公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【153話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

153話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 生きるための言葉

医師の診察を受けている最中、クラリスは自室の前から聞こえてきた騒がしい声に、思わず肩を震わせた。

「いつまでここでうろうろしてるつもりなの!用があるなら中に入りなさい。ないなら、さっさと立ち去ってくれ!」

ノアの声には、抑えきれない苛立ちがはっきりと滲んでいた。

何があったのだろうか。

疑問を抱く間もなく、クラリスは再び医師の話に耳を傾けた。

「もう大丈夫だとは思いますが、急に立ち上がったり無理はなさらないでください。しばらくは長く歩かないように。治療が一段落したら、少しずつ運動量を増やしていきましょう」

「はい、分かりました」

「それでは、今日はこれで失礼します。もし不調がありましたら、すぐにご連絡を」

「ご丁寧に、ありがとうございました」

医師が鞄を手に部屋を出ていくと、クラリスはようやく、開いた扉の向こうに立つ人物を視界に捉えた。

――バレンタインだった。

目が合った瞬間、彼は慌てた様子で壁際へと身を隠す。

まるで見つかってはいけない現場を押さえられたかのように。

……だが、それも束の間。

次の瞬間、彼はノアの腕にがっちりと捕まり、有無を言わさずクラリスの部屋へと引きずり込まれていた。

「痛っ!引っ張らないでくれ!」

「連れて来てあげたんだから、文句は言わないでください」

「うっ……」

ノアの一睨みに、バレンタインはそれ以上言い返せなかった。

クラリスはベッドの縁に手をつき、ゆっくりと身を起こす。

まだ身体は重いが、先ほどまでの眩暈は嘘のように引いていた。

――こうして、彼女の部屋には、再び騒がしい気配が戻ってきたのだった。

すると、ノアとバレンタインが同時にびくりと肩を震わせた。

「ほら、座ってください。」

「ちょ、ちょっと!患者がどうしてそんなに急に立ち上がるんですか!」

クラリスは腕を組んだまま、二人をなだめるように穏やかに見つめた。

「……もう、すっかり治りましたよ?」

最近になって、この二人がそろってクラリスと距離を置きつつ、急に過剰なほど心配してくるのが、どうにも不思議だ。

「治ったように見えても、完全じゃない場合もあります。」

「ほら、だから座りなさい。ん?何か持ってこようか?」

二人は落ち着かない様子でそわそわしながら、結局クラリスを再びベッドに座らせた。

そして同時に深いため息をつく。

クラリスは「どうか勝手に判断して心配しないで」と言おうとしたが、結局その言葉は飲み込んだ。

その間にもノアは、バレンタインの横腹を何の前触れもなく肘で突いた。

どうやら何かを急かしているようだ。

「……?」

首を傾げて見つめるクラリスに、バレンタインは困ったような顔で、そっと花束を差し出した。

「み、……ごめん」

――唐突な謝罪。

どうして今、謝るのだろう。

そんな疑問を抱きながらも、クラリスはひとまず花を受け取った。

「……それで?」

促すと、彼は落ち着きなく視線を彷徨わせ、行き場を失った手を何度も握ったり開いたりしながら、ようやく言葉を探す。

「その……魔法使いの城に、協力を頼みに行ったんだ。そしたら……こいつに、全部話してしまって……」

「ああ」

曖昧な言い回しでも、クラリスには十分だった。

――なるほど。

ノアが、どうして彼女の“秘密”に辿り着いたのか。

その答えは、目の前にいた。

彼が謝っている理由も、自然と見えてくる。

「謝らなきゃ、とは思ったんだ。でも……どう言えばいいのか分からなくて」

そう言って、バレンタインは視線を伏せた。

花束を抱えたまま、クラリスは小さく息を吸う。

胸の奥に、少しだけ残っていたわだかまりが、静かに溶けていくのを感じた。

「……教えてくれて、ありがとう」

その一言に、彼は驚いたように顔を上げる。

「怒って……ないのか?」

「少なくとも、あなたに対しては」

そう答えると、彼は安堵したように肩の力を抜いた。

――不器用で、正直で、だからこそ、余計な心配を抱え込んでしまう人。

クラリスは、手にした花束を見下ろしながら、ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ。

「面目ない……本当にすまない、クラリス。」

彼はもう、まともにクラリスの顔を見ることすらできずにいた。

「王子殿下。」

「あ、うん?」

「正直に言って、あれは少し行き過ぎでした。話さないでほしいと、あれほどお願いしたのに……」

「……そうだな。君の秘密を軽く扱うつもりはなかった。」

「でも、謝ってくださってありがとうございます。」

クラリスは今度はノアのほうを振り返った。

「それから……ノアも。」

正直に言えば、彼との関係は今に至るまで、どこかぎこちないままだった。

視線が合った瞬間、彼がびくりと肩を揺らし、慌てて顔を背けたことが、その何よりの証拠だった。

「そういう話……直接言えなくて、ごめん。」

ノアは急いで小さくうなずいた。

「それと、お二人にお伝えしたいことがあります」

クラリスは、ほとんど間を置かずに切り出した。

「私……生きるために、足掻くことにしたんです」

そう言った瞬間、この場にいる全員が息を呑んだのが分かった。

ノアも、バレンタインも、言葉を失ったまま、ただ彼女を見つめている。

予想はしていた。

けれど、やはり――驚かれる。

「これまで……何があっても、『死んでもいい』なんて、簡単に口にしてしまって……ごめんなさい」

責める調子ではなかった。

むしろ、淡々とした謝罪だった。

視線を逸らされるのが少しだけ居心地悪くて、クラリスは癖のように、耳にかかった髪をそっと払う。

「そういう言葉が、周りの人をどれだけ傷つけるのか……やっと分かったんです」

声が、ほんのわずかに揺れた。

「だから……こんなお願いをするのは、図々しいとも思います。でも……」

言葉を探すように、彼女は膝の上に置いた手を、ぎこちなく撫でる。

そして、意を決したように顔を上げた。

「――もし、また私が『死にたい』とか、『どうでもいい』とか、そんなことを言いそうになったら……」

一瞬、ためらいが走る。

「……止めてください」

その言葉は、静かだったが、はっきりと、この場に落ちた。

「叱ってもいい。怒っても、引き止めてもいいです。生きようとしてる今の私を……思い出させてほしいんです」

しん、と空気が凍りつく。

ノアは唇を結び、バレンタインは驚いたまま目を見開いていた。

――生きたい、ではなく。生きるために、他人に縋るという選択。

それがどれほど勇気のいることか、二人には痛いほど伝わっていた。

「……クラリス」

最初に声を出したのは、ノアだった。

「そんなの……当たり前だろ」

彼は、少し困ったように眉を下げる。

「言われなくても、放っておくつもりなんて、なかった」

「……怒るぞ。お前がまた、簡単に自分を捨てようとしたら」

バレンタインも、小さく頷いた。

「謝らせるのも、引き止めるのも……俺たちの役目だ」

「それが嫌なら、最初からここには来てない」

クラリスは、目を瞬かせた。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

「……ありがとうございます」

その声は、今までで一番、弱くて。

そして、一番、確かなものだった。

彼女は初めて、“生きるための言葉”を、誰かに託したのだった。

二人とも、ずっとクラリスを見つめていたため、すぐに視線がぶつかった。

「わ、私を……助けてください。」

「もちろんだ。私は君を助ける。」

そう言って一歩近づいたノアだったが、クラリスが彼を見上げた瞬間、思わずぎょっとして、その場で立ち止まった。

やはり、あの出来事のせいだろう。

『……好きだよ、クラリス。深い本心から。』

それは本当に嬉しい言葉で、今でもクラリスの胸の中で宝石のようにきらりと輝く瞬間ではあった。

けれど、それを境に、二人の関係は取り返しのつかないほど壊れてしまった。

そのうえ、彼の「実験」に対して激しく抗議し、怒鳴り散らしてしまったため、性格が悪い女だと思われ、情が一気に冷めてしまった可能性もあった。

いずれにせよ、クラリスはただ曖昧に笑うことしかできなかった。

一方で、目を細めたバレンタインは、二人を交互に見つめていた。
何か異変を感じ取ったかのような表情だった。

「……何かあったのか?」

核心を鋭く抉るような問いに、クラリスは一瞬ぎくりとし、バレンタインに向かって慌てて弁明しようとした。

いや、正確には、そうしようとした。

「な、何もありません!」

どういうわけか、ノアのほうが一歩早く反応してしまい、口を挟む隙はなかった。

「ふぅん……」

バレンタインは長い指で自分の顎を撫でながら、二人を交互に見つめ続ける。

どうにも、簡単には疑念を拭いきれない様子だった。

「まあ、何もないならそれでいいが……。婚約する前に、もし振られでもしたら、さすがにちょっと胸が痛むだろう?」

「……何?」

ノアが怪訝そうに問い返し、クラリスもまた同じ気持ちだった。

婚約?誰が、誰と?

「だからさ。」

バレンタインは指で自分を指し示し、そのまま指先をクラリスへ向けた。

「俺が、お前に。」

あまりのことに驚いたクラリスは、その指先を呆然と見つめ、ようやく顔を上げてバレンタインの表情を確かめた。

冗談ではないかと思ったのだ。

そもそも「婚約」などという重い言葉を、こんな軽い空気の中で気軽に口にするような男ではないはずだったから。

「そんなに驚くことか?生きると決めた時点で、当然いずれ選ぶべき道として考えておくべきことじゃないか?」

「あ……」

「政略結婚は、滅びた国の王族を支配国へ完全に取り込むための方法だ。ごく常識的な話だろ。」

そういう意味だったのか。

クラリスは、どこか少し腑に落ちない気持ちだった。

もし彼が本気でそんなことを言っているのだとしたら、どう反応すればいいのかわからず、本当に困ってしまう……。

「もちろん、私は本気だよ」

「……え?」

「頑固なクラリス嬢」

彼はいつものように軽口を叩きながらも、なぜか本物の王子のように、クラリスの前で片膝をついた。

『もちろん王子殿下は、本物の王子殿下ではあるが……!』

そう言って、彼は自分の上着の下に留めていた緑色の宝石のブローチを外す。

それは、彼が幼い頃から使ってきた、美しくも気品に満ちた品だった。

彼はクラリスの手を取り、その手のひらの上に、そっとそれを載せた。

「俺は、お前に選択肢を与えたくて求婚しているわけじゃない。クラリス。」

彼は、ブローチを握りしめたままのクラリスの手をそっと包み込み、そのまま視線を上げた。

「でも……そう考えてくれてもいい。」

「あ……」

ここまで近くで向き合って、ようやく気づいた。

彼の指先ははっきりと緊張で震えていて、次の言葉を探すその唇が、ひどく慎重に動いていることに。

「真実はもう、俺の中に満ちている。お前が来なくても、十分なほどにな。」

強い光を宿した目でクラリスを見つめていた彼は、やがて視線をふっと落とし、どこか照れたように言葉を濁した。

「……ていうか、一年前に“お前には求婚しない”って宣言したばかりだったんだが。」

そんな言葉をあえて口にしたのは、きっと、固くこわばってしまったクラリスの心をほぐすための、精一杯の配慮だったのだろう。

「そ……その、ありがとうございます……」

「当然だろ?」

彼はいつものように軽口を叩いていたが、なぜか少し照れくさそうに、指先でクラリスの頬をそっと撫でた。

「私が王子殿下にお返事するのは……」

「お前が無事に生き延びたと、確信できた時だ」

「え?い、いつになるんですか!?」

「馬鹿だな。俺が今すぐお前と結婚したいと思って、勢いで求婚したとでも思ったのか?
これは“選択肢”を示しただけだ」

言葉の途中が妙に途切れていたのは気になったが、クラリスはひとまず小さく頷いた。

バレンタインは「よし」と短く言うと、軽く腰を叩いて立ち上がる。

「じゃあ、そういうことで」

「ちょ、ちょっと……!」

「お前、いったいいつまで俺の求婚話ばかりしてるつもりだ?そんなに良かったか? まあ、そうだろうな。国中どこを探しても、これほどの美男子が唐突に結婚すると言い出したら、神だって驚くさ」

「……それは、そういう意味じゃありません!」

クラリスは少し涙ぐみながら、もともと話そうとしていたことを続けた。

「公爵様が、ずっと入口で待っていらっしゃいます。」

「……!」

バレンタインは、青ざめた顔で勢いよく振り返った。

彼らが大きく開け放してきた扉の向こうに、背の高い黒髪の男が立っているのを見つけたのだ。

これまでバレンタインがマクシミリアンと頻繁に交流してきたわけではないが、あんなにも呆然とした表情を浮かべているのを見るのは初めてだった。

彼がクラリスに求婚する一部始終を、すべて見ていたことは間違いない。

「い、怒ってる……のか……?」

バレンタインは、慎重に彼の胸中を探ろうとした。

娘が可愛くて仕方がない父親たちの心情を思えば、そうであってもおかしくはない気がした。

「ご心配なさらないでください。」

傍らに立っていたノアが、深く息を吐きながらバレンタインの背中を、トンと軽く叩いた。

「公爵様、かなり動揺されてますよ」

――これが、動揺している顔だと?

今にもバレンタインを窓の外へ放り投げそうな表情に見えるのは、気のせいだろうか。

「い、いや……その……」

そこでようやく、バレンタインは大事なことに気づいたようで、くるりとノアのほうを振り返った。

「……お前、どうしてそれが分かる?」

その問いに、ノアはただ肩をすくめるだけだったが、仮面の奥から覗く視線は――「これ以上詮索したら、窓の外に放り出すぞ」そう言っているように見えた。

 



 

 

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