こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

177話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失④
「メルドン、お前は一体何をしている?」
ダリアは思わず息を飲んだ。
その迫力に圧倒されたが、メルドンはまるで平然とした様子で笑みを浮かべ、冷静に応じた。
「『何か仕掛ける』と言ったのはあなたでしょう?それなのに、私がこの方と何をしようと、どんな関係があるのです?」
思いがけないメルドンの言葉に、セドリックは言葉を失う。
口を開けかけたものの、しばらくメルドンを見つめるだけだった。
メルドンは微笑みながら軽く肩をすくめ、一歩後退した。
「では、私は用事がありますので。お二人で楽しくお話しください。」
『ちょ、ちょっと待って!』
ダリアが止める間もなく、メルドンは素早くバルコニーを出て、丁寧に扉を閉めて消えていった。
『ダメよ、これはおかしいわ!』
ダリアは今にも泣き出しそうな気持ちでセドリックを見上げた。
気まずい。
本当に。ついさっきまで彼とは何も話せなかったのに、今は……ただ息が詰まるばかり。
セドリックは依然として感情の読めない無表情な目で彼女を見下ろしていた。
しばらくして、彼は静かに口を開いた。
「……すみません。私が失礼をしました。」
突然の謝罪だった。
ダリアは再び心臓が大きく高鳴るのを感じた。
ダリアは視線を下げ、軽く首を振った。
「いいえ。」
「……。」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫です。気を張る必要はありません。」
「私があなたに対して何か悪いことをしましたか?」
『え、え、あなた?』
ダリアは再びめまいを感じた。
朝までは普通に会話をしていたのに、今やまるで他人行儀になってしまったことが信じられなかった。
彼女は混乱した気持ちで小さく呟いた。
「悪いことなんてありませんよ。人は生きていれば、ええ、記憶だって少しは失うこともありますし……。」
「生きていれば?」
セドリックは少し戸惑った様子で言葉を繰り返した。
ダリアは慌てて訂正しようとした。
「あ、いや、その……。」
すると、セドリックが初めて笑った。
その懐かしい微笑みに、ダリアの心はふっと軽くなった。
『ああ、私ったら馬鹿みたい。』
ダリアは唇をぎゅっと結んだ。
それでも、言わなければならなかった。
「えっと、気を遣わずに話してください。」
「……ああ、そうするよ。」
セドリックは穏やかに答えた。
そして、再び時間が流れた。
ダリアは、彼と話すべき本来の目的を思い出した。
『もしかしたら、手を握ればセドリック様の記憶が戻るかもしれない。』
医者はその可能性は低いと言っていた。
しかし、わずかな望みでも彼女はすがりたかった。
セドリックはずっとダリアをじっと見つめていた。
その視線が何を意味するのか、彼女には分からなかった。
セドリックの言葉通りなら、彼が記憶を取り戻すまでは二人の関係は何でもないはずなのに。
「……セドリック様。」
「うん、話して。」
かつての親しげな呼び方に、セドリックは特に動揺する様子もなかった。
ダリアは少し安心した。
少なくとも、これすら拒まれてしまったら、あまりにも悲しかったから。
「私……特別な力があるんです。超越者の魂を安定させる力なんです。」
「うん、父上から聞いているよ。」
「それで、もしかしたら私がセドリック様に触れれば……再びセドリック様の記憶が戻るかもしれません。それを試してみても……大丈夫でしょうか?」
言葉を続けるうちに、自信がなくなり、つい視線を落としながら何度も裾をつまんだ。
今のセドリックは、記憶を取り戻そうとする気すらないように見えた。
「いいよ。そうしよう。」
ところが、セドリックは思いがけずあっさりと承諾した。
ダリアは驚いて顔を上げた。
目が再び合うと、彼の体がわずかに動いた。
ダリアは彼の気持ちが変わる前にと、素早く彼の手を握った。
セドリックは、なぜか切なそうに握られた自分の手と、ダリア・フェステローズを見つめた。
手をつながれた瞬間、妙な感覚がこみ上げたが、それが何なのか言葉にするのは難しかった。
『なぜ、俺は怒っていたんだ?』
メルドンの言ったことは正しかった。
彼自身が「これは何でもないことだ」と言ったのではなかったか?
それなのに、何も感じないふりをするのがこんなに難しいとは。
メルドンがダリアへと体を寄せた瞬間、セドリックの頭の中が真っ白になった。
本当に自分はこの人を愛していたのか?
それなら、むしろ今すぐ彼女に許しを請い、もう一度関係を築くべきではないのか?
『それなら、メルドンはどうする?』
目の前の女性を責めるつもりはなかった。
自分が「なかったことにする」と決めたのだから。
それでも、そう考えている間にも、彼女の手から少しずつ力が伝わってくるのを感じた。
セドリックは思わず眉をひそめた。
頭の中で絡み合っていた灰色の霧のようなものが、一瞬にして洗い流されていく感覚があった。
超越者として生きてきた間ずっと背負っていた重さが、まるで清らかな川の流れのように解き放たれていく。
まるで、深い夢の中でさえ感じたことのない、純粋な力だった。
それは、どこか病みつきになるほど心地よかった。
なぜ父が彼女をあれほど大切にしていたのか、ようやく理解できた。
そして、自分自身も、もしかすると……。
・
・
・
ダリアは手を離した。彼は、名残惜しそうにその手を見つめた。
記憶は戻らなかった。
セドリックが手を放した瞬間、ダリアの瞳にわずかな失望が浮かんだ。
彼は自分の手を見つめたあと、再びダリアを見つめた。
「……そうか。」
「……何が……?」
「俺は、この力のせいでお前を愛していたんだな。」
ダリアは突然、静まり返った。
息をのむほどに。
セドリックは彼女を見つめた。
彼女の青い瞳は、衝撃で凍りつき、戸惑いに揺れていた。
誰が見ても、傷ついた表情だ。
『……どうして?』
彼は自分が発した言葉を反芻した。
しかし、どこが間違っていたのか、はっきりとは分からなかった。
ダリアは唇を噛みしめ、血が滲むほど強く結んだ。
その姿を見ていると、彼女の揺れる瞳から涙がぽろりと落ちた。
彼女は、まるでセドリックを哀れむように見つめた。
セドリックは、ただ無意識に彼女から目を逸らした。
「……そうですね。そうでした。」
「……ダリア?」
「もう他人です。私に構わないでください。」
ダリアはくるりと背を向け、強い足取りでバルコニーの扉へと歩いて行った。
『最悪だ。』
彼には、まだ彼女に聞きたいことが山ほどあった。
しかし、分かっていた。
彼女がこの場を去った瞬間、ヒーカンやメルドンといった彼女の味方に囲まれ、自分が近づくことさえ許されなくなることを。
焦燥感が募る。彼はバルコニーの扉を押し開け、彼女の後を追った。
そして急いで周囲に透明の魔法をかけた。
「何をするの!」
ダリアは、自分の周りに漂う魔力を感じたのか、驚いたように叫び、慌てて手を振り払った。
幸い、魔力の流れが乱れたことで、魔法はすぐに解除された。
彼は、焦る気持ちのまま、ジャケットを脱いで彼女の頭上にかける。
ダリアは驚いて振り返り、表情がさらに険しくなった。
「……今、何をしているんですか?」
「……ダリア・フェステロース。」
「はい、私です。だから、ついてこないでって言ったじゃないですか。」
彼女は涙で濡れた顔を隠そうと、素早くハンカチで拭った。
しかし、話しながらも足を止めることなく、速い足取りで立ち去ったため、彼らは邪魔されることなく舞踏会場を抜け出すことができた。
やがて、夜の帳が下りた庭園が現れた。
セドリックは、自分がなぜ彼女を追ってきたのか分からないまま、それでもなお怒りを抱えたまま、彼の元恋人を見つめた。
彼女はもう泣いていなかったが、それでも胸の内に押し寄せる感情の波はまだ荒々しく揺れているようだった。
「……どうして怒っているんだ?」
「怒ってません。」
「怒ってるじゃないか。」
「………。」
「俺が何か悪いことを言ったのか?」
ダリアは顎を引いた。
彼女は涙に濡れ、力なく震えるまつげを伏せた。
そのまつげは、彼女の髪と同じように灰色がかっていた。
それを見た彼は、少し奇妙な気持ちになった。
胸の奥に、何かが詰まって痛むような感覚だった。
「俺は、失礼なことは言っていない。」
しかし、思ったよりも言葉は冷たく吐き出された。
考えてみれば、自分はすぐに皇太子となり、やがて皇帝になる身だ。
どれだけ彼女が四大公爵家の娘とはいえ、彼を名で呼び、怒りをぶつけるなど本来許されることではない。
だが——
この顔を見ていると、そんな理屈は何の意味も持たなくなってしまうのが問題だった。
彼の言葉に、ダリアの目に再び涙が溢れた。
セドリックは考えるよりも先に、無意識のうちに彼女の頬を拭っていた。
しかし、その行為に自分で驚き、動揺した。
ダリアは、彼の手を押しのけながら、低い声で言った。
「……そうですね。セドリック様の言葉が間違っているとは思いません。でも、何の関係もない間柄なのに、こんなことはしないでください。」
「……」
「私の能力が必要でしたら、別にお呼びください。週に一度くらいなら、お手伝いできますから。」
力の抜けた声を聞いて、彼はなぜか謝罪しなければならないような気がした。
ダリアが目をこすりながら、不満げに呟くのを聞いて、さらにそう思った。
「セドリック様のことが憎いです。本当に記憶が戻らなかったらどうするんですか?」
「……」
「それなら、本当に別の人と結婚してしまいますよ。」
その言葉に、セドリックは心がどさりと沈むような感覚を覚えた。
思わずダリアを引き止めようとしたが、彼女は一歩下がり、彼の手をさっと振り払った。
「ダリア・フェステロース、お前……」
その時、誰かが突然現れ、ダリアを背後にかばった。
低く唸るような声で、その人物は言った。
「皇太子殿下。」
セドリックは目の前の人物を確認すると、無意識に奥歯を噛み締めた。
「……ああ、くそっ。ヒーカンか。」
ヒーカンは氷のように冷たい視線で彼を見下ろし、きっぱりと言った。
「申し訳ありませんが、私の妹を迎えに来ました。」
一見、内容だけを見れば普通の言葉だったが、その声色は決して穏やかではなかった。
皇太子の前で口にするには、あまりにも露骨で不遜な態度だった。
「二人はもう、何の関係もないはずです。」
「……」
「もし、私の妹を皇太子殿下が無断で引き止めているのなら、正式に宮廷へ抗議を申し立てます。」
「はっ。」
セドリックは乾いた笑いを漏らした。
「妹だから」と言われれば、戦争中でも特別扱いをするつもりか――まったく呆れる。
それよりも、彼自身が反論する言葉を見つけられないことが、余計に腹立たしかった。
「行こう、ダリア。」
ヒーカンの視線に引かれるように、ダリアは迷いなく彼のもとへ向かった。
彼はまるで自分の縄張りにダリアを囲うようにして、そこから動こうとはしなかった。







