継母だけど娘が可愛すぎる【１３１話】ネタバレ

「アビゲール、お変わりありませんでしたか？」

ギドオンが去るや否や、セイブリアンが慌てて私を見つめる。

私は少し戸惑いながら口を開いた。

「はい、特には」

「そうですか」

彼は安堵した様子だ。

あれ、何の用事で来たんだろう？

この前、私がギドオンが疑わしいと言ったからだろうか？

「今、ギドオンを宮廷楽士から解任しているところです」

その言葉に私は当惑せざるを得ない。

もしかして解任するという話を伝えるために、ここに来たの？

その前に、どうして解任するの？

「殿下、どうして彼を解任するのですか？」

「あなたも彼が怪しいと言ったじゃないですか。ですので解任しました」

「ですが、当分の間は私の音楽の先生にすると言っていませんでしたか？」

十分にギドオンについて観察した後、彼を解任するつもりだった。

セイブリアンもその提案に同意したと思っていたのだけれど。

「そうですが、それでも彼を解任するしかありませんでした・・・」

彼は言葉尻を垂らしながら頭を下げる。

私から視線を逸らすのを見ると、何か困っている様子だった。

なぜ急に心変わりしたの？

私が心配になって？

それともギドオンについて何か知ったのだろうか？

セイブリアンは依然として沈黙を守っていた。

私はしばらく躊躇った後、手を上げて彼の両頬に触れる。

この程度のスキンシップなら大丈夫だろう。

セイブリアンは驚いたが、彼は私の手を避けなかった。

優しく彼の顔を私の方に向ける。

「殿下」

セイブリアンの顔が沈んでいる。

少し元気がないようにも見えたりもした。

「アビゲール、私が勝手にギドオンを解任して怒っていますか？」

「いいえ、怒っていません」

彼が説明をしてくれなくてもどかしかったが、腹が立ったり悲しんだりはしていない。

明らかに何らかの理由があるのだろう。

セイブリアンが理由なく私の意見を黙殺するはずがない。

彼は私が何の証拠もなしに緑色の病気を主張した時、私の話に耳を傾けてくれたのだから。

だから私も彼を信じる。

彼が私を信じてくれたように。

「私のために彼を解任したのでしょう？だから殿下には怒っていません。ですが、できるなら理由を聞かせてほしいです」

沈黙は一つの解決方法だが、常に正しい方法ではない。

このようなことが積もり積もっていけば、いつかは物足りなさを感じることは明らかだ。

「絶対に言えないことなら、これ以上は聞きません。私は殿下を信じていますから。でも、いつかは教えてくれたら嬉しいです」

セイブリアンの頬に触れた手から、彼の震えが伝わってきた。

頭を下げたまま視線を斜めに下げている。

言おうかどうか悩んでいるようだ。

しばらく躊躇った後、セイブリアンが口を開いた。

「ギドオンは・・・」

「はい、ギドオンがですか？」

「・・・既婚者に人気があると聞いて」

「はい、既婚者に人気が・・・。えっ？」

うん？

私の聞き間違えなのだろうか？

既婚者？

セイブリアンは恥ずかしくて死にそうな顔で唇を噛んでいた。

彼の顔が真っ赤になっている。

「情報部を通じて調査したところ、貴婦人たちから愛される人物だと聞きました」

先ほど、ギドオンがミューズだの自作曲だの云々したことを思い出した。

他の女性たちにも同じように接しているのだろう。

さっき私にそんなお世辞を言ったのは単純な好感ではなく、それ以上の関係を求めていたからなのだろうか？

うわあ、ゾッとする。

私に媚びる時も特に気分は良くなかったけど、私と秘密の関係になりたかったなんて。

呆れて心の中で舌打ちすると、セイブリアンがチラッと私の顔色を伺って口を開いた。

「アビゲール、私が以前言った言葉に対して謝罪したいです」

「え？どういうことですか？」

私を見つめる彼の顔が寂しそうだ。

初めて見た時なら無表情だと思ったかもしれないが、今は彼がどんな気持ちなのか簡単に分かる気がする。

そっと垂れ下がった目尻、そして訴えるような瞳。

何か不安そうな様子だった。

「私があなたに恋人を作っても気にしないと言ったことを覚えていますか？」

「ええ、覚えています」

そんな事を言われたこともあったわね。

セイブリアンは頬を包んでいた私の手を強く握る。

「どうか忘れてください。なかった言葉にしてください。私の妄言でした」

もう過ぎたことを、どうしてまた持ち出すのだろうか？

そうするうちにふと、先ほど彼が言った言葉が思い浮かび、私は驚愕して口を開いた。

「まさか・・・、私がギドオンを恋人にすると思ったのですか？」