こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
83話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 真実の告白
エステルに婚約の提案を拒絶されたデイモンは、呆然としながら怒りに燃える顔でぶつぶつとつぶやいた。
「一体何を信じてあんな態度なんだ?」
大公の身分を背負っているとはいえ、それが自分の立場を変えるわけではない。
ましてや皇太子として、自分にそんな態度を取るのが理解できなかった。
「俺と婚約したがる令嬢がどれほど多いと思ってるんだ。ったく。」
デイモンはしばらく不満をこぼした後、聖殿に向かって歩き出した。
瞬時に神官たちに混じって会話を交わし始めたものの、その状況に嫌気が差し、顔には怒りが残ったままだ。
そんな中、近くにいるドフィンを見つける。
しばらく考えたデイモンは、ドフィンの元へ歩み寄り、声をかけた。
「大公。」
「どうなさいましたか?」
同じ空間にいながらも会話を交わす関係ではないかのように、ドフィンが疑問めいた表情でデイモンを見つめた。
「お久しぶりです。公式な場ではお会いしていましたが、大公様とはまともにお話しする機会がなかったように思います。」
「何かご用件があるようですね。率直にお話しください。」
デイモンが回りくどい言い方をすると、ドフィンがきっぱりと応じた。
「ええ、直接申し上げます。大公の娘様と婚約を結びたいのですが、いかがでしょうか?」
エステルに提案した時とは異なり、デイモンの口調は非常に堂々としていた。
しかし、それを聞いたドフィンの目は冷たく鋭く光り、彼の表情は瞬時に硬くなる。
ドフィンの瞳から滲み出る怒りに気づいたデイモンは、身を縮めながら一歩後退した。
「婚約、とおっしゃいましたか?」
「その通りです。以前は公に娘はいませんでしたが、今では娘がいます。そして婚約するのにちょうど良い年齢ではありませんか。」
「なぜそのような考えを持つに至ったのか理解できませんね。皇子とは違い、私は以前の神殿との関係が良好とは言えません。」
ドフィンは不快な感情を隠さず、鋭くデイモンを見つめた。
「その関係を今こそ回復する時だと思います。その架け橋となる役目を私が果たします。」
結局、エステルを政治の道具として利用する意図があると感じ取ったドフィンの怒りは頂点に達した。
ドフィンはデイモンに一歩さらに近づく。
戦場で鍛えられたドフィンの威圧感は、飾り物のように育ったデイモンが耐えられるものではなかった。
デイモンは冷や汗をダラダラ流しながら、ドフィンの視線を避けようとする。
「私の娘をお好きですか?」
「ああ、ただ通りがかりに何度か見ただけですよ。」
ドフィンが体を屈めてデイモンをじっと見つめる。その姿は、もともと威圧感があったが、さらに危険な印象を与えていた。
「そんな軽い気持ちで婚約を提案するとは、まったく失礼ですね。私を見くびっているのですか?」
動揺したデイモンは慌てて手を大きく振った。
「い、いえ、絶対にそんなことはありません。ただ大公の娘様に心を惹かれて・・・。」
「それならば、なおさら礼儀を守るべきですね。皇子様だからといって私が見逃すと思わないでください。」
ドフィンを相手にするには、デイモンはまだ未熟すぎた。
「ご不快な思いをさせるつもりはなかったのですが、私の振る舞いが大変失礼でした。」
「はい。今後は気をつけてください。」
デイモンはドフィンに一礼し、逃げるようにその場を離れる。
ドフィンの視線から解放されると、ようやく息を深くつくことができた。
「はあ、目で刺されるかと思ったよ。何でこんなに厳しいんだ?」
出自も知らずに養子に迎えられた娘だから、当然政略結婚用だろうと簡単に考えた自分が愚かだった。
しかし、ドフィンがあそこまで反応するとは思わなかった。
「もう少し慎重に接するべきだった。自分が甘かった。」
デイモンは自らを責め、より具体的な計画を立て直し、エステルにアプローチすることを決意する。
皇位を狙うデイモンにとって、エステルも大公の権力もまた魅力的で、このまま諦めることはできなかった。
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神殿での用事を終えたエステルとドフィンは、同じ馬車に乗る。
行きは別々に来たが、帰りは一緒だった。
エステルは隣席でドフィンの様子を伺いながらそっと観察した。
「さっきからずっとこんな感じだ。」
休憩時間が終わってから、ドフィンの表情はずっと険しいままだ。
エステルが不快に感じていることを察したドフィンは、ため息をついた。
「疲れてないか?長旅だし、目をつぶって少し休んでもいい。」
「大丈夫です。でも、さっき何かあったんですか?」
エステルが慎重に尋ねると、ドフィンは少し考えてから口を開いた。
「デイモン皇子が婚約の話を持ち出したそうだな。君たちは会ったことがあるのか?」
デイモンの名前を聞いた瞬間、エステルの顔は少しこわばった。
彼女の顔が少し曇ったのを見て、ドフィンはその小さな変化を見逃さなかった。
「偶然に2回会っただけです。私に話しかけてきましたけど、すぐにお父様に話しておけばよかったです。」
「私にとって一番大切なのは君の意志だ。」
「嫌です。」
エステルは涙ぐみながら小さく震え、肩を落とした。
今の生活がどれほど努力して手に入れたものかを思うと、将来結婚して家を出るという考えは想像することさえできなかったし、したくもなかった。
「このままずっとお父さんと一緒に暮らせませんか?」
少し涙声のようなエステルの言葉に、ドフィンは驚いたように口を開ける。
その顔には一瞬感動したような表情が浮かんだ。
「よく考えたね。家を出るなんてゴメンだし、結婚なんてするつもりもないってことだね。」
エステルは晴れやかな表情でドフィンの腕に顔を寄せる。
直接話を聞いたことで、心が少し軽くなったのだ。
「でも、私が皇太子と婚約すれば、お父さんとって良いことではないですか?」
「それはない。俺はもう大公だ。他に何が必要だっていうんだ。君がそばで元気でいてくれるだけで、俺には十分だ。」
ドフィンの口元には、いつの間にか穏やかな微笑みが浮かんでいた。
それはエステルだけが知る父の優しい一面だ。
二人は一緒に馬車に乗って帰路についたが、エステルは神殿から最初にテレシアに向かった日のことを思い出していた。
道中、自分を不審に思ったりしないか、心配していた記憶がよみがえり、ふと笑みがこぼれた。
エステルは待ちきれずにドフィンをじっと見上げる。
薄桃色の目が可愛らしく潤んで見えた。
「お父さん、ありがとうございます。」
「この子め。」
エステルにとってこの日常が大切であるように、ドフィンにとってもそれは非常に大切だった。
双子の息子たちとエステルが一緒に過ごす日常。それを壊されることがあるなら、どんなことでも受け入れられない。
『許せない。いや、許さない。』
ところが、あのずる賢いデイモンのような者がエステルを奪おうとするなんて。
思い返すだけで怒りがこみ上げ、歯を食いしばった。
一方で、エステルの頭の中では再び混乱が巻き起こっていた。
ドフィンとの会話の中で中断された話がよみがえったのだ。
ドフィンであれば、ラビエンヌとの関係を必ず探ろうとするだろう。
それを隠して済む話ではない。
自分をそのまま受け入れて、傷を癒してくれたドフィンに対して、事実を正直に打ち明ける決意を固めた。
「お父さん。」
エステルは震える声でドフィンを呼んだ。
そして、寄りかかっていた頭を持ち上げ、距離を取る。
「私、話したいことがあります。」
それが今であるべきかは分からなかったが、いつかは話さなければならないとずっと考えていた。
「気楽に言ってごらん。」
「私、お父さんに隠していることがあるんです。」
エステルの声が小さくなった。
本当は養子になったその瞬間に話すべきだったが、当時は死ぬような思いで必要性を感じる余裕さえなかった。
自分が本当の家族でないという事実がどれほど心に重くのしかかっていたか、今まで気づかなかった。
「大丈夫だよ。」
ドフィンは何かは分からないながらも、震えないようにエステルの手をしっかりと握った。
エステルはその手を見つめながら、自分を支えてくれたその手に勇気をもらった。
「私・・・聖女の力を持っています。」