こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
133話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カッシュ・ロイドの子③
香炉を落札し、神殿へ戻る道の途中。
ついでに好きなイチゴムースケーキでも買おうかと、細い路地へ入ったところで――突然、目の前に影が立ちふさがった。
屈強そうな男たちが三人。
その視線は、私の手に抱えた箱……つまり、中に入っている“黄金の香炉”に釘づけだった。
「……どいてくれます?」
私がそう言っても、三人はピクリとも動かない。
すると、その後ろにいた男の、低く冷たい声が響く。
「――その箱、渡せば痛い目は見せねぇよ。」
顔は覆っていたけれど、さっき見たバリス商団の副団長だということはすぐわかった。
「あなたの身に手を出したり、ひどい目に遭わせるつもりはありませんよ。そんな真似をしたら、あのロイド様のような貴族が黙っていない。ここに姿を見せていないだけで、あなたに気づいていないとは限らないでしょう?」
その湿ったような目つきが、冗談じゃないのは一目でわかった。
「お腹に赤子がいる身ですし、血を見るような真似は好みません。私は人殺しを楽しむタイプではないので。」
いや、十分こわい。
妊婦相手に脅しをかけておいて “紳士的” を気取るなんて。
数秒、彼を見つめたあと——私は静かに口を開いた。
「――十万フラン。」
私がそう告げた瞬間、男たちの視線が一斉に凍りつき、怪訝そうに私を見つめた。
「十万フランでなら売ります。でも、タダでは無理ですよ。」
短い沈黙のあと、ボスらしき男が呆れたような、嘲るような息を吐く。
「……人々が見向きもしねぇ黄金の香炉に、そんな値をつけるとは思ってたが……ただのイカれた女か。」
「さっきから口ばっか長いおじさんですね。で、買うんですか?買わないんですか?」
その一言で、ボスの目に殺気が走った。
「貴様ぁ……!」
私は一歩も引かず、淡々と続けた。
「最初はね、あの肖像画が本命だと思ってたの。でも、本物は香炉のほうだった。あの肖像画は、あとで買い手を釣り上げるための“値段つけ”用。そして香炉に五千フランを入れたのは——香炉の価値を意図的に低く見せるためよ。」
同じアリクネの作品なのに、“良いほうの作品” が五千フランで落札されたなら、それより質の落ちる作品は当然もっと安くなる——誰でもそう考える。
「しかも、今日の参加者はバリス側の下位貴族ばかり。……最初から参加できる階級を絞ってるわね。」
競売に入れる人数には限りがある。
「ちゃんと鑑賞できる目を持った人間なんていない。みんな目くらまし用の駒ばかりじゃない。」
『聖女様、今回の競売は妙に……参加券がすべて売り切れでした。いとこを通して、なんとか手に入れました。』
ドウェインがいなかったら、私も参加券なんて手に入れられなかっただろう。
すべては今回の競売で、あの香炉を必ず手に入れるためのバリス側の計画だったのだ。
「東の国の王がアリクネの作品を買い集めているって聞きましたけど……これを安く落として、大きく儲けるつもりだったんですよね?」
これはキャスから聞いた話だ。
最近アリクネの作品の価値は上がり続けており、とくに初期の作品、その中でも アリクネが初めて黄金で作った香炉は他の作品とは比べものにならないほど価値が高いらしい。
「……お前、何者だ?」
バリスの副商団主が、私を値踏みするように細めた目でにらんだ。
“頭のネジが飛んだ女だ” と判断したらしい。
「散々『手に入れるのがどれほど大変だったか』と吹聴しておきながら、二十万フランで売るつもりだったんだって?十万フランで譲ると言われても断わるのに……。――やっぱり、あなたたちみたいなセコい連中には売れませんね。取引はナシです。」
にっこり微笑んで言い切ると、副商団主は顔色を変え、すぐ後ろの三人の部下に命じた。
「……女を殺せ。ただし香炉には傷ひとつ付けるな。」
どうやら私が“彼らの企みを把握している”と悟り、口封じをするつもりらしい。
三人の巨体の護衛が、ためらいなく私へ向かって歩み寄ってきた。
[慈愛の神オーマンは、あなたの胎教のやり方を褒めています。]
[知識の神ヘセドは、あなたが先ほどオーマンの本を取り出した理由をようやく理解したようです。]
「女王に服従せよ。」
男たちがひれ伏したのは一瞬だった。
[慈愛の神オーマンは、あなたの仮面がとても似合うと評価しています。]
「ひぃっ……なんだこれ!」
バリス商団の副団主は、さっきまで部下をにらんでいた目をゆっくりと私へ向けた。
まるで“化け物でも見た”みたいな視線だ。
私は持っていた杖の先を指でつまみ、にっこりと意味深な笑みを返してやった。
「ま、ま……魔族だ……!」
後ずさった彼は、そのまま尻もちをついてひっくり返り、こちらへ震える指を向けたまま歯の根も合わないほど震えていた。
「誰に向かって魔族なんて言ってるんですか?」
私は落ち着いた声で、まるで諭すように言い返した。
「この世で、私より“神聖な存在”がいると思います?」
――その瞬間、頭の中に静かに響く声。
【正義の神ヘトゥスが、あなたの言葉に同意しています。】
[破壊の神シエルが、嬉しそうに尻尾を振っています。]
[慈愛の神オーマンが、くすっと微笑みながらあなたを見つめています。]
少し前へ身体を乗り出し、彼に言った。
「これは、誰でも受け取っていい本じゃないですよ。」
[慈愛の神オーマンが本を抱きしめ、口元を持ち上げています。]
私の言葉に、負傷団主の顔色はさらに青ざめた。
「でも特別に、相場に合わせてあげますよ。」
「た、助けてください……。」
「さっきのあの仮面、あれをください。」
負傷団主の横には、仮面を持った手下が立っていた。
おそらく自分たちが競売に出して、自分たちで千五百フランで落札したあの仮面だ。
負傷団主は唇をぶるぶる震わせながら言った。
「は… でも仮面も原価が五百フランで……。」
チャキッ――
私は威圧的に刀をその横に打ちつけた。
【破壊の神シエルが身じろぎします。】
副団長は青ざめた顔で目をぎゅっとつむった。
「詐欺を働こうとしたなら、その程度の損は当然でしょう?」
結局、副団長は書類を差し出した。
私はにっこり笑い、最後の一言を告げた。
「女王に服従せよ。」
「太古の絵を……燃やしているんですね。」
壁炉の前に座っていた私のところへキャスが歩み寄り、まぶたをしばたかせながら私の肩をつかんだ。
壁炉の中では、先ほど受け取った仮面が勢いよく燃え上がっていた。
[芸術の神・モンドがあなたを祝福します。]
[正義の神・ヘトゥスは、満足したまなざしで燃えさかる絵を見守っています。]
「はい。どう見ても、社会に害を及ぼしそうな絵だったので。」
私の言葉に、キャスはほほえみを浮かべた。
「だから、バリスの負傷団主を躊躇なく撃ちのめしたわけですか。」
キャスの言葉に、私はぎくりとした。
「どうして知ってるのですか?」
「街で起こることを、私が知らないはずないでしょう。」
【知識の神ヘセドが肩をすくめます。】
とはいえ、ロイド商団の情報力は帝国一だ。
人間CCTVみたいな連中を何人も抱えている。
「つまんないですよ。せっかくプレゼントまで用意したのに。」
驚かせようと差し出そうとしていた黄金の香炉を、私は彼にぐいっと渡した。
それを受け取ったキャスは、少し驚いた表情で尋ねてきた。
「私にくださろうと思って買われたんですか?」
私が香炉を落札したのは知っていたが、それが自分への贈り物だとは気づいていなかったらしい。
「いつも私のために力を尽くしてくださるでしょう。うちの子のためにも、そうですし……。」
私は少しふくらんだお腹に手を当てながら彼を見つめた。
「だから今回は、私からの贈り物です。」
キャスの目が大きく見開かれた。
たかが一万フランの香炉なのに、彼は数千万フランの人生でも二度と得られないような贈り物でも受け取ったかのような表情で、しばらく私を見つめていた。
「……東の王国との取引をつなぐために努力しておられるの、知っています。きっと役に立ちますよ。」
私は言葉を添えた。
最近、彼が悩んでいることから少しでも解放されますようにと願いながら。
「…聖女様。」
キャスが口を開いたのは、かなり情がこもった声だった。
「聖女様と結婚できたのは…僕の人生で最高の幸運です。」
しばらくして、彼は私をぐっと抱き寄せた。
「あなたのためなら、命を懸けても惜しくありません。」
切実な愛の告白に、私は苦笑した。
「これから父親になるんだから、命を懸けるなんて軽々しく言わないでください。」
「やはり…そうですよね。これからは、守らなきゃいけない人がひとり増えたんですから。」
暖かな暖炉の熱が胸に染み込んだ。
そして、私を見つめる彼のまなざしにも、胸が熱くなるほどの温もりがあった。
私たちはしばらくの間、お互いを見つめ合い、目を合わせる。
そして、どちらからともなく唇を重ねた。
[慈愛の神・オーマンは、この上なく満ち足りた気持ちで微笑んでいます。]
[破壊の神・シエルは、もじゃもじゃの毛に覆われた小さな手で、そっと私の目を覆います。]
・
・
・
それから数か月が過ぎた。
私は私だけの胎教(お腹の子のための教育)をしながら日々を過ごし、キャスは私が欲しいと言えば、帝国にない物でも苦労して探してきてくれた。
毎晩のように私の足を揉んでくれ、臨月になると商団の一番腕のいい部下たちをつけてくれた。
そうして、ついに出産の時が近づいてきた。
【正義の神ヘトゥスが冷や汗をぽたぽた流します。】
【慈愛の神オーマンが落ち着きなく指をこすり合わせています。】
【知識の神ヘセドが目をくるくると回します。】
【破壊の神シエルがそわそわしています。】
【芸術の神モンドゥが足をばたばたさせています。】
「聖女様!もう少しだけ!」
目の前がくらむほどの女神たちの声が休む間もなく続いた。
陣痛が始まって六時間、私は死んでしまいそうな苦痛に耐えていた。
愛の神オディセイの祝福のおかげで、これでも陣痛は軽減されているというのだが……世の母親たちはどうやって子どもを何人も産むのか、不思議で仕方がない。
「うっ……!」
「聖女様!頑張ってください、赤ちゃんの頭が見えてきました!」
私は女神たちの声に従って、もう一度力を振り絞った。
[愛の神オディセイが、あなたに力を与えています。]
【知識の神ヘセドも一緒に力を貸します。】
【死の神カイロスが涙をぽろぽろこぼします。】
「うっ……」
奥歯を噛みしめ、うめき声が漏れた。
わ、ほんとにこのままカイロスに会いに行きそう……。
「出ます!出ますよ!」
意識がぐらぐらする中、体の奥から何かが抜け出る感覚がした。
そして、耳に届く泣き声。
「おぎゃああああ!!!」
生まれたばかりの赤ん坊の、力強い産声だった。
「聖女様!!」
「聖女様、おめでとうございます!!」
「元気な男の子です!!」
[知識の神・ヘセドが、こらえていた涙をこぼします。]
[芸術の神・モンドが、赤子を祝福します。]
[愛の神・オディセイが、赤子を祝福します。]
[正義の神・ヘトゥスが、赤子を祝福します。]
[運命の神・ベラトリクスが、赤子を祝福します。]
[破壊の神・シエルは、赤子を祝福しようと近づいてきましたが、思いとどまります。]
【死の神カイロスは涙を止めどなく流します。】
「おぎゃ!! おぎゃ!!」
神々の歓呼と祝福の中で生まれた赤ん坊は、力強く泣いていた。
デイジーの頬にも涙があふれ落ちていた。
女神たちが私に赤ん坊を抱かせてくれた。
【神々が互いに抱き合い、喜びではしゃいでいます。】
甥っ子や姪っ子が生まれても、伯母や叔父がここまで大騒ぎすることはないだろう。
神々の激しい祝福の反応は、すっかり体力を使い切っていた私にも笑みを浮かばせた。
私は赤ん坊を見つめた。
白い肌に、産毛のように少しだけ生えた髪。
そして、少し湿っているけれどしっかりした耳や鼻。
キャス・ロイドと私の赤ちゃんだ。
「聖女様!」
しばらくして、ドアが勢いよく開き、キャスが入ってきた。
出産の間は入れず、外でずっと待っていたらしい。
私の悲鳴をずっと聞いていたせいか、顔が真っ青になっていた。
「……アリエル……」
私に近づいてきた彼の目が赤くなっていた。
今にも涙がこぼれそうなその目に、私も思わず胸が熱くなった。
彼の視線は、私の腕の中の赤ん坊へと向かった。
言葉では言い表せないほど大切な存在を見つめるような、そんなまなざしだった。
「本当に、お疲れさまでした。」
彼が私を見る視線は、どこか涙ぐんでいるようだった。
その瞳から、私はキャスがきっと良い父親になると確信できた。
「私たちの赤ちゃんですよ。」
私がそう言うと、彼は私の手を握りしめ、口を開いた。
少し震える声が、彼の唇の隙間から漏れた。
「はい、私たちの赤ちゃん…私たちの宝物です。」
彼は私の額に何度もキスを落とした。
腕の中の赤ん坊がぴくりと動くと、胸の奥がじんわり温かく満たされていくのを感じた。
幸せって、きっとこういうものなんだ。
知らずに生きてきた人生の幸福を、一つひとつ知っていくその過程は祝福そのものだった。
目の前には、新たな人生の幕が広がっていた。
神々の会話が続いていた。
[知識の神・ヘセドが、そろそろ赤ん坊に名前をつける時だと言います。]
[慈愛の神・オーマンは、“世界を揺り動かす者”という意味の■■はどうかと言います。]
[正義の神・ヘトゥスは、オーマンのネーミングセンスがひどいと批判します。]
[破壊の神・シエルは、自分は良い名前を知っていると言います。]
[芸術の神・モンドは、シエルの知っている名前なんて犬の名前くらいだと馬鹿にします。]
[死の神・カイロスは、亡者たちの名前リストをめくります。]
[愛の神・オディセイは、その後ろで「それ役に立つの?」という顔をしています。]
【運命の神ベルラトリクスは “新しい愛の始まり” という意味の名前を提案します。】
神々はどんな名前をつけてくれるのだろう。
比べようもないほどの安らぎと幸福感に包まれながら、私は微笑んだ。
〈特別外伝 1 終わり〉






