継母だけど娘が可愛すぎる【６２話】ネタバレ

と、特別だなんて・・・。

胸が騒ぐ言葉。

特別だという言葉は、勲章のように感じられる言葉だった。

セイブリアンは私にだけ慣れたのか。

これを良しとすべきか否か・・・。

それでも、なるべく日常生活には支障がないほうがいいだろう。

「殿下、それなら私以外に他の女性とも手を握る練習をしたらどうでしょうか？」

「私が他の女性と手を取ってほしいのですか？」

セイブリアンが覗き込んでくるが、なぜか横を向くことができない。

「いや、別にというより、私は・・・」

彼はこの世界に私だけがいるかのように、私から視線を離さないまま話を続けた。

「どうせ他の女性と手を握ることはないのですから、他の女性と練習する必要を感じないのですが？」

「いや、でも、他の女性と踊ることもあるでしょうし・・・」

「そんなことはありません」

・・・どうしてこんなに断言するの？

ここまで言われると返す言葉がない。

「ですが・・・、国政も忙しいのに毎晩訪れる必要があるのでしょうか？」

それを切り出した瞬間、セイブリアンの表情が変わった。

その驚いたような表情に私も魔法から目が覚める。

なんでそんなに驚きの表情を？

彼はしばらく躊躇った末、口を開いた。

「そのお話は・・・」

うん、そのお話は？

「同室にしようということでしょうか？」

いやいや！これはまた何の創意的な解釈だよ！？

思わず椅子から飛び上がるところだった。

毎晩訪れるなというのを、どうやったら同室しようと解釈するの！？

セイブリアンの表情は深刻で怖い思いを浮かべている。

私が淫乱鬼のように自分を狙っていると感じているのだろう。

「ええと、違いますよ！」

彼の誤解を紛らわすために、私は慌てて言い添えた。

このままだとセイブリアンとの仲がまた拗れそうだから。

「以前にも申し上げましたが、私は殿下に恋愛感情や陰険な心は少しも！爪の垢ほども！砂糖の粒ほどもありません。だから心配しないでください！」

手振りで自分の無害さをアピールする。

しかし、アピールすればするほどセイブリアンの表情は暗くなっていった。

心を込めて、真面目な声で話す。

「以前、殿下が仰ったじゃないですか。近寄らないで、死んだように過ごせと。部屋を合わせるつもりはありません。私も一人で寝るのが好きですから、安心してください！」

そして親指を立てる。

「私を信じてください！私は殿下が好きではありません！」

信じて、セイブリアン。

あなたには指一本触れないから。

だから私を怖がらないで、ね？

切実な願いを込めて彼を見つめる。

セイブリアンはただ呆然としていた。

さっきとは違う種類の衝撃を受けたような表情で。

「私に心が砂糖の粒ほどにも・・・」

「はい！ありません！」

断固とした答えに、セイブリアンは俯く。

ようやく私の本心を分かってくれたようだ、ふう・・・。

彼は自分が間違っていたのか恥ずかしかったのか、顔を上げられずにいる。

ドンマイ！

そういうこともあるよね！

私はちゃんと理解しているから。

気持ちとしては背中でも叩いてあげたいけれど・・・、辛うじて堪えた。

「もうすぐ０時ですね」

日付が変わる直前、それを聞いてセイブリアンが席を立つ。

「・・・それでは失礼いたします。アビゲール、ゆっくりお休みください」

彼はふらつきながら部屋を出ていった。

幸いにも誤解は防げたようで、私は安堵のため息をつきながらベッドに仰向けになる。

ところで、お茶会が心配だ。

準備は、次女たちが手伝ってくれるから大丈夫だと思うけど・・・。

なるべく皆と親しくなりたい。

しばらく考えた後、すくっと起き上がる。

作業室として使っている小さな部屋。

ランタンを点けると、デザイン画が何枚か見える。

よし！

こうなったら、私が一番得意な分野で勝負してみよう。

ブランシュの新しい服を作って、そして・・・。

夏の終わりを告げるように、セミの声がちらほら聞こえてきた。

セイブリアンは窓越しにアビゲールの住む西館を眺める。

二人の令嬢が入っていく。

「アビゲールの方で別に問題はないのか？」

「はい、なんの音沙汰もありません」

ミラードの返事にもかかわらず、セイブリアンの表情は静かだった。

いつものように見えたが、ミラードは主人が苛立っていることに気づいている。

苛立ちの原因はカリン令嬢だろう。

主人の顔色を伺いながら、ミラードはそれとなく話しかけた。

「殿下が毎日王妃様の寝室にお越しになっているとお聞きしました」

その言葉にセイブリアンがようやく反応する。

「跡継ぎを作る気になったのですね」

また後継ぎの話か。

セイブリアンは不快な気持ちを示したが、素振りは見せない。

「そうだ」

あえてアビゲールと自分の間に話を話す必要はなかった。

誤解するならそれなりに利益があるのだから。

跡継ぎを作れとしつこい大臣たちも、最近はやや静かだ。

このままアビゲールと親密なふりをするのも悪くないだろう。

「それならば、王妃様と同室された方がいいのではないでしょうか？」

同室。

その言葉を聞くと、セイブリアンは胸を痛めたかのように固まってしまう。

その話をした時、彼女は全力で否定した。

アビゲールの一言一言が熱く燃え上がった火矢のようだった。

彼女がそこまで自分を嫌がるとは思っていなかったのだ。

いや、自分の言ったことを考えれば、当然のことなのだが・・・。

彼女に愛を与えられないと、私の体に手も触れるなと、死んだように過ごせと言ったのは、他ならぬ自分だったではないか。

今考えると後悔しかない。

もう少し有意義に言えば、今頃同室に・・・。

「で、殿下？」

セイブリアンは無意識に壁に頭をぶつけていた。

自分は今、一体何の空想をしているんだ！？

これではまるで、自分が同室を望んでいるようではないか。

ミラードはそれ以上何も言えず、少し沈黙が流れた後、ようやく彼は口を開いた。

「少し・・・、驚きました」

「何が？」

「殿下が少しずつ変わっていくのがです」

「私が・・・、変わった？」

「はい。感じませんか？」

ミラードが最も大きな変化を感じたのは、彼らが食事を共にしたときだった。

最初は目も合わせなかった主人が、ある瞬間から、アビゲールを、そしてブランシュを眺め始めたのだ。

今日のお茶会もそう。

普段なら、「アビゲールのことだから、彼女は何とかする」と言って、関心を絶っていたのに。

アビゲールへの眼差しに愛欲や恋心はなかったが、以前と違って温もりが感じられることを、当の本人であるセイブリアンは知らずにいた。

おそらく今もそうだろう。

あんなに苛ついて、同室の言葉を聞いて頭を打つ。

柊生見たことのない姿だ。

しかし、セイブリアンの表情は険悪だった。

「殿下、お入りになってもよろしいでしょうか？」

すると、ドアの外で侍従の声が。

その声にセイブリアンは表情を辛うじて和らげる。

「入りなさい」

許可が下りて入ってきた侍従は、縦に細長い箱を持っていた。

「それは？」

「王妃様から贈られた品物です」

アビゲールの名前が出た瞬間、彼の顔がパッと明るくなる。

まるで死にかけた人の口に生命水でも流し込んだかのよう。

セイブリアンは立ち上がり、箱を受け取った。

普通なら置いていけと命ずるはずなのに、彼は躊躇わずに箱を開ける。

そして、すぐに彼の顔に驚いた様子が見えた。