乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１６８話】ネタバレ

すべての準備が終わった今、ダリアは心を落ち着けて毅然とアドリシャを慰めることができた。

「……そうなったんですね。」

アドリシャは力なく視線を落とした。

「本当に、よかった。」

「うん……。」

「私……助けになれなくてごめんなさい。次は必ず……。」

しかし、まだ涙を堪えているアドリシャは知らなかった。

彼女のおかげで何百回も時間を巻き戻した人間のおかげで、ダリアがこの場にいられること、そして皆が幸せになる道が初めて現れたということを。

ダリアは彼女が落ち着くまでしっかりと抱きしめてあげた。

そして彼女を少し残してルウェインのもとへ向かった。

彼の顔はまだかなり青白かった。

いや、むしろさらに悪くなったように見えた。

彼女の視線が結界の中のアセラスへと向かった。

アセラスは依然として頭を抱え、苦しそうにしていた。

まだ本格的な暴走が始まる前だったが、すでに彼を囲む結界は不安定に揺れ始めていた。

「本来なら二人で守るべきところを、一人で守っているからだ。」

セドリックはダリアに言いながら、額に皺を寄せた。

「……二人ですか？」

「私の父だ。」

セドリックはルウェインのもとへ向かった。

「父上は？ もう後方の支援も終わったんだから、お前のもとに来るはずだろ？」

「真実を悟って、怒って出て行きました。」

セドリックはそのとき初めて、ルウェインの片方の腕に火傷の痕があることに気づいた。

彼は苦笑した。

よく見ると、アセラスの服もボロボロだ。

あちこち裂けていたが、体には傷ひとつなかった。

「陛下がアセラスを殺そうとしたのです。」

「効果は当然なかっただろうな。」

「ええ。暴走が加速しただけです。今や彼の治癒力は、普通の存在をはるかに超えています。」

「……その間に皇帝陛下が来て、去ったというのですか？」

「正確に言うと、アドリシャ様がアセラスの精神から跳ね飛ばされた直後から、ダリア様が到着する10分前までいらっしゃいました。」

ルウェインが無駄なく詳細に説明した。

「なぜ……？」

「父上が異空間の魔法陣を見つけたからです。俺たちの計画をすべて把握したのだ。」

すべてが失敗した場合、セドリックがすべてを背負って死ぬつもりであることまで――。

セドリックはルウェインの話を考えた。

一度暴走すれば、皇宮にいる人々を永遠に生かすほどの治癒力を持つと言われていたのだから、今の段階で魔法だけで彼を殺すことは不可能だった。

だが、自分の死を目の当たりにした父の心は、当然ながらその死をバレなかったわけがなかったようだ。

「それを隠してどうする？ どうせバレるのに。」

「申し訳ありません。」

「父上に、不肖の息子が先に逝くとお伝えしたのか？」

「私が本当に死ぬ姿を見たいのですか。」

「はは。」

セドリックは無表情のまま、ただ声だけで笑った。

自分で考えても、この冗談は驚くほど面白かった。

もちろん、今この状況で笑うのは正気の沙汰ではないだろうが、セドリックは場を和ませようと続けた。

「それでも、一人でよく耐えてくれたな。」

「ダリア・ペステローズ嬢を守ってくださり、感謝します。」

ルウェインはそう言うと、ハンカチで口元を覆い、ゴホッと咳き込んだ。

血が混じっていた。

彼は短く謝った。

「申し訳ありません。」

セドリックは呆れたように言った。

「……いや、俺に謝ることじゃないだろう。どうしてだ？」

「皇太子殿下の代わりに、私が見た魔法を実行しようとしましたが、失敗しました。」

「馬鹿なことを。」

セドリックは小さく笑った。

過酷な世界を生き抜いてきたこの男が、自分の代わりに死ぬつもりだったらしい。

しかし、それが許されるはずもなかった。

『執着と言うんだ。』

すべてのことは進むべき方向に進まねばならない。

「いっそ、俺たちみんなで永遠に生きようか？」

「………。」

「それもそれで、案外楽しいかもしれないな。」

ルウェインは冗談めいた言葉の中に隠された彼の本音を感じ取った。

そして、ずっと昔に感じた感情が再び蘇ってくるのを感じた。

苦々しかった。

セドリックがここまで生に執着したことは一度もない。

だからこそ、今回は違ってほしいと願った。

「ダリア嬢から説明を聞きましたか？ まだ殿下が死ぬというのは確定ではありません。私も最善を尽くします。」

「……そうか、ありがとう。」

セドリックは深く息を吸い込んだ。

「どうやら、これで最後のようだな。」

「………。」

「アセラスも、そう長くはもたないだろう。」

その時、会議室の崩れかけた扉の後ろから一人の人物が姿を現した。

「遅くなってすまない。」

「陛下！」

アドリシャが驚いて叫んだ。

ルウェインとセドリックも驚いた表情を浮かべた。

現れたのは、皇帝アレクサンドロスだった。

息子が死ぬ計画を知って激怒し、席を蹴って去った彼だったが、わずか数分後に再び戻ってきたのだ。

まだ怒りが完全に冷めていないのか、彼の瞳には鋭い怒りが宿っていた。

「……セドリック、来たか。」

彼ははっきりとした口調で言った。

「後方の支援は、ブルーポート公爵とペステローズ公爵が無事に完了させた。二人とも傷一つなく無事だった。」

よかった。

依然として状況は厳しいが、ダリアは胸をなでおろした。

彼らが傷つくことを覚悟していたが、それでも本当に……嬉しかった。

「これでようやく整理がつきそうだな。残るのは、新聖帝国に対して我々の被害の補償を請求することくらいだ。」

鋭い視線で全員を見渡した皇帝の視線が、ダリアに向けられた。

その瞬間、彼の目元がほんのわずかに和らいだ。

皇帝はダリアの前まで歩み寄ると、跪き、彼女の手の甲に口づけた。

ダリアが止める間もなかった。

思いもよらぬ行動に、彼女の顔は一気に赤く染まった。

「へ、陛下？」

「もう聞いているぞ、ダリア嬢。唯一、私の息子を救おうとしたのが、あなただと。……運命だとでも言うのかね。いや、私はそんなものは信じないが、それでも……。」

「……あ……。」

「私の息子が自ら捨てた命を、たった一人で救おうとしてくれた……感謝するよ。」

皇帝は彼女の手の甲に額をつけ、深々と感謝を示した。

ダリアは言葉を失った。

皇帝は怒りを鎮めると、続けて言った。

「ここは皇宮だ。私にどれだけ隠し通せると思った？私に相談もせず、こんなことを企てたからには、私の息子とルウェインには当然、責任を取ってもらわねばならんな。」

「申し訳ありません。」

ルウェインはしっかりと謝罪し、一瞬ためらった。

皇帝はため息をつき、彼を押しのけて立ち上がった。

再び手を挙げたが、力がこもっていなかった。

結界が少し緩んでいた。

皇帝は言った。

「だが、どれほど怒っても、すべてを捨てて去ることなどできなかった。息子がいるのに、私がどうしてそんなことができる？」

「………。」

「だが、私ももう長くはもたないだろうな。」

皇帝は言葉を詰まらせた。

ダリアは結界の中で、休むことなく神聖力を放出し続けているアセラスを見つめた。

すでに彼の目には光がなく、精神系の魔法の後遺症が彼の魂を崩壊させる速度を早めているようだった。

皇帝が重々しく言った。

「暴走を無理やり抑えているが、このままでは長くもたない。対策が必要だな。」

「ええ、承知しております。」

ルウェインはそう答え、ダリアに視線を送った。

彼女はすぐに駆け寄った。

セドリックも自然と彼女の後を追った。

皇帝はその様子を見るなり、まるで胸が焼けるように胸を叩いた。

「セドリック、本当に……私の息子よ。どうして一言も相談せずに……。」

「申し訳ありません、父上。」

セドリックは言い訳せず、ただそう答えた。

皇帝は込み上げる感情を抑えきれず、しかし息子を直視することもできず、視線を逸らした。

「ダリア嬢、今、完全な手順はこれです。」

ルウェインは皇帝の結界の最奥へとダリアを導いた。

彼が手順を進めると、結界の内側に再び青白い光の魔法陣が描かれた。

その魔法陣の中央に、宙を舞うようにページがめくられている彼女の日記帳が見えた。

「……あれですか？」

「ええ。」

「……では、私はどうすればいいのですか？」

ダリアは基本的な教養以外、魔法の知識はまったくなかった。

魔法について何も知らない彼女に、一体何ができるというのだろう？

「単純です。」

ルウェインはきっぱりと答えた。

「あの中心に行き、その日記帳を掴んで、そのまま地面に押し付ければ最終儀式が完成します。仮想シミュレーションを試した結果、基本的にこの世界の人間である我々には、あの日記帳を少しも動かすことができませんでした。しかし、同じ世界の魂を持つあなたなら、動かすことができるのです。」

ダリアは唇を噛み締めた。

「……でも、あそこは結界の内側じゃないですか。」

アセラスの神聖力が暴走している領域。

もしダリアがそこに入れば、彼女もまた不死の呪縛を避けることはできないだろう。

「アセラスが魔法陣の中心にいる必要があるため、どうしようもありませんでした。申し訳ありません。」

まさかルウェインはダリアを不死にしてまで皆を救う計画を立てたのか？

ダリアは疑いの目を隠せず、彼を見つめた。

しかし、ルウェインは彼女がなぜそんな目で自分を見るのか、まったく理解していない様子で淡々と続けた。

「皇帝陛下が来てくださったおかげで助かりました。陛下と私は、結界の範囲を可能な限り縮小します。そうすれば、ダリア嬢は神聖力の影響を受けずに、あそこまで到達できるでしょう。そのとき、私が言った通りにしてください。できますか？」

唐突な計画に呆然としたダリアだったが、少し恥ずかしそうに、唇をかみしめながら頷いた。

「できます。……どうせ、これしか方法がないんですから。」

やらなければならない。

たとえ、できなくても——それが今の状況だった。

ダリアは深く息を吸い込んだ。

ルウェインが彼女を励ますように頷いた。

彼が皇帝と話すために席を外し、セドリックとダリアだけがその場に残った。

セドリックはダリアの少し後ろに立っていた。

彼女は、以前ルウェインとセドリックの喧嘩を止めたときのように、後ろ手でそっと彼の手を握った。

すると、不思議なほど心が落ち着いた。

まるで世界に二人だけが残されているようだった。

セドリックは何も言わず、ただ静かにダリアの手を握り返した。

「早く全部終わるといいですね。そう思いませんか？」

「……ああ。」

「全部終わったら……最初に何がしたいですか？」

「君にキスをする。」

セドリックは冗談めかすことなく、真剣に答えた。

ダリアは、場違いにも思わず笑ってしまった。

「……嫌です。」

「……ん？」

「気が変わりました。やっぱり、その時にキスはしません。」

「……どうして？」

セドリックは少し焦ったように言った。

ダリアは彼の手を離そうとしたが、その前にセドリックが彼女の手をしっかりと握り、そのまま自分の方へと引き寄せた。

再び目が合った。

彼は少し陰った表情でダリアを見つめた。

「俺、何か間違えた……？」

ダリアは微笑みながら、セドリックの頬をそっと両手で包み込み、短くキスをした。

「今は、私の思い通りにさせてもらいます。」

「………。」

『なんで馬鹿みたいに、全部終わるまで待ってたの？』

ダリアは、したい時にすればいいのに、と少し呆れたように思った。

セドリックは何かを必死に堪えているような眼差しでダリアを見つめた。

そして、やがて彼の口元に、かすかな笑みがこぼれた。

その時、ルウェインと皇帝が作り出した結界が一斉に収縮し始めた。

「ダリア嬢、動いてください。」

その瞬間から、結界の範囲が徐々に縮まっていった。

まるで爆発直前の超越者と戦っているような状況だった。

この結界が耐えきれずに崩れたら、ルウェインが必死に抑え込もうとした悲劇が、再び都で繰り返されることになる。

ダリアはセドリックとともに結界の最奥へ向かった。

結界の端をなぞるように、一歩、一歩、慎重に進んでいく。

宙に浮かび、ページをめくり続けている彼女の日記へと——。

あれを掴み、地面に押し付ければ、すべてが終わる。

残りは、あと三歩。

ダリアの胸が不安で高鳴る。

二歩目。

ルウェインと皇帝の方向から、熱い神聖力の波が流れた。

ダリアは後ろを振り返ろうとした。

しかし、セドリックの手が彼女の視界を遮った。

「大丈夫だ、ダリア。すべてうまくいく。」

その言葉に、彼女は勇気を得た。

日記へと近づくほど、アセラスとの距離がさらに近づいた。

アセラスはまだ床に伏せて、もがいていた。

距離はほとんど無い。

もしかすると、アセラスは彼女に気づかないかもしれない。

もし気づいたら、彼はどんな反応を見せるだろうか？

残りはあと一歩。

ダリアは宙に浮かぶ日記帳に手を伸ばした。

もう少しで、手が届く。