こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
131話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 二度目の命令
息を切らしながら家にたどり着いたエスターは、馬車を降りるやいなや、玄関前でうろうろしているドフィンを見つけた。
その隣の階段には、気楽そうに本を読んでいるデニス、そして庭では一生懸命木剣を振るうジュディの姿も見えて、目を瞬かせる。
「みんな、どうして外に出てるの?」
喜びと戸惑いが入り混じった気持ちで、思わず声をかけた。
エスターの歩みが速くなった。
一歩先に駆け寄ってきたドフィンは、どこも怪我はなかったかとエスターを心配そうに見回した。
「無事に戻ったか?」
「はい。」
長く家を空けていたわけでもないのに、この大騒ぎだ。
恥ずかしさの中にも嬉しさがあって、エスターの口元が自然とほころんだ。
「それにしても、なぜノアと一緒に?」
「約束の時間より一時間も遅れて来たじゃないか。」
読んでいた本を閉じて脇に置き、近づいてきたデニスが時計を隠しながら言った。
確かに遅れはしたが、予定時刻より四十分ほど遅れただけだ。
「何かあったのかと思って、もう少し待っても来なければ迎えに行こうと思っていたんだ。」
エスターを待っていた三人は、約束の時間になっても姿を見せないので、不安な気持ちから誰ともなく中庭に集まっていたのだ。
結局、何事もなく戻ってきたエスターを見て、ドフィンは胸をなで下ろし安堵の表情を浮かべた。
宮殿での出来事について尋ねられた。
「陛下がなぜ呼ばれたのです?」
「聖火のためです。神殿なしで病を治療するには、私の聖火が必要だと仰って助けを求められたんです。」
「やはり神殿への強硬策を進めていくお考えなのだな。」
「そうみたいです。」
エスターはうなずきながら、ビクターに合図して箱を持ってくるよう頼んだ。
馬車に積んで大切に持ち帰ってきたその箱の中には、皇帝が贈り物として用意してくれた果物の串がぎっしり詰まっていた。
蓋を開けると、食欲をそそる果物の串が並んでおり、ジュディが真っ先に興味を示した。
「これなに?」
「デザートよ。すごく美味しいの。」
エスターは、いちごが三つずつ刺さった串を三人に公平に分けて渡した。
「陛下からお土産にいただいたんです。」
エスターが食べ物をよく食べるのを見て、喜ばせようと渡されたものだったが、エスターは家に持ち帰って家族と分け合うつもりでいた。
「ん?これ美味しいけど、歯にすごくくっつくな。べたべたする。」
何も考えずに大きく口いっぱいに放り込んだジュディが顔をしかめながら口を大きく開いた。
歯には砂糖がべったりと付いている。
「お願いだから、ちゃんと口閉じて食べなさい。」
デニスはその様子を見て呆れながら、ジュディの背中を強く叩いた。
やはり新しいものを見ると好奇心が抑えきれないデニス自身も、密かに串を手にして噛みついた。
「お父さまも召し上がるでしょう?」
食べたい気は全くなかったドフィンだったが、期待に満ちた目をきらきら輝かせるエスターをがっかりさせたくなくて、串を受け取った。
しばらくの間、カリカリ、もぐもぐ。
いちごの表面についた砂糖コーティングがパリッと割れる音が軽やかに響いた。
無心で夢中になっているドフィンと、その双子の子どもたちが串を一本ずつ持って砂糖をかじっている姿は、見ていて微笑ましくも贅沢な光景だった。
「ねえ、お父さん。来る途中で思ったんですけど……7月になったら伝染病がもっとひどくなるかもしれないし、私の誕生日パーティーを開くのはちょっとよくないんじゃないですか?」
串をかじる姿を曇った目で見ながら、エスタは控えめに尋ねた。
「そうだな。パーティーを開かないわけにはいかないけど、お前が気にするなら別のやり方を考えてみよう。」
「パーティーを保護所でやるのはどうですか?食事を分け合って、救援物資も配って……そうすればエスターも、もっとたくさんの人からお祝いしてもらえますよ。」
かつて神殿だった場所を、今では保護所と呼んでいた。
「それはいい考えだな。」
砂糖でべたついた唇を尖らせていたデニスが、なぜか大丈夫だと思ったのか、再びジュディの後頭部をパシッと叩いた。
そのせいでイチゴを飲み込んでしまったジュディは、後頭部を押さえながらデニスをじっとにらんだ。
「ちょっと!おい! なんでまた叩くの?これ以上頭悪くなったらどうしてくれるの!」
「ごめん。手応えが気持ちよくて、つい手が出ちゃうんだよな。」
エスターは、言い合う兄たちを見てクスクス笑った。
帝国全域で神殿が廃止され、行き場を失った神殿関係者たちがすべて中央神殿へ集められていた。
ラビエンヌは、彼らを新しい場所へと再配置し、そのせいで増え続ける業務を処理することに。
「これ以上の人を受け入れる場所はありません。」
「わかりました。」
大衆会議が終わると、ラビエンヌは伝染病の調査を任せていたカイルに声をかけた。
「病の様子はどうですか?」
「まだ大丈夫ですが、少しずつ噂が広がってきています。」
「7月の行事は、このまま進めても大丈夫でしょうか?」
「私の考えでは、祈祷祭を並行して行うのがよいかと。」
「それも良いですね。祈祷祭も一緒に準備しましょう。」
形だけの行事だとしても、祈祷祭が開かれれば帝国の民は神殿に雲のように押し寄せるはず。
神殿の権威を高めるには格好の機会であった。
「では、少し休憩にしましょう。」
休憩を取るため外に出ていたラビエンヌのもとへ、侍女が駆け寄ってきた。
ブランス公爵が来ているという知らせを聞いたラビエンヌは、ぱっと明るくなった顔で接見室へと向かった。
「お父様!どうなさったのですか?」
「お前が心配で来たのだ。ずいぶん忙しそうじゃないか。」
ソファに座っていたブランス公爵が、穏やかに微笑みながらラビエンヌを迎えた。
二人は軽く抱擁を交わした。
「お父様も話をお聞きになったのですね。」
「ああ、神殿の廃止とは……。皇帝はどうしてこのようなことを。」
「そうなんです。その件もそうですし、伝染病のこともあって頭がいっぱいです。」
ラビエンヌは父の前では、普段なら決して見せない心の内を吐露し、深く息をついた。
「ところで……お隣の方はどなたですか?」
「挨拶をしなさい。我が家に新しく来た主治医だ。」
「初めまして、エビアンと申します。お会いできてこの上ない光栄です。」
「ええ、こんにちは。」
医者をここまで連れてきたという話に、ラビエンヌは一瞬眉をひそめたが、ひとまず丁寧に挨拶を返した。
「なかなか優秀だそうだ。お前を診察したくて連れてきたのだ。」
「私を?私は自分のことはよくわかっていますけど……。」
いくら若いとはいえ権威を持つラビエンヌに「診察を受けろ」と告げられ、医師は内心ひどく慌てた。
それでも、自分のことを思ってくれた父の意向を無視することはできず、ラビエンヌは震える気持ちを抑えながらソファに腰を下ろした。
「では、失礼して診察いたします。」
緊張で顔を青ざめさせたエビアンは、大きく息を吸い込み、ラビエンヌの背に手を当てた。
実はブランスがエビアンをここまで連れてきたのは、ラビエンヌとエステルの「聖力」を比較させるためだった。
しばらくして、ラビエンヌが持っている聖力を感じ取ったエビアンは、何かおかしいとでも言いたげに口をつぐんだ。
「どうだ?」
「え、えっと……」
エビアンはブランス公爵の顔色をうかがいながら、口を引き結んで答えを濁した。
――比較にならない。
エビアンが感じたラビエンヌの聖力は、以前に経験したエステルのものと比べると、あまりにも未熟で稚拙だったのだ。
これをどう説明すればよいのか迷ったエビアンは、唇をぎゅっと噛みしめた。
「正直に言いなさい。」
しかしブランス公爵がさらに念を押すと、エビアンはできる限り穏やかに言葉を選びながら話し始めた。
「そのとき感じた潜在力は、次元が違います。途方もない渦のようで果てが見えなかったのに、これは……せいぜい普通の壺に収めた程度でしょうか。」
「それほどの差があるということか。」
似ていることを期待していたが、比べ物にならないほどの違いがあるという言葉に、ブラオンズは深く息を吐き、黙り込んだ。
「父上、これは一体どういうことです?何を確かめようとなさっているんですか?」
ただ健康を気遣って呼んだのではなく、別の何かを確認するためだと気づき、ラビエンヌの顔がこわばった。
「エビアン、ここは下がれ。」
「はい、閣下。」
応接室からエビアンを下がらせた後、ブラオンズは険しい表情でラビエンヌを正面から見据えた。
「父上?」
ラビエンヌは、どこか普段と違う公爵の様子に戸惑いながら答えを返した。
「エビアンは医師だが、聖力を感知できるんだ。」
「……神官じゃないのに?」
「そうだ。最初は私も信じられなかったが、確かめてみたら事実だった。」
聖力を感知できると聞いて、ラビエンヌは気に入らない顔をした。
苛立たしげに髪をかき上げる。
「私の聖力が壺に入れた程度のものだというなら、その“宝物”と呼ばれる人は一体誰なんです?」
欲深く輝くラビエンヌの赤い瞳を見て、ブランスはしばし思案に沈んだ。
エビアンを神殿に連れて行き、自ら確認させたのも、エステルについて確信を持つためだった。
そして聖力の差まで明らかになった以上、これ以上ラビエンヌに隠すわけにはいかなかった。
最近、神殿でラビエンヌの立場が弱まっているという噂を耳にした。
伝染病が広がれば今以上に立場が危うくなるだろう。
だからこそ「本物」を見つけ出すことが急務だった。
「啓示の主はまだ見つかっていないのか?」
「はい。神殿の内部の者ではないので、簡単には見つかりません。」
「先日、疑いをかけた子がいただろう。大公の娘だ。」
「ええ、確認しましたが違いました。」
その言葉に、ブラオンズの目が細く鋭くなった。
「確認した」という事実に、一瞬、自分が見誤ったのではないかと混乱が走ったのだ。
「違う?どうやって確認した?」
「聖騎士に命じて血を持ってこさせました。ですが違いました。」
「本当にその子の血だったのか?」
ラビエンヌが自ら直接血を採ったのではなく、誰かに命じて持ってこさせたのなら、すり替えの可能性もある。
ブランスはそれを見逃さず、真剣な表情で問いかけた。
「そうか。その血は間違いなく……」
当然、エステルの血だと断言しようとしたラビエンヌは、ふと動きを止め、口を固く閉ざした。
血のように赤い瞳に、カリードへの疑念が忍び寄り始める。
(まさか……?)
聖騎士に任命され、初めての任務だった。
自分を欺くことなど決してあるはずがないと思っていたのに。
ふと、カリードが予想以上にエステルと親しい関係を築いていたのではないかという考えが、ラビエンヌの脳裏をよぎった。
「私を騙したの?」
最も疑うべき点をあまりにも容易く見過ごしていた自分が愚かに思えて、ラビエンヌは唇を強く噛みしめた。
「抜け目のない部下がいたようだな。」
「聖騎士が私を欺いたのかもしれません。」
最も有力だと疑ったエステルを、あまりにも容易に安心して見過ごしてしまったことにラビエンヌは後悔を覚えた。
「カリードを呼んで、もう一度確認しなければなりませんね。」
疑念に満ちたラビエンヌの赤い瞳が、ブラオンズ公爵に向けられた。
「ですが……父上、私が飲んだその血が、あの娘のものでない可能性を考えたことはありませんか?あれはどう見ても抜け落ちた部分です。」
突然現れた者と治療、そしてこのぞっとするような会話まで。
何かあるに違いないという思いが、ラビエンヌの声を一層冷たくした。
「事実だ。」
ブラオンズは短くためらいを見せたが、ついに決意してそう告げた。
「そのエビアンが、つい最近までテレシアの従者だったそうだ。」
「テレシア……?ちょっと待ってください。じゃあ、私と比べられた相手がただの従者だったってことですか?」
「そうだ。」
「はっ。」
ラビエンヌは呆れたように乾いた笑いを漏らした。
そして堪えきれない屈辱に拳を振り下ろし、テーブルを何度も強く叩いた。
「私の力量が従者以下だとでも言うんですか?」
普段は冷静さを失わないラビエンヌが、声を張り上げた。
それほどまでに、力量の優劣は候補生たちにとって自尊心を左右する重大な問題だった。
「そんなはずありません!あいつは下位の候補生にすぎないんです。私と比べるなんて論外です!そんな奴が従者だなんて……ただの手駒じゃないですか?」
ブラオンズもそう信じたいと思ったが、全ての状況がエステルを彼の娘、十五代の聖女であることを裏付けていた。
まだラビエンヌにこの事実を打ち明けることができず、まるで偶然知ったふりをしていた。
「他の神官たちを連れてきて、すでに確認済みだ。ごまかしではない。」
「父上。」
「血が入れ替わっていた可能性があるなら、もう一度確認すればいい。」
息苦しげに胸をドンドンと叩きながら、ラビエンヌは苛立った声を漏らした。
「今やあの子は大公の娘です。本当にあの子が偽物だったとしても、大問題ですよ。どうやって連れてくるつもりですか?」
ブラオンズも最近、その問題についてずっと悩み続けていた。
最も現実的な方法は親子関係を争う訴訟だったが、それをラビエンヌに話すことはできず胸の内に隠した。
「その件は私に任せて、確認だけしてみろ。少し親しくなってみるのもいいだろう。」
「親しいだなんて、あいつは貧民街で育ったただの小娘ですよ。」
「今は大公の娘だろう。」
ブラオンズは無礼な態度をやめないラビエンヌをなだめ、エステルと直接会ってみるよう勧めた。
「では、改めて連絡を取ろう。」
そう言って接見室を出て行った。
エステルへの怒りでどうしようもなかったラビエンヌは、再び顔に仮面をかぶり、深く息を吐いた。
「カリードを呼びなさい。」
侍女がラビエンヌの命を受けてカリードを連れてきた。
「お呼びでしょうか。」
彼はラビエンヌの目の前に進み出て、片膝をつき命令を待った。
「カリード。」
ラビエンヌは砂糖のように甘い声で、彼の名を呼んだ。
「はい、聖女様。」
「私に隠していることはない?」
「どういう意味でしょうか……」
カリードは床に向かって頭をさらに深く下げ、表情も視線もすべて隠そうとした。
「私を真っ直ぐ見なさい。」
しかし、ラビエンヌの鋭い命令に動揺しながらも顔を上げた。二人の視線が空中でぶつかる。
「あの時、私に持ってきた血。本当にダイナの血だったの?」
「はい。」
ラビエンヌは、カリードの瞳が大きく揺れるのを見逃さなかった。
「女神に誓える?」
「……」
女神の名が出た瞬間、カリードはもう嘘をつけなかった。
その男は膝を折り、そのまま床に額を押し付け、ラビエンヌに許しを請うた。
「本当に申し訳ありません。初めから欺こうとしたわけではありません。」
「本当に私を騙したってこと?まさかお前が?」
「……申し訳ありません。」
「はぁ……。それは誰の血だった?」
「家畜の血でした。」
ラビエンヌは怒るのではなく、むしろさらに明るく笑いながら顔を近づけた。
「なぜそうしたの?」
優しく囁くような声に、カリードは一瞬罪人になった気分でどうしていいかわからなくなった。
「血を持ってこいとのご命令に納得がいきませんでした。間違ったことをするのではないかと判断し、別のものが必要だと思いました。」
「カリード、お前は聖騎士だ。判断するのはお前じゃない。私が命じる通りにすればいい。」
ラビエンヌはカリードの頬にゆっくりと手を添え、はっきりとした口調で言い聞かせた。
「できないなら、今すぐにでも追い出してあげるわ。はっきり答えなさい。」
「できます、聖女様。」
すでに聖騎士となったカリードが追放されるとなれば、それは不名誉な免職だった。
そうなれば、彼は一生烙印を背負って生きるしかなかった。
「もう一度でも私を失望させたら、そのときは許さない。あなただけじゃなく、あなたの家門までも。すべて神殿への反逆罪として裁かせるわ。」
「聖女様!それは……!」
「あなたが招いたことよ。」
まだ柔らかい声音で語るラビエンヌの言葉は、内容の厳しさと釣り合わず、かえってカリードを苦しめた。
「さあ、これを持って行って。皇太子に渡しなさい。私からだと言えば分かるはずよ。」
ラビエンヌは手にしていた液体の入った小さな瓶をカリードに差し出した。
透明に揺れる液体を見つめながら、カリードはごくりと唾を飲み込んだ。
「カリード、これは聖女の名においてお前に下す二度目の命令だ。意味は分かるな?」
「はい。必ずお伝えして戻ってまいります。」
頭を垂れたカリードは薬瓶を受け取り、外へと出ていった。
その固く引き締まった顔は、苦悩に覆われていた。







