こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

32話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 温室⑤
「はあ。」
「…?何かありましたか、殿下?」
深いため息にユリアが首をかしげた。
するとエノック皇太子は、何でもないと軽く笑みを浮かべた。
そして周囲をもっと見回したいと言って歩き出した。
ユリアとエノック皇太子は温室を歩きながら、いろいろな会話を交わしていた。
「吸湿壁の工事が終わったので、仕上げも少ししておきました。」
「湿気で光が反射してしまうと大変ですからね?」
「まあ、そこまでは話していなかったのに。よくご存じですね。」
「私も最初にこの話を聞いた時、令嬢は本当にすごいと思いました。私もちゃんとついていかないと。」
エノック皇太子は、ユリアと並んで温室に手をかざして魔法をかけた。
部分的な強化魔法で、構造の耐久性を高めるもののようだ。
「令嬢が言っていなくても、当然勉強していましたよ。」
そう言いながら、エノック皇太子はそっとセリアンを見つめる。
「私もできるだけ頻繁に見に来ます。管理を一人の庭師だけに任せるのは大変でしょうから。」
「殿下こそ無理なさらないでくださいね?」
「私はこの温室の正式な事業パートナーでしょう?」
そう言いながらエノック皇太子は柔らかく微笑んだが、その言葉の端々がどこか引っかかり、セリアンは少し戸惑った。
『つまり庭師を信じきれないってこと…?』
もしかしてこちらに牽制しているの?
エノック皇太子は「この素晴らしいアイディアが他所に漏れては困る」とも言いながら、さらに結界を一つ張った。
彼の手の中で静かに動く魔力は、天気が良かったせいか陽の光を受けて普段よりもさらに鮮やかに輝いていた。
ひと言で言えば、魔法が発動する時特有の美しさだった。
「殿下のおかげで、私も安心できました。」
そしてその様子を見たユリアは、エノック皇太子を見てふふっと笑った。
衝撃的だった。
『普段は860体もの魔物を倒すあの悪魔が、皇太子の前ではおとなしく笑ってるなんて?』
これはただの誇張ではなく、完全な事実だった。
セリアンは表情を保つために顔に力を入れた。
ユリアとエノック皇太子は、その後、温室のすぐ近くに設けられた別棟の応接室に入っていった。
『この話の行方を最後まで見届けなきゃ……』
セリアンは本格的に補佐騎士の任務を始めていたため、従うしかなかった。
「化粧品の材料を採取して運搬することについても、そろそろもっと具体的に考える時期のようです。」
「先ほど申し上げたように、皇室相談役の人員たちを……」
席を移して二人が引き続き話をしていたときのこと。
エノック皇太子はユリアの髪の毛が彼女の目をかすめているのを見つけた。
『だからさっき目を細めていたのか。これが原因だったんだな。』
ユリアの瞳は、事業に関する話をするときには燃え上がるように赤く輝いていた。
しかし、飛び出した髪が動くとその輝きを隠すかのように邪魔をしていた。
その瞬間、さっき庭師がユリアの首元についていた髪を取ってあげたことをなぜか思い出した。
彼はユリアの髪にそっと手を伸ばした。そっと。
そしてその行動に、ユリアは目を見開いて驚いた。
ウサギのように目を大きく見開き、言いかけていた言葉も忘れて、しばらくの間その様子を見つめるほどに。
「……」
「……」
ただ、目を細めていた髪の毛を一房、かき上げただけ。
ユリアの額に手が触れたわけでもない。
エノック皇太子もとても慎重だったため、客観的に言えば、ユリアの目の前の空中に手を動かした程度だ。
それなのに、ここまで驚いてのけぞるとは思わなかった。
「…あ…すみません。」
「いえ、私が過剰に反応してしまいました。」
続く沈黙の中で謝罪の言葉を差し出したのは、エノックだった。
彼の心は複雑になる。
『さっき庭師は体についていたものを取るときに手が触れて…私は触れもしなかったのに。』
テーブル越しに近くに座っていたので、目に留まった。
しかし。
ただ、ユリア本人に…目を細めている理由は、髪の毛が目にかかっているせいだと伝えればよかったのか。
『こんなにも…違う反応になるなんて思わなかったな。』
さっき庭師の行動も大げさにはならなかったから、自分が取ってあげても大丈夫だと思っていた。
『行動はもっと軽いものだったのに、相手が違うからだな。』
もちろん驚くだろう。
ユリアならそうするだろう…。
「……」
「……」
そしてしばらく続く沈黙。
エノック皇太子は、そういうこともあるだろうと考えながらも、ユリアが自分と目を合わせようともしない様子を見て、寂しさを感じてしまった。
そんな資格もないのに、と思いながら。
『庭師は…私より知り合ってからまだそれほど経っていないのに。何の抵抗もなく座っていた。』
君はきっと昔のことだから覚えていないかもしれない。
父の葬儀の場で慰めてくれた、あの日から。
『…私にとって多くの人のうちの一人ではなかったのに。』
自分でも幼い初恋だっただけだと思っていたのに、なぜ他の男を自分より親しげに感じることに、こんなにも切なさを感じるのだろうか。
『雰囲気が変だな?』
そして2人の微妙な感情は、本人たちは気づかなくても、第三者のセリアンには見えていた。
自分がユリアの髪を取ってあげた時は、あまり反応しなかったユリアが。
皇太子の手は触れてもいないのに、視線も合わせられず戸惑っている様子だった。
それぞれが違う考えに浸っていたその沈黙の中で、ユリアは心の中で気が狂いそうなほど慌てていた。
『わ、私、さっき皇太子殿下にすごく反応しちゃった!』
ただ皇太子は、近くの席で自分が不便そうにしているのを見て髪を取っただけなのに。
でもこうして過剰に反応する自分を見て、今どれだけ困惑しているだろう。
『皇太子殿下は他の人にも親しげに接していただけなのに、私はこういう親しさに慣れていないから…。』
一方で、こんな姿ばかり見せている自分がみじめに思えた。
ビーエイや領主たちに引きずられるように振る舞っているのではないか。
自分の事業に自信がないから、見下されるのではないか。
見せ続けている自分の姿が情けないほど…様になっていなかった。
『他の誰でもなく、皇太子殿下の前ではもう少し堂々として余裕ある態度でいたかったのに!』
けれど、それがうまくできなかった。
元々、人間関係が得意なほうではなかったが、エノック皇太子の前では特にぎこちなくなるときがあった。
もちろん恋愛感情があって、好きな男性の前だからというわけではなかった。
自分がまさか、皇太子殿下をそんな目で見るはずがない!
皇太子とユリアから少し離れたところで、セリアンはそんな2人をじっと見つめていた。
『私は平気だけど、皇太子は居心地悪そうにしてるのは確かだわ。』
ユリアは気づいていなかったが、どうしていいか分からないのは皇太子も同じだった。
そんな様子がセリアンの目にははっきり見えていて、2人はあまりにも分かりやすい態度を取っていた。
『ほら見て、皇太子殿下。あなたのほうが居心地悪そうにしてるの、ちょっとおかしくない?』
もともと気楽な関係よりも、不自然でぎこちない関係のほうが、何か感情が芽生えやすいものだ。
『私は男として意識してないのに、あの人は男として意識してそうなの、わからないの?』
さっき無意識に髪を払ってあげたのを、後悔していた。余計なことをしてしまったと。
だがエノック皇太子が自分を公爵令嬢に対して無礼だと見るのではなく、縁者の恋愛ごとを見守るような目で見ているとは思わなかった。
『まったく…子どもたちの恋愛ごっこでも見ているみたい。』
さっきは、しっかりした実力のある精霊士であるセリアンの目には、完成された結界魔法を一発で打ったかのように見えた。
若いのに落ち着いていて成熟している皇太子だと思ったのに、なんてこった。
自己中心的で、世間を斜めに見ている公爵令嬢と同じだったなんて、なんてこった。
結局、皇太子も公爵令嬢も、同じような子どもにすぎなかった。
「私が無礼にも軽率な行動をしてしまいました。これからは絶対にそのようなことはいたしません。」
「いえ、本当に殿下が謝るようなことでは……。」
セリアンはお互いに恐縮しながら謝る二人を見て、内心くすっと笑った。

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