継母だけど娘が可愛すぎる【１１９話】ネタバレ

「ブランシュ、それはどういう意味？確かにこの前、国の役に立ちたいと言わなかった？東部民を助けたいって言ったじゃない」

大妃は震える声でブランシュに問いかける。

彼女は悲しみと衝撃を隠さなかった。

それは計算された行動。

ブランシュのような性格は感情に訴えるのが高価的だったから。

確かにそのはずだった。

しかし、ブランシュは何も答えない。

大妃が戸惑っていると、セイブリアンの声が聞こえてきた。

「モルッカ国とブランシュが婚約することになれば、色々な利点はあるでしょう」

彼の声は乾燥していて、目つきはひんやりとしていた。

ブランシュの後ろに立っているセイブリアンの姿は、まるで守護像のよう。

「ですが、私は私の子供を絶対に政治の道具にするつもりはありません」

その言葉に大妃の顔が歪む。

そうして、「はぁ・・・」とため息をつくように笑う。

「セイブリアン、もしかして私に言っているの？まだ昔のことで私を嫌っているのかしら？」

ブランシュは「昔のこと」という言葉に眉を顰めた。

どういうことかは分からないが、大妃が何かをしたということだけは理解できる。

「ブランシュ、少し外してくれないか？」

セイブリアンが柔らかい声で問いかける。

子供にこんな姿を見せたくなかった。

ブランシュは心配そうに父親を見つめ、しばらくしてから部屋を退出する。

「では、お先に失礼します。お父様」

大妃は去るブランシュを捕まえようとしたが、彼女の手は動かない。

セイブリアンの瞳にゾッとしたためだ。

ブランシュが部屋を出ると、暖気を保っていた部屋の温度が一瞬で氷点下に下がった。

吐き出す言葉まで凍りつくような雰囲気の中、大妃が口を開く。

「そうね。子供も出て行ったから、ちゃんと話をしましょうか。セイブリアン、１０年前のことをまだ起こっているの？」

「・・・」

「はあ、図星のようね。それで私を憎んでいるの？」

大妃の声が大きくなっていく。

しかし、言葉を吐き出せば吐き出すほど、彼女は足元が不安になるのを感じた。

まるで凍りついた湖に立っているような気分。

氷が厚く凍っていると思って近づいたのに、気がつけば薄氷の上だった。

セイブリアンは黙々と彼女の叱責を受けていた。

彼の表情は鳥肌が立つほど冷静で、さらに奇妙な雰囲気を醸し出している。

「以前に比べて大妃殿下を憎んでいません。むしろ尊敬します。王妃として、摂政としては立派な判断でしたから」

しかし、それは尊敬する物を見つめる視線はなかった。

大妃は足元の氷が少しずつ崩れ落ちるのを感じていく。

「私を利用したのは構いません。ですが、ブランシュをあなたの道具として使わせるつもりはありません」

「セイブリアン！」

大妃が悲鳴でも上げるかのように、自分の子供の名前を吐き出す。

「どうして・・・、どうしてこの母にそんなことが言えるの？」

彼女は席から立ち上がり、目の見えない人が失われた物を探すように、空中をかき回しながらセイブリアンに近づいた。

理性で説得させることができないのであれば、憐憫に訴えるしかない。

大妃はセイブリアンの腕を掴む。

「セイブリアン、私はあなたの母よ。あなたのたった一人の家族、そんなあなたが、私にこんな事をできるはずがないわ」

「私の家族はアビゲールとブランシュです」

セイブリアンは冷静に手を抜いた。

大妃は突然水を浴びた人のように呆然となる。

「そして予想はしていましたが、もう少しきちんとやればよかったですね」

ドアが開くと、そこには見慣れた顔が。

大妃が買収した主治医だ。

主治医の顔は真っ青になっていた。

その表情を見て、彼女は気づく。

自分の計画がバレたということを。

「大妃殿下の緑の病気が治ったようですので、帰郷できるよう準備を済ませておきます」

それはセイブリアンの最後の慈悲。

『緑色の病気が治癒したことにしてやるから、もう旅立ちなさい』と。

大妃も彼の言葉の意味を理解できた。

彼女は去る前に最後の悪あがきをする。

「セイブリアン、理性的に考えて。あなたの義務を考えなさい」

「私の義務はいつも考えています」

義務という単語がこれほどまでハッキリ発音されたことはない。

常に恐ろしくて重い単語だった。

「私の義務はこの国を、そして私の家族を守ることです」

「・・・」

大妃は何も答えない。

その家族に自分が含まれていないことを知っているからだ。

彼女の足元に残っている土台はなかった。

このままでは冬の湖に沈んで溺死するに違いない。

大妃はしばらくの間セイブリアンを睨み、執務室を離れていく。

別れの挨拶はなかった。