家族ごっこはもうやめます【１８９話】ネタバレ

パッ！

子どもを強く押しのけ、不安定な怒りをぶつけた。

「お前、何なんだ？誰が送り込んだ？万神殿か？俺を引っ張り込んでそこに連れて行こうってのか？ 答えろ！」

ナビアは袖で涙に濡れた目をぬぐった。

赤くなった目が痛々しくて、ラルクはますます野獣のように怒鳴った。

「俺を連れて行って遊びたいなら、くだらない芝居なんてやめてさっさと連れて行け、このくそったれが！」

ナビアは涙をためたまま、不安げな表情で怒鳴るラルクをじっと見つめていた。

ようやく状況が少しだけ分かってきた気がした。

「今のラルクさんは、魂に侵食されて自らの家に閉じ込められる直前ってことですよね？」

「……何のくだらないことを言ってる？」

「そうやってお母さんが死ぬ姿をもう見たくなかったって聞きました。」

ラルクは言葉が詰まった顔で口を開こうとしたが、何も言えなかった。

そんなことを考えたことはあった。

まだ実行はしていなかったが。

この子はまるで後で自分がその呪いを完成させるのを見てきたかのように話していた。

まるで未来から来たように、そんなふうに。

「世界がこんなふうにおかしく変わったのもお父さんがやったんですか？こんなことをしたら、あの頑固な神様があなたを許してくれるとでも思ったんですか？」

ナビアのまん丸な目がきらりと光った。

「でも見て、お父さんは死なない！結局、私を産むまでずっと蘇り続けるんだから、もう諦めてください！」

ぐずっているのか、はぐらかしているのか、意味不明な言葉にラルクは唖然とした。

ラルクは子どもを前にして、思わずあきれたように言った。

「さっきまでお前が死んだとか言ってたと思ったら、急にぴょんと跳ねて、どう見てもすぐ死ぬような奴じゃないな。」

「それは嘘ですから。」

「はっ」

ただその一言。

ラルクは目をひときわ見開いて子どもをにらみつけたが、それ以上追及したりあきれたりはしなかった。

それが正確には「できなかった」という方が正しいかもしれない。

ナビアは泣き腫らした顔でラルクの手をそっと握り、そっと観察するように見つめた。

幸い、目立った怪我は見られなかった。

『ふう、よかった。』

ナビアが音もなく肩をそっと持ち上げて安堵のため息をつくと、ラルクは額にしわを寄せた。

子どもの小さな手は自分の手の一つもきちんと包めなかった。

そんな存在がどうしてかしっかりと傷を確認しているのか。

温かさの中に妙な感じがした。

見慣れず、少しぞっとする感覚だった。

パチン！

彼は優しいがはっきりと手を払って尋ねた。

「俺が君を産むまで蘇るってどういう意味だ？」

「私はお父さんの最後の蘇りで来たんです。」

最後の蘇り？

「私は蘇りの子です。ちょうど9回目の……。」

この子も回帰者だって？

「最後の回帰でかろうじてお父さんに会えました。私たちは最後の命を懸けて、お父さんは■■■との化神契約を破棄したんです。」

「そんなことができるわけない。」

ナビアは怯えた人のように、唇をぎゅっとかみしめた。

その言葉のとおり、今のラルクは化神契約を破棄することができない。

ラルクが化神契約を破棄できたのは、カミーラの存在と、彼が「自分」であったからこそ成し得たものだった。

しかし、この世界にはラルク以外に何も残っていないように見えた。

彼自身がそう口にしていた。

だから、この世界ではラルクを救う方法がなかった。

ナビアは、せめて悲壮な気配を見せまいと必死に力を入れていた。

だが、軽い笑みさえ浮かべられなかった。

パンパンと弾かれるほどぎゅっと握ったせいで、白くなった指がかすかに震えて心臓を苦しめた。

ラルクはそれを見るのが嫌だった。

ただ、この子を見て説明のつかない気持ちに包まれる自分が嫌だった。

その言葉を信じたくなる自分を見るのが嫌だった。

……怖かった。

彼は逃げるかのように席を立った。

ナビアは本能的にラルクの上着の裾をぎゅっと掴んだ。

「どこに行くんですか、お父さん？」

ラルクは最後の警告のような声で言った。

「俺はお前のようなものを産んだ記憶はない。死にたくなければ『お父さん』なんてふざけたことを言うな。」

「……いやです。お父さんはお父さんです。」

「本当に命が惜しくないのか？お前がなぜここに来たのかはわからないが、ここで死んだら元の世界に戻れないかもしれないんだぞ。」

「そんなことありません。」

「どうして？」

「お父さんは私を愛しているからです。」

鋭く注がれる視線から、何にも揺るがない揺るぎない愛情が感じられた。

自分に向けられてはいるが、自分のものではない愛情。

だからこそ、言葉がいっそう冷たく吐き出された。

「消えろ。」

ラルクは家へ向かった。

しかし、小さなナビアも短い足を懸命に動かして、ちょこちょこと後を追いかけてきていた。

「きゃっ！」

後ろをついてきた足音が止まり、悲鳴が聞こえると、ラルクは思わず肩をすくめた。

「痛っ……」

どうやら子どもが転んだようだった。

舌打ちをして、彼は歯を食いしばりながら後ろを振り返った。

「出ていけって言ってるのが聞こえないのか？」

ナビアは転んだ場所でじっと立ち上がり、擦りむいた手をそっと払った。

「私もここで生きていきます。ここは私の家ですから。」

家だって？

一生聞いたこともない戯言を、ほんの少しの間に何度も聞いたせいで頭が――空からざあざあと降るように痛みが降ってきた。

「好きにしろ。どうせ何もないこんな荒れ果てた場所で、どれだけうまくやっていけるか知らないけどな。」

パチン！

ラルクは指を鳴らすと、瞬間移動して姿を消した。

「冷静になれ。」

あっという間に一人きりになったナビアは不満げにぶつぶつとつぶやいた。

「……これからどうすればいいの？」

カオス様は一体どうして私をここに送ったの？

ここで一体何をしろって言うの？

こんな荒れていて寂しい場所で、私に何ができるっていうの？

「はあ……。」

心がうずいた。

この滅びゆく世界がラルクの状態を映し出しているようだった。

膨大な記憶を抱えたまま果てしなく転生を繰り返す者の孤独が、どうしようもなく感じられた。

（-転生者だから生じる痛みがあるのよ。気になるのも当然でしょう。）

カオスはラルクの過去を見せたかったのだろうか？

『もしそうじゃないなら……』

ナビアは視線を上げて3階を見上げた。

「私が今のパパのためにできることがあるからここに送ったのかしら？」

いつまでこの世界にいることになるのかは分からないが、今すぐできることがあった。

それは、世界を再び豊かにすることだった。

『まずは庭から整えてみようか？』

ナビアはそっと袖をまくり上げた。

「よし、やってみよう。」

カーテンをきっちり閉めた寝室。

ラルクは殻に閉じこもったカタツムリのように、自分自身を守っていた。

彼を攻撃できる者など世の中に誰一人としていないというのに、たった一人のちっぽけな子どもが気がかりでこうしていた。

『どうしていいか分からないから。』

ラルクはほこりが舞い上がるベッドに横たわり、腕で目を覆った。

視界を遮って寝室の窓をすべて閉めても、子どもの奇跡は明白だった。

ナビアが外で放っている強烈な生命の気配は、いくら隠そうとしても隠しきれないほど明瞭だった。

ナビアはとにかく勤勉で、すでに何度も土地を豊かにして、いろいろな花や木を育てていた。

まるで世界を初めて創造している神のようだった。

「どうせ滅びる世界に、木が何本生えたところで何の役に立つっていうんだ。」

万神殿が吐き出す邪悪な気配が次第に鮮明になってきた。

間もなく怪物たちが飛び交い、この場所を侵略するだろう。

エセルレッドの庭園は、荒れ果てた世界で唯一希望の気配を放っていた。

再び万神殿の標的になりやすいという意味だった。

防御膜が壊れたナビアは、万神殿と対峙するにはあまりに無防備だった。

そのため、自分が近づかなくても気づかれれば死んでしまうだろう。

それにしても、なぜこんなにむなしいのだろうか？

万神殿の門が開いている。

鋭い存在たちが空から降り注いでいた。

群れを成していなくても目を見張るような光景だった。

「……くそ。」

ラルクはベッドから飛び起き、いら立った様子で窓のカーテンを勢いよく開け放った。

万神殿の怪物たちは壊れた世界に雪崩のように押し寄せていた。

また、この世界で唯一無事だった場所である庭園を突き崩そうと、星の群れのように群がっていた。

子どもは何も知らないまま床に座って花を咲かせているところだった。

『あのバカが……！』

ラルクは頭で考える前に体が動いた。

ガッ！

寝室にいた彼は、いつの間にか庭園の一角でナビアに飛びかかっていた怪物の首をひねっていた。

「お父さん？」

ナビアは驚いた目で彼の後ろ姿を見ていたが、ふと視線を移すと、周囲に忍び寄る怪物たちに気づき、驚いた表情を浮かべた。

「危ないです！」

危ないのは俺じゃなくお前だ、この間抜けな子供め。

と叫ぶ前に、別の怪物たちがナビアを攻撃する。

この捕食者たちは本能的に、ラルクよりはるかに弱いナビアを殺そうとしていた。

『どこへ行こうとしてるんだ。』

ラルクは目をひらめかせ、手を前に突き出した。

身体にまとった黒いローブが、まるで夜の帳のように空中にふわりと広がった瞬間――

「クワアアアアッ！」

押し寄せてきた怪物の半分が、跡形もなく消し飛ばされた。

しかし数が多かった。

彼が相手をしなかった反対側では、万神殿から来た外部神の従者たちが、まるで地獄の使いのようにバタバタと走り回っていた。

ラルクは再びその方向に手を伸ばした。

「攻撃しろ！」

ナビアの意思を失った庭園が鋭いトゲを立てて怪物たちを刺し貫いた。

いつの間にか森のように鬱蒼とした茂みとツタがナビアとラルクを守っていた。

アイは決して弱々しくなかった。

ぎらぎらと燃える赤い目が炎のように激しく燃え上がっていた。

美しかった。

赤い目はいつも不吉な色だと思っていたが、美しかった。

いつか私もあのような瞳を持っていただろうか？

ラルクは顎をぎゅっと引き、かみしめるようにして手を持ち上げ、打ち下ろすような仕草をした。

再び圧倒的な武力が展開され、怪物が粉々に砕け散った。

『いいだろう、もっと強い奴らを用意してやるさ。』

『殺せば、もっと強い奴らが来るだろうし、さらに強い奴らが押し寄せてくるだろう。』

いつまで耐えられるだろうか？

自分は死ねばそれで終わりだが、あの子は……。

「うわっ！」

ナビアはラルクに駆け寄ろうとして、根を張った木の根に足を引っかけて転んでしまった。

「……まったく。」

なんてドジなんだ。

ラルクは軽くため息をつきながら、ナビアを片腕で抱き上げた。

そしてもう片方の手で新たに押し寄せる怪物たちを排除した。

ただ、怪物を片付けるのにナビアがうろうろと邪魔になるのを防ぐために抱きかかえた、それだけだった。

「わぁ……！」

ナビアは何度見ても驚くべき武力に感嘆した表情を隠さなかった。

手を振り上げると空がばっさり裂け、押し寄せていた怪物が粉々に砕け散るなんて。

彼の圧倒的な武力にざわめきが起こり、全体の雰囲気が変わった。

「本当にすごいです！」

ナビアの両目は興奮でキラキラと輝いていた。

「怪物たち、お父さんにはまったく歯が立ちませんね！お父さん、神よりも強いかもしれません。」

ふん。こんなことで驚いているなんて。

最後の回の私はこんなもの見せたことなかったのか？

「大したことでもないのに、そんなに感心するな。」

「でも本当にすごいんです！　お父さんはこの世で一番優れた学者じゃないですか。それに、こんなに強くて！」

……なんだ、俺のことよく知ってるな。

未来から来たっていうのも、あながち嘘じゃないかもしれない。

「やっぱりお父さんが最高です！」

ナビアの称賛と感嘆は止まるところを知らなかった。

そのせいだろうか？

本来なら怪物どもが世界に現れるという話には一切注意を払う気がなかったのに、正気を取り戻してみると一帯が完全に整理されていた。

ラルクはようやく正気を取り戻し、鋭い目つきでナビアをぎょろりとにらんだ。

「おい、コネコ、お前ってやつは……！」

ぎゅっ。

その時ナビアがラルクの首にしがみついた。

ふわふわして柔らかい子どもの香りがほんのり漂った。

「ありがとうございます。」

ほんの少し低い声から尊敬と愛情が感じられた。

表情を見なくても分かった。

子どもは笑っている。

とても幸せそうに。

予想通り首を持ち上げて子どもの顔を見上げると、大きな瞳が月のように輝いて見えた。

普通のほっぺたがまんまるく膨らんで想像していたよりもかわいらしい笑顔を見せていた。

「生まれた記憶がなくても、お父さんはいつだって私を世界で一番愛してくれますよね？」

「……。」

つまらないこと言うなと怒鳴りつけたいのに、ラルクはただ唇を噛むだけで、言葉が出てこなかった。

おかしかった。

ずっと無視できないほど、その子に気を取られていた。

心がざわついた。

守らなければという思考が頭の中でぐるぐると回った。

回帰者として生き延びる中で得た直感が、彼を気に入っているようだった。

だからこそ、なおさら奇妙だった。

この子が、もし本当に自分の子供だったとしたら？

たとえ瞳の色が似ていたとしても、

自分にこんな子供ができるはずがないだろう？

そんなの、ありえない。

ラルクはナビアを床にそっと下ろした。

それ以上抱きしめていたら、今にも爆発しそうだった。

「しおらしく泣くな。」

ナビアはいつか聞いたことがある言葉だと思いながら小さく笑った。

やはりラルクはラルクだった。

『私を愛していないお父さんなんて、もう想像できない。』

過去がどんな姿であったとしても、お父さんはお父さん。

私が一番愛している家族だから。

私たちは家族だから。

『お父さんは今混乱しているだけで、私のことが気になって仕方がないのが丸わかりだもん。』

勘が鋭いナビアがそれを見逃すはずがなかった。

また、ラルクがどんな行動で心が弱くなるのかもすでに見抜いている状態だった。

ナビアは瞳をぐるぐると転がしていたが、少し泣きそうになった。

「いたっ！」

ぴたっ。

「いたい……。歩けない。ひっく……。」

ラルクは微かに困った表情で彼女を見下ろした。

ナビアはしくしくと泣きそうな顔で手をすっと差し出した。

「だっこしてください。」

彼の険しい眉がぴくりと動いた。

「なんで俺が？」

「ナビアは赤ちゃんだから……。」

もし元の体だったら、どんなに状況がひどくてもこんなわがままは決して言わなかったはずなのに、まるで仮面をかぶったようにその言葉が自然と出てきた。

「さっきのあの怪物たちがまた来るかと思うと怖いんです。お父さんと一緒にいたい……ダメですか？」

「はあ。」

笑えもしない声だった。

「じゃあ家に引きこもっていればいいじゃないか！」

なのにここにくっついている自分は何なんだ。

ぐぅ〜。

ナビアは情けない音を立てる小さなお腹を押さえて、うるうるしながら言った。

「お腹すいた。」