大公家に転がり込んできた聖女様

大公家に転がり込んできた聖女様【136話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【大公家に転がり込んできた聖女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

136話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 光の子

翌日――ドフィンの会議室には、すべての家臣たちが一人ずつ呼び出されていった。

それぞれが指定された時間に、張り詰めた面持ちで会議室へと入っていき、そして――入室した時とは打って変わった、戸惑いと困惑の入り混じった表情で出てくるのだった。

同じ道を何度も往復していた。

騎士団長のヒューゴも同様だった。

「いったい、何が起きているんだ……」

突然の単独命令に首をかしげながら会議室に入ったヒューゴは、落ち着かない様子だった。

「あれ?ヒューゴおじさん!」

騎士団長を「おじさん」と呼ぶジュディが、ぶんぶんと手を振った。

ジュディに最初に剣術を教えたのがヒューゴだったため、二人はとても親しかった。

「来たか。そこに座りなさい。」

ドフィンは、まずヒューゴを前に置かれた椅子に座らせた。

騎士団長であっても、例外はなかった。

「殿下、何かあったのですか?」

事情がわからず戸惑うヒューゴのもとへ、ジュディとデニスがにこにこしながら近づいてきた。

「ヒューゴおじさん、私がお手本を見せてあげるから真似すればいいだけだよ」

そう言うや否や、状況を把握する暇も与えず、ジュディが唐突に歌い始めた。

デニスはその隣で歌詞をなぞるように口ずさみ、皆がすぐ追えるよう手助けする。

二人の声はやがて一つに溶け合い、会議室いっぱいに澄んだ旋律となって広がっていった。

――神殿に咲くべき聖なる花が、なぜか別の場所に咲いてしまった。

花が咲くはずの場所には、何が残った?

根を張ったのは、一本の雑草。

花を失った今、どうすればいい?

雑草が花の代わりにはならないことを――

「……ちょっと待ってください。この歌、まさか――現・聖女様が“偽物”だと示している、ということですか?私の理解は、間違っていませんよね……?」

意図的に遠回しな比喩で作られた歌ではあったが、洞察力に優れたヒューゴは、その歌詞に込められた真意をはっきりと読み取っていた。

「そういうことか。」

ドフィンがこの件で冗談を言うはずがないと知っているヒューゴは、はっとして大きく目を見開いた。

「なるほど……」

“聖女が偽物だ”という言葉を聞いた瞬間、これまでの一連の出来事が腑に落ちた。

「国境地帯に魔物が現れたこともそうですし、あの奇妙な疫病が広がったのも不自然だと感じていました。」

「それはすべて、偽物が本物のふりをして行動した結果です。」

家令役のデニスは話を聞きながら、思わず間の抜けた声を漏らした。

ヒューゴはそんなデニスを穏やかに見やり、深く息をついた。

「放っておくわけにはいきませんが……殿下は、誰が本物の聖女か、すでにご存じなのですか?」

「それは後で、改めて話そう」

「承知しました」

態度を一変させたヒューゴは、むしろ積極策として、“聖女が偽物である”という事実を公にしてはどうかと提案した。

「それだけでは足りない」

ラヴィエンヌを失脚させるだけでは、復讐にはならない。

疫病が蔓延するこの状況の元凶として吊し上げられれば、帝国民の憎悪を一身に浴びることになるだろうが――それでも、ドフィンの胸の内は晴れなかった。

「そして、偽物の背後にはブラウンス公爵がいる」

四大貴族の影響力は、あまりにも大きい。

その壁を打ち破り、ラヴィエンヌが偽物であると証明するには、エスターを表舞台に引きずり出す必要がある。

だがドフィンは、それを良しとはしなかった。

「……なら、まずは噂を流すのが最善か」

「そうですね。直属の部下を除いて、最低でも十人――」

慎重に、しかし確実に。

真実は刃として振るう前に、世に馴染ませなければならない。

ドフィンの視線はすでに、“ブラウンスを崩すための次の一手”を見据えていた。

「世間に歌として広めるように。」

ドフィンの家臣たちは、皆この指示と同じ命令を受けていた。

「承知しました。」

歌詞は比喩的で重々しくはなく、しかも口ずさみやすい旋律だったため、すぐに人々の口にのぼった。

このまま流行歌のように広まるのでは、などと冗談を言いながら立ち去ろうとしたヒューゴは、ふと足を止めて振り返った。

「殿下。いずれ神殿と正面から事を構えることにはなりませんよね?」

「さあ、どうだろうな。戦うとしたら、我々が負けると思うか?」

ヒューゴの問いに、ドフィンはくすりと笑い、否定も肯定もせずに目を細めた。

エスターにされた仕打ちを思えば、今すぐにでもすべてを壊してしまいたい衝動に駆られていたからだ。

「当然の質問です。わが騎士団に、敗北はありません。」

ヒューゴは、横目でドフィンをうかがいながら、芯の通った強い眼差しを向けてきた。

「訓練の強度を引き上げます。陛下がお望みとあらば、どのような命でも従いましょう」

「――歌くらいは、ちゃんと歌えるようにしてやれ」

その言葉に、揺るぎない忠誠を示したヒューゴは、意味深に笑みを浮かべ、会議室を後にした。

「父上、それでは私たちも失礼します」

「また必要でしたら、いつでもお呼びください」

最後に呼ばれたヒューゴにまで“歌”を仕込むという大役を果たしたジュディとデニスは、ドフィンから十分な労いを受け、満足そうに会議室を出ていった。

「思ったより、早く終わったな」

「殿下方があまりにも飲み込みが早くて……助かりました」

ドフィンは凝り固まった肩を軽く回し、そのままソファへと深く身を沈めた。

ベンは「お疲れさまでした」と声をかけながら、湯気の立つ温かな紅茶をカップに注ぎ、静かに差し出す。

「噂が広まるまで……どれくらいかかりそうだ?」

カップから立ち上る香りを前に、ドフィンはすでに次の局面を思い描いていた。

「家臣の数と、領内にばらまいた噂が行き渡るまで……三週間か。三週間で足りるだろうか?」

「長い待ち時間になりそうですね。」

ドフィンは、外から聞こえてくる賑やかな声に誘われるように顔を上げ、窓の外を見やった。

先ほど駆け出していった双子が、前方でチーズを手に遊ぶエスターと合流していた。

その光景に、ドフィンの口元にも自然と微笑みが浮かぶ。

「殿下、ブラウンス公爵との約束は来週に設定してあります。」

「わかった。」

だが、その笑みも一瞬だけだった。

ブラウンスの名が出た途端、ドフィンの目は冷たく細められる。

紅茶をゆっくりとかき混ぜるその手には、血管が浮き出るほどの力がこもっていた。

 



 

それ以降、偽りの聖女に関する噂は、帝国全土へと疑う余地もないほどの速度で広がっていった。

テレシアの街路では、ヒューゴの読みどおり、ジェロームが作ったあの歌が、いつの間にか流行歌として人々の口に上るようになっていた。

燃え広がる火種のように、その勢いはもはや誰にも止められなかった。

「みんな、もう聞いた?あの歌のこと」

「ええ。聖女様が偽物だって、そういう内容なんでしょう?」

「筋は通ってる話だよな」

人々は三々五々に集まるたび、その話題で声を弾ませた。

歌の真偽を巡って議論する者たちの姿も、街角では珍しくなくなっていた。

「神殿を信じないで、他に誰を信じるっていうの?聖女様を疑うなんて、あってはならないわ」

そう言って、無条件にラヴィエンヌを擁護する者も、当然ながら存在していた。

だが――それでも、噂の火は消えなかった。

「ねえ、ほら。疫病も広がってるじゃない。本当に偶然なのかもわからないわ。」

「そうよ。なんで急に病気が流行り出したの?みんな休んではいるけど、もうかなりの人が亡くなったって話も聞いたわ。」

いつの間にか、ラビエンヌは偽物で、そのせいで疫病が発生したのだと信じる者まで現れ始めていた。

さらに、誰も予想していなかった噂まで付け加えられる。

「それに、本物の聖女様はテレシアにいるんですって?」

「それ、私も聞いたわ。」

本物の聖女についての噂だった。

保護所で今も活動を続けているエスターを実際に見た人々の話が、次々と広まっていったのだ。

テレシアの内外で、エスターを称える人々は着実に増えていた。

誰に対しても分け隔てなく、見返りを求めることもなく、どんな病であろうと静かに癒してくれる――そんな**“光の子”**がいるのだという噂だった。

「俺、実際にこの目で見たんだ。治療してる最中、周りがぱあっと光ったんだぜ」

「だから“光の子”って呼ばれてるんだよ」

そうして、本人の知らぬ間に、エスターにはとんでもない二つ名まで定着していった。

三週間はかかって、じわじわ広がるはずだと思われていた噂は、予想を裏切り、わずか一週間で中央神殿にまで届いた。

そしてその結果――神殿の中枢とも言える長老会が、密かに招集されることとなった。

 



 

一週間後。

中央神殿のほど近く、深い洞窟の奥へと、フードで顔を隠した者たちが、次々と集まってきた。

長い円卓を囲むように、それぞれが定められた席に着き――重苦しい沈黙が、その場を支配していた。

集まった人数は、およそ二十名に達していた。

国家の重大事項を決定する際にのみ、まれに招集される長老会――そこに名を連ねるのは、年老いて引退した元大臣や、現職の神官長の中でも選ばれた者たちだった。

前回この会議が開かれたのは、ラビエンヌが聖女に任命される直前のこと。

それほど、この短期間で再び会合が開かれるのは異例だった。

この場にはラビエンヌ本人は出席せず、現大臣の中ではルーカスとカイルのみが参加していた。

「皆さん、噂はお聞きになっていますね?」

「だからこそ、こうして集まったのではありませんか。」

一堂に会した長老たちは、会議が始まるや否や、次々と不満をぶつけ始めた。

「神殿の威信は地に落ちましたよ。まったく、恥ずかしい。」

「神殿の周囲には、病に倒れた患者が溢れているそうじゃありませんか?」

「ええ。通りに遺体が転がっているという話まで聞いています。」

「……深刻な報告が、ひっきりなしに届いています」

円卓の上に、長老たちの重い溜息が幾重にも落ちた。

数百年ものあいだ姿を見せなかった病が再び現れたのだ。

混乱するのも、無理はなかった。

「帝国民が不安に駆られています。このままでは、多くの者が満足な治療を受けられないでしょう……」

「だからこそ、聖水も聖火も、まずは解放すべきではないのですか?」

「その通りです。まずは皆が生き延びねばなりません。民があってこその神殿です」

刻一刻と深刻さを増す状況を前に、長老たちは言葉を重ねていった。

そのとき――カイルが居心地悪そうに身をすくめ、小さな声で切り出した。

「……あの、すでに聖花は解いてあります」

「何だと?どこで?」

「地方の神殿にも少しずつ回していますし、本神殿でも使用はしています。ですが……量が足りません」

「それに……」

聖花の量が著しく不足していたため、十分な供給が行き届いていなかった。

とりわけ、まずは貴族の治療を優先せざるを得ず、一般市民にまで回す余裕はなかったのだ。

しかし、「聖花が不足している」という説明に対する疑念は、むしろ深まる一方だった。

「聖女様の聖力が、そこまで弱いということですか?聖花を増やせないほどに?」

「それどころか、聖花を使っているはずの中央神殿周辺や、神殿が統治する領地に、最も多くの患者が出ているそうですよ。」

その場に、ふっと沈黙が落ちた。

「どうして、そんなことが起こるのですか?」

「むしろ、神殿が閉鎖された地域のほうが、情勢は安定しているとも聞きます。」

「皇室が管理しているはずなのに……」

「どんな手を使ったのかはわかりませんが、常識では説明のつかない事態であることだけは確かです。」

数え切れぬほどの神殿が閉鎖に追い込まれ、その直後に流れ始めたのは、疫病の蔓延。

さらに追い打ちをかけるように――「聖女は偽物だ」という噂までが広がった。

「今は、我ら神殿の歴史において、最悪の危機と言えるでしょう」

その言葉に、誰一人として反論できなかった。

長老たち全員が、現神殿の置かれた状況を、同じように“危険”だと認識していたからだ。

現大神官を代表して出席していたカイルとルーカスは、顔を伏せたまま、ただ机の一点を見つめ続けていた。

「はぁ……我ら神殿の権威が、いつの間にここまで地に落ちたのやら」

「だからこそ、人の声を正しく聞かねばならぬのです」

気がつけば、ラビエンヌを非難する言葉まで、歯止めなく飛び交い始めていた。

――狐のような老獪さだ。

ルーカスは胸中でそう吐き捨て、奥歯を強く噛みしめた。

ラビエンヌを聖女に任命した、その“一点”だけを切り取っても、神殿は今や責任を問われかねない状況にある。

もともと、即断即決を好み、一日でも早く任命すべきだと主張していた者たちだった。

「さあ、責め合ってばかりいても仕方あるまい。これからの対策を考えねばならん。」

長老会で唯一の女性であり、最年長でもあるシャロンが、机を軽く叩いて場の空気を切り替えた。

「大母様、どうなさいますか?」

年齢を推し量ることすらできないシャロンは、皆から“大母”と呼ばれていた。

「まずは別の件よ。今、最も噂が大きくなっている問題から片付けましょう。」

その言葉に、長老たちは皆、気まずそうに顔を見合わせ、ゆっくりとうなずいた。

「神殿の内部ですら、聖力が不足しているという話が出ているようだけれど……本当に聖女は本物なのかしら?」

顔色を悪くしたルーカスが、慌ててラビエンヌを擁護する。

「も、もちろんです。十五代目の聖女なのですよ。聖女は、ブラウンス公爵の“唯一の娘”ではないか」

「もし本当に聖女であるなら、病の原因が神殿にあるなどという話は、そもそも問題にならないはずだろう」

年齢にそぐわぬ澄んだ眼差しを瞬かせながら、シャロンは言葉を重ねた。

「だが――もし資質の足りない子を聖女の座に据え、それが原因で病が広がったのだとしたら……責任を負うべき者は、一人や二人では済まないのではないか?」

カイルは、今からでも事実をありのままに語るべきか、心の中で激しく揺れていた。

しかし、ルーカスがその手をそっと掴み、静かに首を横に振る。

「……エスピトス様が、老いによって判断を誤られた可能性もあります」

長老たちの応酬を聞きながら、シャロンは細く目を眇めた。

深い皺が刻まれた顔に、さらに影が落ちる。

眉間の溝が、思考の重さを物語っていた。

――そして、長い沈黙の末。

熟考の果てに、シャロンはついに決断を下す。

「資格試験を受けさせなさい。」

その一言で、周囲にどよめきが走り、騒然とした空気が広がった。

「しかし、大母様!」

「すでに聖女に任命された方に、改めて資格試験を課すなど……侮辱です。」

前例が一度もないことだとして、カイルとルーカスは特に強く反発した。

だが、すでに腹を決めていたシャロンの意思は固かった。

「聖女であるなら、資格試験を受けるのは当然でしょう?ただ順番が前後しただけのことよ。」

本来であれば先に受けておくべき試験だったが、ブラウンス家の子だという理由で、信頼して省略された手続きだった。

一種の慣例ではあったが、シャロンは、それがこのような結果を招くとわかっていれば、決して見過ごさなかっただろうと悔いた。

「聖女の資質があるなら、難なく通過できるはず――」

「……そうするしかあるまい。ここまで来た以上、疑念を晴らさねばならんだろう?」

「……はい」

ルーカスは短く答え、ゆっくりと目を閉じた。

理屈としては、あまりにも正しい。

だからこそ、これ以上言葉を重ねれば、かえって疑心を煽るだけだった。

「最低限の基礎試験すら通過できぬとなれば、たとえブラウンス家の娘であろうと、今の情勢では退かせるのが妥当だな」

シャロンが結論を下すと、長老たちもまた口々に同意の声を上げた。

「ちょうど祈祷祭も控えています。試験は、その前に行うべきでしょう」

「では……二週間後、ということでいかがですかな?」

こうして――長老会は満場一致で、ラビエンヌに対する資格試験の実施を決定した。

試験の日程は二週間後。

だが、どのような形式で行われるのかは、長老会の権限により厳重に伏せられ、試験当日を迎えるその瞬間まで、誰にも知らされることはなかった。

「皆には別途通達するわ。二週間後に、再び集まることにしましょう。」

長老会が終わるや否や、ラビエンヌの側近であるルーカスが、真っ先に会議室を飛び出していった。

その背中を見送っていたシャロンは、深く息をつき、まだ席を立っていなかったカイルを呼び止めた。

「カイル。」

「はい、大母様。」

カイルは、自身の不甲斐なさに耐えきれず、シャロンの目を直視できないまま視線を落とした。

「私に、何か言うことはないの?」

「わ、私は……」

カイルが最初に神官としての教えを受けた師は、ほかならぬシャロンだった。

その恩の深さゆえに、これ以上シャロンに嘘を重ねることができず、カイルは涙をこらえながら、声を詰まらせた。

「大司祭様……あの場では、私にできることがありませんでした」

それなりに年を重ねているはずのカイルも、シャロンの前では、まるで叱られた子どものように俯いていた。

「……席を失うのが、怖かったのです」

「やはり、何かあったのだな」

シャロンはそう言って、沈んだ様子のカイルをいたわるように見つめ、皺の刻まれた手を、そっと彼の肩に置いた。

「……ええ。実は……現聖女様とは、別にお方がいらっしゃいます」

その言葉を口にした瞬間、胸の奥に溜め込んできたものが、堰を切ったように溢れそうになった。

初めて神託を受けた日から、どれほど打ち明けたかったか――自分でも分からない。

だが、最終的に大司祭という立場に立ち、発言力の乏しかった当時の自分は、結局、唇を噛みしめて黙るしかなかった。

その後、どれほど後悔したことか。

胸に封じ込めていた真実を、ついに口にしたカイルは、ようやく肩の力が抜けたような表情で、溢れた涙を拭った。

「……現聖女様ではない、別の人間がいるのです」

言葉は静かだったが、その重みは、決して軽いものではなかった。

「……そういうことなのね?」

「はい。」

まだ誰が誰の味方なのか判然としない状況だったため、カイルはシャロンにだけ、正直にすべてを打ち明けていた。

「はは……」

シャロンは一瞬、足元がふらつき、倒れないように壁に手をついた。

「大母様!」

「大丈夫よ。」

支えようとするカイルに手を上げて制し、そのまま崩れるように近くの椅子へ腰を下ろした。

万が一、という思いがなかったわけではない。

それでもシャロンは、誰よりもラビエンヌが本物の聖女であってほしいと願っていた。

長老会と大司祭たちの手によって、正式に任命された存在だったのだから。

「この件の責任から逃れられる者など、いないわね……私も含めて。」

「大母様は、ただ私たちを信じてくださっただけではありませんか……」

「……それでも、確認すべきだった。そうしていれば、今のように多くの人が命を落とすこともなかったはずだ……」

シャロンは、本来なら防げたはずの事態を見過ごした――その責任が自分たちにあるという事実に、言いようのない苦悩を滲ませた。

もし事前にラヴィエンヌを試し、確かめていれば。

これほど多くの犠牲を払う必要は、なかったのかもしれない。

「……その方は、今どこに?」

シャロンの問いに、カイルは静かに、かつて自分の目で見た光景を思い起こした。

「テレシアです」

遠くからエスターを見守ってきた日々。

ひとりで、凛と輝いていたあの少女の姿が、脳裏から離れなかった。

「閉鎖された神殿で、救護活動を続けておられます」

「……私が、直接会いに行こう」

その一言には、後悔と決意、そして祈りにも似た覚悟が、深く込められていた。

シャロンは、すでに一度嘘をついたカイルを、もはや全面的に信じることはできなかった。

ラビエンヌが資格試験を受ける前に、テレシアへ赴き、エスターに会ってこよう――そんな考えが、彼女の胸に芽生えていた。

「ラビエンヌより、もっとふさわしい子なのかしら。私たちと、きちんと話が通じるなら……」

深い皺の刻まれた顔の中で、ひときわ印象的なシャロンの澄んだ空色の瞳が、かすかに揺れた。

 



 

 

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