こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 再会②
ノアと会った後、エステルが戻ると同時にパーティーの第二部が始まった。
セバスチャンとの約束通り、一緒に踊りはしたものの、それは独演ではなく、数人が一緒に踊る形だったので、特に気負うことはなかった。
実際、エステルはどうやって踊っていたのかほとんど覚えていなかった。
それもそのはず、頭の中は久しぶりに会ったノアのことでいっぱいで、踊りに集中できなかったからだ。
気を取り直して周りを見ると、すでに音楽は止まり、踊りが終わっていた。
セバスチャンは満足げな表情を浮かべ、体を少し傾けながらエステルに声をかけた。
「一緒に踊ってくれてありがとう。本当に楽しかったよ。」
「私も楽しかったです。お誕生日おめでとうございます、セバスチャンお兄さん。」
エステルは、新しい一面を見せたセバスチャンに驚きながらも、微笑みを浮かべながら言葉を続けた。
初めて会った頃は、こんな風に気持ち良く過ごせるようになるとは夢にも思わなかった。
それでも、自分の過ちを認め、考えを改めた彼に、エステルは心の中で少し感心していた。
セバスチャンは以前とは違い、すっかり変わった姿を見せていた。
「次はまた……」
言葉を続けようとしたが、躊躇いながらも控えめな声が途切れてしまった。
ダンスが終わるや否や、エステルがすっとその場を離れ、自分の席に戻ったからだ。
その声は空気中にかき消されるように響いた。
「エステルが君に全然興味がないのは見て取れないかい?もう諦めるんだ。」
ジュディが笑いを堪えきれない顔でセバスチャンに近づき、励ましの言葉をかけた。
「よくやったよ、エステル。もうステージから落ちたりはしなかっただろう?」
デニスは席に戻ったエステルを見て、惜しみない称賛の言葉を送った。
しかしエステルはデニスの言葉が耳に入らず、ただ呆然としたままでいた。
「エステル?」
デニスがもう一度名前を呼ぶと、エステルはようやく我に返り、彼の方を見た。
「さっきからちょっと変だけど、何かあったの?顔も赤いし。」
「何でもないですよ。ただ今日は少し疲れているだけです。」
エステルはデニスを安心させようと微笑みながら答えた。
しかし、その心の中ではノアのことが頭から離れず、どこか上の空だった。
テラスを去った後もノアを探して目を配ったが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
ふと、エステルの視界にセバスチャンの母であるローズ夫人が現れ、穏やかな笑顔で近づいてきた。
「何か必要なものでもあるの?持ってきてあげるわ。」
「公爵夫人、大丈夫です。お料理もとても美味しくて、何も不足していません。」
「そうなの?それは良かったわ。今日はセバスチャンのパートナーを務めてくれて本当に感謝しているわ。二人が親しく過ごしているのを見ると、私もとても嬉しいの。」
ローズはエステルを見つめながら、目には特別な愛情が込められていた。
セバスチャンがエステルに気持ちを抱いていることを察しており、またエステルがこれまで助けてくれたことに感謝していたのだ。
「また今度、ぜひうちに食事に来てね。もっと美味しいものを作るわ。」
「ありがとうございます。」
ローズが言葉をかけて去った後も、エステルはなかなかパーティーに集中できなかった。
その様子を察したデニスはもうダメだと判断し、本を置いて立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか?」
「でも、もう帰ったらセバスチャンお兄さんが気まずく思わないかしら?」
「大丈夫だよ。今日一緒にダンスも踊ったし、それで十分だろう。」
すぐにでも家に帰りたかったエステルは、無理に笑顔を作りながら、デニスが彼女の心を察してくれたことに感謝していた。
ジュディを呼んで一緒に会場を後にしようとしたその時、遠くに立っていたブラウン公爵と目が合った。
「え?」
エステルは一瞬立ち止まってしまったが、平静を保ち、そのまま足を進めた。
目が合ったのはただの偶然かもしれないと思いながら、最後にちらりと振り返ると、ブラウン公爵は別の方向を見ていた。
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その夜、エステルはなかなか眠れず、翌朝、早くから何を着るべきかで頭を悩ませながら忙しく動き始めた。
エステルは、持っているワンピースを一つ一つ取り出しては鏡の前で合わせてみたが、なかなか決められず、ついにドロシーに相談することにした。
「どっちがいいと思う?」
「どちらもよくお似合いですが……私はこの紫のワンピースがいいと思います。前回お召しになったとき、とても素敵でした。」
「うん、じゃあこれにする。」
エステルは満足げに微笑みながらワンピースを選び、侍女たちに髪型と簡単な化粧を頼んだ。
前日のパーティーの時よりもさらに入念に準備をしたエステルの姿を見て、ドロシーは少し不思議そうに尋ねた。
「今日はどなたに会いに行かれるんですか?こんなに気を使われて。」
「ただの友達よ。」
エステルはそっけなく答えながら、手にしていたコームをさっと置き、照れたように鏡から目をそらした。
「ただの友達じゃないみたいですね。もしかして…ダイヤのネックレスを送ってくれたその友達ですか?」
「わあ!どうして分かったの?」
パーティーでノアに会ったことは誰にも話していなかったエステル。
しかし、ドロシーが一発で的中させたので驚きを隠せなかった。
「消息が途絶えたとおっしゃっていましたが、ついに戻ってこられたんですね。よかったです。」
ドロシーはノアの素性について詳しくは知らなかったものの、エステルが長い間彼を待ち続けていたことは知っていた。
なぜなら、エステルが何度も封を開けたり閉じたりしていた手紙の中に、ノアのことが書かれていると感じていたからだ。
「でも、今日会うときにあまり喜びすぎないようにしてくださいね。お嬢様が待っていたと分かったら、彼が得意げになるかもしれませんから。男性ってそういうものです。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
耳をぴんと立てるような仕草で聞いてくるエステルに、ドロシーは呆れたように微笑みながら言った。
「なるべく質問は控えて…うーん、とりあえず自然体でいればいいんじゃないですか?相手に主導権を譲って、堂々とした態度で接するのがいいと思います。エステルお嬢様が自信を持ってリードされる形で臨むんですよ。」
「主導権を?わかった。じゃあ質問はなるべく控えるようにするわ。」
目がキラキラと輝いたエステルは、ドロシーのアドバイスを信頼し、その言葉を胸に準備を整えた。
支度を終えて外に出ると、今日は特に快晴で、天気がとても良かった。
軽快な足取りで、あらかじめ用意されていた馬車へと向かおうとすると、遠くからジュディが息を切らして駆け寄ってきた。
「はぁ…はぁ…エステル、一体どこに行くの?」
周囲を走り回っていたのか、額には汗が滲んでおり、息が荒い様子だった。
エステルは一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、何でもないように笑顔を作った。
「わ、私、ただちょっと…広場に行こうと思って。」
「その格好で?」
ジュディはエステルの装いに目を止め、その特別な装いが普段とは違うことに気付いた。
昼間でも光沢が目立つ上品な靴を履いていて、広場に行くには場違いな服装だった。
「だから……途中で衣装部屋にも立ち寄ろうかと思って……」
最初から「衣装部屋に行く」と言えばよかったのに、なぜ「広場に行く」なんて口に出してしまったのか。
エステルは心の中で足をバタつかせながら後悔していたが、一度出た言葉を引っ込めることはできなかった。
「そうなの?じゃあ、気を付けてね。」
もっとしつこく追及されるかと思いきや、意外にもジュディはあっさりと受け入れた。
その態度に違和感を覚えつつも、エステルはジュディが気にしないうちに馬車へと乗り込んだ。
『本当のことを言えばよかった。』
嘘をついたせいで心がモヤモヤしていたが、兄たちにはまだノアのことを話す勇気がなかった。
ノアの近づきにくい雰囲気が和らいだら、そのときに話を切り出そうと決意し、申し訳ない気持ちはしばらく棚上げすることにした。
エステルを乗せた馬車が静かに動き出した。
後ろからついてきたビクターは、エステルをじっと見つめながら考え込んだ後、尋ねた。
「目的地はまたあそこですね……。今回もちゃんと帰ってこられますか?」
「ええ。昨日パーティーで会ったわ。」
エステルの声色から、隠し切れない嬉しさがにじみ出ていた。
それがビクターに伝わり、思わず微笑みがこぼれた。
「それで、そんなにご機嫌なんですね。」
「私が? いや、そういうわけじゃないけど。」
ドロシーに続いて、ビクターまでがエステルの気持ちを見抜いたことに、エステルは自分が隠しきれていないことを恥ずかしく思った。
出発してから30分後、ノアが以前住んでいた家がある場所に到着した。
エステルは、胸いっぱいの複雑な感情を抱きながら馬車を降り立った。
ノアが宮殿へ行った後、長い間空き家だったその家。
彼が戻ってきたのか確信はなかったものの、何度も噂を耳にしていたため、エステルはその場所に足を運んだ。
そして、その家の煙突から煙が立ち上るのを目にした瞬間、ノアが本当に戻ってきたことを実感し、心が踊った。
「ねえ、ビクター。以前ここを訪れたことは内緒だって、覚えてるわね?」
「もちろんです。」
ビクターは信頼を寄せるエステルを、まるで妹を見るような温かな目で見つめながら後ろをついていった。
そのとき、馬車の音を聞いたノアが家から出てきた。
両手いっぱいに薪を抱え、活き活きとした表情をしている。
エステルはノアを見つけると笑顔を見せたが、その気持ちが大きすぎてつい冷静を保とうと表情を引き締めた。
「エステル、川沿いで散歩しないか?自分で作ったサンドウィッチもあるよ。」
ノアは自分で作ったことを得意げに話しながら、持ってきたバスケットをエステルの前で揺らして見せた。
「そのレース飾りもノアがやったの?」
「いや、これは急いで借りてきたんだ。僕の趣味じゃないよ。」
レースがついた白い布は、バスケットをぐるりと覆うように飾られていた。
ノアは、そこまで考えが至らなかったのか、少し照れた表情をしながら得意げだったバスケットを後ろに隠した。
「さあ、散歩に行こう。」
笑いがこぼれたエステルがクスクスと笑いながらノアの横を歩き出した。






