こんにちは、ちゃむです。
「転生令嬢は治療スキルで異世界のみんなを救おうと思います」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
23話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 大きくて可愛い私の友達
少女は私の家に連れて帰ることになった。
「外泊は禁止よ。遊びもほどほどにね」
――と、お母様に釘を刺されたからだ。
お母様は「調べなければならないことがあるから忙しくなる」と言って先に帰っていき、レナートとロンも一緒に連れて行ってしまった。
あんな立派な建物を建てておいて、それを「病院ごっこ」なんて言ってしまうあたり、スケールが違いすぎる。
(やっぱり、生まれながらのお金持ちは違うなぁ……)
母も名家の出身らしい、という話はそれとなく耳にしたことがある。……それとなく、だ。
本人たちの口から直接聞かされたことは一度もない。
私は生まれてから一度も、祖父母や親戚に会ったことがなかった。両親ともその話題を意識的に避けているようだったし、私自身も無理に聞く必要はないと思っていた。
(親戚だからといって、必ずしも味方とは限らないしね)
そんな話は前世でもよくあることだった。お二人が話してくれないのには、それなりの理由があるのだろう。私は一度も会ったことがなかったので特に気にもしておらず、ただどこかで元気でいてくれればそれでいいと思っていた。
けれど、皇宮で過ごしていると、師匠以外の先生方が時々うっかり口を滑らせることがあった。お母様やお父様の旧姓を言い間違えたり、二人が実家と疎遠になっている事情を口にしそうになったり。
そんな時は決まって、レイヴンが机を足で蹴ったり、鋭い視線を送ったりして相手の口を閉ざさせた。そして、その先生が再び皇宮に呼ばれることは二度となかった。
(……恐ろしい子。前世だったら、あなたは不当解雇で訴えられていたわよ)
ともかく、母が生まれながらの富裕層であることは間違いない。だから金銭感覚が一般とズレているのだ、という結論に至った。
病院を建ててほしいと頼んだときも、「そんな程度のこと?」というリアクションだったし、両親は私の「やりたい遊び」に付き合ってあげる感覚で協力してくれているのだろう。まるで娘に高級なおままごとセットを買い与えるように。
もし正体を隠さずに開業すれば、人々はきっとこう陰口を叩くに違いない。
『ウェントワース家のお嬢様は、病院ごっこまで豪華なんですね』
……私だって他人のことならそう言いたくなりそうだ。だからこそ、両親が余計な悪評を立てられないよう、これからも身分を隠して行動しようと心に決めた。
「それじゃあ、私は明日からここで治療師として働くんですか?」
マリアが尋ねてきたので、私は首を横に振った。
「ううん。まだ注文している備品も届いていないし、病院は来週から開く予定なの」
その前に、やらなければならない準備があった。レオンとイアンが勝手に患者を連れてきたせいで、開院前に最初の患者を診る羽目になってしまっただけなのだ。
「それから来月には、レイヴンがアカデミーの寄宿舎に入るの。私は送別パーティーには出ないけれど、皇后陛下が最後にみんなでお茶会をしようっておっしゃっていて……」
以前から皇后陛下とは親しくしていたし、両親も同席する場だったので特に気を遣う必要はなかった。面倒ではあったけれど、「あの退屈な授業を最後まで受けなくていい」と言われれば、十分に行く価値はある。
学者先生は名残惜しそうに「授業に戻ってきなさい」と何度も言っていたけれど、私は聞こえないふりを決め込んだ。
(……なんだか嫌な予感がするのよね)
学者先生の引き止め方が、どこか妙に引っかかったのだ。レイヴンもやけに無口だったし……。
「行きましょう、サナ様」
エブリンが少女をひょいと軽々と抱き上げた。レオンとイアンが気まずそうに後ずさる。
「エブリン、それは俺たちがやること……」
「腕力なら私のほうが上よ」
イアンは「それはそうだけど……」と力なく認めた。双子はエブリンに腕相撲で一度も勝ったことがないらしい。マリアは肩を落とす双子の背中をポンポンと叩いて慰めたが、二人ともまったく嬉しそうではなかった。
◆
屋敷に戻り、まずは眠っている女性の体をきれいに洗ってあげることにした。
エラが手伝うと言ってくれたけれど、この子は私のお客様だから自分でやると断った。もちろん、エブリンも手伝ってくれた。力持ちの親友、最高である。
泥で固まっていた髪を洗い、しっかり水気を拭き取ってから丁寧に梳かした。私の予備の寝間着を着せ、傷跡の残る足首には軽く包帯を巻いておく。
夕食を済ませて部屋に戻ってきても、彼女はまだ眠ったままだった。自分のベッドに見知らぬ誰かが寝ているのを見るのは、なんだか不思議な気分だ。
惜しいことに、実に整った顔立ちをしている。目を開ければ、きっともっと可愛らしいのだろう。おとなしい印象だが、笑えばさらに可愛いに違いない。
それにしても、かなり時間が経ったはずなのに一向に目を覚ます気配がなかった。
「起こしたほうがいいかな? 何か食べさせたほうがいいんじゃない?」
「起きたら、サナ様のベッドから追い出されちゃいますよ……」
エブリンが妙なことを言い出した。
「そんなこと気にしなくていいよ」
「私のベッドに寝かせればいいのに、どうしてわざわざサナ様のベッドなんですか?」
「私がすぐ様子を見られるからだよ」
エブリンは不満そうに唇を尖らせた。
「私も大きくなったら、もうベッドの上には上がれないんですよね……」
「前に『一緒に寝よう』って言ったとき、エブリンが嫌だって言ったじゃない」
「……それとこれとは別です」
「昔は一緒に寝てたのに!」
「今はもう大きくなりましたから。ご覧になったでしょう? ベッドが壊れたらどうするんですか」
本当に、この子は心配性なんだから。
「新しいのを買い直せばいいでしょ」
そう答えた直後、(この親にしてこの娘か……)というロンの呆れ声が脳裏をよぎったが、すぐに振り払った。堂々としていればいいのだ。私は正々堂々と生きている。
「初めて会ったときのエブリンなんて、私の手のひらサイズしかなかったんだよ? 本当に、本当に、本当に可愛かったなぁ」
「……サナ様もです……」
「お腹はぷにぷにで、毛もふわふわだったし」
エブリンの頬がみるみる赤く染まっていく。
「目も鼻も真っ黒でつやつやしてて、どれだけ可愛かったことか。一目見た瞬間に惚れ込んじゃったよ……」
「…………」
「それなのに、いつからか変身した姿を見せてくれなくなっちゃって」
「……大きくなりすぎましたから……」
「でも格好いいじゃない? せっかくだし、今日は――」
私は目を輝かせて提案した。
「ベッドもないんだから、一緒に寝ようよ! せっかくだし、本来の姿に変身して!」
「そ、それは……」
「重くならないように、ちょっとだけ抱きつくだけだから!」
「……サナ様は軽いですから……」
「じゃあ、お願い聞いてくれるの!?」
「……それとこれとは別です。私はもう子どもじゃありませんから。『可愛いから』『いい子だから』って甘やかしてくださっていましたけれど……」
「えっ!?」
何それ、初耳なんだけど。
「誰がそんなこと言ったの!? レオン!? イアン!? 誰が変な知恵を吹き込んだの!? お説教してやるんだから!」
「……いいえ。ただ、その、もう大きくなりましたから……」
「大きいほど可愛いって知らないの!?」
なんで知らないの!? なんで!? 可愛いものは、大きくなったらもっと可愛いに決まってるじゃない!
「そ、そうなんですか……?」
エブリンが戸惑いがちに小さく呟いた。
私はその隙を逃さず、エブリンの腰にがばりと抱きついた。見た目は可憐な十五歳の少女だが、私が体重をかけてしがみついてもびくともしない。相変わらずの怪力だ。
「当然でしょ! だからエブリン、お願い! ソファじゃなくて床で寝てもいいから!」
「サナ様をどうして床で寝かせられるんですか!?」
どうしてみんな、そういうロマンを理解してくれないのだろう。自分の体をすっぽり包めるくらい大きな動物にもたれて眠ること。ふかふかの毛に頬を埋めてまどろむ――そんな夢。
ああ、想像するだけで幸せになれる。前世では動物を飼える環境じゃなかったし、たとえ普通の家庭だったとしても、狭い家で人が抱きつけるほど大きな動物を飼うなんて不可能だったのだから。
「エブリン、ね? お願い、ね?」
「サナ様……」
「私の部屋のカーペット、ふかふかなんだよ? 足がすっと沈むくらい! 一緒に毛布にくるまって寝よう? ね? ね?」
エブリンは戸惑ったように口を開閉させていた。もう陥落寸前である。
我が家の家族はみんな私に甘い。この家で七年間暮らしてきた私は、その愛を存分に利用できる、ちゃっかりした子に成長していたのだ。
私は両手を合わせ、今にも泣き出しそうな瞳で懇願した。
「エブ、お願い。一緒に寝よう? ね? ね? ね?」
「……アナイス様やカイル様にも、そういう可愛らしい姿をお見せになれば、お二人も寂しい思いをなさらないと思います」
「お母さんもお父さんも、そんなことしなくたって私のお願いなら何でも聞いてくれるよ」
「……」
本当に素直でまっすぐな子だ。ふふ、誇らしい。一体誰がこんな良い子に育て上げたのだろう。(このままでは遠慮のない子に育つぞ、とセルフツッコミを入れても、「そうなの? かわいいね」と言って生温かく見守ってくる両親のせいなのだが……)
エブリンは何とも言えない表情でしばらく私を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。
「わかりました。でも、今日だけですよ」
「やったー!」
まだ七歳でよかった。甘えが通じる年齢万歳である。
部屋中を飛び跳ねて喜ぶ私を見て、エブリンがぼそりと呟いた。
「このお願いを断れる人なんて、この世にいるんでしょうか……」
たくさんいると思うけれど、少なくともこの屋敷にはいない。
◆
最高……。
大きなモフモフ、最高……!
柔らかな毛並みに包まれ、自分より少し高い体温を感じているうちに、だんだんと睡魔が襲ってきた。巨大な狼の姿となったエブリンは、スースーと穏やかな寝息を立てて眠っている。
「本当にかわいい……」
黄金色の毛並みはゴールデンレトリバーみたいだけれど、体格はずっと大きい。むしろ大きいからこそ最高なのだ。
(エブリンも、あの女の子のことが気になっていたのかな……)
奴隷として扱われていた境遇が、昔の自分と重なって見えたのかもしれない。
(『可愛くないから見せなかった』なんて、もっと早く聞いておけばよかった。変に気を遣って損しちゃったな)
エブリンと初めて会ったときことを思い出す。どうして私によくしてくれるのかと聞かれ、私が「可愛いから」と答えたことを、エブリンはずっと気にしていたのだ。
まるでバカみたいだ。
好きだから可愛いし、可愛いから好きなのに。
けれど、その不安になる気持ちが分からないわけではない。
誰かを好きになるのに理由なんていらない。けれど、自分に自信がなく、愛された経験が少ない人ほど、そのシンプルな言葉を素直に信じられなくなるのだ。愛されるには、何か納得できる「理由」が必要だと思い込んでしまう。
時間をかけて、ゆっくり信じられるようになればいい。外見でも、能力でも、身分でもなく、ただその存在が愛されているのだと。
だから、「どうして私を好きなの?」と聞かれると、少し悲しくなる。
きっかけは人それぞれかもしれない。けれど、「大切にしたい」「そばにいたい」という気持ちは、理屈で生まれるものではないのだから。そして、その気持ちが芽生えたら、あとは時間をかけて深まり、愛になっていく――。
――と、お父様が昔言っていた。
正直、私自身も愛が何なのかはよく分からない。前世も含めて、まともな恋愛なんてしたことがないからだ。
私は布団をしっかり巻きつけたまま、サナギのようにモゾモゾと動いてエブリンの太い腕の中から抜け出した。
「う、うぅ……」
やっぱり。
忍び足でベッドへ近づき、よじ登る。もっと背が高くなるように、これからは体力づくりも頑張ろうと心に誓いながら。
「うぅ、うぅ……!」
手を伸ばして少女の額に触れてみる。熱はない。悪夢を見ているのだ。
「こら、手を出しちゃダメ!」
ぺちん、と軽い音を立てて私の手が叩かれた。
エブリンが気を利かせて、私が抜け出すのを横目で見ないふりをしてくれていたのだろう。
「近寄るな……! ここはどこ!? あんた誰!? 私に何をする気!?」
「うーん……」
どう説明したものだろうか。
「来るなって言ってるでしょ!? 来たら殺す! 捕まるくらいなら死んだほうがマシなんだから!!」
私は怯えきった様子で息を荒くする彼女の混乱した瞳を、そっと手のひらで覆った。彼女はビクリと身体を震わせたけれど、もう私を叩こうとはしなかった。
「全部、夢だから」
「……」
「眠って目が覚めたら、つらいことも痛いことも全部終わってるからね」
ねんね、ねんね。
痩せこけた背中を優しく撫でながら、気を練って作った治癒の力を浸透させていくと、少しずつ彼女の体から強ばりが抜けていった。
「ねんね、ねんね、いい子だよ……♪ 前のお山も後ろのお山も……」
……子守歌の続きの歌詞、忘れちゃったな。
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両親の破格のサポートと身分を隠す決意
サナは、病院開院を「豪華なおままごと」のように全面的に支援してくれる両親の規格外な金銭感覚に呆れつつも、両親に悪評が立たないよう身分を隠して行動することを改めて心に決めます。
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エブリンとの絆と「大きなモフモフ」の夢
「大きくなったら可愛くないかも」と不安がっていた親友のエブリンを巧みな甘えで説得し、大きな狼の姿に変身したエブリンの毛並みに包まれて一緒に眠るという念願の夢を果たします。
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悪夢にうなされる少女への優しさ
目を覚まさず怯えて暴れる患者の少女に対し、サナは前世の記憶や自身の経験を重ね合わせながら、優しく寄り添い、治癒の気と子守歌で悪夢から救い出そうと努めます。