こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
122話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カイルIF③
「聖女様。ガントレット、よく使えました。」
闘技大会の翌日、市場の片隅でのんびりとした時間を過ごしていると、ノアが私にガントレットを返しにやって来た。
「それから……昨日、僕や仲間たちを助けてくださって……本当にありがとうございます。」
私は呆然と座ったまま、昨日の出来事を思い返しながら、ノアの手を見つめて言葉を返した。
「感謝はちゃんと受け取るけど、返されるのは嫌だ。」
「返すって言ったじゃないですか。これ、すごく高いって知ってます。僕みたいな見習い騎士にはまだ……」
「格好いい姿を見せてくれるって言ったでしょ。まだ十分見せてくれてないじゃない。」
私の言葉に、ノアは目をぱちぱちと瞬かせた。
「それは……」
「まあ、昨日のゴブリン退治も確かに格好良かったけど、それだけじゃ足りないわ。」
私はノアを見つめて微笑んだ。
「いずれブラックワイバーンを倒せるくらいになったら返して。」
しばらく私を見ていたノアの口元に、笑みが浮かんだ。
「つまり……殿下は退位されるということなんですね。」
「誰が退位するって?お前がブラックワイバーンを倒せるほどの力を持つようになったら、そのときは玉座まで譲ってやろう。」
ノアはガントレットを再び胸に収めながらそう言った。
「昨日の皇太子殿下の力は、本当に畏敬に値しました。僕なんか足元にも及ばないかもしれませんが……聖女様が僕に炎を与えてくださったのですから、僕ももっと努力しなければなりません。」
[破壊の神シエルは、カイルに追いつくなど不可能だと吐き捨てるように唸ります。]
私はゆったりと椅子の背にもたれ、ノアを見つめながら――
「そうね、分別しなさい。」
ノアはくすりと笑い、懐から別のものを取り出して私に差し出した。
それは小さなメダルだった。
王室の紋章が銅のメダルに刻まれていた。
「王宮騎士団で、武闘会の優秀騎士に授与されるメダルなんです。」
私はそれを受け取った。
「おお、すごいじゃない!」
見習い騎士の中で目立つほどの実力だからこそ、こうした賞を受けられるのだろう。
私がそれを受け取ると、ノアは背を向けた。
「ちょっと待って、そのメダルは?」
「僕からの贈り物です。僕も返却はお断りしますから。」
席を立った私に背を向けながら、ノアが言った。
「だから、お渡しするんです。」
「え?」
不思議そうな私の表情を見て、ノアは小さく笑い、店を後にした。
[慈愛の神オーマンは、再びノアの未来に希望を託します。]
私はノアのメダルを見つめ、そっと微笑むと、それを目に入りやすい場所に掛けた。
――『贈り物なら、受け取らなきゃね。』
実力のある見習い騎士ノアが「我が家のガントレットを使っています」と宣伝でもしようかと思った。
まったく……あいつ、本当に一生懸命な模範生みたいだ。
その時、再び扉が開いた。
「……?」
ノアが戻ってきたのかと思ったが、カイルの顔を見て驚き、思わず肩をすくめた。
「あ、こんにちは。」
[破壊の神シエルの尻尾が自動的に動きます。]
昨日ワイバーンの上に剣を突き立てたまま乗っていたあの時の彼の姿が脳裏に蘇った。
燃え盛る煙の中で私に向けられた鮮烈な赤い瞳。
その野性的な姿と、今の威厳に満ちた礼装姿は、どこか相反しているのに確かに同じ人だった。
「ずいぶん物が多いな。」
彼は目で陳列台に並ぶ聖石を眺めながら言った。
「……石を買いに来られたのですか?」
「いや。」
この程度の補給用の聖石なら、皇宮には余るほどあるだろう。
立っている私のそばに歩み寄った彼は、目を合わせたかと思うとすぐに視線を壁へと逸らした。
私もつられて視線を動かすと、そこにはノアのメダルが掛けられていた。
「……」
しばらくして、そのメダルの近くに近づいた彼は、懐から輝く金メダルを取り出し、ノアのメダルの上にかけた。
するとノアのメダルは隠れて見えなくなってしまった。
私はなぜ彼がそんな行動をするのか理解できなかった。
「それは……何ですか?」
「本来は狩猟祭の三幕でブラックワイバーンを倒し、一番の功績を立てた傭兵に授与されるメダルだ……俺が倒してしまったから、余らせておくよりはと思ってな。」
メダルには皇室の紋章と共にブラックワイバーンが刻まれていた。
「そうやって掛けると隠れてしまいますけど……」
「隠すために掛けたんだ。」
「え?」
「つまらないことにまで、不安にさせるのか。」
眉をひそめ、面倒くさそうに吐き捨てた彼が、再び私に近づいてきた。
[慈愛の神オーマンは、カイルの反応に大いに満足しています。]
[知識の神ヘセドは、カイルがケチだと罵ろうとしたが、シエルの視線に気づいて言葉を呑みました。]
[破壊の神シエルは歯をむき出しにしながらうなります。]
やがてカイルは指先で自分の黄金のメダルを覆い隠した。
「常に感謝を忘れるな。」
「……?」
「格好いいだろう。武闘会でモンスターを狩る戦士の姿。」
以前に彼が曖昧に言った言葉を思い出した。
『まさか……』
「あれを見て、殿下を毎日称えろ……そんな意味じゃないですよね?」
その言葉に彼は片方の口角を上げ、私の肩に手を伸ばした。
顔がぐっと近づいてくる。
心臓がまたドクンドクンと跳ね始めた。
赤い唇が柔らかく言葉を紡ぐ。
「似たようなものだ。毎日、俺のことを思い出せという意味だ。」
[愛の神オディセイは、カイルの発言を愛しています。]
[慈愛の神オーマンは、それくらいなら恋愛初心者としては十分だとし、表現力の成長を高く評価しました。]
ドクン、ドクン、ドクン。
胸が高鳴った。
彼は私に身を寄せるように近づき、じっと目を見つめていた。
思わず視線が彼の唇に移り、慌てて後ずさる私の胸を彼の胸が押し返す。
彼がこんなことを言うたびに、つい妙な想像をしてしまう――。
もし……私が結婚するほど好きになってしまったら?
いつか国婚を進めようと皇帝に呼ばれる前に、彼が言った言葉を思い出した。
冗談を言うなと言うと、彼は決して否定しなかった。
以前から彼はいつもそうだった。
ふっと近づいてきて、人の心臓を揺さぶるようなことを言いながらも、それ以上は決して越えてこない。
私はふと、以前に読んだ恋愛小説の一文を思い出した。
――「男は好きな人を惑わせたりしない。」
だから、私がこうして惑わされているのは、彼が私を好きではないからなのだ。
「……嫌いです。」
[破壊の神シエルの顔が歪みます。]
[愛の神オディセイは、あなたの生まれつきの独り身的な魅力に今日も感銘を受けています。]
ふと考え込んでいた私の言葉に、彼の瞳がかすかに揺れた。
私は彼のメダルを再び掴み、押しやるように言った。
「持って行ってください。」
彼の赤い瞳がまっすぐ私を映していた。
それでも何も言わない彼に、私はもう一度口を開いた。
「こんなふうに誤解させるの、嫌です。」
[慈愛の神オーマンが後ろ首を掴んでオディセイを抑え込みます。]
私の言葉に、彼の瞳がわずかに揺らいだのが見えた。
心臓はこんなにも激しく打っているのに、なぜ胸の奥がチクリチクリと痛むのか分からなかった。
彼が口を開いた。
「誤解だとしたら、どんな誤解を言っているんだ?」
私は答えずに手を伸ばして彼の体を押し返し、その背を突き放した。
耳元に熱い息がかかるのを感じた。
水に酒を混ぜたような、酒に水を混ぜたような、判然としないこの関係に対する私の気持ちは決して良いものではなかった。
やがて彼が部屋を出て、扉を閉めた後、私はしばらく立ち尽くしていた。
[運命の神ベルラトリクスだけが、このさつまいもパーティーの中で平穏です。]
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「聖女様、皇宮からお客様がいらっしゃいました。」
しばらく退屈に庭園のテーブルでお茶をしていた私のもとに、デイジーが駆け寄ってきて告げた。
「皇宮」という言葉に、持っていたティーカップを掴む手がわずかに震える。
「誰……?」
赤い瞳を持ち上げ、慎重に問いかけた。
その時、男の声が聞こえた。
「聖女様。」
振り返ると、見慣れた顔があった。
カイルの親友のような存在、セイン・ロックフォードだ。
彼の顔を見た瞬間、わずかな失望を感じた。
そして、自分が失望したことに驚いた。
「……あ、こんにちは。」
ようやく気を取り直して立ち上がり、彼を迎えた。
「突然訪ねてきて聖女様にご迷惑をおかけしたのではないかと心配です。」
「いいえ、ちょうど退屈していたところでした。」
セイン・ロックフォードは私の向かいに腰を下ろし、デイジーが茶器をもう一つ持ってきて彼の杯にお茶を注いだ。
セインはバスケットの菓子を見て、デイジーに尋ねた。
「マルリン・サルグはありませんか?お茶に合いそうですが。」
「お好きなんですね。」
セインが目元で笑みを送ると、デイジーは顔を赤らめながら答えた。
「すぐに持ってまいります。」
マルリン・サルグはイライドを代表する特産の菓子だ。
私はあまり好んで食べる方ではなかったが。
デイジーが席を外し、二人きりになったとき、セインが口を開いた。
「私は本来、他人の恋愛に口を出す人間ではありません。ですが、皇太子殿下がああしておられると、どうしても私の立場上、黙っているわけにはいかないのです。」
「え?」
「皇太子殿下」という言葉に、私は心がざわめいた。
横目で冷静を装いながら、セインの目を見つめた。
「殿下のことを申し上げたのです。メダルを持って聖女様のお店に行かれるたびに、とても嬉しそうにされていました。求婚を断られたのかと尋ねても、答えもなさらず。」
セインの言葉に、私は店での出来事を思い出した。
気まずい雰囲気に、思わず彼の背を押したことを。
「……まあ、特に行き来することはありませんね。」
私は何事もなかったようにお茶をひと口すする。
「私に求婚なさることはないでしょうから、他の女性ではないですか?」
もしかすると私は、彼に一言言い返したことに少しすっきりしたのかもしれない。
「そうですか……。ところで、なぜ聖女様のお店には騎士たちが押し寄せて来ないのでしょう?」
お茶を飲んでいた時、セインの声が聞こえた。
「え?」
視線を上げると、セインが微笑んでいた。
確かに私が公に開いた聖石のお店なのに、客は多くなかった。た
まに騎士が一人二人やってきて、まとめ買いしていく程度だ。
「皇太子殿下が、騎士団ごとに聖女様のお店へ行ける人数を一人ずつ指定なさったからです。」
「……はい?」
初めて聞く言葉に、私は大きく目を見開いた。
「貴族たちにも命じられたそうです。帝国の安寧を担う聖女を軽んじることはできない、と。ですから公式には、聖女様のお店で聖石の供給を受けるのは騎士団だけと決められています。聖女様の後援者を除いては、ですが。」
「あ……。」
私の店に客が来なかった秘密を、ようやく知ってしまった。
「殿下はなぜ、そのようなことを……。」
そのおかげで多くの客を相手にしなくても、一度の注文量が多かったので収益は悪くなかった。
セインを不思議そうに見つめていると、彼は大きな決心をしたかのように口を開いた。
「聖女様、実はお伝えしたいことがあるのです。」
セインは重要な話をするかのように声を低くした。
私は思わず耳を傾けた。






