を向けて部屋へ戻っていった。

二人きりになると、ビアトンが口を開いた。

「慰めの言葉はかけない。それでも黒鯨騎士団を率いた名誉ある騎士だった。私にも多少の責任はあるが、謝罪はしない。それは任務を最後まで全うしたランサー卿への侮辱になるからだ」

「それで、何が言いたい?」

「君は自分の部屋へ戻って休め」

「……」

「大声で泣こうが、声を殺して泣こうが、クジラの鳴き声みたいに泣こうが、全部諦めて眠ろうが、ランサー卿の写真を抱いて悲しもうが、好きにすればいい」

ビアトンには大切な人を失った経験があった。だからこそ、その痛みがどれほど大きいかを理解していた。

「でも、何事もなかったように振る舞って、皇女様のためだけを思っているふりはするな」

「……ふり、と言ったのですか?」

「好きでも嫌いでも、そのうち皇女様の耳にも入る。そうなれば、きっと今日のことを一生悔やむことになる。その気持ちが、まだ分からないのか?」

「……」

「あなたのたった一つの願いは、『良い人だった』と世間に記憶されることだろう。でも、今日のことを知ったら? 夫の死を知った妻が、自分の誕生日を祝うために無理をして楽しそうに振る舞っていたと知ったら――自分を責める皇女様をどう思う? 皇女様にそんな思いをさせるな」

「…………」

「だから、戻って休もう」

デイルサはビアトンの戦友であり、友人でもあった。私的に深い付き合いというほどではなくとも、互いを思いやる気持ちは本物だった。デイルサも、そのことをよく理解していた。

一見するとビアトンの言葉は皇女イザベルだけを気遣っているように聞こえたが、実際はそうではない。ビアトンは、デイルサが一人になって静かに悲しむことができるよう、口実を与えてくれたのだ。

「……ありがとう」

「冷たいことを言うと思っていたが」

「…………」

デイルサは何も答えずに歩き続け、ビアトンはその後をついていった。

「どうして私についてくるの?」

「役に立つかどうかは分からないけど、そばにいてあげる」

「必要ないわ」

「実は、最近私も母を亡くしたんだ」

「……」

「自分ではそれほど悲しまないと思っていたのに、ものすごくつらかった。心が壊れてしまったみたいで、もう二度と立ち上がれないと思った。でも、そばにいてくれる人が一人いるだけで、また立ち上がることができたんだ。そのことを教えてもらったから、今度は私が返したい」

「その一人って、皇女様?」

ビアトンは静かにうなずいた。

「一人でいないで。それ、本当につらいから」

カマンは口数の少ない男だった。

イザベルの部屋の隅に静かに立ち、ただその様子を見守っている。少し影が薄いようにも見えたが、彼の心はこれまでになく満たされていた。

(毎日がイサベルの誕生日だったらいいのに)

それは、幼い頃に彼が思い描いていた理想の家族の姿だった。些細なことで一緒に笑い、小さな記念日をともに祝い、大切に思い合う家族。夢見るだけで終わり、諦めてしまったその光景が、今まさに目の前に広がっていた。見た目は無愛想でも、その胸の内は誰よりも温かい。

それはセレモンも同じだった。セレモンはカマンの隣に立ち、ぼそりと口を開いた。

「よく分からないけど、殺したいと思う相手が一人も思い浮かばないんだ」

いつもなら、必ず一人は思い浮かぶのに。今日はそんな相手が誰もいなかった。そのおかげか、不思議なくらい心が穏やかだった。

「うはははは!」

ミハエルだけは、相変わらず何も考えていないようだった。

 



 

物語の要点を3つにまとめました。

  • イザベルの誕生日と豪華なサプライズ

    誰にも祝ってもらえないと勘違いしていた皇女イザベルだったが、魔法のベッドで雲の上へと連れていかれ、家族や帝国中の要人、親友リアたちから盛大なサプライズ祝福を受ける。

  • 裏で起きた悲劇(夫の殉職)とデイルサの忍耐

    祝宴の裏で、デイルサ侍女長の夫であるランサー卿が任務中に殉職したという凶報が届く。デイルサは皇女の誕生日を台無しにしないため、悲しみを隠して冷静に振る舞おうとする。

  • 寄り添う仲間たちと家族の温かい想い

    同じ痛みを経験したビアトンはデイルサを気遣い、一人で抱え込まずに休むよう諭す。一方でカマンたち家族も、イザベルが幸せに満ちた誕生日を過ごせることを静かに喜んでいた。

 

 

 

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