悪役なのに愛されすぎています

悪役なのに愛されすぎています【106話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役なのに愛されすぎています】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

106話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 動揺⑤

空は、悪い子の願いにはあまり関心がないようだった。

雨は霧雨のようにすぐに止んでしまった。

太陽が見えないほど曇っていた空も、足早に晴れていった。

温室から馬車に戻るとき、メロディは少し戸惑っていたが、クロードにそっと傘を差し出されて移動した。

地面がぬかるんでいて裸足で歩くには適さないという理由からだった。

彼はメロディを軽々と抱き上げた。

「無礼でしょう?」という彼女の問いにも彼はただ笑っているだけだった。

馬車に戻った後、彼は彼女が無造作に脱いでいった靴を履かせてくれた。

その丁寧な親切に、メロディは断ることができなかった。

なぜかこれが最後になる気がして。

彼が差し出した真心にもう少し誠実に、丁寧に応じることもできたはずなのに、あんな風に押しのけて逃げ出してしまった。

『ご主人様に傷……を与えてしまったのでは。』

メロディは、彼が自分を嫌ってくれた方がよいと思った。

傷つくよりはその方がましだから。

邸宅に戻った後は、お互いに礼儀正しく挨拶を交わし、それぞれの部屋に戻った。

その間、数人の侍女のうちの一人がずっと話しかけていたが、メロディにはなぜか耳に入らなかった。

だが「お風呂に入られますか?」という問いには、少し戸惑ったものの「そうします」と答えた。

体を洗えば少しは頭も整理できるかと思って。

けれど、温かいお湯に浸かっても、彼女の気分が晴れることはなかった。

「………」

ぐったりと湯船にもたれていたメロディは、静かに視線を動かし、自分の手首を見つめた。

その上に、私は自分の唇をそっと重ねた。

心臓の高鳴りが彼女の手首まで一気に届いた。

不思議な熱が伝わってくるのは、きっと彼が与えた感覚がまだ体に残っていたからだろう。

目をぎゅっと閉じると、遅れて涙がこぼれ落ちた。

『……しばらくは。』

彼女は全身を震わせながら、そっと祈った。

『どうか、坊ちゃんと顔を合わせることがありませんように。』

明らかに、彼と再び会ってもどんな表情をすればよいかわからず、また……変に未練が残った人のように見えるだけだった。

『時間が経てば大丈夫。』

それは今日の熱かった情熱も、簡単に消し去ってくれるだろう。

『ご主人様ももう……私を探すことはないでしょう。』

もちろん同じ邸宅で暮らしている以上、やむを得ず一緒になることもあるだろう。

しかしそのときはロレッタも一緒だから、きっと笑えるだろう。

そう決めて入浴を終えて部屋に戻ると、彼女の部屋には見慣れない贈り物の箱が山のように積まれていた。

「……?」

メロディは薄手のシュミーズドレスだけを着たまま、誕生日の朝のような光景をじっと見つめた。

幸いにも、彼女はすぐにその状況を理解することができた。

箱の色とデザインが商団のものだとすぐに思い出したおかげだった。

「荷物が届いたみたいね。」

部屋に戻るとき、侍女たちが何度も質問してきたのは、たぶんこの箱を部屋に運び込んでいいかどうかを聞いていたのだろう。

彼女は近くに置いてあった箱のリボンをほどいた。

開けてみると、中には薄紙で丁寧に包まれた乗馬用の手袋が入っていた。

帰り道、クロードが彼女に贈ったたくさんのプレゼントの中のひとつだ。

「……きれい。」

メロディは手袋をベッドの上にそっと置き、今度はもっと大きな箱のふたを開けた。

一番上にあったカードには、墓所の管理人ウェンデル・ベントンから「思い出をずっと大切にしていただけたら」と短く綴られていた。

その下には、彼女がクリステンソンで使った仮面と、初日に着ていた白いドレスが入っていた。

そう考えると、あの時はもしかして肩が露出していたのではと心配していた。

その馬鹿げた心配が頭をよぎると、メロディはつい笑ってしまった。

『せめて肩は片方だけ露出していればよかったと思ったのよね。』

今だから言えることだけれど、片方でも両方でも肩を露出することは大した問題じゃなかった。

きっとあの時は、新しい環境や慣れない状況にときめいていて、理性的な考えをする余裕がなかったのだろう。

『それでも楽しかったのに……。』

見知らぬ街、知らない人々、そしてお祭りのざわめき、すべてがよかった。

クロードが彼女をお嬢様として迎え入れてくれたことも。

今となっては、そんなことを思い出してもどうしようもないけれど――。

とにかくメロディはしばらくの間、彼を自分の人生から切り離すことに決めたのだ。

『あの方のことを考えるのも、もし可能なら……やめられたらいいのにね?』

彼女は私の考えに無理やり同意するようにうなずいた。

「たしかに、そうできたらいいのに」と。

しかしなぜか、贈り物の箱を開けるのが少し抵抗を感じられた。

箱の中のどれかが、彼を思い出させるだろうから。

だからといって、そのまま箱を放置するわけにもいかなかった。

『早く開けて整理するしかない!』

彼女は無表情のまま、次々と箱を開け、中身を取り出していく作業を繰り返した。

まもなく侍女たちが来て、物の場所を確認しながら整理を手伝ってくれた。

「お嬢様、この空き箱はどうなさいますか?」

「捨ててください。」

「えっ?」

「燃やしても構いません。」

メロディのその返答に、侍女たちは皆驚いて手を止め、彼女を見つめた。

それにしても、メロディはとても倹約家で、こんなにきれいな箱を決してただ捨てたりしなかった。

ドレスルームを整理するのに使ったり、文房具や使い終わったノートをまとめて保管する時にも使っていた。

「はあ、でもこれはとても丈夫な紙でできた良い箱ですね、お嬢様。」

「小さな箱の高さはまるでお嬢様のインク瓶がぴったり入る大きさですよ!」

彼女たちの話に、メロディは肩をすくめながら小さく笑みを浮かべた。

「うーん……今回は全部捨てちゃってください。そうしてもらえる?」

幸いにも侍女たちはメロディの頼みをすぐに聞き入れてくれた。

空の箱たちはやがて彼女の部屋から一つずつ姿を消していった。

メロディはふと思った。

人の感情もこの箱のように、簡単に片付けられたらどれほどいいだろう。

もしそうできるなら、今自分が感じているあらゆる未練がましい感情もこの箱に詰めて、どこか服も全部、自由に処分していいはずなのに。

『馬鹿げた考えだわ。』

そう思いながら、次の箱を開けると、中には靴が入っていた。

「まずは帰り道にどんな靴を履くことになるのか考えてください。楽しいはずですから。」

「種類や素材、色別にですよ。」

メロディは無意識のうちに脳裏によみがえったその瞬間を振り払うように靴を取り出した。

それは高いヒールの白い靴だった。

「……私、こんなの買ったっけ?」

メロディは自分でも信じられず、近くにいた侍女が答えた。

「お嬢様、それ全部坊ちゃんがクリステンソン旅行で買ってこられたものですよ。」

「ああ。」

そうだった。

使用人たちはこれらすべてを、クロードが一人で選び買った品物だと認識していた。

しかし現実は違っていた。

メロディはすべてのブリクスの店舗で、自分の気に入ったものだけを選んでいた。

そして確かに、このような新品の靴は買っていなかった。

けれど、この靴の形はかなり見覚えがあった。

「大丈夫よ。ブリクスの邸宅には、私の靴がまだ何足か残ってるはずよ。」

「……その時はごめんなさい、本当に。私がバカだった。」

「あなたのせいじゃないわ。私がそうしたかっただけだから。」

メロディがオーガストの靴を取り出そうとして水に飛び込んだとき、彼女は履いていた白い靴の片方を水の中で失っていた。

今、彼女の目の前にある靴は、まるでそれとまったく同じような形をしていた。

しかし同じものではなかった。

あの靴は水に濡れて台無しになったはずだが、これは一度も履かれたことのない新品だった。

『……これってまさか。』

メロディは靴を履いたまま、その場から勢いよく立ち上がった。

近くにいた侍女たちは驚いて「お嬢様?」と呼びかけたが、その時にはすでにメロディはローブを脱ぎ捨て、駆け出していた。

彼女はまっすぐに階段を駆け上がった。

薄いドレスの裾が膝に絡まっても気にせず、今は立ち止まる気にはなれなかった。

もし自分の考えが正しければ、このことを早く伝えなければならない。

メロディはクロードの部屋に到着すると、ノックもせずにドアを押し開けた。

「坊ちゃん!」

大声で呼ぶと、部屋の奥にいたクロードが驚いて振り返った。

「メ、メロディ?」

思いがけない訪問に驚いたのか、彼の目が見開かれた。

メロディは急いだ足取りで彼に向かって走った。

「お話があります!今、私の部屋で──!」

「ちょ、ちょっと待って!待って……!」

彼はなぜかメロディが近づいてくるたびに、ものすごい速さで後ずさっていた。

彼女を警戒するように。

まさか、少し前の暗闇の中で起きたことのせいだろうか。

もちろんメロディもあの出来事を思い出すと、こうしてクロードと向き合うのが気まずく感じていた。

「私だってわかってます、でも仕方ないじゃないですか!」

メロディは叫ぶように声を上げて彼の前に立った。

彼は壁にぴったりと背中をつけたまま、視線を完全に横にそらしていた。

「坊ちゃん、これをご覧ください。」

メロディは両手で持っていた靴をすっと差し出した。

「………」

しかし彼はなぜかメロディの方をまともに見ようとしなかった。

なぜそんなに嫌なのかと顔を上げて見ると、彼の瞳が小刻みに震えていた。

クロードは苦笑しながら答えた。

「えっと……これ、着てからまた……来てもいいですか……?」

「え?」

彼の言葉に返事をしようとしたメロディは、ふと自分の格好に気づいた。

脱いで出てきたままだったので、薄いシュミーズ姿だったのだ。

「み、見ないでください!」

メロディはその場にしゃがみ込み、必死に身を隠した。

「何も見てないよ……いや、見たかもしれないけど。」

クロードはすぐにベッドのそばに置かれていたブランケットを取り、彼女の背に掛けてやった。

ほどなくして、真っ青になったメロディの侍女たちが長い上着を持って入ってきた。

クロードは、彼女たちに自分の気まずい顔を見られたくなかったため、彼女たちが部屋を出るまで、ずっと窓の外を見つめながら背を向けていた。

「……人を困らせるほどの程度ってあるよな。」

彼はそうつぶやきながら窓に額を預けた。

 



 

メロディはちゃんとした服に着替えた後、再びクロードの部屋の前へと戻ってきた。

正直に言えば、彼女はさっきの騒ぎのせいで、前よりもっと彼と顔を合わせるのが気まずくなっていた。

「……全部見たはずよ。」

彼は一切見ていないと言ったが、そんなはずはなかった。

メロディがドアを開けたとき、一瞬その瞳が彼女にしっかりと向けられていたのだから。

彼はあまりにも驚いて、咄嗟にそうなったのかもしれないが、それでも感じてしまう羞恥心はどうしようもなかった。

彼女の気持ちを察した一人の侍女が「お嬢様、」と「もしお恥ずかしいようでしたら、私が坊ちゃんのお部屋に一緒に伺いましょうか?」と提案してくれたが、メロディは恐縮して首を横に振った。

クリステンソンでの出来事について話さねばならないときには、誰にも同席は許されなかった。

メロディは大きく息を吸い、ノックもせずに扉を開けた。

待っていたかのように扉がすぐに開かれた。

メロディは白い靴を胸に抱いたまま、深く頭を下げた。

「先ほどは、私が失礼をいたしました。申し訳ありません、坊ちゃん。」

「大丈夫です。だから、顔を上げてください。」

丁寧に返す彼に、メロディはようやく顔を上げることができた。

「おかけください。温かいミルクを用意してあります。飲めば、少しは気分が和らぐでしょう。」

そう言って彼が席を勧めたので、メロディはそっと腰を下ろした。

「飲んでください。」

彼が彼女の前に静かにカップを差し出し、もう一度勧めてきた。

メロディは持ってきた靴をテーブルの上に置き、彼が差し出したカップを受け取った。

温かいカップを両手で包み込むように持つと、緊張でかじかんでいた手がやわらかく解けていった。

「温かいですね。」

夏にはあまり使わない感想だけれど、どこか気恥ずかしいながらも、事実だった。

メロディは唇にカップを運んだ。

ミルクの香ばしさとともに、やさしい甘さが口の中に広がった。

「これは……」

「覚えてるのかい?」

「はい、美味しかったので。」

「随分前のことなのに。」

これは彼女が眠れなかった幼い頃に、クロードが作ってくれたものだ。

温かい牛乳にバニラシロップを混ぜたもので、これを飲むとその後はまるで魔法のように安心して眠れた記憶があった。

『今も私が落ち着けるように用意してくれたのかな』

メロディが慎重にコップを取ると、クロードは彼女が持ってきた靴の片方を手に取り、じっと見つめていた。

「……これを見つけてメロディ嬢が驚くのも無理はありませんね」

その小さな独り言に、メロディはわずかに頬を赤らめた。

それを見たクロードは慌てて、「ごめんなさい」と謝った。

「それだけ私も驚いたということです。決してからかおうとか驚かそうなんて思ってませんでした。本当です」

彼はすばやく話題を切り替えた。

「オーガストを探そうとしていた時、メロディ嬢は失くしたと思っていたものと同じデザインに見えるよ。確認してみようか?」

「確認ですか?」

クロードは席を立ち、机の内側にある装飾のひとつを押した。

その後、本棚から分厚い本を一冊取り出して戻ってきた。

「それは何ですか?」

「これ、中身が空っぽのようで、保管するにはちょうどいいんです。」

彼は少し気まずそうに笑ってから、本の上に装飾を差し込んだ。

すると驚いたことに、カチッという音とともに、本の形をした箱が開かれた。

「……!」

メロディはそれが本ではなく箱だったことに驚いたが、さらに中に入っている物を見てもっと驚いた。

メロディがクリステンソンで初日に履いていた靴の片方が、きれいに手入れされた状態で入っていたのだ。

「こ、これ……なぜここに保管されていたんですか?」

「好きな女性が履いていた靴をまるで展示するように保管してたら、メロディ嬢が変に思うかもしれないじゃないですか。」

いや、だからって秘密の箱まで使ってうまく隠しておくのも、なんだか怪しく見えた。

しかも自然に「好きな」なんて言葉までつけ足すなんて!

「失くした方が戻ってきたら、もう片方は僕からお渡ししたくて保管していたんです。」

「それって……」

メロディはカップを置き、彼を正面から見つめた。

「私がなくしたもう片方の靴が戻ってくる可能性があったってことですか?」

「はい、そうです。」

彼は箱から取り出した靴を、新しく見つかった靴と並べて置いた。

靴のつま先の形はもちろん、ヒールの高さや形、細部までまったく同じだった。

「メロディ嬢には言いませんでしたが、あの日オーガストが水の中に落ちたのは、水草の間にこの靴が引っかかっていたのを見つけたからです。」

「……なんてこと。」

「親切な子は、僕の靴を拾ってくれた人に感謝の気持ちを伝えたかったんでしょう。」

メロディはなぜかもどかしい気持ちになり、自分のスカートの裾をぎゅっと握った。

あの日、もし二人がオーガストを見つけていなかったら、小さな少年は急流を乗り越えられなかったかもしれない。

もしそうなっていたら、きっと恐ろしいことになっていただろう。

その原因がメロディの靴だなんて……。

「私、信じられないほどの失敗をしてしまいました。」

「後悔してますか?」

「もちろんです。」

オーガストを危険にさらすことになるとは思わず、水に流された靴を拾いに行くなんてなかっただろう。

「でも、そうならなかったからこそ、私たちとサムエル卿との接点が生まれたんですよ。」

「オーガストに大変なことが起きていたかもしれないじゃないですか!」

「でもあの子は無事だったし、こうして彼らと交渉の余地が生まれたんです。悪くない結果では?」

「それは……過ぎてみれば結果論ですよ。」

彼は肩をすくめながらカップを回した。

反論の言葉が見つからないようだ。

「とりあえず、今は靴に集中しましょう。」

「それが良さそうですね。それで結局、オーガストは私の靴を見つけたんですか?」

「はい。そしてその靴を持ってサムエル卿の元へ向かいました。」

おそらく高い確率で、サムエル卿はあの子にこれまでの経緯を尋ねただろう。

オーガストは靴と共にすべてを洗いざらい話すしかなかったに違いない。

「じゃあ、あの靴は一種の“贈り物”だったということですか?」

メロディはためらいながらも、自らの考えを口にした。

「でも、単純に本部から送ったという可能性も排除できません。ウェンデル・ベントン氏も、私が靴を失くしたことを知っていますから。」

つまり、この靴に大きな意味を込める理由はなかった。

彼女は深く考え込んだが、クロードはかなりあっさりと結論を出した。

「いいえ。これは本部から送ったものじゃありません。」

「え?でも……」

メロディが反論しようとすると、彼は再び確信に満ちた口調で答えた。

「ブリクス本部が注文したものだとするには、ちょっと雑すぎます。」

「雑だって?」

メロディはもう一度靴をじっくり観察した。

完璧に仕上がっている靴には、どこにも雑に見える部分はなかった。

「靴自体に問題があるという意味ではありません。」

クロードはテーブルの周りをぐるっと回ってやって来ると、靴の片方をメロディの前に置いた。

「履いてみてください。」

彼は片膝を床につけて座り、すすめた。

メロディは戸惑いながらもその靴を履いてみて、すぐに「きつい」という言葉の意味を理解した。

「……本当にきついですね。」

彼女がもごもごと答えると、彼はそうだと思ったと言わんばかりにほほ笑んだ。

「はい、幅が少し狭いですよね?」

「そうですね。ほんの少しですけど……」

「それに後ろも少し余っているようです。ブリクス商会ではお客様に差し上げる靴をこんな形では渡しません。」

以前メロディは商会に何足も靴を注文していたため、彼女の正確なサイズデータを持っているはずだ。

『でも、坊ちゃんはどうして一目で左右のサイズが違うって分かったの?』

とても目立つ違いではなかったので、メロディ自身も実際に履いてみてようやく気づく程度だった。

「うーん、あまり深く考えないでくださいね。」

彼女の考えを察したのか、彼は慌てて弁明した。

「ただ知っていただけです。メロディ嬢のことは特に意識して覚えようと努力したわけじゃないのに、自然と覚えてしまっていたんですね。ごめんなさい、やっぱり気持ち悪い……ですよね?」

彼女の目を見ながら問いかけるクロードの様子は……

……妙にかわいらしかった。

彼を見て「かわいい」という言葉が浮かぶのは初めてだった。

さっきまでの出来事の影響だろうか?それとも単に、彼の態度が変わったのだろうか?

メロディは結論を出せないまま、スプーンを手に取った。

「ううん、大丈夫。ド坊ちゃんは頭がいい方だから、きっと覚えていらっしゃるでしょう! とにかく、商会から送られたものではないのは確かですね。」

メロディは何かを思い出したように、テーブルの上に置かれていたもう一方の靴を手に取り、裏側を確認した。

「やっぱりです、裏に私の名前がありません。」

「名前?」

彼は初めて聞いたように尋ねた。

「ご存知ありませんでした?商会ではいつも靴の裏に名前を刻んでくれるんです。最近の流行ですよ。名前だったり、家紋だったりを入れるんです。」

「その流行についてはもちろん知っているけれど、彼らがメロディ嬢の靴に刻んだかどうかは……うーん。」

クロードは少し真剣な顔つきで何かを考えていた。

「どうしたんですか?」

「いや……。」

だがメロディが心配そうに見つめる姿に、彼は穏やかな微笑みを浮かべて打ち明けた。

「いずれにせよ、この靴はサムエル公が手を加えたものだとしても不自然ではないですね。」

「でも、何か意図があるのでしょうか?単に私に靴を贈るとは思えません。」

「調べてみないといけませんね。」

メロディは告白を終え、もっとも簡単なところから調べてみようと決めた。

「ではまず、その靴が入っていた箱の……あ。」

しかし彼女はすぐに両目をぐるりと回したまま、しばし動きを止めた。

「どうかしましたか?」

「は、箱!捨てるように言ったんです!」

「それなら、屋敷の裏に積んであるはずですよ。心配しなくて大丈夫です。」

彼の冷静な説明にもかかわらず、メロディは不安げに立ち上がった。

「そうじゃなくて、火をつけて燃やすようにって言ったんですよ!」

燃やすですって!

クロードとメロディは顔面蒼白になり、急いで外套を羽織って窓の外へ身を乗り出した。

少し離れたところにあるくぼ地には、プレゼント用の箱がきっちり積まれており、焼却を待っていた。

使用人たちはその上にさらにいくつかの箱を積んでいた。

慌てたメロディとクロードは風のように叫んだ。

「燃やさないでください!」

彼らの必死の叫びが届いたのか、使用人が振り返り、頭の上で大きく丸印を描いてみせた。

理解した、という意味だろう。

「……はぁー……」

二人が一緒に安堵のため息をつきながら、窓に身を投げ出したとき。

どこからか慌ただしく駆け込んできた使用人が、高く積まれた箱に怪しげな液体を一生懸命振りかけ始めた。

それが何なのかはあまり時間が経たないうちに明らかになった。

使用人が取り出した小さな火種が、あっという間に大きく燃え上がったのだ。

……油に違いない。

しばし互いに顔を見合わせたクロードとメロディは、叫び声を上げながら後方へと走り出した。

 



 

 

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