公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【180話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

180話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 幸福な笑い声

ノアは優しく、クラリスの両頬を包み込んだ。その手がそっと涙を拭ったときになって初めて、クラリスは自分が泣いていることに気づいた。

「お母様は……この世界の誰にも、自分と同じ感情を持ってほしくなかったのよ」

「だから、いくつものゴーレムを同時に動かしながら、あんなに無理をしていたのかい?」

「うん。心が魔法に注ぎ込まれすぎて、そうして強くなるしかなかったんだと思う」

クラリスは、アデルの死が惜しまれてならなかった。あれほど強く、そして優しい魔法使いなら、きっともっと偉大な何かを成し遂げていたはずなのに。けれど、彼女はもういない。あのときの悲しみを今も覚えている彼女の鉱物だけが残り、それがクラリスに、当時の出来事を静かに語り聞かせてくれるだけだった。

彼女はそっと箱を閉じ、ノアへと返した。その宝石には、彼女の魔法の知識は込められていなかった。そこに満ちていたのは、ただ彼女の悲しみと、深い愛情だけだった。

――だからこそ、ノアがこの宝石の持ち主になるべきだった。

「大切に持っていて。ノアが時々、想いを向けてくれたら……きっと喜ぶわ。だってノアは、あの方が命を懸けて抱き続けた“愛”そのものなんだから」

そう言い残し、彼女は再び自分の部屋へと歩み出した。するとノアがその背中を追うように歩きながら、静かに声をかけた。

「私よりも……少女、あなたが持っているほうがいいでしょう? 私はもう、この想いの続きを直接聞くことができないもの」

クラリスは立ち止まり、静かにうなずいた。

「これは、魔法使いシネットの宝石よ」

「この宝石の“声”を聞けるのは……少女、あなただけなんだ」

「ノアのお母様の遺した品を、私が持っていることだって、不自然じゃないでしょう?」

「少しも不思議じゃないわ。もしこの宝石があなたを選ばなかったのなら――あの方は、最初からあなたにその存在を伝えなかったはずだからね」

指輪をめぐる優しい言葉を交わしながら、二人はいつの間にか、クラリスの部屋の前へと辿り着いていた。扉の向こうには、まだ語られていない想いと、これから紡がれていく未来が、静かに待っていた。

互いに挨拶を交わし、別れなければならない時間になっても、二人はまだ、指輪の箱をお互いに預け合ったまま佇んでいた。その話が部屋の中まで聞こえたのか、ちょうど扉をくぐったところで、マランがノアの肩にぴょんと飛び乗って言った。

[こら。もう一本ずつ分けて持って終わりにしなさい、この人間たち。]

マランは、自分の言葉が分からないノアのために、彼の腕を伝って滑り降りると、指輪の箱を代わりに開けた。そして、桃色の宝石がはめ込まれた指輪を軽く叩き、もう片方の手でクラリスを指さした。――彼女に、母の指輪を渡せ、という意味だ。

「でも、マラン」

クラリスは困ったような表情を浮かべた。ノアと指輪を分け合うこと自体が嫌だったわけではない。ただ、彼女には根本的な不安があった。

「この宝石は、お互いにとって大切なもの。離れて過ごすと……」

[……それを、好まないはずがないわ。コオ?(あなたは違うの?)]

それは、クラリスがノアと距離を置くことを本当はどう考えているのか、というマランなりの問いかけだった。

「私も……違わないわ」

クラリスが答えると、マランはその言葉に満足したようにこくりとうなずき、そのまま部屋の奥へと戻っていった。クラリスがすぐに戻ってくると思ったのか、少し開いたままの扉は閉じられなかった。

クラリスは、改めてノアをまっすぐ見つめる。

「だから……マランが言いたかったのは……ええと……」

言葉を選びながら逡巡する彼女に、ノアは先にすべてを理解したように、静かにうなずいた。

「分かったよ。僕たちが――この指輪の“想い”に共感できる人間だ、ってことだろ。それなら、この二つの宝石も、きっと満たされた気持ちになる」

それは、あまりにも正しい答えだった。感情が共有されるとき、宝石はその持ち主を、より深く愛する。それが、この宝石に宿る“理”だった。たとえゴーレムマスターでなくとも――宝石は、心を通わせられる相手を、決して間違えはしないのだから。

鉱物との共感は、誰にでも可能だった。その中に、記憶と感情を十分に込めてさえいれば。

「ただし、これは少女の許可が必要なことだ。なぜなら、私は……」

ノアは少し身をかがめ、クラリスと視線を合わせた。同時に、彼の肩にふわりとかかっていた長い空色の髪が、前へと滑らかに流れ落ちた。

「何の感情も交えずに、君に指輪を渡せるほど、私は理性的ではないんだ。君への欲が、どうしてもその中に混ざってしまう」

そう言いながらも、彼はわざと軽く見えるような笑みを浮かべていた。「それは少し困るな」と、彼女が気軽に言える空気を作りたかったのだろう。その不器用な優しさが、どうしようもなくありがたかった。

けれど、どうしてノアは分からないのだろう。そういう欲望こそ、クラリスにとっては、いま一番嬉しく感じるものなのに。

「ノア、前にも言ったでしょう?」

「……何を、ですか?」

「ノアの魔力も、時間も――全部、私にくれたってこと」

柔らかな微笑を描いていた彼の唇は、ゆっくりと元の位置へ戻り、真一文字に結ばれた。彼は、かすかにうなずく。その表情は、あの日と少しも変わらない、揺るぎない真実味を帯びていた。

「その言葉を聞いたとき、本当に幸せだった。だから……私も約束するわ」

クラリスは彼の片頬を、そっと、愛おしむようにつまんだ。くすぐったそうに彼がわずかに身じろぎすると、ノアは彼女の手のひらに顔を寄せ、静かに首を傾けた。

「ノアが望む、私の未来を――全部、あげる」

「……少女」

「それに、ノアが私から何かを欲しがる必要なんてないわ。だって――」

そう言い終える前に、クラリスはぱっと眩しい笑顔を咲かせ、彼の首元に腕を回して勢いよく抱きついた。

「もう全部、ノアのものなんだから!」

その言葉は冗談めいていながら、どこまでも本気で。抱き締める腕の力と同じだけ、彼女のすべての想いが、確かにそこにあった。

ノアはしばし、愛おしさに両腕をどうすべきか迷った。だがすぐに低く笑うと、愛する人の腰をしっかりと抱き寄せ、髪の隙間から唇を重ねた。すべてを受け入れた証として、何度も、何度も。彼の想いのすべてを込めて。

そしてこの時を境に、二人の手には、空色と桃色の宝石がそれぞれはめ込まれた美しい指輪が、生涯、常に寄り添うように在ることとなった。

* * *

翌日、セファス王城において、厳かに即位の式が執り行われた。

朝早くから、軍楽隊がすべての城門を大きく開き、水都の正門へと誇らしく進みながら、新たな王の時代の始まりを告げた。太陽が最も高く昇る刻、ヴァレンタインは、ライサンダーと大宰相からそれぞれ、王笏と王冠を授かった。

続いて、セリデン公爵マクシミリアンが、ゴーレムの中から取り出された王室の宝剣を、彼に恭しく捧げた。

ヴァレンタインは、長い時を経てようやく王宮へ戻ってきた王室の至宝を、そこに集ったすべての民が見渡せるよう、頭上高くに掲げた。王としてはまだ若すぎるのではないか――そんな懸念の声も確かにあったが、その場においては、彼の成熟した凛々しい面立ちが不思議とそれを完全に打ち消していた。大人の青年にしか見えないその落ち着いた佇まいに、戴冠式へ参列した人々は、惜しみない期待を込めて、割れんばかりの大歓声を送った。

* * *

その夜。

ヴァレンタインは、一日中まとわりついていた騎士や侍従、そして大勢の客人たちからようやく解放され、王宮で最も高い塔へと足を運んだ。欄干に肘をつき、心地よい夜風を受けながら、静かに遠くを眺めている。

「その場所、少し危なくないかい?」

ちょうどその背後から、ノアの声がした。

「ちょっと押したら、真っ逆さまに落ちてしまいそうだ」

ヴァレンタインは、思わず小さく吹き出して答える。

「同じことを言い返したいところだけど――ここは、俺が選んだ場所だからな」

その声には、いつもの冗談めいた軽さと、ほんの少しの本音が滲んでいた。

「そこから落ちたら、即死だぞ?」

「連絡する相手なら、下にたくさんいるさ」

ノアは小さく舌打ちしつつも、彼の後を追って塔の上へと登り、その隣に腰を下ろした。

夜の景色は、昨日と似ているようでどこか違っていた。今日は第三城壁にまで祝いの宴が広がり、街のどこもかしこも明るい光と、人々の楽しげな歓声に満ちあふれている。

ノアは、あの大勢の人々はもちろん、目に見えない暗闇の向こうに広がるすべてのセファスの大地までもが、これからヴァレンタインという一人の男の「義務」に属することになるのだという事実に、驚きと同時に、少しの哀れみを感じていた。魔法使い団を一つ率いるだけでも相当な労力なのに、巨大な大陸を丸ごと導くとなれば、どれほど疲弊することだろう。

「たまには……俺を使ってもいい。少しは役に立つこともあるだろ?」

「なんだか不思議だな。王室と魔法使い団って、ずっと争ってばかりの冷え切った関係だと思ってた」

「ずっと昔には、二つの集団が手を取り合って協力していた時代もあったさ。だが、彼らの生きている間では――」

そんな前例は、ほとんどなかった。かつてゴーレムを運び上げるために、魔法使い団が数名の魔法使いを派遣したことはあったというが、あのアルステアの事件によって、その記録すら曖昧なものとなってしまっていた。

「俺たちが、わざわざ争う必要はないんじゃないか?」

「お前のその、致命的に運の悪い性格を除けば、な」

「これでも俺、けっこう親切な人間だって自負してるんだけど?」

「どこの世界に、親切な人が、寝ている相手の顔に冷水をぶちまけて起こすんだ。しかも、あれは七日も不眠不休で研究を続けた後のことだったじゃないか」

「だからって、優しく肩を揺すって起こすほど、俺は甘くないだろ?」

「極端なやつだな。俺が本当に、唯一期待してる日があるとしたら――クラリスが、お前のそのひねくれた内面を全部見抜く日だよ。その日は、きっとセファスの新しい記念日になる」

「……いったい、どっちが極端なんだよ?」

二人は、顔を見合わせて小さく笑った。夜風が、塔の上を静かに吹き抜けていく。争う理由などどこにもない二人の間には、言葉以上に穏やかで、対等な時間が流れていた。

「とにかく、ここは俺が先に場所を取ったんだから、お前は別のところへ行けよ。家臣たちと並んで座って、爆竹を見る趣味はないだろ?」

ヴァレンタインは肘でノアを軽く突き、席から押し出そうとした。

「下ではヴァレンタインを探している人がたくさんいるみたいだし、そろそろ行ってあげたらどうだい? 私はここが気に入っているんだ」

「クラリスは?」

「誰かと一緒にいるんじゃないか?」

「ジェラルド、ユジェニ、マクレド!」

ヴァレンタインは、彼女たちの名を口にしただけで不快だと言わんばかりに、大げさに眉をひそめた。

「その三人を一緒にしちゃだめだ。性格の悪いところだけが見事に集まってるんだからな!」

彼が冗談めかして空を指さすのと同時に、背後から確かな気配がした。

「それは、何でもかんでも悪く言うより、よほど性質が悪いのではなくて?」

ユジェニだった。そのすぐ後ろから、クラリスもひょいと顔を出した。

「二人とも、こんなところにいたのね?」

明るく声をかけながら近づいてきたクラリスは、二人が腰掛けている欄干の場所に気づくと、すぐに眉をひそめ、心配そうな表情になった。

「危なくない?」

「大丈夫だよ。ユジェニが後ろから突き落とさない限りはね」

「私は、殺す価値のある人間しか殺さないわ」

ユジェニはきっぱりと言い放ち、難なく移動して、ヴァレンタインの右隣にすとんと腰を下ろした。

ヴァレンタインがまた何か言い返そうと口を開くより早く、クラリスもそっと身を寄せ、ノアとヴァレンタインの間に慎重に座った。彼女は宙に浮いた両足を、しばらくぶらぶらと楽しげに揺らしてから、ふと気づいた。いつの間にかノアが、何らかの守護魔法で三人の身体をしっかりと欄干に固定してくれていたのだ。万が一にも、足を踏み外すような事態が起こらないように――彼なりの、優しい用心だった。

クラリスは、ほっと息をつき、安心したように小さく頷いた。

ただ、立っていた場所よりも、ほんの少しだけ高くなっただけ。それでも、夜風にさらされる高さは変わらず、足元の空気はひんやりと冷たかった。けれど彼女は、もう何も怖くはなかった。

向かい風が優しく吹き抜け、いっそう心地よく四人の頬を撫でた。

風に乗って遠くから聞こえてくる地上の人々の声は、どれも期待と愛情に満ちている。きっと、大好きな人たちと肩を並べ、今か今かと爆竹(花火)が上がるのを待っているからだろう。そしてクラリスもまた、そのありふれていて、けれど何よりも偉大な喜びに、すっかり身を浸していた。

「すごく……いいね」

クラリスは、自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。

その言葉は、隣にいるノアの耳にもしっかりと届いたらしい。いつの間にか夜闇の中でつないでいた手に、少しだけぎゅっと力がこもる。

「そろそろ始まるみたいだな」

時計を確認したヴァレンタインの言葉を遮るように、最初の爆竹が、夜空へと勢いよく打ち上げられた。

月にまで届くかのように高く昇った一つの光が、闇の中で大輪の花のように鮮やかに咲き誇り、やがて細かな美しい光の粉となって、地上へと切なく降り注いだ。

立て続けに、二発、三発――無数の爆竹が夜空を色鮮やかに染め上げていく。

ぱん、ぱん、と乾いた心地よい破裂音が連なり、辺りの空気ごと激しく揺らした。

ノアはクラリスに、クラリスはヴァレンタインに、ヴァレンタインはユジェニに――それぞれ何か言葉を交わそうと熱心に口を動かしてはいたが、爆竹の騒音があまりにも激しく、互いの声はほとんど届いていなかった。

だから彼らは、言葉を交わすのをやめ、示し合わせたように、ただお互いを見合わせて笑った。

理屈も理由もなく、ただこうして一緒にいられることが可笑しくて、愛おしくて仕方がない、そんな混じり気のない笑みだった。

不思議なことに、その楽しげな笑い声だけは、どれほど爆竹が激しく鳴り響こうと、どれほど周囲で大歓声が上がろうと、決してかき消されることはなかった。

また新たな眩しい光が、夜空へと高く打ち上がる。

けれど、クラリスの耳に、そして四人の胸の奥にいつまでも優しく残り続けたのは――ただ、止むことのない幸福な笑い声だけだった。

<完結>

 



 

  • ノアとクラリスの指輪をめぐる絆
    • ノアとクラリスは、お互いに母(アデル/シネット)から受け継いだ宝石と指輪の「想い」や過去を受け入れ、これからを共に生きることを誓い合います。
    • ノアはクラリスに対する深い独占欲と愛情を隠さず伝え、クラリスもまた彼のすべてを受け入れる強い絆を示します。
  • ヴァレンタインの戴冠式
    • 翌日、セファス王城で厳かに即位式が執り行われ、ヴァレンタインは若くも落ち着いた佇まいで新たな王としての第一歩を踏み出します。
  • 塔の上での静かな夜と仲間たちの集い
    • 式典の夜、王宮の最も高い塔で夜風にあたるヴァレンタインの元にノアが合流し、互いに気負わない穏やかな時間を過ごします。
    • その後、ユジェニとクラリスも合流し、ノアが魔法で安全を確保した中で、四人は夜空に打ち上がる花火(爆竹)を眺めます。
    • 周囲の激しい騒音の中でも、お互いを見合わせて笑い合う姿を通じて、言葉以上の幸福と確かな絆が描かれています。

 

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