こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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87話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ダンスのお誘い
日差しが穏やかな午後の時間。
ベッドに横になり、シュシュと遊んでいたエスターの耳がぴんと動いた。
「何の音?」
突然、外から騒々しい音が聞こえてきた。
何事かと気になり、彼女は勢いよく起き上がり窓に駆け寄った。
「あら?デニスお兄様だわ。」
窓の外に身を乗り出すと、ちょうど馬車から降りてくるデニスの姿が目に入った。
彼が勉強のために首都へと発ってから、ほぼ1か月ぶりだった。
「お兄様!」
エスターが喜びのあまり窓辺からデニスに向かって手を振ると、デニスは手を大きく振り返しながら笑顔を見せた。
エスターは満面の笑みを浮かべ、デニスに会うために勢いよく外へ駆け出した。
「気をつけて、走って転ばないで。」
走ってくるエスターの姿を見たデニスも、顔に微笑みが浮かんだ。
「おや?シューまで出迎えてくれたのか。」
いつの間にか後を追ってきたシューがデニスの足元でちょろちょろしていた。
「シューもお兄さんに会いたかったんだね。」
「シューだけ?」
「えへへ。」
すっかり元気を取り戻してはいたものの、まだ感情を素直に表現するのが苦手なエスターは、「会いたかった」とは口にできず、代わりにシューを抱き上げてごまかした。
「とにかく中に入ろう。」
デニスはエスターの背中に優しく手を添え、彼女をそっと家の中へと導いた。
二人がリビングのソファに一緒に腰掛けると、そわそわと様子を伺っていたドロシーが控えめに部屋を出ていった。
「お茶菓子を用意してきますね。お嬢様は温かいミルクティーがお好きですし…ドレン様は紅茶でよろしいですか?」
「うん、砂糖は入れないでくれる?」
「承知しました。」
デニスは再びエスターに視線を戻し、持参してきたカバンから小さなプレゼントボックスを取り出した。
「これ、贈り物だよ。」
目を丸くしたエスターは、その箱を受け取り、ぎゅっと結ばれたリボンを丁寧にほどいた。
中からはブレスレットが姿を現した。
「わあ!すごく綺麗!」
紫水晶が中央にあしらわれたブレスレットはどこか特別な輝きを放っており、エスターは見たこともないユニークなデザインに目を奪われた。
「気に入った?」
「もちろんです。」
エスターは明るく笑いながら、腕輪をつけてみた。
白い手首に腕輪が見事に馴染んでいた。
「通りがかりに店でこれが展示されているのを見て、君のことを思い出して買ったんだ。気に入ったら、今度一緒に行こう。他のものも買ってあげるよ。」
アクセサリーに執着があるわけではないが、自分を思い出してくれるその気持ちがエスターには嬉しかった。
「ぜひ一緒に行きたいです。」
エスターとデニスはドロシーが用意してくれたお菓子を食べながら、くつろいだ雰囲気で会話を楽しんでいた。
その時、ジュディが眠そうな顔で階段を下りてきた。
重たい肩を回しながらリビングに入ったジュディは、デニスを見るや否や驚いた表情を浮かべた。
「いつ帰ってきたの?」
「さっきだよ。ところで、まだ寝てたのか?もう何時間も経ってるぞ……」
「昼寝してただけだよ。午後に運動するには体力が必要だからね。それより、エステルへのプレゼントだけ買ってきたの?僕の分は?」
ジュディの視線がテーブルに置かれた箱に向かった。
「もちろん、そんなことないよ。」
「ほんと、ひどいな。」
顔を合わせるやいなや口論を始める二人のせいで、家の中が一気に騒がしくなった。
エステルはその中でも慣れたように動じることなく、目の前に置かれたケーキを食べるのに集中していた。
「体つきがそんなにごついのに、まだ運動するの?中毒みたいじゃない?」
「男らしくていいだろ。それに君のほうがひ弱だよ。そうだ、明日の朝、一緒に運動しようよ。」
「ひ弱だって?君と比べたら、僕のほうがずっと上だよ。」
「何言ってるんだか。じゃあ、エステルに聞いてみようか。」
「エステル、どっちの味方?」
エステルは突然二人に注目されると少し戸惑いながらも、自分に向けられた質問に答える前に、まず口の中にあった牛乳を一口飲み込んだ。
そして、ナプキンで口元を軽く拭いながらこう答えた。
「私はお父さん派です。」
「おいおい、それは論外だろ!」
ジュディはその答えを聞いて納得がいかない様子で、エステルにもう一度二人のどちらかを選ぶようにしつこくせがんだ。
その時だった。
予期しない来客が現れたことを告げるチャイムの音が大きく鳴り響いた。
「誰か来たのかな?」
「きっとお父さんの知り合いじゃない?」
「でもお父さん、今は外出中なんだけど。」
居間にいた三人は、チャイムの音を聞いて一斉に顔を見合わせた。
そして、一人が立ち上がって玄関に向かった。
「私が見てきます。」
そう言いながら、音に反応して立ち上がったデルバートが外へ出て、訪問者が誰なのかを確認しに行った。
少しして戻ってきた彼は、部屋の中にいる三人を見回しながら口を開いた。
「ジュディ様、セバスチャン殿がいらっしゃいました。」
「えっ、セバスチャンが?なんで突然私に会いに来たの?」
ジュディは驚いた様子で声を上げた。
「はい、とりあえずお入りいただきました。」
デルバートが答えた。
最近、ユードック・テレシアを頻繁に訪れていたセバスチャンが現れたことに、ジュディは少し戸惑いながらも記憶をたどるように考え込み、苛立たしそうに足をカタカタ鳴らした。
用件が全く分からない状況で、セバスチャンがニコニコ笑顔で中に入ってきた。
「みんな揃ってるね。」
エステルは控えめにセバスチャンを見ながら、彼を迎え入れる準備をした。
セバスチャンを興味深そうに見つめた。
「また痩せたわね。」
会うたびに彼の顔つきが変わっていく。
どれだけ運動に打ち込んでいるのか、もはや体脂肪の影も見当たらず、筋肉がくっきりと浮かび上がっていた。
単に体重が減っただけではなく、ジュディと共にアカデミーにも通いながら体力と自制心を鍛え上げた成果だ。
今のセバスチャンは、単なる見た目だけでなく、その雰囲気も含めて誰もが好意を持つような魅力的な姿をしていた。
「デニス、久しぶりだな。」
「そうだな。でも、君の体つきはどんどんジュディに似てきたんじゃないか?」
「褒め言葉として受け取るよ。エステル……元気?」
セバスチャンは「褒め言葉じゃないけど」と心の中で突っ込むような表情をしながら、デニスの言葉を受け流しつつ、エステルに挨拶をした。
「こんにちは。」
エステルが挨拶を返すと、ジュディはセバスチャンを見て口を開いた。
セバスチャンがエステルを見つけられないまま、体で遮るようにしてジロジロ見回した。
「何事だい?」
「これ、招待状を持ってきたんだ。僕の誕生日は来週だろ?」
「知ってるけど、それがどうした?」
セバスチャンの誕生日パーティーの話題は既に何十回も耳にしており、参加する旨の返事もしているため、ここまで招待状を持ってくる必要は全くなかった。
「うん。エステルに頼みたいこともあってさ。」
体を少し傾けて様子を伺うセバスチャンを見て、ジュディが鋭く睨みつけながら腕を組んだ。
「その目的で来たってわけ? 私は絶対反対だね。」
「君のことじゃないよ。エステルに頼みがあるんだ。」
セバスチャンは全く動じず、まっすぐエステルの方へ近づいていった。
その瞬間、デニスまで彼を警戒するように立ちはだかり、彼がエステルに近づけないよう腕を伸ばして遮った。
「そこで話せ。」
「わかったよ、それなら……」
揺れるセバスチャンの青い瞳と、エステルのピンク色の瞳が空中で交わった。
その瞬間、狼狽したセバスチャンは言葉に詰まり、唇が震えたかと思うと拳を握りしめ、やっとの思いで声を絞り出した。
「エステル、僕の誕生日の日にパートナーになってくれないか?」
気まずそうに視線を逸らしながらのセバスチャンの表情は、どこかぎこちなく、自信なさげだった。
彼は手書きの文字が並ぶ招待状をそっとエステルの前に差し出し、受け取ってほしいという願いを込めた。
しかし、その招待状はエステルの手に渡る前に、ジュディとデニスの手によってひったくられる形となった。
「絶対にダメ。」
「そうだ、エステルにはまだ早すぎる。」
必死に書いた招待状が奪われる光景を目の当たりにしたセバスチャンは、無言のまま心の中で抗議の声を上げていた。
「それを何度も書き直したんだよ、知ってる? 本当にひどい!」
お兄さんたちに妨害されるセバスチャンに申し訳なさを感じたエステルは、静かに考え込んでしまった。
『もうこれで4回目だ。』
誠意を持ってパートナーの申し込みを受けるのはこれで4回目だった。
さらに、パーティーで顔を合わせるたびに、セバスチャンはエステルに近づいて「一緒に踊ろう」と誘ってきていた。
何度も断り続けていたにも関わらず、再びこうして頼まれると、今回は一度くらい付き合ってあげてもいいかな、という気持ちが湧いてきた。
『そんなに難しいことでもないし……。』
さらに、今回はセバスチャンの誕生日だし、プレゼントだと思って願いを聞いてあげることに決めた。
「いいですよ。」
エステルがあまりに簡単に答えを出すと、その場の3人の目が飛び出しそうになるほど驚いていた。
反応は大きく分かれた。
喜びで跳びはねるセバスチャン、こんなことはあり得ないとつぶやきながら苦々しく呟くジュディ、そして耳を疑うデニス。
「本当に? あとで文句言わないよね?」
「セバスチャンとパートナーだって?」
「……聞き間違えたんだろうな。」
もちろん、どう言われてもエステルの決意は揺らがなかった。
実際、一度一緒に踊ればそれで済む話だと思っていた。
『どうせノアもいないし。』
エステルがこれまでセバスチャンのパートナーの申し出を拒み続けた理由は、以前にノアと交わした約束があったからだった。
しかし、ノアからはすでに長い間音沙汰がなく、どこで何をしているのかも分からなかった。
出発前にいくら話しておいても、その後の様子を知るすべはなかったのだ。
『せめて時々は近況くらい教えてくれてもいいのに……。』
エステルの心の中で、自分でも気づかないうちに、わずかな反発心が芽生え始めていた。
不意にノアのことを思い出し、その考えを追い払うために、エステルはスプーンでたっぷり甘いケーキをすくい上げて食べた。
・
・
・
1週間後。
首都を離れたノアの家は、1つのカバンにすべてが収まるほど簡素だった。
特に持ち物を多くすることもなく、馬車1台で出発したノアとパレンは、ついにテレシア地方に到着した。
ベンジャミンは一緒に来ていなかった。
別の用事で首都に残り、後で合流する予定だ。
「時間通りに到着したね。」
「うん。遅れなくてよかった。大公を待たせるなんてことになったら困るからね。しっかり印象を良くしないと。」
今日はドフィンと会う約束の日だった。しかし、約束の場所は大公邸ではなかった。
ドフィンが指定した場所は、領内のある小さな店だった。
ドフィンから手紙で送られてきた地図を見ながら、ノアはその場所を探して向かった。
道中は静かで、迷うことなく目的地に辿り着くことができた。
ただ、静かすぎる道を歩きながら、自分が間違った場所に来てしまったのではないかという不安が頭をよぎった。
しかし、店の名前を確認すると、そこは間違いなく指定された場所だった。
『エクラー……ここで間違いないね。』
ノアは店の前に大きく掲げられた看板を見て、自分が正しい場所にいることを確信した。
ドフィンに会うという思いに、ノアの胸は少し緊張で高鳴った。
彼は、ともすれば何もかも見透かすような鋭い眼光を持ち、やや扱いにくい大人だった。
大きく深呼吸をした後、ノアは店のドアを開けて中に入った。
すると、入口で待っていたベンがノアを迎え、礼儀正しく挨拶をした。
「ようこそお越しくださいました」
ノアは軽く頷き、目線を動かしながら店内を見渡した。店内は広かったが、少し空っぽに見えた。
その場所を見回してみると、どうやら商業的な用途では使われていないようだ。
「ご一緒にいらした方々はこちらでお待ちいただき、皇子様だけご案内いたします。こちらへどうぞ。」
ベンの案内を受け、ノアは廊下を進んでいった。
扉をくぐると、一つの部屋が現れた。
その部屋の中で、無表情で窓の外を見つめているドフィンの姿が見えた。
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