こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

186話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カミーラ⑩
カミーラは告白を受けたあの日、寝室から逃げ出した後、意外にもラルクを避けることはなかった。
そもそもここは彼の家で、避けるにも限界があった。
とはいえ、ラルクが居ると決して気楽ではなかった。
カミーラは彼がいると身体が落ち着かず、頬が熱くなるのを感じた。
「……なんでそんなふうに見てるの?」
たまらずラルクを本の向こうからじっと見て尋ねると、彼はあっけらかんと答えた。
「知らないから聞いてるの?」
「……」
言葉が出なかった。
ラルクは先ほどからじっとカミーラを見つめていたが、今や手に持っていたペンまで置いて言葉を続けた。
「言ってくれない?」
カミーラは慌てて声を荒げて叫んだ。
「違う!違うの!」
「好きだから見たんだ。」
「はっ、見るなって言ったでしょ!」
カミーラは、どうしてあんなに顔色一つ変えず恥ずかしいことを平然と言えるのかと呆れた表情で耳をふさいだ。
あの人間が自分を好きだという事実は、いまだに信じられなかった。
ラルクはカミーラが座っているソファの方に寄ってきて、耳をふさいでいた手を引き剥がして、はっきりと言った。
「す、き、で、み、た、ん、だ。」
カミーラは「きゃーっ!やめて!」と叫んで暴れた。
「あなた、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくないって言ったじゃん?」
ラルクはそのまま彼女の手を自分の胸に寄せる。
心臓がドキドキ、まるで狂ったように跳ねているのがやけに感じられた。
「……!」
カミーラは火傷をしたように凍えた手を引っ込めた。
『はぁ、最近の若い子は……!』
彼女は年寄りじみた考えを抱きながら、開いていた本に顔をうずめた。
真っ赤になった耳が銀髪の間からちらりと見えると、ラルクの目がとろりと潤んだ。
耳を噛んでこまかくしゃぶってみたかった。
だが、カミーラが驚くだろうと思ったので、彼は百歩譲って指先で耳をとんとんとつつくだけにした。
それだけでも十分にカミーラは驚いていた。
「な、なにやってるのよ?」
「お前の耳、赤くなってて可愛いな。」
「……。」
お願いだから、もうからかわないで……。
ラルクは彼女の隣にどっかりと座り込んだ。
カミーラは2人掛けのソファに両足を上げて肘掛け側に寄りかかっていたが、ラルクがその隣にぴったり座ると、彼の体が彼女の足に触れた。
「……あっち行って。」
カミーラは足でラルクの腰を押しやったが、ラルクはその足首をしっかり掴んだ。
「これは俺のソファだ。」
そう言う低く艶のある声がとても耳に残った。
『丁寧に。』
カミーラは唇をとがらせて言った。
「あなたの財産、全部私にくれるんじゃなかったの?」
ラルクが「うん」と言って、顎をうなずかせた。
「もちろんさ。夫婦は一心同体だからね。」
カミーラは「ふ、夫婦、夫夫、夫婦だなんて!」と叫び、自分がどれほど動揺しているかを痛感した。
ラルクは片方の口角だけを上げて笑いながら付け加えた。
「そんな気持ちで、君にすべてを捧げたいって言ったんだけど。気づかなかった?」
カミーラは真剣に彼を叱った。
「ふ、恥ずかしいとも思わずに、そんなことばっかり言わないでよ!」
「恥ずかしいって言っただろ。」
ラルクは体を彼女の方にぐっと傾け、背もたれに腕をかけた。
彼の大きな体が迫ってきて、今にもカミーラを包み込むかのようだった。
「もう一回確認してみる?」
「い、いいです……。」
カミーラは彼の圧倒的な気配に押され、思わず身を縮めながら視線をそらしてしまった。
ラルクは少し笑みを浮かべて、彼女の鼻を軽くつついた。
「そんなにぎこちなくなるなら、最初から逃げればいいのに。何しにわざわざ俺を探しに来るんだ?」
カミーラはそわそわと目を泳がせた後、自分で言い訳してきた内容を口にしようとした。
「それは、いつまでも避けられない労力じゃない?お互いを知るための時間も必要だし……」
ラルクの目が細められた。
「じゃあ、嫌いじゃないってことだね?」
「………」
カミーラは沈黙で肯定した。
もちろん嫌いではなかった。
この場所に来てから一度たりともラルクを嫌いだと思ったことはなかった。
彼と一緒にいると楽しかった。
今では安心感さえ感じていた。
カミーラはどうしようもなくかすれた声でつぶやいた。
「私は幼い頃から休まず魔法を使ってきた。」
全身に青いスパークが飛び散るほど無理やり強大な魔法を何度も、また何度も繰り返し使ってきた。
脳と鼻の奥で熱く燃え上がる感覚に、流れる血が警告していた。
このままだと自分は確実に死ぬ、と。
だが誰もそんなことには興味を持たなかった。
カミーラはブラディーナを強くしてくれるような存在ではなかった。
100%の人間。ただの伝説に出てくる大魔法使いのような存在だった。
『自分に適度な力があったなら、あそこまで無理をすることはなかったのに。』
「私の肉体はそう長く持たない。」
カミーラは心が痛んだ。
しっかりと愛するようになったこの男があまりにも無防備で、胸が締めつけられるようだった。
ラルクはじっと聞いていたが、そっとコップをつまんだ。
「つまり、全ての魅力が裏目に出たってことか。」
カミーラは寂しげに微笑んだ。
ふと、末の弟エルキンのことが思い出された。
あの優しい子は自分に劣らず驚くべき才能を持っていた。
だが、カミーラの才能があまりに圧倒的だったため、彼は狩猟犬のように扱われる代わりに、家の後継者として安全に育てられていた。
エルキンはその事実に罪悪感を抱いていた。
以後、家にはほとんど帰らなかった。
帰ってきたときは、魔力の暴走で全身の魔力が枯渇し、回復が必要なときだけ。
魔力暴走によって傷ついた肉体は、まるで刃物で裂かれたかのように、切り傷と変わりなかった。
エルキンは姉を救う方法をひたすら探し続けた。
『死なないで、姉さん……お願い、死んじゃだめ……!』
虚空を見つめて涙ぐんでいたカミーラの頬に落ちた温かい涙は、まだ鮮やかだった。
エルキンが魔法使いの医師になった理由は、いつも魔力の暴走にさらされるカミーラのためだった。
ラルクが言った。
「もし俺がそれを解決できるなら、どうする?」
突然の言葉にカミーラは目を見開いた。
エルキンですら見つけられなかった解決策を、どうしてこの男が持っているというのだろう?
ラルクは本当に彼女を助けることができたが、これまでそうしなかった理由があった。
「その代わり、これからも君とキスを続けないといけない。定期的にずっとね。」
呼吸を通じてラルクが持つ権能を彼女の肉体に染み込ませようという考えだった。
『そうすればいつかこの女が私の能力をコピーすることも可能になるだろう。』
コピーキャットの魔法ではラルクの能力を複製することはできなかった。
理由は簡単だ。
ラルクの能力が純粋な魔法ではなかったから。
彼の能力は外神『アザトス』の権能から派生したもの。
その権能がカミーラの肉体に染み込み、血液のように根づいたとしたら、彼女は現存する人類の中で唯一、彼の能力をコピーできる「コピーキャット」になりうる。
『それもこの女の能力に非常識な部分があるからこそ可能なんだ。』
ラルクはカミーラが一般的なコピーキャット魔法使いとは違うことをすでに理解していた。
人間という存在は本当に特別だ。
こういう形で干渉が確信に変わるとは——人間でもない存在が驚くべき能力を持つこともある。
だがそれは人間だからこそ可能なことだった。
彼にとってはまったく関係のないことだった……。
「どうする?」
ラルクはどこか薄暗い目つきをしながら、指先でカミーラの唇をそっとなぞった。
「俺はいつでも構わないけど。」
カミーラは呆然とした表情をしていたが、突然顔が真っ赤になり、まるで何かが爆発したように赤く染まった。
「こ、こ……!ば、ばか、何を考えてるのよ……!」
ラルクは少し呆れたような顔で溜息をついた。
「命の恩人になる相手に向かってそんなこと言うのか。それに、その“ばか”なことを考えてるのは俺じゃなくて君のほうじゃない?」
カミーラはどうしていいかわからず、本で顔を隠した。
「なにしてるの?」
ラルクが眉を上げて本を取ろうとしたが、カミーラが指一本一本に力を入れてしっかりと本を握っていたため、引き下ろすことができなかった。
正直、力を入れれば引っ張れたが、この女の反応が可愛らしくて面白かったので、もっとからかいたくなった。
「顔を隠してたら、どうやってキスするんだ?」
彼が冗談っぽく言ったのを聞いて、カミーラはさらに強く本を抱きしめた。
「そ……それはほんの少しだけ……!」
彼女がか細く口ごもりながら言うのを聞いて、ラルクは笑いながら聞こえないふりをした。
「なんだって?」
「と、とにかく、あとで……。」
「なんて言ったのかよく聞こえないな。」
カミーラはイライラして本をパタンと閉じた。
するとすぐ目の前でニヤニヤ笑うラルクの顔が見えた。
からかっていたのだ。
「もーっ、聞こえてたくせに!」
彼女が怒ると、ラルクはくくっと笑った。
「それに引っかかるなんて、お人好しだな。」
「どいて、どいて。出かけるから。」
カミーラはむっとした顔でラルクを押しのけ、床に無造作に脱ぎ捨てていたスリッパを履いた。
「バカか、お前、どこ行くんだ?」
そのからかいに、カミーラは目を細めながらしょんぼりした。
「私はバカだから、そんなのわかんない。」
「まったく。」
ラルクが本気で気の毒そうな顔をするのが、どういうわけか悔しかった……。
カミーラがしくしくしながら本当に出ていこうとすると、ラルクが彼女をそっと引き止めた。
「俺が悪かった。行かないで。」
笑いを含んだ声がどういうわけか、瞬間的に部屋の温度が上がったような錯覚を与えた。
ラルクはカミーラの手を握ったまま、軽く振った。
まるで子どもをあやすような仕草で。
「ごめん。うん?」
カミーラはまた胸がチクリと痛むように感じた。
これってただ異性が近くにいるから緊張してるだけ?
それとも……この人を本当に好きってこと?
カミーラはぼんやりと席に座り直した。
彼女は自分の気持ちに確信が持てなかった。
もう余命が少ないという事実が、心のどこかで彼女の本心を押し殺しているのかもしれない。
カミーラは決意した目でラルクを見つめた。
もう迷わない。
今までこんなに悩んでモヤモヤしていたのも、正直バカみたいな話だ。
『人生は勢いが大事!』
彼女はラルクの上にまたがった。
おかげでラルクは混乱した。
「いきなり何だよ?」
「やろう。」
一瞬ラルクは幻聴かと思った。
「……なんだって?」
「やろうってば。」
「な、なに……?」
「あなたと口を合わせるって言ったじゃない?」
「……あ……」
ラルクはため息をついて、そっと額を押さえた。
耳はまた真っ赤に染まっていた。
カミーラは彼の理解できない反応を見て不安になった。
「気が変わったんじゃないよね?男って口だけじゃないよね!?」
激情に駆られたカミーラは、ラルクの服を勢いよく引っ張った。
彼が着ていた服はガウンに似たシンプルなデザインで、すぐに胸元が大きく開いてしまった。
「あっ、そ、そんなつもりじゃ……!ご、ごめん!」
カミーラは慌てた表情に変わりながらも、無意識に彼の胸元に目を落とした。
角ばった筋肉質な完璧な肉体が、彼女の視線をぐっと引きつける。
彼女は焦りながらも急いで服を直した。
ラルクは少し呆然としながらも、次第に彼女をしっかり見つめた。
この女性がわざとこうしているのではないかとすら思ってしまった。
カミーラは彼の胸元をもう一度きちんと整えてから、本題に進むためにゆっくりと腰を動かした。
向かい合った瞳が微かに震えた。
呼吸が少し速くなった。
本当にキスする直前のような甘い緊張感が全身を駆け抜けた。
カミーラがぎこちなく言った。
「は、する……!」
「……。」
本当に雰囲気を台無しにする言葉だった。
ラルクはどこか気が抜けた顔で小さくため息をつき、とりあえず「こっちを見て」と言おうとした。
そのとき、カミーラの唇が彼の唇の上にそっと重なった。
ラルクはそのまま抱きしめた。
カミーラは目をしっかり閉じたまま唇を重ねているだけで、それ以上の動きはなかった。
ラルクは心臓がドキドキしていると感じた。
あるいは熱くなっているのかもしれなかった。
彼はそっと重なった唇を優しく開いた。
そして背中をもたれていた彼女を起こし、二人の体が軽く触れ合った。
ラルクは息を混ぜながら空中を彷徨うように動き、震えるカミーラの手を取り自分の首に置かせた。
そして彼女を腰の上に抱き上げた。
彼の力が潤滑剤のようにカミーラの全身に染み込んでいった。
まだ乾いた砂漠に水をまくようなわずかな反応しかなかった。
カミーラはぎゅっと閉じていた目をそっと開けた。
「……!」
まるで自分を食べてしまいそうな勢いで迫ってくるラルクと目が合った。
彼の瞳が一瞬で熱を帯びた。
カミーラは一度離れた唇で深く息をついた後、またすぐに彼の唇を奪った。
湿った舌がぬるりと音を立てるその音が耳元をくすぐった。
夢中で抱きしめる腕が彼女の緑のドレスをくしゃっとさせた。
2人掛けのソファが狭かった。
ラルクは唇を重ねたまま彼女を軽く抱き上げ、場所を移した。
ワァン!
机の上に置いてあったものを乱暴に床へ落とした。
ラルクはカミーラをその上に座らせ、再び夢中でキスを交わした。
息が切れた。
唇のわずかな触れ合いにまで意識が鋭敏になった。
カミーラもまた、彼と同じような欲望を感じたのか、抱き寄せるその腕に強い力がこもるのを感じた。
少しの隙間も許さないかのような切迫した動きだった。
力を注ぐのは終わった。
すでに彼女の全身はラルクの能力で満たされ、もう隙間はなかった。
しかしキスは終わらなかった。
お互いの愛情が深まっていく。
まるで本能的に終わりを知っているかのように、二人は完全に夢中になった。
カミーラはようやく認めた。
自分が恥ずかしくて震えていたのは、ラルクが好きだったからだ。
この男が好きだった。
残りの人生すべてを注ぎ込んでも惜しくないほど、どれだけ生きようとも、この人のために生きたいとさえ思うほどに好きだった。
『私はこの人のために生きる。』
一連のキスが終わった。
二人は似たような表情で見つめ合っていた。
上気した頬、荒い呼吸で開いた唇、そして相手を見つめる鋭い目。
まるで心がつながったかのような、完璧に重なり合った瞬間だった。
ラルクはわずかに震える手でカミーラの頬をなでた。
この女性は自分がどんな存在か、想像すらしていないだろう。
「ごめん。」
自分が怪物だという事実を隠し、この女性を欺いた。
この愛しく、優しい女性は、何も知らずに信じてくれた。
「ごめん、カミーラ。」
10年以内にこの崩壊を止める方法は見つかるのか?救いはあるのか?方法は?
『不可能だ。』
ならば、永遠に二十歳のままでいられるのはどうだろう?
この女性が自らエセルレッドに足を踏み入れた瞬間、永遠に若返る。
それなら自分も永遠にこの女性を愛し続けられる。
方法を見つけなければならなかった。
再び肉体に意識を集中し、若返りの術を巧妙に操る必要があった。
カミーラがラルクの唇をそっと奪った。
彼は知らず知らずのうちに涙をこぼしていた。
カミーラは自分が泣いているわけではないのに苦しそうな表情を浮かべていた。
『自分でも何を考えているのかわからないまま、見つめてる……』
そのとき、カミーラが言った。
「好き。」
あ。
「好きよ、ラルク。」
心臓に矢が刺さったような衝撃だった。
今の言葉は確信じゃないか。
ラルクは震える手で彼女を抱きしめた。
『見つけ出さなきゃ。』
この女性を失わない方法を見つけ出さなきゃならない。
何としてでも、たとえ数千回生まれ変わってでも、彼女を取り戻さなければ。
ドン!
ラルクは目を見開いた。
何かおかしな音が聞こえたのだ。
『雷か?いや、家の中で鳴る音じゃない。もっとこう、切実な……』
「お嬢様、ここはどうでしょうか?」
今回は声だった。
声が続いた。
「うん、ここがいいわ。」
冷たく上品な声だ。
一度も聞いたことのない知らない声にラルクの目が少しずつ大きくなった。
いや、違う。
この声は知っている。
この声は……。
「お父さん、寝室にいるの?」
「ナビア。」
娘の名前を口にした瞬間、世界がすべてを包み込むかのように感覚が一気に鈍くなった。
彼はまだ混乱していた。
ナビア?それは何だ?これは一体どういう現象なんだ?
これは……?
異常現象はそれで終わりではなかった。
空間が崩れ落ちていた。
「これは一体……!」
白く崩れていく空間は跡形もなく消え去っていった。
だんだんと彼とカミーラがいる空間までもが狭まりつつあった。
ラルクはその時ようやく気がついた。
夢から目覚めつつあるのだと。
『ダメだ。』
彼は切迫した表情でカミーラを見つめた。
まだだ、まだ夢から覚めたくない。
永遠に覚めたくない。
ところがカミーラは不思議な表情を浮かべていた。
まるですべてを知っているかのように、やさしく微笑んでいた。
「ラルク。」
彼女がラルクの頬や髪を優しくなでた。
「お疲れさま」と言うだけで胸がいっぱいになった。
「いや。言わないで。」
彼女の口から続く言葉が怖かった。
今度こそ「さよなら」と言われるのではないかと恐れた。
カミーラの瞳は、そんな目は初めてだった。
しっかりと見つめて、どんな嵐にも決して揺るがないであろう、強く美しい瞳だった。
「私はこの人生でも、来世でもあなたを愛する。」
「カミーラ、お願いだから……」
僕に最後の言葉のように言わないで。
「私たちの娘をよろしく頼むわ。」
ラルクは顎を振るわせた。
「ここにいて。お願いだから行かないで。君なしでは生きていけない……。」
涙が頬を静かに濡らしながら流れ落ちた。
「これまでよくやってきたわ。ずっと、本当によく頑張ってきたわ。私が申し訳ないくらいに……。」
「君が謝ることじゃない。僕のせいだ。全部、僕のせいだよ。」
カミーラが子どものように謝りながら泣くラルクを強く抱きしめた。
「愛してる。」
ラルクは彼女の額に額を寄せ、口を開いた。
「僕も……君を愛してる。」
さっきまでなかった青いダイヤモンドがはめ込まれた結婚指輪が左手の薬指に現れた。
それはカミーラも同じだった。
ラルクはようやくこれがただの夢ではないことに気づいた。
これはカミーラが指輪に呪文を込めておいた結果だった。
しかし今目の前にいるこの女性は、自分があまりにも恋しくて作り出した幻想なんかではなかった。
本当に、カミーラだった。
彼女が笑いながら言った。
「私と結婚してくれてありがとう。」
「僕の方こそ、僕みたいな人を愛してくれてありがとう。」
「あなたは最高の夫なのに、どうしてそんなこと言うの?」
カミーラがくすっと笑った。
あまりにも懐かしかった。
「それでもこうして最後のあいさつができて、幸運だったわ。」
少しずつ彼女の姿がかすんでいった。
終わりが近づいていた。
彼らはしっかりと手を握り、切なげに見つめ合った。
この時間があまりにも大切で、あまりにも尊くて胸が締め付けられた。
押し寄せるような悲しみと喪失感に包まれた。
彼女はラルクの唇にそっとキスをした。
「さようなら。」
そして、夢から覚めた。
「……」
ラルクはまぶたを持ち上げた。
すると、たまっていた涙がこぼれ落ちた。
天井が再び白く変わっていた。
現実に戻ったのだ。
ラルクはしばらく手で目を覆った。
熱く込み上げる涙で目が潤んだ。
夢がもう少し長かったらよかったのに。
もっと、もう少し彼女の姿を見ていたかった。
でも夢はいつか覚めなければならない。
永遠に見ることはできないのだ。
彼は次第に気持ちを落ち着けながら指輪を見た。
「ありがとう。」
久しぶりにあなたに会えて幸せだった。
その時、周りがまだ騒がしいのを感じた。
ラルクはいつの間にか涙をすべて拭き取り、何事もなかったかのような表情で寝室を出た。
ナビアをはじめとした使用人たちが壁に何かを設置していた。
「みんな、なにしてるの?」
その声にナビアがぱっと振り返った。
彼と彼の妻に似た、誰よりも美しく愛らしい娘が、にこっと笑って駆け寄ってきた。
「パパ!」
思えば、カミーラと出会った当時には、自分がこんな喜びを味わうことになるとは思ってもみなかった。
『俺に娘がいるなんて……』
ラルクは腕に抱きかかえた娘をぎゅっと抱きしめた。
まるで嘘のように感じていた心の空白が、じんわりと埋まっていった。
カミーラのことを思い出すと、今はまだ心から幸せになりたいと思えないのに、それでも幸福は、まるで陽だまりのようにそっと彼を包んだ。
娘を見て笑わずにいられなかった。
幸せを感じずにはいられなかった。
「なにしてるの、そんなに大きな声で?」
彼はふざけて笑いながらナビアの頬をつついた。
こういうとき、普段は冷静で聡明に見える娘の顔がまるで子供みたいになってとても可愛かった。
ナビアは彼がこれ以上しつこくしないように頬を押さえながら言った。
「見てください。」
ラルクの視線が壁にかかった額縁に向かった。
大きな額縁の正体は家族の肖像画だった。
その中にはラルクとナビアはもちろん、カミーラの姿まで一緒に描かれていた。
「どうですか?」
ラルクは無言で額縁の前に歩み寄った。
夢で見た姿が絵の中に収められていた。
「……きれいだね。」
家臣たちは穏やかな微笑みを浮かべた。
ナビアもとても嬉しそうな顔でラルクの隣に立った。
「こうして見ると、やっぱり私、お母さんにすごく似てると思います。」
ラルクはふっと笑った。
「いや、お前は俺に似てるよ。」
その声は自信に満ちていた。
長い間夢にしか出てこなかったカミーラのことを思い出すと、やはり少し切なかった。
『カミーラは本当におバカさんだな』
娘が賢いのは完全に自分のおかげだと思った。
ラルクは少し寂しげに笑いながら、写真の中のカミーラに話しかけた。
「君も、同意してるよね?」
ナビアは彼とカミーラの写真を交互に見ながら固まった。
「お父さん、照れくさいですね……。」
絵の中のカミーラは、なぜか娘の言葉に同意するかのような微笑みを浮かべていた。







