こんにちは、ちゃむです。
「監禁王子のメイドとして生き残る方法」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
59話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 王都の仕立て屋
アルバートと離れて過ごす間、私は王宮に最も近い王室図書館を利用していた。
向かう途中で出会う人々は、皆丁寧に挨拶をしてくれる。私はもう爵位を授かった貴族なのだ。領地の管理については、アルバートが人を手配してくれると言っていたので本格的には始められていなかったが……。
王室図書館で本を借りた私は、ほとんどの時間を勉強に費やしていた。ドラゴンの棲み処について書かれた情報はほとんど残っておらず、実際に行くまでは何も分からないだろう。だからこそ、出発する前に少しでも多く学んでおかなければならなかった。
アルバートは、私が王室図書館へ通うことを止めなかった。きっと問題ないと判断したのだろう。彼自身、ドラゴンと契約するつもりだったのだから。
けれど残念なことに、私の未熟な実力では、空間移動は私が一度訪れた場所にしか使えなかった。ハヤンはドラゴンの棲み処の場所を知っていたが、そこは特殊な空間らしく、空間移動では行けないようだった。そのため、私たちは実際に空を飛んで向かわなければならなかった。そのこともあって、私はさらに魔法の勉強に打ち込んだ。大学受験の勉強をしていた頃以上に必死だった。コーヒーがなくても平気なのが不思議なくらいだった。
そんなふうに本に埋もれる日々が過ぎ、ついにメルシーと一緒に出かける日がやってきた。
「元気にしていましたか?」
部屋へ入ってきたメルシーが手を振った。大仕事を終えたばかりのように、彼女の表情は晴れやかだった。やることがあると言っていたが、無事に終わったようだ。
「私は元気でした。メルシーは?」
「私も元気でした!」
その声は活気に満ちていた。
私は今日のためにおしゃれをしたメルシーの姿を見て、思わず感嘆した。華やかなレースがあしらわれたドレスは、一歩間違えれば派手になりすぎそうなのに、不思議なほどメルシーによく似合っていた。まるで彼女のためだけに仕立てられた一着のようだった。
「今日はとても機嫌がよさそうですね。」
「お姉様のおかげで、買い物に行けるようになりましたから! それに、トラウマも乗り越えられましたし。」
そう言って目を少し伏せたメルシーは、口元に微笑みを浮かべた。影の差したその表情は、どこか妖艶な魔女のようにも見えた。
「トラウマを乗り越えたんですか?」
「はい。」
続きを聞こうとしたが、メルシーは短く答えると話題を変えた。
「今日は外出してドレスを仕立ててもらいますけど……前に持ってきたものは気に入らなかったので、新しく選んできました。」
彼女は、自分が着ているものと同じような、なめらかなサテン生地のドレスを私の手に差し出した。淡いピンク色のドレスには、繊細なレースがふんだんにあしらわれていた。
「ありがとうございます。」
私は少し戸惑いながら、そのドレスを受け取った。
「お着替えをお手伝いします。」
侍女たちが次々と入ってきて、メルシーから贈られたドレスを着るのを手伝ってくれた。ふんわりと広がるスカートは、くるりと回ると優雅に裾をなびかせた。まるで貴族令嬢になったような気分だった。
「今、王都で一番有名なデザイナーのところから持ってきたんです。今日の予約も取ってあります。」
「……予約ですか?」
「はい。今日はそこへ行きます。ロゼも新しい服を買わないといけませんから。既製品だけでは足りませんよ。」
メルシーは当然のことのように言った。私から見ればドレスはもう十分あるように思えるのだけれど、すぐに考え直した。この世界の「普通」と、私の「普通」は違う。貴族になった以上、それにふさわしい生活の仕方も覚えなければならない。貴族としての暮らしについても勉強しておくべきだったが、魔法の勉強で手一杯で、そこまで気が回らなかった。今はまず、メルシーの言うことに従うのが一番だろう。
どうせ二時間くらいで終わるはずだ。今日は一日中時間があるし、アルバートへの贈り物を選ぶ時間も十分ある。候補は前からいくつか考えていた。状況だけ見れば、まるで新婚生活みたいだけれど……。
私はメルシーの言葉にうなずいた。
「私よりメルシーのほうが詳しいですし、メルシーにお任せします。」
「とてもいい考えですね。」
満足そうに笑ったメルシーは、ぱんと手を打った。そして私の膝の上で丸くなっているハヤンを見て、意味ありげに微笑んだ。
「ドラゴンも覚悟しておいたほうがいいですよ。」
ハヤンがぴくりと体を動かした。
「えっ……?」
ハヤンは意を決したように口を開いた。
「ぼ、僕は服なんて着られないよ……。」
ハヤンの言葉に、メルシーはまったく気にした様子もなく笑った。
「アクセサリーもたくさんありますよ。見るたびに可愛くて、帽子もかぶせてみたかったし、マントも着せてみたかったんです。ちょうどいい機会なので、ちゃんと用意しておきました。」
帽子をかぶったハヤンだなんて、想像しただけでも可愛い!
ハヤンが私の手をちょんちょんとつついた。
「……ロゼ?」
私はメルシーの言葉に賛成してうなずいた。
「ハヤン、きっとすごく似合うと思うよ。」
マントを羽織ったハヤンの姿を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれた。
メルシーと私の視線が合う。
「では、行きましょうか?」
幸せな想像を胸に、私たちは宮殿を後にした。
街へ出るのは初めてだった。
馬車に乗ると、メルシーは私に帽子を差し出した。
「今は陛下をはじめ、反逆の主役たちへの注目がものすごいですから、かぶっておいたほうがいいですよ。」
「私もですか?」
「陛下があれだけ大々的にあなたを公表しているんです。知らない人を探すほうが難しいくらいですよ。」
これまで宮殿の外へ出たことがなかったから知らなかったけれど、人々の間では私の名前はすでに広く知れ渡っていたらしい。
ロゼ・アティアス。
アルバート・グレイへのただひとつの忠誠心だけを胸に、彼とともに塔へ入り、そこでアルバートに献身的に仕えた侍女。その後、反逆の立役者として功績を立て、侍女の身分を離れて貴族となり、現在はアルバートの寵愛を受ける忠実な臣下。そして非常に強力な魔法使いでもある――そんなふうに知られているらしい。
正直、メルシーが少し話を盛っている気がした。私は女で、アルバートは男だ。私は侍女で、アルバートはこの国を治める王。私が彼の寵愛を受けていると聞けば、純粋な意味だけで受け取られることはまずないだろう。
私の表情をうかがっていたメルシーは、考えを見透かしたように口を開いた。
「後ろを見てください。馬車についてきている人たちが見えますか?」
メルシーは馬車の後方を指さした。振り返って後ろの窓から外を見ると、馬車の後ろで人々が手を振っているのが見えた。彼らの顔には明るい笑顔が浮かんでいた。
「陛下が王国の情勢を安定させた後、最初に行われた大きな施策が食糧の配給だったんです。ロストラトゥが人々を欺いていたことを、はっきりと証明したのですから。」
「そうです。」
「……」
「殿下が人前に立つたびに必ず強調されるのは、『ロゼ、あなたのおかげで塔から出られた』ということです。ですから、ロゼに対する世論が好意的になるのも当然でしょう。」
すべては殿下の綿密な計画だった。くすりと笑うメルシーを見ながら、私はアルバートがどれほど思慮深い人なのかを改めて実感した。私が噂を気にしていたことを、アルバートはよく理解したうえで対処してくれていたのだ。
こんなにも私のことを考えてくれる人に贈るなら、どんな贈り物がいいだろうか。彼が本当に喜んでくれるものを。
私は、アルバートが心から笑うときの美しさを知っている。彼がどれほど思いやりにあふれた人なのかも、私の名前を呼ぶ声がどれほど美しいのかも。彼は私が自分の名前を呼ぶのを好む。感謝の言葉を聞くことも好きだし、陽の差し込む部屋の木陰のような場所も好きだ。静かな場所で本を読むのが好き。
でも、私はまだ彼のことを知らないことが多すぎた。彼の好きな色は何なのか、好きな音楽は何なのか。もしかしてメルシーなら知っているだろうか。私よりずっと長くアルバートを知っているのだから、知っていてもおかしくない。
「王子様……いえ、陛下がお好きなものってありますか?」
「え?」
目を丸くしたメルシーは、首を横に振った。
「分かりません。正直、私よりロゼのほうが陛下のことをよく知っていますよ。」
「そんなことありません。知り合ってからの時間はメルシーのほうがずっと長いじゃないですか。時間は無視できませんよ。」
「本当に顔見知りというだけなんです。私は陛下の笑った顔を見ることすら、まだ慣れないくらいです。公爵様やシュベルトも同じだと思いますよ。」
シュベルトまでそうだなんて、少し意外だった。誰よりもアルバートのことをよく知っている人だと思っていたのに。
……なのに。
私の顔を見つめながら、メルシーは手を上げて線を描くような仕草をした。
「あなたは誰にも本心を見せるタイプではありません。親しみやすく見えても、いつも心に壁を作っています。」
「……」
「 shadow_05 でも、お姉様はそんな殿下の心を開いたんです。一生誰にも壊せなかった殿下の壁を。」
メルシーは私の前にすっと顔を近づけた。
「いったいどうやったんですか?」
「……私は、ただ普通に接していただけです。」
本当に特別なことは何もしていなかったので、少し気恥ずかしかった。私の答えを聞いたメルシーは「ふーん」と声を漏らし、腕を組んだ。
「まあ、その答えは殿下ご本人にしか分からないでしょうね。では、そろそろ降りましょうか。」
馬車が止まった。
私はメルシーと一緒に馬車を降りた。三階建ての大きな建物の前では、一人の女性が私たちを待っていた。上品な身なりのその女性は、私を見るなり丁寧に一礼すると、私の手をぎゅっと握った。私を見つめる彼女の目は、眩しいほどに輝いていた。
「はじめまして、ロゼ・アティアス様。私はこちらのデザイナー、クロエルです。お会いできて光栄です!」
感激したような口ぶりに、嘘は感じられなかった。私は戸惑いながら彼女の手を握り返し、周囲へ視線を向けた。
建物のあちこちには、華やかなドレスをまとい、美しく髪を結い上げた人々が立ち並び、皆が私を見つめていた。好奇心から眺めている人がほとんどだったが……その視線にはさまざまな感情が入り混じっていた。まるで檻の中に入れられた動物になったような気分だった。
……だった。
「あの人が……」
「そう、あの人が……」
扇子を手に日傘を差した人々が、ひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。
うーん、これがいわゆる好奇の視線ってやつか。
一か月後には、あの人たちと顔を合わせなければならない。そのとき、私はちゃんとやっていけるだろうか。人と距離を置いた生活をしていたせいで、人間関係のストレスを忘れかけていた。アルバートは付き合うのが難しい人ではあったけれど、機嫌を損ねないよう接すること自体は、それほど難しくはなかった。でも、世の中にそんな人ばかりいるわけではない。会社で出会ったさまざまな人たちのことが頭に浮かんだ。
ハヤンの契約者として生き残るための勉強だけでも十分に頭を悩ませるというのに……。現実が少しずつ私の目の前に迫ってくるようだった。
私は気持ちを引き締めた。どうせ避けては通れないことだ、気楽に考えよう。アルバートと距離を置おうと思った理由の一つが、噂に振り回されることへのストレスだったけれど……。本当に耐えられなくなったら、その時はアルバートに助けを求めればいい。もちろん、何もかもアルバートに頼り切りになるつもりはなかった。
私は彼らを見て、にっこりと微笑んだ。「笑顔には敵わない」という言葉もあるじゃないか。第一印象は、やっぱり大切だから。
「今日は特別に、ロゼ様のために店を貸し切りにしております!」
クロエルはそう言って店の中へ案内しながら、にこやかに笑った。ソフトクリームのように高く結い上げられた髪型が印象的だった。
印象的だった。
170cmは優に超えていそうな長身に、高くまとめた髪。モデルのようなスタイルで、この世界の化粧とはまったく違うヌードカラーの口紅がよく似合っていた。
「では……」
彼女は引き出しの上から眼鏡を取り出して掛けた。ノートを手にしたクロエルが、私をじっくり観察し始める。笑っているときは気づかなかったけれど、無表情になるとかなり冷たい印象だった。普段から意識して笑顔を作っている理由が分かった気がする。どことなく雰囲気がレオナに似ている。
「まずは、もう一度採寸から始めましょう。」
ぼんやり考え事をしていた私は、クロエルの言葉に慌ててうなずいた。
彼女は私を部屋の中へ案内した。メルシーと、彼女に抱かれたハヤンが手を振る。
「部屋で待っていますから、ゆっくりどうぞ、お姉様。」
メルシーに励まされながら、私はクロエルの後について部屋へ入った。部屋のあちこちに鏡が置かれた、落ち着いた雰囲気の空間だった。
「では、始めてもよろしいでしょうか?」
「はい。」
クロエルは巻尺のような道具を取り出し、私の体の寸法を測り始めた。既製品の服ばかり買って着ていた私には、すべてが初めての経験だった。
「ご希望のドレスはございますか? デザインや、お好みの宝石、レースなどのご要望でも構いません。」
百貨店のVIPになると、こんな気分なのだろうか。クロエルは細かく私の体つきを確認していった。
「まだ具体的には決めていません。」
「でしたら、すぐにデザイン帳をお持ちしますので、少々お待ちいただけますか?」
クロエルは笑顔でうなずいた。親しみやすい雰囲気でありながら、礼儀正しく丁寧に私へ接してくれていた。
その姿は、私が初めてアルバートに会ったとき、まるで上司に接するような態度を取ってしまったことを思い出させた。
「奥にお茶をご用意しております。」
にこりと微笑んだ彼女は、私を部屋とつながった応接室へ案内した。応接室の壁の色合いは、落ち着きがありながらも華やかだった。ただ豪華なだけではなく、細部までこだわりが感じられる。やはり、どの分野でも頂点に立つ人は違う。こうして部屋をつなげた造りもそうだし、そのセンスには感心させられた。
「お姉様、こちらへどうぞ。」
メルシーは本を開き、すでに生地の種類やレースを見比べていた。ページをめくるたびに、スケッチされたレースのデザインや、実際に作られたレースやフリルの見本が並んでいる。気に入った要素があればすぐに選べるよう、サンプル帳になっていた。
ハヤンは目の前に置かれたティーカップをじっと見つめると、ごくごくとお茶を飲み始めた。
「うぅ……。」
けれど、自分で思っていた以上に熱かったのか、舌を出して顔をしかめた。可愛い。
私は紅茶と一緒に出された角砂糖を一つ、ハヤンのティーカップへぽちゃんと入れた。ティースプーンで軽くかき混ぜてから、もう一度ハヤンに紅茶を勧めた。半信半疑の表情で紅茶を飲んだハヤンの目は、すぐに丸くなった。ハヤンがにっこり笑う。
「おいしい。」
その無邪気な笑顔を見ていると、私まで嬉しくなった。ハヤンは本当に、そこにいるだけで人を幸せな気持ちにしてくれる。勉強をして、多くの人と接する中で話し方や声、表情は変わってきたけれど、それでもハヤンは変わらずハヤンだった。
「こちらです。」
ほどなく戻ってきたクロエルは、分厚い本を三冊、私の前に置いた。一冊目には、布地の種類がまとめられていた。
二冊目はメルシーが見ていたものと同じくレースやフリルの見本で、最後の一冊には本格的なドレスデザインがぎっしりと収められていた。
「アティアス様がお越しになると伺って、お姿や雰囲気を想像しながら描いたスケッチです。どうぞご遠慮なくご意見をお聞かせください。」
デザイン画の本の最初のページをめくりながら、クロエルはお茶を注ぎつつ話した。
「……この分厚い本、全部ですか?」
「殿下から特別にご指示をいただいたのです。それに、私はこの仕事が大好きですから。ふふ、とても楽しかったですよ。」
「クロエル、私は前に作ってもらったドレスも気に入っていたのだけれど。」
「もちろんです。メルシー様がお気に召してくださったデザインに合わせたスケッチもご用意しております。」
メルシーの言葉を聞くと、クロエルはどこからともなく紙の束を取り出して差し出した。その分厚い紙束は、すべて彼女が描いたデザイン画だった。メルシーは満面の笑みを浮かべながら、クロエルのデザイン画を受け取った。
「どうぞご覧ください、アティアス様。お気に召すものがなければ、お申し付けください。」
にこやかに話すクロエルは、本心からそう言っているように見えた。
私は、アルバートが彼女を働かせすぎているのではないかと少し心配になった。……まさか原作には、アルバートが恋に落ちると相手しか見えなくなって暴君になる、なんて設定はないよね? 私を最優先にしてくれないことで寂しく思う日があるかもしれない。それでも私は、彼が誰からも愛される王であってほしかった。
メルシーも私と同じことを考えたようだった。デザイン画を見ていた彼女が、おずおずと口を開く。
「陛下のご命令とはいえ、あまりご無理をなさっているのではありませんか?」
クロエルはメルシーの言葉に目を丸くしたあと、小さく首を横に振った。その表情は思っていた以上にきっぱりとしていた。
「いいえ。私がやりたくてやっていることです、アティアス様。」
「……あなたには感謝していることがあるんです。」
「……私にですか?」
クロエルの言葉は意外だった。今日が初対面なのだから。……それとも、ロゼ・アティアスと関わりのある人なのだろうか。ロゼ・アティアスとして暮らしてきて、彼女と関係のある人物に会ったことはなかった。
「はい。」
クロエルは当然のことのようにうなずいた。私はごくりと唾を飲み込んだ。聞いてもいいものか、一瞬ためらう。けれど、クロエルの口から出たのは、まったく予想外の言葉だった。
「私の妹を助けてくださったと聞いたんです。」
「……妹さん?」
補佐たちに何か指示を出したクロエルは、再び私を見てうなずいた。
「まさか、その妹さんって……」
私はクロエルと似た雰囲気を持つ人を思い浮かべた。
「そういえば、レオナさん。」
「妹さんがいるんですか?」
メルシーが横から口を挟んだ。クロエルはあっさりとうなずく。
「隠していたわけではありませんが、あまり顔が似ていないので、私たちを姉妹だと気づく人は少ないんです。それに、お互い家を出て別々に暮らしていましたから。……それより、妹がアティアス様にお世話になったと聞きました。」
「お世話になったのは私のほうですよ。牢獄から出る時にも、一緒に連れ出していただきましたし。」
「それはアティアス様がお願いしてくださったからです。そうでなければ、今も他の騎士たちと同じように牢獄にいたかもしれません。だからこそ、お礼も兼ねて精一杯準備したんです。」
クロエルとレオナが並んでいる姿を思い浮かべると、たしかに雰囲気はよく似ていた。職人らしい落ち着きと、どこか余裕を感じさせる佇まいが。
レオナと最後に話したのは地下牢でのことだった。まさかこんな場所で彼女の話を聞くことになるなんて、なんだか嬉しかった。
「レオナ様はお元気ですか? 私もお会いしたのは、あのときが最初で最後でしたから……」
「とても元気にしていますよ。それに今回……」
クロエルは懐から紙の束を取り出すと、高く掲げて楽しそうに笑った。それから身をかがめ、私の耳元でこっそり囁いた。
「臨時の騎士団長を任されることになったそうです。この話は、アティアス様だけにお伝えする秘密ですよ。」
「臨時騎士団長ですか?」
「騎士団の大半が不正に染まっていた者たちでしたから、粛清が終わった後は人材がほとんど残っていなかったんです。だからこそ任されたのでしょう。」
クロエルは少し照れくさそうな表情で頭をかいた。そして紙の束とペンを取り出した。
「どうぞごゆっくりご覧ください。その間に私はデザイン画を描いております。試着していただけるよう、三十着ほど仮縫いも用意してありますので、お茶を召し上がっている間に準備いたします。」
「……三十着ですか?」
「さすがクロエルさんですね。」
「ふふ、それくらいは当然ですよ。」
――いや、それは全然当然じゃない。
私はそう思いながら、一枚一枚デザイン画を見始めた。どのスケッチも想像以上に細かく描き込まれており、さまざまなデザインのドレスが並んでいた。
「社交界デビューを控えていらっしゃいますから、舞踏会用のドレスは華やかなものがおすすめです。」
ダイヤモンドのような宝石をふんだんにあしらったドレスもあり、スケッチだけでも圧倒されるほどの豪華さだった。
「アティアス様なら、社交界デビューと同時に話題をさらうことでしょう。私がお手伝いするなら、なおさら自信があります。」
「怖がる必要なんてありませんよ!」
クロエルは自信に満ちた笑みを浮かべた。その言葉を聞くと、先ほど人々の警戒するような視線を浴びて強張っていた心が、ふっと軽くなった。
クロエルは本当に私のことを気にかけてくれていた。ただ妹を助けたという、それだけの理由でここまで親切にしてくれるなんて。何気なくした行動だったけれど、その影響は思っていた以上に大きかった。私の小さな行動一つで、多くのことが変わるのだと実感する。
彼女がここまで一生懸命準備してくれたのだから、私も真剣に向き合おうと思った。私はデザイン画を見ながら、気に入ったデザインに印を付け始めた。
私の反応を見ながら熱心にスケッチを描き進めるクロエルの姿は、とても尊敬できるものだった。やはり、自分の仕事に打ち込む人は美しい。そんな彼女の仕事ぶりを眺めているうちに、アルバートに贈るのにぴったりなプレゼントのことも思い浮かんだ。あとでクロエルさんに聞いてみよう。
そこへ彼女の助手たちが、たくさんの帽子を抱えて部屋に入ってきた。クロエルはペンと紙を置き、手を拭いてから、私の隣に座るハヤンを見て微笑んだ。
「猫ちゃんに似合う帽子も、いろいろご用意してみました。」
そう言って、クロエルは私に帽子を差し出した。
「おそろいで合わせてみたんです。」
ハヤン用の小さな帽子と、私用の大きな帽子が次々と運ばれてくる。私とおそろいの帽子だと気づいたハヤンの目が、きらきらと輝き始めた。
――そして、ぎこちなくも微笑ましいファッションショーが始まった。
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出発前の猛勉強とメルシーとの合流
ロゼは王室図書館に通い、ハヤンとドラゴンの棲み処へ向かうための魔法の勉強に没頭します。その後、自身のトラウマを乗り越えて晴れやかな表情のメルシーと合流し、アルバートへの贈り物選びも兼ねて王都の高級ブティックへと向かいました。
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アルバートの配慮と王都での知名度
馬車から街の様子を見たロゼは、アルバートが「ロゼのおかげで塔を出られた」とアピールし、迅速な食糧配給を行ったことで、自分が英雄として好意的に受け入れられていることを知ります。周囲の好奇の視線に戸惑いつつも、ロゼは前向きに貴族としての現実に立ち向かう決意を固めます。
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デザイナー・クロエルとの出会いとレオナの出世
担当デザイナーのクロエルは、かつて地下牢から一緒に脱出した騎士レオナの姉でした。クロエルから、レオナがロゼへの恩義から臨時騎士団長に抜擢されたという秘密を聞かされたロゼは、自分の小さな行動がもたらした影響の大きさを実感し、ハヤンを交えた楽しい試着会に臨みます。