残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【84話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

84話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 第3皇子

一日前、ジルデル・ベースキャンプ。

そこは帝国直属領の外に位置するベースキャンプの中でも、最大規模を誇る場所だった。

この地の戦力だけでも、並の王国一つ程度なら一瞬で壊滅させられると言われるほど、圧倒的な力を有している。

この入口を守る騎士たちは、それぞれに誇りを持っていた。

中でもシレバデルは、その誇りがひときわ強かった。

貧しく厳しい環境の中、剣術への情熱と努力だけでここまで上り詰めたのだから。

皇子ミハエルの件で16回も始末書を書いたことを除けば、彼は自分の仕事に大いに満足していた。

その日、彼は圧倒的な存在感を放つ何者かが近づいてくるのを感じ取った。

「でかい……!」

あまりにも強大な力に、彼は思わず緊張した。

そこで連絡用の魔石を使い、すぐさま報告を上げる。

とてつもない力を持つ何かが、こちらへ高速で接近している、と。

ジルデル・ベースキャンプの内部では、ウィーンというサイレンが鳴り響き、正体不明の侵入者に対処するため兵力が集結した。

「馬車か?」

四頭立ての豪華な馬車が、こちらへ向かって走ってきていた。

シレバデルは剣を抜き放ち、叫んだ。

「止まれ!ここは黒鯨閣下直轄のジルデル・ベースキャンプだ。身分を明かせ!」

実に奇妙なことだった。

御者から、あれほどの強大な存在感が放たれているとは――。

彼は思わず驚愕した。

御者の顔が変わったかと思えば、まったく別人の顔へと変わっていたからだ。

「魔法か……?」

極度の緊張の中、彼はごくりと唾を飲み込んだ。

(どう見ても皇帝陛下の顔だが……)

しかし彼は、ベースキャンプの入口を守る誇り高き騎士だった。

「皇帝陛下を騙るとはいい度胸だ。黒鯨所属の騎士の名にかけて、貴様をここで食い止める!」

彼はすでに悟っていた。

あの魔導士(?)と戦えば、自分は間違いなく敗れる。

おそらく――死ぬ。

それでもなお、皇帝を騙る者を通すわけにはいかなかった。

それこそが帝国騎士の名誉だった。

魔導士が口を開いた。

「偽りではない。そなたは皇帝を迎えよ」

「この身でありながら、天よりも高き皇帝陛下を騙るとは……!天罰が怖くないのか!」

シレバデルは、あの魔導士が決して皇帝陛下であるはずがないと確信していた。

誇り高き騎士である彼は、その確信を胸に叫ぶ。

「皇帝陛下が、そのような卑劣な魔法をお使いになるはずがない!」

「…………」

ロンは一瞬、言葉を失った。

よく考えてみれば、顔と体格を変えるアーティファクトは使っていた。

どうしようもなかった。

勘の鋭い娘を完全に欺くためには、このような高価なアーティファクトを使うしかなかった。

覚悟を決めたロンが、威厳を込めて口を開く。

「……そなたは実に勇敢な騎士だ。褒美として休暇を与えよう」

「黙れ、この詐欺師め!」

 



 

シレバデルは、いっそ死んでしまいたい気分だった。

まさか本物の皇帝陛下だとは……。

(皇帝陛下が魔法アーティファクトをお使いになるだと?剣の感覚が狂うからと、小さな指輪一つすら身に着けないお方として知られているのに!)

それなのに、あのとんでもなく派手な首飾りを身につけているなど、到底信じられる話ではなかった。

もちろん皇帝はむしろシレバデルを称賛していたが、それとこれとは別問題だ。

シレバデルは、皇帝に向かって「詐欺師め」と叫んでしまった自分の舌を、いっそ切り落としてしまいたい気分だった。

(そういえば、ビロティアン帝国が最近変化を起こしていると聞いたな)

魔法の領域も、少しずつ開放し始めているらしい。

世間では、剣術帝国の野望だの危険性だのと騒がれているが、実際には帝国の騎士たちはそこまで深く考えていない部分もあった。

(あれは本当なのか。イサベル皇女を中心に、これまでとは違う新たな帝国を築こうとしているという話は……!)

そう考えるしかなかった。

数百年にわたって魔法の領域を尊重してきた剣術帝国が、ついにその領域にまで踏み込もうとしているのだから。

――それは明らかだった。

(でなければ、なぜ皇帝陛下があのようなアーティファクトを身につけておられるのか)

得体の知れない不安が胸に広がる。

剣術帝国を超える、さらなる巨大帝国――。

魔法連邦との均衡を崩し、歴史上最強の帝国へと至る直前なのかもしれない。

「シレバデル。これをお前に任せる」

差し出されたのは、ムクゲの形をした小さなバッジだった。

シレバデルの目が見開かれる。

「へ、陛下……これは……!」

それは、今回新たに導入されたムクゲ勲章だった。

この勲章を持つ者は、すべてのベースキャンプに自由に出入りできる特権を与えられる。

「おそらく明日には、イサベル皇女がここに到着するだろう。その時、彼女に渡せ」

ロンは、バルキオ・ジルデル国王の王宮復帰が遅れることを、すでに分かっている様子だった。

いずれにせよ、シレバデルは確信した。

帝国を超える帝国。

魔法と剣の境界を打ち破り、かつてない帝国が誕生するその起点に、イサベルがいるのだと。

(その栄光の瞬間に、私も立ち会えるのか……!)

そしてついに、その日が訪れた。

本当にイサベル皇女がベースキャンプを訪れたのだ。

「今日がその初日だ。今日を境に、帝国は新たな歴史を刻むことになる!」

彼は敬意を込め、片膝をついた。

そして、イサベルの右胸にそっと勲章を付けた。

「皇帝陛下の御命により、ムクゲ勲章を授与いたします。」

ミハエルに対する時とは、明らかに異なる態度だった。

その振る舞いは、むしろ敬虔さすら感じさせるものだった。

「お母様、ここにいらしていたのですか?」

「ええ、昨日立ち寄りました。」

ミハエルはうつむいた。

「お母様がどうしてここに?とてもお忙しいはずなのに。私ももう一か月以上お会いしていないのに……」

うつむくミハエルを見て、イサベルはくすりと笑った。

「お父様のお仕事を、一生懸命お手伝いなさっているみたいね。」

見ていないわけがない、という口ぶりだった。

たとえ魔導士の姿をしていたとしても、確かに目にしていたのだから。

シレバデルが言った。

「ご案内いたします、皇女殿下」

「わ、私も……!」

「皇女殿下とご同行であれば入場可能です。ただし、皇女殿下のご許可があればですが」

ミハエルは切実な眼差しでイサベルを見つめた。

イサベルには、これらすべてがまるで芝居の延長のように感じられた。

彼女は明るく微笑む。

「いいですよ。一緒に行きましょう」

そしてシレバデルへと視線を向けた。

「いつもこの場所で任務に励み、最善を尽くしてくださってありがとうございます。シレバデル卿、でしたよね?」

「はっ!」

シレバデルは直立して敬礼した。

彼にとって、イサベルは非常に特別な存在だった。

帝国を超える帝国へと飛躍するための出発点――その重要な鍵となる役割を、イサベルが担っているのだ。

「お名前、覚えておきます。ありがとうございます」

「いえ、とんでもありません!帝国の飛躍に立ち会えることこそ、光栄であります!」

帝国の飛躍……?

イサベルは小さく首をかしげた。

正直なところ、何のことかよく分からなかった。

(ここであまり詮索するのも失礼よね?)

無闇に皇族が首を突っ込めば、現場の騎士たちを余計に緊張させてしまうだけだ。

シレバデルへの配慮もあり、イサベルはただ穏やかに微笑んだ。

(なんとも意味深な笑みだ……!)

それは、彼の予想と考えが確信へと変わる瞬間だった。

 



 

胸が高鳴った。

(選抜式のときも格好良かったけれど……)

私が同じ場所で兄たちを見たのは、あのときが最初で最後だった。

あまりにも幼く、緊張もしていたから、はっきりとは覚えていない。

ただ――眩しいほどに美しい笑みを浮かべた男性たちがいた、という印象だけが残っている。

(私に気づいてくれるかな?)

前世で家族を持たなかった私にとって、血のつながりに触れるこの瞬間は、胸が弾むほど特別で、同時に怖くもあった。

これまで手に入らなかったもの、決して手にできなかったもの――。

――そう思っていたからだ。

けれど、カマンお兄様はしばらく部隊の外に出ているらしく、会うことはできなかった。

ムクゲ勲章のおかげで、私はこの基地で最高級の待遇を受け、最も快適な場所で休めることになった。

ただ、ミハエルお兄様はどこか不機嫌そうだった。

「なんだか、少し苛立つな」

「…………」

実のところ、私も少し気づいていた。

自分では大したことをしたつもりはないのに、すべてのベースキャンプに自由に出入りできる“ムクゲ勲章”を与えられたのだから。

これはどう見ても、一種の特権であり、優遇だった。

(思春期にこんな差を感じたら、自己形成に悪そうだけど……)

今日ばかりは少し大人の目線で、ミハエルを見るしかなかった。

なんとなく気まずくて、思わずフォローする。

「私は体も弱いし、お兄様みたいに強くないから……だから、私にだけこういうのをくださったんだと思います」

「何言ってるんだ?」

ミハエルは顔をしかめたまま、私を見た。

こんなに不機嫌そうなミハエルを見るのは初めてで、私も少し緊張する。

「……その、ムクゲ勲章のせいで、機嫌が悪いのでは?」

「ムクゲ勲章?それがどうした?」

ミハエルがムクゲ勲章の“ム”の字すら気にしていないのは間違いなかった。

(え、じゃあなんで機嫌が悪いの……?)

「なんでそんなに楽しそうなんだ?」

ミハエルは、どうも的外れなところで不機嫌になっているらしい。

「え、えっと……」

どうして私が楽しそうだと、機嫌が悪くなるのか分からない。

「兄上の方が強いから、ですか?」

「…………」

そこでようやく分かった。

ミハエルは、プライドが傷ついているのだ。

「そういうわけじゃ……」

「じゃあ、どういうこと?」

ミハエルはふいっとそっぽを向き、鼻でふんと息を鳴らした。

鼻息が白く揺らめき、不思議なことにそれは黄色を帯びて見えた。

息が目に見えるなんて……。

「できるじゃないか?」

いつも感じていることだが、ミハエルはそれを口癖のように言った。

ミハエルは拳をぐっと握りしめる。

「今度は俺が勝つ。見てろよ」

その瞳に、闘志が燃え上がっていた。

 



 

結論から言えば、ミハエルは今日も敗北した。

威勢よく木剣を振り上げたものの、すぐに「バタッ」と倒れ込む。

単に体力が尽きて、気絶してしまっただけだった。

「お、お兄様!」

私は驚いてミハエルのもとへ駆け寄った。

「ぐぅ……すぅ……」

ミハエルはぐったりと倒れたまま、深い眠りに落ちていた。

(え、これって……?)

さっきまで全力で戦っていたのに、急に眠り込むなんてあり得るの?

しかも周囲の人たちは慣れているのか、特に気にした様子もない。

皇子が倒れたのに?

(……まあ、そういうこともあるか)

いちいち驚いていたら身がもたない。

そう自分に言い聞かせて、私は顔を上げた。

目の前には、第三皇子――カマンお兄様が立っていた。

(ミハエルは、まだ子どもみたいだな……)

私の中では、ミハエルはずっとミハエルのままだった。

どう考えても“お兄様”という感じはしない。

ビロティアンの人間は、普通よりずっと早く成長する。

それなのにミハエルは、12歳にもなってなお、10歳くらいの子どものような見た目だった。

そのせいか、宮廷の学者たちが研究対象にしている、なんて話まであるらしい。

けれど――カマンお兄様は違った。

「わぁ……!」

思わず息をのむ。

その姿は、目が眩むほどだった。

まだ15歳のはずなのに、8歳の身体の私から見れば、完全に大人にしか見えなかった。

選抜式のときに見た、あのまだ幼さの残るカマンの姿は、もうここにはなかった。

(本当に、眩しい……)

短く整えられた銀髪が陽光を受けてきらめいている。

それこそが、第三皇子カマンお兄様の最も印象的な特徴だった。

水面のように滑らかな銀の髪。

ありきたりな表現ではあるけれど、静かな湖のような瞳が私を見下ろしていた。

十五歳にしてはどこか気だるげな表情をしているのに、それすらも詩の一節のように絵になる。

(……勝手にドキドキしないでよ、この体……)

八歳の身体は、私の理性とは関係なく素直に反応してしまう。

「すごく……かっこいいです」

思わずそう口にしてしまい、私は慌てて口を押さえた。

(うわ、やっちゃった……子ども補正が強すぎる……)

……と口に出しかけた瞬間、慌てて飲み込んだ。

幸い、お兄様には聞こえていなかったようだ。

「…………」

カマンお兄様はミハエルとは正反対の性格だった。

必要なこと以外は口にせず、私を一瞥しただけで背を向け、そのまま歩き去ろうとする。

(待って、このまま行かせちゃダメ……!)

「お兄様!」

「…………」

カマンお兄様は足を止め、ゆっくりと振り返った。

私は、倒れたままのミハエルをその場に残し、慌ててカマンお兄様のもとへ駆け寄る。

「覚えていらっしゃいますか?私、イサベルです。お兄様の妹です」

「…………」

そんなの当たり前だろう、とでも言いたげな表情で私を見下ろした。

その顔には、気だるさと煩わしさがはっきりと浮かんでいる。

「用件は?」

「ちゃんとご挨拶できていなかったので、改めてご挨拶を……」

どうやら、カマンお兄様には私の意図が理解できないらしい。

「俺がお前と挨拶を交わす必要があるのか?」

「だって、家族ですから」

それでも、彼の表情はまったく動かなかった。

改めて見ると、どこか父上に似ている気がする。

(急に……お父様に会いたくなってきたな……)

「…………」

カマンお兄様は、時間の無駄だと言わんばかりに、再び背を向けようとした。

私はその背中をじっと見つめながら、ふっと笑った。

(挨拶はできたし、まあいいか)

胸の奥が、少しだけ高鳴る。

私にとって――カマンお兄様は、『試験に落ちた悪女が死ぬ』の中でも特に印象的だった人物だ。

登場は多くないのに、そのわずかな出番だけで強烈な存在感を残したキャラクター。

(カマンが出てくると、私も泣いてたな……)

そんな人物を、今こうして目の前にしている。

その実感が、じわじわと胸に広がっていった。

私は両手で口元を囲い、大きな声で呼びかける。

「あとで兄上のところに行きますね!一緒にご飯食べましょう!」

 



 

10年前。

5歳のカマンは、自分の日記帳をじっと見つめていた。

【誰かにとっては当たり前でも、誰かにとっては切実なものがある。】

ビロティアン皇家の子どもたちは成長が早いが、カマンはその中でも特に早かった。

とりわけ精神面の成熟が際立っており、同年代の子どもよりも思考が深く、使う言葉もはるかに豊富だった。

【私にとって、家族とはそういうものだった。】

5歳のカマンは、日記をすべて燃やした。

灰になっていくそれを淡々と見つめながら、自分の感情をすべて切り捨てることにした。

(ビロティアンに生まれた以上、これが正しい道だ)

カマンが望んでいた世界は、ここにはなかった。

ビロティアン皇家は、彼の思い描くような温かな場所ではない。

子どもは徹底して後継のための駒として扱われ、皇家そのものもまた、ビロティアンの繁栄のための手段に過ぎなかった。

そんな中で、ただ一人、家族として彼を愛してくれたのが母――セレナだった。

だが、そのセレナでさえ多忙を極めていた。

当時、ミロテル魔法連邦との間で大規模な貿易摩擦が起きていたためだ。

七人の王のうち四人が関与するほど、事態は複雑に絡み合っていた。

セレナは、宮廷にいる日よりも不在の日の方が多かった。

一日に三時間以上眠ることもなく、カマンと過ごす時間もほとんど取れなかった。

幼いながらもカマンは母の事情をよく理解していたが、それとは別に、心は次第に孤独に沈んでいった。

たまに訪れる母との時間は、あまりにも甘く、尊いものだったからこそ――その幸福はまるで一瞬の奇跡のように儚く、かえって彼を苦しめた。

やがてカマンは剣にすべてを捧げ、急速に力を伸ばしていく。

厳格な規律の中に自らを閉じ込め、まるで機械のように剣術だけを磨き続けた。

彼が剣を振るう理由は、ただ一つ。

(これで……母上と父上が、喜んでくれるなら)

そして十年の歳月が流れ、今日に至る。

ふと、取るに足らないことを口にする幼い子どもの姿が脳裏をよぎった。

「ねえ、私たち、家族でしょう?」

――皇族にとって、『家族』ほど空虚な言葉が他にあるだろうか。

あの子は、まだ世間を知らなさすぎた。

無邪気で、意味のない言葉ばかりを並べていた。

「あとで、お兄様のところに行きますね。一緒にご飯を食べましょう!」

――そんなものが、何の意味を持つというのか。

 



 

 

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