残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【86話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

86話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 始めての瞬間

斬馬刀を贈られたイサベルは、少し戸惑っていた。

「えっ、こんなに大きな剣をくれるってこと?」

あまりにも無骨で物々しい見た目に、触るのさえためらわれる。

しかも名前が斬馬刀(ざんばとう)だなんて。

「ちゃんとあなたのことを考えて選んできたのに……」

人の視線に敏感なイサベルは、キルエンの眼差しを読み取ることができた。

その目に宿っていたのは、純粋な善意だった。

(ちゃんと喜ばなきゃ)

プレゼントそのものよりも、それを用意してくれた人の気持ちを大切にしようと思った。

そう考えると、不思議と心が落ち着き、喜びがこみ上げてくる。

「ありがとう、お姉さま。私のことを考えて、こんなに素敵な贈り物を用意してくださって!」

イサベルの反応に、キルエンは満足そうに微笑んだ。

――やっぱり、贈る側の特権ってこういうものよね。

やはり斬馬刀は、格好よさとロマンを兼ね備えた最高の贈り物だった。

あんなに喜んでくれるなんて。

(次は特大サイズのハルバード〈※斧槍〉にしようかしら)

こうして、(なぜか)無事にプレゼント贈呈式を終えたキルエンは、満足げにうなずいた。

「でも、ちょっと不思議な組み合わせですね?」

「お兄さまが、お姉さまと一緒に食事したいっておっしゃってました」

キルエンは少し驚いたような表情で、第3皇子カマンの方を見た。

しかしカマンの機嫌は相変わらず悪そうだった。

「第3皇子様って、そういうことはあまりなさらない方だと思っていましたが?」

「見た目はああですけど、本当は優しい方なんです」

「……そうなの?」

「はい。お姉さまのことが大好きなんですよ」

カマンは不機嫌そうに眉をひそめたまま、椅子に深く腰掛けていた。

どう見ても、好意を抱いている人の顔には見えない。

キルエンはその表情を読み取った。

(思春期がこじれてるのかしら……)

年齢的に、そういう時期でもおかしくはない。

もともと無愛想だったけれど、今日はいつも以上に冷たく感じられた。

「それでも、お久しぶりにお会いできて嬉しいです、皇子様」

こくり。

第三皇子カマンは、軽く一度うなずくだけで返事を済ませた。

いつも通りの反応で、特に驚くことでもない。

「キルエンお姉さまって、お兄さまの剣の先生だったんですよね?」

「そんな大げさなものじゃないわ。ただ、数か月ほど指導したことがあるだけよ」

「すごいです!本当にすごすぎます!最高です!」

そんなまなざしを向けてくるイサベルを見て、キルエンは誇らしさと満足感を同時に覚えた。

(やっぱり斬馬刀を選んで正解だったわね)

イサベルは続ける。

「よく分からないけど、きっとお兄さまの人生で一番の瞬間だったと思います!」

「……俺の“最高の瞬間”を勝手に決めるな」

カマンはぶっきらぼうに返した。

それでもイサベルは全く気にしない。

「一緒にご飯食べましょう!」

「なんで俺が」

「だって、私たち家族じゃないですか」

その言葉に、キルエンは少しだけ胸が締めつけられるような気持ちになった。

(カマンが一番嫌う言葉って、“家族”とか“情”みたいなものなのよね……)

見ていると、イサベルはどうにかしてカマンと距離を縮めようとしているようだった。

でも――キルエンからすれば、そのやり方は少しズレている。

カマンは、家族愛だの絆だの、そういう抽象的なものを好む人ではない。

(とはいえ、一度は通る道よね)

ビロティアン皇家は、普通の家とは大きく違う。

家族の愛情や温もりなんてものに期待するには、あまりにも冷え切った場所だった。

(イサベルが傷つかなければいいけど……)

そんなキルエンの思いとは裏腹に、イサベルはぱっと明るく笑って言った。

「私たち、今すごく豪華な夕食を用意してるんです」

「……」

「きっと、すごく美味しいですよ?」

「……」

「食べなかったら、絶対に後悔しますよ?」

イサベルはカマンに近づき、その手首をつかんでぐいっと引いた。

「もし美味しくなかったら、もう二度とお兄さまにしつこくしません。約束します」

「……」

カマンは乗り気ではなさそうだったが、結局は断らなかった。

「どうせ飯は食うんだろ」

カマンの視線の先には、小さな片手で彼の手をしっかり握り、ぐいぐい引っ張っていくイサベルの後ろ姿があった。

私の娘には惜しみなく与えているが、それでもやはりあの子はか弱かった。

『あまりにか弱くて、ぶつかることすら気が引けるな』

先ほど後ろにひっくり返った時のことを思い出し、ふっと力を抜いた。

それに気づいたイサベルの足取りは、少し軽くなった。

「えへへ、楽しみだなぁ」

カマンには理解できない領域だった。

なぜあの小さな子が、あれほど胸を躍らせているのか。

『そんなに食事が楽しみなのか?』

 



 

イサベルが言っていた通り、ユーリが用意した食事は見事なものだった。

この出来なら、王宮の料理長に任せても遜色ないほどだ。

それほどまでに優れていた。

イサベルがあれほど胸を躍らせていた理由も、少し分かった気がした。

カマンはナプキンで口元を拭いながら言った。

「なかなか悪くないな」

特に食後に出されたデザートは見事だった。

甘いものを好まないカマンですら、思わずまた食べたいと思うほどの甘美さだった。

イサベルはお腹をさすりながら、にっこりと笑った。

「はぁ、お腹いっぱい!」

「用件が済んだなら、私はもう行く」

カマンは、イサベルに振り回されているようなこの感覚があまり好きではなかった。

まるで内心を見透かされているようで、落ち着かないのだ。

「お兄様、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。キルエンお姉様って、剣術がとてもお上手なんですか?」

「……」

カマンはキルエンの方を見た。

むしろ戸惑っているのはキルエンの方だった。

「皇女様。私はただ、少しお教えしただけで……」

キルエンは優れた武人だ。

教えることにも長けており、本人が望まなければ埋もれてしまっていたかもしれない逸材でもあった。

「じゃあ、私も剣術を習えますか?」

ヴィロティアンの剣術を修めることはできなくても、普通の貴族の中で秀でるほどの実力を持つことは難しいかもしれない。

それでも、剣を握ること自体は決して不可能ではなかった。

「バルキオ国王陛下がこちらに来られるまで、あと三日ほどありますよね。その間だけでも、お姉様に師匠になっていただけませんか?」

イサベルはそう言いながら、そっとカマンの様子をうかがった。

イサベルにとってカマンは“釣るべき魚”のような存在だった。

――『さあ、食いつけ!』

カマンには、幸せな記憶がほとんどなかった。

それでもわずかに思い出せる良い記憶といえば、幼い頃に母と出かけたピクニック。

そして、キルエンに剣術を教わっていたあの数か月。

それが、彼にとって数少ない大切な思い出だった。

そして今、イサベルが触れようとしているのは、まさにその部分だった。

「私が皇女様に剣を教えるなんて、とても……。まずは皇女様付きのビアトン様にご報告を――いえ、ビアトン卿の許可をいただかないといけませんね」

だがキルエンの内心は、それどころではなかった。

(この子と遊びたい……!)という気持ちでいっぱいだったのだ。

キルエンは勢いよく席を立った。

「私が穏やかに話し合って許可をいただいてきますので、少々お待ちください」

穏やかな話し合いと言っているわりに、どうしてあんなに目が鋭いのかは分からなかった。

イサベルはその殺気に気づかないふりをすることにした。

しばらくして戻ってきたキルエンは、あっさり許可が下りたと告げた。

イサベルと遊べることが嬉しくてたまらないキルエンは、やる気に満ちあふれていた。

「食事も終わりましたし、それでは軽く訓練をしてみましょうか?」

「はい!」

イサベルも勢いよく立ち上がる。

さっきまでは特に何も思っていなかったのに、急に楽しくなってきた。

幼い身体にとって、すべての経験は新鮮で、そして楽しいものだった。

イサベルは心から楽しそうに言った。

「お兄様も一緒に行きましょう!」

「なぜ私が?」

「だって、私が初めて剣を握って振るう瞬間なんですよ?」

「それがどうした」

「最初の瞬間を一緒に見てくれる人が家族だったら、素敵じゃないですか」

「……」

「思い出として残るんです!」

カマンは眉をひそめた。

しつこくねだるその様子は鬱陶しいはずなのに、どこか雛鳥のようにも見えた。

いや、子猫のようにも。

「一緒に来てくれませんか?ね、ね?」

――どうしてか、懐かしい光景だった。

焼け落ちた日記の中にしか残っていない、もう戻らない過去の一場面のようで。

カマン自身は気づいていなかったが。

キルエンはイサベルを見て、愛おしさを抑えきれなかった。

(ああ、なんて可愛いの……)

あの大きな斬馬刀を抱えて、よろよろしながら振ろうとする姿がたまらなく愛らしい。

最初はまともに持つことすらできず、重さに振り回されて倒れてしまっていた。

けれど今は、少し違っていた。

「こうやって振るんですよね?」

ブンッ!

イサベルは斬馬刀を振るった。

まだぎこちない動きではあったが、剣に慣れる速度は常識を超えていた。

「その通りです!」

キルエンはぱちぱちと拍手した。

内心では、かなりの衝撃を受けていた。

ヴィロティアンの剣術を修められない体質であっても、身体そのものの素質は生まれつきのものだった。

より正確に言えば、イサベルの体内に蓄えられている「魔力量」は常識外れだった。

――魔力の効率は、極めて低い。

だが、それは問題ではない。

効率というのは、限られたものをやりくりする時にこそ重要になる概念だ。

キルエンの感覚では、イサベルの魔力はほとんど無限に近い。

だからこそ、無造作に使っても問題がなかった。

(あれだけ無遠慮に魔力を使いながら、剣を振っても全く疲れていないなんて……)

キルエンにとっては、まさに常識外れの光景だった。

三時間ほど経つ頃には、イサベルの服はすっかり汗で濡れていた。

髪と汗が絡みつき、まるで黄金色の海藻のようにも見えた。

「はぁ……はぁっ!」

イサベルは荒い呼吸を整えながらも、満ち足りた表情を浮かべていた。

こんな時こそ、生きている実感が湧く。

こんなふうに息を荒げ、汗を流せる身体であることが、ただ嬉しかった。

イサベルは腕で額の汗を拭い、にこりと笑った。

そして、全身で疲労を訴えているカマンの方へ歩み寄り、声をかける。

「思ってたより、ずっと楽しいです!」

「……」

イサベルは確信していた。

――今の自分の姿を見て、カマンもきっと、幸せな記憶を思い出しているはずだ、と。

今は、忘れてしまった美しい記憶と向き合っているのだろう。

「思ったより、よく動けてるんじゃないか?」

「……」

「え?」

「……」

「まあ、そんなところだ。」

褒めてほしそうに見つめてくるイサベルの瞳が気まずくて、カマンはそっと視線を逸らした。

カマンは少し戸惑っていた。

なぜなら――あの頃、初めて剣を学んだときの自分の姿と、どこか重なって見えたからだ。

父に認められたくて、褒められたくて、ただそれだけで必死だったあの頃。

(父上……私、やりました)

(本当に楽しいです、父上)

忘れていた自分の幼い頃の姿がよみがえり、胸が締めつけられるようだった。

だが実際のところ、彼は剣術を楽しいと思ったことなど一度もなかった。

それでも「楽しい」と言い続けていた。

それが父と繋がるための、たった一つの手段だと思っていたからだ。

――どうして、そこまでして私に近づこうとする。

カマンはイサベルのことを思い浮かべる。

――何を望んでいるんだ、イサベル。

自分と彼女の間にある共通点など、ビロティアンの血くらいしかないのに。

それでもなお、自分を偽ってまで近づこうとする理由が分からなかった。

だが――振り返ってみれば、幼い頃の自分も同じだった。

父と分かち合えるものは、ビロティアンの剣しかなかったのだから。

血の繋がり以外に共通点などないのに、それでも父の愛を求めていた。

――君は、いったいなぜ……。

イサベルの存在は、カマンの奥底にある感情を大きく揺さぶった。

「本当に楽しいのか?」

「はい、本当に! こんなふうに息が上がって、汗もたくさんかいて……」

――嘘だ。そんなに苦しそうにしておいて、何が楽しいというんだ。

カマンは歯を食いしばり、何も言わなかった。

なぜか胸がざわついた。

――どうしてそこまで必死なんだ。

もちろん、それは勘違いだった。

イサベルは、本当に楽しんでいたのだ。

ただ身体を思いきり動かすこと、それ自体が――彼女にとっては何よりの喜びだった。

それはイサベルの渇望であり、同時に幸福でもあった。

「私の“初めて”の瞬間に一緒にいてくれて、本当に、本当にありがとうございます」

初めて。

一緒に。

――それが、そんなに大切なことなのか。

「本当に、本心です」

その笑顔の奥で、揺れる本音を隠しながら、嘘を真実のように語っているのか。

なぜ、楽しくもないことを楽しいと言い、そんなふうに笑う。

……かつての自分も、そうだったのか。

カマンの胸に、重く鈍い衝撃が走った。

「……もう夜も遅い。戻れ」

――行かせなければならない。幼い日の、自分の残像を。

でなければ、見ないふりをしてきた過去が、再び自分を追い詰めてくる。

……その思いは、シホ三世の深く濃い感情となって、内側でくすぶり続けていた。

「明日も、一緒にいてくれますよね?」

「明日の午後までは予定がある。」

「じゃあ、午後まで待ってますね。」

「……」

午後から剣を教える、とは一言も言っていない。

それでも、その言葉は喉の奥に引っかかったまま、外に出てこなかった。

「……面倒なやつだ。」

カマンは背を向け、その場を後にした。

 



 

宿舎へ戻ったイサベルは、思わず足を止めた。

「シャワー設備がこんなに貧弱なの?」

地下水を汲み上げて使うしかなく、水はひどく冷たかった。

しかも桶で流すしかないため、何かと不便だ。

「私が洗って差し上げますね。」

「うん、お願い。」

けれどイサベルは、水の精霊を扱えるユリのおかげで、簡単に体を洗うことができた。

「しずくちゃん、よろしくね。」

妖精のような姿をした水の精霊が、腰を折って丁寧にお辞儀し、イサベルのもとへと近づく。

さらさら、と水が流れ、あっという間に体は清められた。

「お風呂終わり!もう寝ようっと。」

ベッドにはすでにキルエンが横になっていた。

背が高いため、足がはみ出している。

「皇女様、こちらへ。お姉さんが子守歌を歌いましょうか?」

「本当?うれしい!」

イサベルは勢いよくベッドに飛び込んだ。

まるで谷へダイブするみたいな勢いだった。

「うわあ、最高……!」

やっぱり来てよかった。

イサベルはキルエンの腕の中にすっぽり収まった。

すっかり“姪バカ”になってしまったキルエンは、満たされたように微笑む。

(胸が……苦しいわ)

どうしてこの子は、こんなにも無垢で愛らしいのだろう。

このまま厳しい運命の中で生きていくなんて、本当にいいのだろうか。

イサベルとキルエンは、並んで横になりながら、しばらくのあいだ他愛もない話を続けた。

「本当ですか?あんなひどいことをしたのに、そのまま許してしまうんですか?」

「そのまま許す?まさか……殺しはしないけど、腕くらいは折っておいたわ。」

「え?」

さっき確かに“殺し”って言いかけませんでした?

イサベルはぞくりとした悪寒を覚え、それ以上は追及しないことにした。

イサベルは少し遠慮がちに口を開いた。

「それで……私、剣術の才能ってないんでしょうか?」

「え?そんなことないわよ。かなり才能があるように見えたけど。」

「本当ですか?」

「もちろんよ。さすがビロティアン皇家の血筋だと思ったわ。」

「えへへ、そう言ってもらえてうれしいです。やっぱりあなたは優しいですね。」

「優しいなんて言われたの、初めてだわ。」

粗暴で冷酷だという評価は散々聞いてきたが、優しいと言われたのはイサベルが初めてだった。

イサベルは心の中で思った。

(やっぱりキルエンお姉さんは優しい)

見た目は誰よりも強そうな戦士なのに、内面はやっぱり優しくて温かい。

(下手でも褒めてくれるんだ)

イサベル自身の感覚では、自分は剣術の才能があまりない。

魔法を使うときのような、頭の中がぱっと冴える感覚がなかったからだ。

(やっぱり私の適性は魔法かな)

魔法の才能があまりに突出しているせいで、剣術の才能が劣っているように感じるのだろう。

一方で、キルエンは心の中で思っていた。

(ビロティアンの剣式を習えないだけであって、純粋な剣の才能だけ見れば天才に近いわね。それなのに、あの様子……驕りの気配がまるでない)

これほどなら、自分でも剣の才能に気づいていておかしくないはずなのに。

八歳という幼い年齢で、どうしてあそこまで謙虚でいられるのか。

イサベルとキルエンはそれぞれ違うことを考えながら、同じようにふっと笑った。

「おやすみなさい、皇女様。」

「キルエンお姉さんも……おやすみなさい……」

今日一日の疲れが出たのか、イサベルはすぐにすやすやと眠りに落ちた。

キルエンはしばらくのあいだ、イサベルの背中をやさしく撫でていた。

 



 

 

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