こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

8話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑧
「さて、この時間だと陛下が剣術の練習をしている頃だろうな。」
ビアトンは大演武場を訪れた。
「陛下。皇女はすでに死というものを理解しておられるようですね。」
「3歳児が死を理解していると?」
「はい。明らかです。」
「そんなこと、あまりにも泰然としているな。」
「冷静なんですよ。」
「……」
ロンはイサベルの姿を思い浮かべた。
イサベルはいつも瞬間瞬間に最善を尽くしているように見えた。
まるで時間が多くないことをすでに知っているかのように。
「単にではなく、生まれたときから聞いたすべての言葉を覚えているんです。」
「それは可能なのか?」
「ええ、可能なことですね。」
ビアトンの目が細くなった。
「そのとき、不要なものが生まれたとおっしゃいましたか?」
「……」
「本当にそうだったのですか?」
「もしそうだとしたら?」
「なぜそうされたのですか?」
「イサベルはなんと言っていた?」
「大丈夫だと申しておりました。」
「大丈夫だと?すべてを理解しているのに?」
「その言葉を伝えるその姿が、あまりにも冷静で、胸が締め付けられるように感じました。」
ロンの右手には一本の剣が握られていた。
その剣の先端がかすかに震えていた。
「あの子はビロティアンの剣術を習得することはできない。」
「だからといって無意味なことを言うわけではないでしょう。いったいどうしてそんなことをおっしゃったんですか。」
「まるで私を追い詰めようとしているみたいだな。」
「追い詰めようとしているわけではありません。ただ、お伝えしにきただけです。」
ロンの表情が厳しく引き締まった。
「剣を取れ。すぐに稽古だ。」
「昨夜も夜遅くまで練習したじゃないですか!」
ビアトンは後ずさりした。
「剣士がどうして後ずさりするんですか?」
「剣士ではなく、ただの教師です。それにもう引退しましたよ!」
「後ずさりをやめろ。」
「やめたら突かれるじゃないですか!」
ビアトンは素早く体をひねり逃げ出した。
ロンから放たれた猛烈な剣気が空を切った。
「うわっ!」
ビアトンは全力で大演武場から逃げ出した。
逃げる彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「悔しいですか?」
ビアトンが見たロンの表情は、明らかに後悔の念が漂っている顔だった。
ロンの表情が豊かに変化していることを感じた。
それは嬉しいようでもあり、どこか少し悔しさも感じさせるようだった。
「たっぷり後悔してください。それが罰です。」
生まれたばかりの赤ん坊に、どうしてそんな言葉をかけられるのか。
「大丈夫だ」と平然と言うイサベルの顔が、なんだかとても愛らしく感じられた。
「それがどうして大丈夫だなんて言えるのですか?」
涙が出そうだった。
本当に胸が痛んだ。
今日は眠れそうにない気がした。
・
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イサベルの侍従となったビアトンは、毎日イサベルの部屋を訪ねた。
「ビアトン卿。見せたいものがあります。」
イサベルは日々を一生懸命生きていた。
できることに全力を尽くす性格だった。
剣術を極められなくても、できることはたくさんある。
机の下に隠していたものを取り出した。
ビアトンの目が少し大きくなった。
「素晴らしい絵ですね。」
「そうですか?」
「誰がプレゼントしてくれたのですか?」
イサベルはにっこりと微笑んだ。
「見てください。」
「うん。」
ビアトンは指で絵の縁を軽くなぞった。
「まさか、陛下が描かれたものではないですよね?」
幼い身体はこれ以上耐えきれず、ついに冗談を言ってしまった。
右手をさっと上げて言った。
「私が描きました。」
「なんと。」
「なんとまあ。」
「上手に描けましたか?」
「まるで世紀の芸術家ミケランジェロの魂が陛下の体に宿ったようですね。」
実際、非常に優れた絵だとは言い難かった。
ロンが描いたものだと分かってはいたが、その絵が写実的というより抽象画に近かったからだ。
「魂が宿っているのかな?」
「冗談です。そんなとんでもないことが起きたら、聖騎士団が聖剣を持って討伐に乗り出すでしょう。」
「げほ、げほ!」
イサベルは咳き込んでしまった。
「し、聖騎士団?なぜ?ミケランジェロが悪いことでもしたの?」
「他人の体を乗っ取った魂ならば、必ず悪霊でしょう。そういうものを『ヴィング』と呼ぶんです。」
「ヴィ、ヴィング?」
「ええ。聖騎士団の粛清対象です。」
「ヴィ、ヴィングは悪い奴だね。」
イサベルは必死に笑った。
ヴィングが粛清対象だなんて。
口元に緊張が走った。
「こ、怖い。」
「心配しないでください。聖騎士団の騎士様たちがいますから。もしもあなたの体を乗っ取る悪い悪霊が現れたら、すぐに討伐してくれますよ。」
「へ、へへ、チェ、チェゴ!す、すごい!」
「私の友達にもいるんです。そのうち紹介してあげますね。」
「そ、そんな方は忙しいんじゃないですか。」
「忙しくないですよ。」
「忙しい人、だめ。忙しい人を邪魔するとダメです。」
ビアトンは少し感嘆していた。
『これを配慮しているのか?』
三歳の子どもが、どうしてこんな配慮をすることができるのだろうか。
「いえいえ。気にしないで大丈夫です、皇女様。あの方は第一聖騎士団の団長ですから。地位がとても高い友人なので、時間を作るのも簡単ですよ。」
イサベルは少し泣きそうになった。
ヴィングを粛清する聖騎士団の団長だなんて……夢の中でさえ会いたくない人物だった。
背中に冷や汗が流れる。
しかし、あまりにも拒絶すればかえって不自然に思われそうで、口を閉じるしかなかった。
ビアトンはしばらく絵を眺めた後、尋ねた。
「いつから絵を描き始めたんですか?」
「幼い頃からだよ。」
幼い頃、イサベルにとって画家になることが夢だった。
他にも夢があった。
病室の中でできることは少なく、絵を描くこともその一つだった。
「うーん、幼い頃からですか?」
一瞬、イサベルは僅かに身をこわばらせ、ビアトンの目が大きく開かれた。
しまった。
幼い頃から。
三歳の赤ちゃんが言うべき言葉ではなかった。
だが、続くビアトンの反応は予想外だった。
ビアトンは口をつぐんだ。
そうだ、三歳にも幼少期というものがある。
赤ちゃんにもさらに幼い時期があるのだ。
その様子はまるで、今はすっかり大人びた子供の中に、昔の赤ちゃんの姿を見つけたようだった。
その子供の頬は、まるで桃色に輝く光を放っているようだった。
愛情が抑えきれずに込み上げてきた。
「可愛すぎて……」
言葉が自然と漏れ出した。
その言葉を言ってしまったのだ。
本当に、あの小さなウインナーのような腕を「ぎゅっ」と抱きしめたくなった。
しかし、熟練した剣術家として、一般人とは比較にならないほどの自制心を持つビアトンは、その衝動を何とか抑え込んだ。
『ふぅ、危なかった……。』
どれだけ可愛くても、彼は一線を越えないように自分を律した。
皇女の腕に触れることは、一線を越える行為だったのだ。
彼はとても小さく息を吐いた。
「はぁ、将来彼氏ができたらどうしよう。」
完全に執着する騎士。
自分で線を越えないよう律する彼は、小さく口元を開き呟いた。
「死んでも構わない。」
その独り言はあまりに小さく、イサベルには聞き取れなかった。
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ビアトンはイサベルが描いた絵を持って皇帝の執務室に向かった。
「陛下を描いた抽象画です。」
ロンはその絵を受け取った。
「俺のところにゴミを捨てに来たのか?」
「また後悔されることでしょう。」
「なんだと?」
「先ほどの発言、ゴミだとはっきり仰いましたよね。この素晴らしい絵を!」
「自称芸術家だと主張する連中が、何の誠意もなく描いてくれた絵のようだな。」
ビアトンを軽んじた言葉だった。
以前にもビアトンは、ロンを題材にした抽象画を描いて何度も持ってきたことがあったからだ。
もちろんビアトンは、芸術に深い造詣があり、優れた実力を持つ人物だった。
しかし、ロンにとって、それが事実かどうかなど関心はなかった。
「今回は私が描いたものではありません。」
「では?」
「三歳の幼い子供が描いた絵です。ですが、この絵にはとても特別な点があります。」
「……」
「見てください。ここ、目元がより鋭く描かれていて、唇も滑らかですね? 鼻も実物以上に精密に描かれています。少し賢そうに見えます。」
「……」
「さらに、肌の質感が非常に滑らかで、まるで整った顔立ちを包む光沢を纏ったかのようで……。」
ふと耳にしたロンは、疑念を抑えられずに尋ねた。
「抽象画ではないと言ったのでは?」
説明があまりに詳細すぎた。
目元が鋭いだの、唇が滑らかだの、鼻が整っているだのと言うが。
そんなはずはなかった。
これは抽象画なのだから。
どうやらビアトンの目にだけ、そう見えるようだった。
「何より、瞳の輝きがあまりに澄んでいます。私が知る皇帝の冷たく厳しい瞳とは全く違って……あっ!」
鋭い音を立ててロンの鋭い剣先がビアトンの制服の前を軽く切り裂いた。
「給料を貯めて買ったんです!高かったんですよ!」
「無駄なことを?」
「何も聞かずに『メロウ』をそんなに品位を持って語るのは難しいと思いますよ!」
ロンは剣術帝国の皇帝だった。
その動きは洗練されて無駄がなく、洗練された身のこなしで剣を操りながら、気品ある態度で口を開いた。
「早く要件を言ってさっさと消えろ。」
「その3歳の子供が皇女様なんです。」
「何?」
ロンの視線が再び絵に向けられた。
ビアトンの薄緑色の瞳に緊張感が宿っていた。
「私が何よりも驚いたのは、皇女殿下の観察力です。陛下と会ってからそんなに時間が経っていないのに……。」
「……。」
「このような深い観察は、幼い頃からの真摯な愛情によるものであることが明らかです。陛下への温かな心と深い愛情がにじみ出ています。これは学んで身につけたものではなく、生まれつきの領域です。」
「だから、この想像画を見てそのようなことを感じたというわけですね……。」
想像画はあくまで想像画だった。
3歳の子供が描いたとはいえ、評価がそこまで高くなるのは正直あり得ないことだった。
『私には見えないものが、お前には見えるというのか。』
そう心の中で思った。
「超能力でも持っているのか?」と尋ねたかったが、どうせ良い言葉だと思い、それ以上深入りすることはしなかった。
「陛下はきっと気に入られるでしょう。」
「どういう意味だ?」
「何も努力しなくても、皇女殿下が陛下をこんなに愛してくださるんですから。以前は愛しているとおっしゃったんですよね?」
ロンは無表情とも言える表情を浮かべた。
「それがそんなに羨ましいか?」
「羨ましくなければ、それは人間じゃなくて風船ですよね?」
「風船?」
「だって、不公平すぎるじゃないですか。」
「それで?」
ロンはビアトンの不平に対し、かなり真面目で誠実に答えた。
それはロンの機嫌がかなり良いことをも意味していた。
『その絵に込められた純粋な愛情が伝わる』
そう話してから、ロンの機嫌はかなり良くなった。
ロン自身は気づいていなかったが、それが事実だった。
「私は給料を全部つぎ込んで特別なシェフを雇って、いや、頼んで宝物のようなゼリーを作ってもらいました。でも愛しているなんて一言も聞けませんでした。ただぶすっと顔をされるだけなんです。」
「皇女の教育係という立場の人の発言とは思えないほど下品だな。」
「また言葉尻を捉えてくる。」
「ここは宮殿だ。品格を守れ。」
「黙れ」と言いたかったが、ビアトンは飲み込んだ。
ロンはしばらくビアトンを見つめてから、深いため息をついた。
「それで?本当に言いたいことは何なんだ?」
「羨ましすぎて死にそうです。」
周囲には誰もいなかったが、ロンは声を低くしてこう言った。
ビアトンがロンのことをよく知っているように、ロンもまたビアトンをよく理解していた。
「ためらわずに早く言え。」
「何をおっしゃっているのかわかりませんが……」
「死ぬ前に。」
「陛下がそんなに切実におっしゃるのであれば仕方がありません。」
ビアトンは咳払いをし、口を開いた。
「何にせよ、皇女様は魔道工学において驚くべき素質と才能をお持ちのようです。生まれつき備わった観察力や手先の器用さに加え、これほどまでに正確で精緻な技術をお持ちなのですから。」
魔道工学とは、魔法を活用して工学的に問題を解決する学問である。
現代文明の基盤の一つでもあった。
「陛下もご存知の通り、魔道工学に関する才能は大きく三つに分類されます。一つは生まれながらにして持つ魔法的理解力、魔力とマナへの親和性。これは生得的な才能とマナ操作能力で証明されました。」
「……」
「優れた観察力に基づく魔法陣と魔道工学設計の作成能力。それには基本的な器用さが必要です。それもこの絵で証明されました。」
そして最後に一つ。
「数学的才能が最も重要です。」
「それとは?」
「わずか三歳でゼリーの数を理解し、足し算や引き算を即座に行えるほどの才能のことです。」
誰から教わったわけでもないのに、皇女は数に関する概念を正確に理解していた。
「ゼリーの数を正確に計算して要求し、代金を払ったりしていましたから。」
「……」
「いくつかの状況を総合的に考えると、皇女様は天賦の魔法の才能を授かったのだと思われます。」
元々イサベルは魔法を学んだ経験がなかった。
21歳で死ぬという事実に悲観し、無為に過ごした日常があるだけだった。
「陛下が許可してくだされば、有能な魔法の先生を探してみます。」









