公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【151話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

151話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 正直な願い

クラリスが完全に意識を取り戻したのは、魔法使いたちとの会合のために都を訪れていた来客たちが全員帰ったあと、さらに数日が経ってからのこと。

本来の予定であれば、クラリスはすでに北の城壁を発ってからかなり時間が経っているはずだった。

深い傷に加え、連続して使用した転移魔法の後遺症、そしてあまりにも大量の魔力を使った反動が重なり、彼女がはっきりと意識を取り戻すまでには、相当な時間が必要だったのだ。

「……あ、う……」

意識を取り戻したクラリスは、経歴を確認しながら頭を抱え、深いため息をついた。

今回の一件で、彼女が何よりも大切にしていた――最初の公務試験の日程が、虚しく過ぎ去ってしまったのだ。

気絶したまま、こんな形で貴重な機会を逃してしまうなんて。

「はぁ……本当に……」

それに加えて、まだ完全には回復していない体を思うように動かせないもどかしさも、彼女の胸を重くした。

思っていた以上に深かった脚の傷は、ノアの治癒魔法を受けたとはいえ、もうしばらく包帯を巻いたまま過ごさなければならない状態だった。

それでも、唯一の救いといえば――ユジェニからの手紙だろうか。

彼女は試験場に姿を見せなかったクラリスをひどく心配し、何度も、何度も、優しい言葉を綴った手紙を送ってくれていた。

けれども、クラリスを悩ませていたことは、それだけではなかった。

他にも、気がかりなことがいくつもあったのだ。

「……少女」

「……ノア」

ひとまず、ノアとの関係はぎこちないものになっていた。

北の城壁の向こうで、彼女が激しく怒った出来事を、彼はまだ気にしているようだった。

無理もない。

彼女自身が「一生許さない」と口にしたほどなのだから。

『私には、そんなことできないって分かっていながら……』

寝台のそばへ歩み寄った彼は、「失礼するよ」と小さく断りを入れ、掛け布を少しだけめくった。

薄い寝間着の下、薬を塗られ包帯で固定された両脚が、そのままあらわになる。

白い光を帯びた彼の手が、包帯の上をそっとなぞるように通り過ぎた。

彼が非常に慎重に時間をかけて魔法を使っているのが伝わってきたため、クラリスはそれ以上、言葉を挟むことができなかった。

本当は、魔法使いアルステアの件で、彼が重い処罰を受けていないかどうか、とても心配だったのだが――それも口に出せずにいた。

「……少し前に」

ふいに、ノアのほうから先に言葉が差し出された。

「医師とも話しましたが、傷跡の様子を見れば、ほどなく包帯も外して大丈夫だそうです」

「……あ」

クラリスは、どこかぎこちなく小さくうなずいた。

「そ、そう……なのね」

「痕も残らないそうですよ。心配なさらなくて大丈夫です」

どうやら彼は、クラリスの顔に浮かんだ陰りの正体を、そのことだと受け取ったらしい。

「……それは、心配してなかったわ。私……」

『あなたのことを心配してたのよ』そう言おうとした、その瞬間だった。

突然、ノアが仮面に手を当て、慌てたように数歩後ずさる。

「え、ええと……!こ、公務試験でしたら、来年もありますし……あまり気になさらないほうが……!」

「…………」

その不自然なほど必死な取り繕いに、クラリスは言葉を失った。

「あ、そ、それと。治療が終わったら公爵様がお話をしたいと仰っていました。すぐに少女に会いに来ると……あっ」

彼は何か大事なことを思い出したようで、乱れかけていたクラリスの掛け布を引き寄せ、足先まできちんと掛け直した。

「夏とはいえ、風邪には気をつけないと。特に今みたいに体が弱っている時は、なおさらですよ」

「ノア」

「じゃ、行ってくる!」

まるで逃げるように、彼は勢いよくクラリスの部屋を飛び出していった。

「……私、嫌われちゃったのかな?」

遠ざかっていく背中を見つめながら、ふとそんな考えが浮かぶ。

(でも……掛け布を直してくれる時は、すごく優しかったのに)

どうにも掴みきれない彼の気持ちを思い巡らせ、クラリスは深く息を吐いた。

そうして気づけば、今度は別の心配事が頭をもたげてきた。

「公爵様が来られるそうよ」

クラリスは、思うように動かない体を引きずるようにして、ベッドの縁に身を預けた。

クラリスが穏やかな日常を取り戻せない、二つ目の理由。

それは皮肉にも、マクシミリアンに関わるものだった。

北側の城壁の向こうに、彼の姿が見え始めた、その時。

クラリスは嬉しさのあまり、ただ両手を高く掲げて振ることしかできなかった。

「……マランを、先に隠しておくべきだったわね」

枕の上から、つるりと滑り降りてきたマランが、きょとんとした様子でクラリスを見上げた。

その姿は、いつも通り小さなままだった。

「クオ?」

「あなたが恥ずかしいって意味じゃないのよ。分かってるでしょう?」

クラリスは、マランのひんやりとした頭を、指先でそっと撫でた。

「秘密……にしておくって、約束したものね」

しかし当時のクラリスは、マランのことについてはすっかり忘れてしまっていた。

ゴーレムを発見した彼が、どれほど驚いていたのか。

クラリスは、そのときの表情を今でも忘れられない。

「公爵様に“私のゴーレムか”と尋ねられて、違うなんて嘘はつけなかったの」

「コオ」

マランは誇らしげに、どこか得意そうな様子で立ち、うんうんと頷いた。

どうやら公爵様に良いところを見せられたのが、よほど満足だったらしい。

「コオ」

「それなら、良かったわ」

クラリスは少し複雑な表情を浮かべながら、静かに頷いた。

彼女の存在そのものが、戦争の火種になりかねない以上、この能力は知られないに越したことはない。

「少なくとも、公爵様以外には誰も気づいていないってことね」

もちろん、だからといってクラリスの正体を知ったマクシミリアンは、きっと少なからず困惑するだろう。

彼は実直な人物だ。

クラリスがゴーレムマスターであることを知れば、規律に従い、魔法師団へ報告すべきだと考えるに違いない。

けれど――彼女の立場を思えば、そう簡単に割り切れないこともまた、想像に難くなかった。

「私のせいで悩ませてしまうなんて……本当に、ごめんなさい」

「クオ」

「悩まない人じゃないかもしれないけど……でも、仕方ないでしょう?」

コンコン。

扉を叩く音が響いた。

クラリスは、すでにマランの存在が完全に露見していると分かっていながら、慌てて小さなゴーレムを胸元の奥へと押し込んだ。

「は、はい!」

ぎこちない返事と同時に、扉が静かに開く。

「……私が起こしてしまったようだね」

マクシミリアンはそう言って、申し訳なさそうに視線を伏せたまま、クラリスのもとへ歩み寄った。

彼の声音は穏やかで、だがどこか、いつもより慎重だった。

患者を苦しめるために来たのではない、という言葉とともに、彼は小さな椅子を持ってきて、ベッドのそばに座った。

クラリスは、顎の先まで引き上げられた薄い毛布をぎゅっと握りしめた。

彼が何を話すつもりなのか想像もつかず、かえって緊張してしまう。

落ち着かない様子のクラリスをしばらく見下ろしていた彼は、比較的穏やかな口調で尋ねた。

「体の具合はどうだ?」

「わ、私は大丈夫です」

「そうか」

彼は大きな手でクラリスの額に触れ、髪をそっと撫でた。

「それなら本当に良かった。立て続けにいろいろなことが起きて、きっと怖い思いをしただろう」

「……」

「しばらくは、しっかり休むことに専念しなさい。そして――」

そう言って、彼は撫でていた手を離し、彼は拳を強く握りしめた。

なぜか、その手がわずかに震えている。

「……すまない」

「え?」

「君を守れなかったのは、私の責任だ。ましてや、セリデンの祝祭の場で……」

「……?」

思いがけない言葉に、クラリスは少し戸惑い、思わず声を失った。

てっきりゴーレムのことを問いただされるのだと思っていたのに。

「そ、それは……私の責任でもあります!」

「いや。どんなことがあっても、君を一人にした私が悪い。もし君に何かあったら……」

彼は最悪の想像に至ったのか、言葉を途中で飲み込んだ。

深い苦悩に、唇を強く噛みしめる。

「私は無事です、公爵様」

クラリスは彼を安心させようと、まずは自分がここにいるという事実を伝えた。

「……そうか」

短くそう答えると、彼はようやく肩の力を抜いた。

「私はね、公爵様」

クラリスは布団を握りしめたまま、慎重に言葉を紡いだ。

「公爵様が、悩みが深くなってしまうんじゃないかって……心配していました。私の正体を……知ってしまったでしょう?」

「はっきり言おう、クラリス」

もっと込み入った話になると思っていたのに、彼はためらうことなく、すぐに答えを返した。

「私が唯一心配していたのは、お前があまりにも長いあいだ、ひとりで無理をしてきたということだ」

「わ、私は何も……」

「セリデン邸が急に位を上げたのも、お前の働きがあったからだろう?」

「……」

「歴代の記録を読んだことがある。セリデン邸は、ゴーレムマスターを置くことすら面倒がるほど、簡素な体制で成り立っていた、と」

「ち、違います!それは誤解です。私たちは二人とも、ただセリデンが好きなだけで……」

「やはり、ややこしいことになっているようだな。そういうことか」

「ど、どういう意味ですか……?」

「私が君を探していたとき、君が城壁の外にいるかもしれないと知らせてきたのは、セリデン邸の鐘だった」

鐘は大きく一度鳴り響き、しばしの間を置いてから、さらに四度続けて鳴った。

公爵夫人は、その意味を“のろし”を通じて誠実に伝えていたのだ。

一度目の鐘は、セリデン邸内部に迫る危機を。

四度続いた鐘は、北の城壁の外で始まった危機を示していた。

つまり、その報せを聞いたマクシミリアンは、「邸内の人間」であるクラリスが「北の外側」で危機に陥っている、そう受け取ってしまっても無理はなかった。

あるいは、必死にクラリスを探し回っていたのも、その誤解ゆえだったのかもしれない。

彼はこうした推測を誰にも口にせず、ひとりで城壁の向こうへと駆け出した。

たとえ自分の解釈が間違っていたとしても、鐘が四度も鳴らされた以上、城壁の外を調べる必要はあった。

幸いにも推測は外れておらず、城壁からさほど離れていない場所で、彼はクラリスと出会うことができた。

「どうすれば、君に謝れるのか……分からないな」

「え?」

「セリデンの鐘が鳴ったのは、君がセリデンに来てから、まだ一年も経っていない頃だった。きっと君は……その頃から、ゴーレムマスターとして邸を支えてきたんだろう」

なぜか彼が自分を高く評価しているように感じて、彼女は慌てて首を横に振った。

「そんなことありません!私はただ魔力を注いでいただけです。それで邸がセリデンをきちんと支えていただけで……」

「ゴーレムマスターが不在なのに、セリデン邸が以前と変わらず機能していた。その事実が、当時の私には何よりの証拠だったにすぎない。だが、君は静かにその問題を解決してくれた。あの時の私は、君を……」

彼はしばし唇を噛みしめ、深く頭を垂れた。

「……“罪人”と呼んでしまった」

それは、あまりにも奇妙な言葉だった。

クラリスは昔から今に至るまで、ずっと“罪人”だった。

だからこそ、彼がそう呼ぶこと自体は、何ひとつ不自然ではなかったはずだ。

――なのに。

今、目の前にいる彼の姿を見ていると、まるでその呼び名を口にしたことを、心の底から後悔しているように見えた。

「わ、私は……罪人です、公爵様」

胸に湧き上がる得体の知れない感情を押し殺しながら、そう答えた瞬間。

彼は即座に、それを否定した。

「違う。お前は罪人ではない」

クラリスは思わず息をのみ、彼を見上げた。

「罪を犯した者だけが、罪人と呼ばれるべきだ。だから、お前は――」

その声は、どこか妙な怯えを含んで、かすかに震えていた。

クラリスは、彼が何を考えているのかは分からなかったが、そっと自分から先に手を差し出した。

いつもクラリスが彼の手から慰めを受け取っていたように、今度は彼も、そうであってほしいと願いながら。

「すまない。うまく説明できないな。だが、君の血がどれほど尊いものかを否定したつもりはなかった」

王家が滅びたとはいえ、彼女の体には今もなお王家の血が流れている。

彼は他国の王族として、その尊厳を十分に理解していた。

クラリスの死が持つ意味さえも。

「すべて分かっている。それでも……俺は君を……」

彼はクラリスの手を包み込むように握り、しばしその上に額を預けた。

その切実な姿を見つめながら、クラリスは少し前にマクシミリアンが口にしていた言葉を思い出していた。

――愛は、人を簡単に変えてしまう。

そう思ったとき、彼がここまで苦しんでいる理由が、なぜだか分かった気がした。

――いつの間にか、公爵様も……私の死を、望まなくなってしまったのだ。

初めてその事実に気づいたというのに、驚きはあれど、不思議と戸惑いはなかった。

これまで彼が示してきた数々の情を思えば、この感情の変化は、むしろ自然な流れだったのだろう。

――それでも、はっきりと言葉にできないのは。

彼が、私が“王女”として背負う義務を、誰よりも重く受け止めているから。

そして、無理にでも生かそうとすれば、私が処罰される未来を恐れているからだ。

「……どうすればいいの?」

マクシミリアンの想いが、ありがたく、そして嬉しいものであることとは別に、クラリスの胸には、セリデンの行く末への不安が静かに広がっていた。

もし、王が悪意を抱くようなことがあれば――その時こそ、本当に取り返しのつかない事態が起きてしまうのではないか、と。

「でも……」

なぜか、言いたくなった。

もしかすると彼にわがままを言いたくなったのかもしれない。

少しばかり、出来事の規模が大きすぎただけで。

彼女は慎重に、その場から体を起こした。

「わ、わたし……」

呼びかける声に、彼はようやく顔を上げた。

「生き……たいです」

その瞳に驚きが広がるのを見た瞬間、クラリスはなぜか胸がどきりとした。

理由は分からない。

ただ、そう感じた。

「わ、私がこんなことを言う資格がないのは分かっています!自分の死が持つ意味も分かっていますし……」

クラリスはぎゅっと目を閉じ、心の奥にしまっていた、本当に正直な願いを口にした。

「大切な人たちのそばで、守りながら生きていたいんです。グレジェカイアの王女としてではなく……ただ……」

――『クラリスとして』。

その言葉は、結局、声になることはなかった。

それより先に、マクシミリアンが彼女を強く抱きしめてしまったから。

「……無事でよかった」

彼は、しばらくの間そうしていたが、やがて名残惜しそうに腕を緩め、そっと彼女を解放した。

「待っていた。君が、その言葉を口にしてくれるのを」

深い感情の滲んだ声だった。

「……で、でも」

その熱を帯びた言葉が嬉しい一方で、クラリスは気恥ずかしさを覚え、思わず視線を逸らす。

「……ご迷惑ではありませんか?」

「いいや。君がそこまで覚悟を決めていなければ、それこそ本当に……いや、何もかもが手遅れになっていただろう」

彼は、静かに首を振った。

「……俺は、きっと耐えきれずに絶望していた」

「……公爵様……」

何度も呼びかけてきた名を、今はほんの少し、違う響きで口にして。

至近距離で彼女を見つめ返すマクシミリアンの瞳は、これまでになく切実で、揺れていた。

「今回も、君が私を救ってくれたな」

「そんなことありません。これまでずっと私を生かしてくださったのは、公爵様です!」

「当然だ。君は私の子なのだから」

「……」

「何も心配する必要はない」

「ですが、公爵様。殿下は必ず、妨げる者は誰一人残さず処刑するとおっしゃっていました……」

「君が何を恐れているのか、私は分かっている」

「……」

「そういうことは私に任せなさい。一人で背負うには、まだ君は幼すぎる」

「私は、十六歳です」

「まだ子どもに近い年頃だ」

「もう、子どもじゃありません!じゃあ、私が石を投げたり、拳を振るったりしてもいい年だって言うんですか?」

「君が、そこまでしてくれるのなら……それだけで、俺には過ぎるほどの喜びだ」

「もったいないお言葉です、公爵様」

少し前まで胸の奥に重く沈んでいたものが、ふっと和らいだ気がして、クラリスは思わず微笑んだ。

もしかすると――彼の言葉通り、彼女が長いあいだ抱え込んできた恐れの一部を、マクシミリアンが静かに受け取ってくれたのかもしれない。

 



 

 

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