こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
125話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ディエゴIF②
「ここは闇市場じゃないですか。」
仮面をつけた私は、ディエゴの耳元で囁いた。
「ロマンチックではないけれど、花畑よりは実用的な場所ですね。」
街の外れにある放置された広場。
一目で危険そうな雰囲気を漂わせていた。
[知識の神ヘセドは、そろそろ割り込んでもいいのかと、神々に問いかけます。]
[神々は皆、ヘセドの言葉を聞こえないふりをしています。]
松明があちこちで灯され、物騒な雰囲気を漂わせた男たちが剣を手に歩き回っていた。
さらに百名ほどの仮面をつけた者たちが、我々のように舞台を中心に円を描くように腰を下ろしていた。
「久しぶりにお顔を拝見しますね、男爵様。」
「良い品があると聞きつけて参りました。」
「おお、やはり噂は早いものですね。」
この競売場で監督を務めているように見える男は、ディエゴと親しげに挨拶を交わした。
「ところで、隣にいらっしゃるレディは初めてお目にかかるようですが。」
「私の恋人です。」
「……!!」
思わず息を呑んだ。
[正義の神ヘトゥスが口元をわずかに上げてから下ろします。]
[愛の神オディセイがしばし動揺するも、すぐに姿勢を正します。]
男は私にウインクした。
「こちらの世界で男爵様の人気と高貴さは天を突くほどなのに、その方の心を奪ったとは、なんと偉大なレディなのでしょう。競売デートを存分にお楽しみくださいませ。」
彼が去ったあと、私はディエゴに尋ねた。
「こちらの世界って、裏世界のことを言っているの?」
私の問いに、彼は大したことではないというように答えた。
「黒魔法、盗賊ギルド、闇市場。魔族が集う場所といえば、だいたいそういうところです。」
「でも、ここでは普通どんなものを売るの……」
私の言葉が終わる前に、競売が始まった。
「お集まりいただいた神々、淑女の皆さま、ありがとうございます。では本日の競売を開始いたします。」
先ほどディエゴに声をかけていた司会役の男が壇上に立ち、進行を始めた。
「皆さまがお待ちかねの最初の品は――白砂の花を干して作った一本です。かなりの高値で取引される毒草であることはご存じでしょう?無味無臭でワインともよく合い、少し混ぜるだけで相手を確実に仕留められる優れものです。」
……ちょっと待って。私はいま、何の説明を聞かされているの?
「その量、なんと50人分に相当します。では1,000フランから始めましょう。」
司会者は喉を掻き切るような仕草をして競売をスタートさせた。
「1,000フラン!」
「2,000フラン!」
「2,100フラン!」
人々は待っていたかのように競売の声を上げ始めた。
もし皇妃がこの闇市場のことを知っていたなら、ロイド商団まで行ってクロニアを救う必要はなかっただろうに、という考えがよぎった。
[芸術の神モンドが競売の記憶を思い出しています。]
しばらくして、二つ目の競売が始まった。
「盗賊ギルドが出した地下倉庫です。魔法の封印があるため、落札された後はご自身で封印パターンを変更すれば使用可能です。倉庫はA級の位置にあります。競売場にいる者なら、この好機を逃すわけにはいかない!」
人々が次々と声を上げ始めた。
「1万フラン!」
「1万5千フラン!」
「2万フラン!」
「2万5千フラン!」
詳細は分からなくても価値ある品らしく、あちこちから高額な入札が飛び交う。
そのとき、隣からディエゴの声が響いた。
「10万フラン。」
一気に跳ね上がった金額に、会場の視線が一斉にディエゴへと注がれた。
[芸術の神モンドがふと驚いてディエゴを見ます。]
司会者まで驚いた様子だった。
「これ以上の入札はございませんか?」
群衆は静まり返った。
そしてディエゴが地下倉庫を落札した。
しばらくして何人かの者が、ディエゴに特別な地図と魔法の物品を渡した。
「……お金をあまりに無造作に使っているんじゃないですか?」
私は慎重に問いかけた。
もっとも魔王なら、どれだけ使おうと問題ではないのだろうが……。
「価値のある品には、相応の価格を払うべきです。」
[知識の神ヘセドが、ディエゴの価値観に同意するように頷きます。]
意味ありげな言葉を口にしたディエゴは、それ以上競売を見ずに私を連れて会場を出た。
少し薄暗くなった街を歩いていた彼は、やがて私の前で立ち止まった。
場所は建物の前。
「さっき言っただろう。君に贈り物をしたいって。」
私は呆然と彼を見つめた。
彼は柔らかく笑みを浮かべ、私に先ほどの地図と魔法道具を押し付けるように渡すと、戸惑う私を建物の裏へと導いた。
「入りましょう。」
「……?」
「地図に記されているワードを読みなさい。」
「……エラ・テュアロート?」
私がディエゴの言葉どおりにワードを読むと、突然建物の後ろに階段が現れた。
私は驚いて大きく目を見開いた。
「一体これは……!」
下へと続く暗い階段を見ていたディエゴは、視線を私へと移した。
「お気に召しましたか?」
「魔法で地下室ができたのですか?」
「いいえ。もともとあったのです。これまでは盗賊ギルドが利用していただけです。」
その言葉に、私は後頭部を殴られたような気分になった。
「まさか……。」
「建物の仲介業者ですら知らないでしょう。都市の地下には時折、盗賊ギルドや悪党たちが使う空間があるのです。建物の持ち主が知らなければ驚くべきことですがね。」
「……あ……。」
もしディエゴが落札しなかったら、例えば毒草の製造者がそれを手に入れていたなら、私の建物の地下に毒草工場ができていたかもしれない。
[愛の神オディセイは、ディエゴの優しさに頬を染めるように足先をちょこんと動かします。]
「うまく使ってください。ワインを熟成させるのにも役立つでしょうから。」
私はディエゴを見ながら、唇を小さく動かした。
「……ありがとう。」
そして地下室を探検するために階段へ足を踏み入れたときだった。
何か細いもののような感触が、私の足首に絡みついた。
なに?
「中にまだ何か残ってるみたい!!きゃあっ!」
ディエゴを振り返り、訝しむように言いかけた瞬間、その“何か”は私を引きずり込んだ。
「ちょっと、これ?」
ディエゴの表情が急に険しくなるのを最後に、私は足首を掴んだものに引きずり込まれていった。
[正義の神ヘトゥスが驚いて目を大きく見開きます。]
[知識の神ヘセドは、魔族は信用できないと舌打ちします。]
そして地下室は、まるで底なしの深いマンホールのように私を引きずり込み、もう二度と出られないのではと不安になったその瞬間、私はどこかにドンと落ちた。
「……」
それほど深く落ちたわけではなかったのか、衝撃は大きくなかった。
けれど、私は完全に別の空間に来てしまっていた。
ここがどういう状況なのか理解できた。
ここは薄暗い実験室のような空間で、周囲には魔法陣が描かれていた。
「……ここは?」
黒い髪を後ろで束ね、一方の目に黒い眼帯をした中二病のような男が私を見て、口の端を吊り上げて笑った。
その背後には、いかにも悪党といった風貌の男たちが控えていた。
「おお、A級だな。」
その言葉に後ろの男たちが歓声を上げた。
「クク、これは高値で売れるぞ。」
今がどういう状況なのか把握できない私は、眉をひそめた。
「ここはどこですか?」
私に近づいてきた二人の男が、私の手首を縄で縛ろうとした。
彼は冷笑しながら言った。
「魔界だ。お前はこれから魔族たちの奴隷として売られていくのだ。」
[自愛の神オーマンは、奴隷として使うにはあなたの容姿はふさわしくないと判断します。]
「運が良ければ、高貴な趣味を持つナオリの愛玩動物になるだろう。」
[自愛の神オーマンは、こいつらは愛玩動物にすらふさわしくないと不満げに顔をしかめます。]
私は乱れた髪をかき上げながら尋ねた。
「つまり、ここが魔界だというのですか?」
どうやら彼らが私を召喚したらしい。
ディエゴは一緒に来ていないようだ。
それでも幸いなことに神託との繋がりは切れていないらしい。
以前アレスに行ったときは、ゲートの近くに行っても神託の接続ができなかったのに。
魔王が、私に好意的なディエゴに代わって接続を許してくれたということだろうか。
「運が悪ければ、新しい魔王様のおもちゃにされてしまうだろうな。」
「新しい魔王様については噂が広がっているぞ。寝所には必ず男女合わせて五人以上を侍らせているとか。」
「拷問されるのも、拷問するのもお楽しみだそうだ。」
「しかも魔物ですら相手にしないと聞くが、人間の女はどんな末路を迎えるのか気になるな。」
奴らは私を品定めするように眺めながらそう言った。
――ディエゴ……やはり魔族は魔族だったのか。
[自愛の神オーマンが、ディエゴへの好感を再整理します。]
[正義の神ヘトゥスは、頬を赤らめた自分に気づき、試練に陥らないようにと自分に向けてセルフ祈祷を行います。]
[自愛の神オーマンは、その祈りなど無意味だと一蹴し、ヘトゥスに新しい趣向を受け入れるよう助言します。]
そうだ、大司教レイハスでさえ……いや、神殿の連中ですらこの有様なのに、魔王であるディエゴならなおさらだろう。
私は手に静かに神聖力を集めた。そして目の前の奴らを吹き飛ばそうと手を振り上げた、その時――
ドガァァァンッ!
派手に壁が崩れ落ちた。
「ちくしょう、まだ見つけられないのか?」
「集中しております、魔王様。」
がらんどうの地下室で匂いを嗅ぎ回っていたケロは牢の隅で白い服を一着見つけ、それを手に取って目を輝かせた。
「鷹の召喚術を使ったんですね。でもこれは……」
ディエゴの目が鋭く動いた。
「アリエル様の髪の毛の一部のようですが。」
「ケロ。」
「はい、魔王様。」
鎖に縛られたアリエル……いや、かつてアリエルの姿に変身していたケロの姿が脳裏によみがえる。
「探せ。」
魔界は人間界とは異なる。
何が起こるか分からないという考えがディエゴの心を苛立たせた。
彼の紫水晶のような瞳に殺気がじわりと滲んでいった。
「魔界をひっくり返すように探し出せ。いや、軍勢を繰り出せ。」
ケロの背後に数十人の影が現れた。
「承知しました、魔王様。」
彼らが皆、闇の中へと消えていった後、ディエゴは鋭い目を細めながら階段を上った。
黒い夜空に月が輝いていた。
ディエゴは生まれて初めて闇を鬱陶しいと感じていた。






