こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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88話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ダンスのお誘い②
「お久しぶりですね、大公。」
ノアは部屋の中に入ると、丁寧に挨拶をした。
その挨拶を受けて、ドフィンの視線がゆっくりとノアに向けられた。
「お元気そうで何よりです。」
ドフィンは穏やかな表情を浮かべながらそう答える。
ベンはドフィンの座っている向かい側の椅子を引き出し、ノアに促した。
ノアは軽く礼をして、その椅子に腰を下ろした。
「それにしても、前にお聞きしたときには病気は完治したと伺いましたが。」
ノアは軽く微笑みながら話を切り出した。
「領地から突然お姿を消されたのは、何か問題が起きたのですか?」
「私を探しておられたのですか?」
ノアが疑問の表情を浮かべ、椅子をわずかに引き寄せながら尋ねた。
ドフィンはノアの言葉を自分なりに解釈し、少し親しみを込めた表情で静かに答えた。
「……厳密に言えば、探していたわけではありません。領地にいたはずの方が突然姿を消されたので、ただ気になっただけです。」
そのとき、タイミングよくベンが二人の前に淹れたてのコーヒーを運んできた。
ノアは湯気の立つカップを手に取り、一口飲もうとした瞬間、ドフィンが静かに尋ねた。
「今日はまた、どのようなご用件で?」
「以前にお話しした約束を果たす時が来たようです。」
「皇太子の件ですね。」
「その通りです。」
ノアはためらうことなく答え、薄く笑みを浮かべながらコーヒーを口にした。
普段飲んでいるコーヒーとは違い、かなりの苦味があり、思わず目をすぼめた。
「コーヒーが非常に……苦いですね。」
ドフィンは返答する代わりに軽く顎を引くだけだった。
「以前お伝えしたように、私の接近禁止令は間もなく解除されます。父上との話し合いは終わりました。」
大きな窓からたっぷりと陽光が差し込んでいた。
明るい光の下、重々しい空気を照らすように窓際の明るい日差しが無尽に降り注いでいた。
「この1年半、何をされていましたか?」
「私を支持してくれる人々を集めて回っていました。このまま会議に臨めば、デイモン兄上に任せられるでしょう。」
ドフィンが冷静に見つめても、ノアはその視線をそらさなかった。
ドフィンはノアのこうした揺るぎない態度を高く評価しているようだった。
「表情を見る限り、思ったとおりに進んだようですね。」
ノアは両手を静かに膝の上で組み、真剣な表情で雰囲気を一変させた。
「皇太子選定会議の日程が決まったことをご存知ですよね?」
「はい、連絡を受け取りました。」
「その会議の際には、私を支持していただけませんか?」
ドフィンはこのような状況で堂々と支持を求めるノアを興味深そうに見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「過半数は集まりましたか?」
「もちろんです。」
効率的に言葉を伝えるために、一度区切った後、ノアは慎重に続けた。
「大公も神殿を嫌っていますよね。もし兄上が皇太子に選ばれれば、神殿が帝国に与える影響は現在よりもさらに大きくなるでしょう。」
ノアは自分を選ばなければならない理由を丁寧に説明しながら、ドフィンに真剣な眼差しを向けた。
「もう一度だけ、私を助けてください。この恩は必ずお返しします。」
「いいでしょう。」
ドフィンの返事はあっさりしていた。
もともとノアとデイモンのどちらかを選ぶならノアだと決めていたため、迷う必要はなかった。
ノアが過半数の支持を集めたという話が嘘であっても、ドフィンにとっては関係なかった。
ただ、彼の目を信じるだけだ。
「はあ、助かりました。断られるのではないかとひやひやしていました。」
ノアは堂々としているように見えたが、内心では緊張で震えていた。
まだドフィンを相手にするには力不足だと感じていたのだ。
確信を得て、ノアの表情はぱっと明るくなった。
ドフィンはノアを見て、思わず微笑んだ。
(まだまだ子どもだな。)
ノアはその意味を知らずに微笑み返しながら、ふとエステルについて尋ねることを思いついた。
「エステルはお元気ですか?」
ドフィンの手は一瞬止まり、コーヒーが揺れ、カップから少し溢れた。
「とても元気にしていますよ。」
「それは良かったです。久しぶりに会いたいのですが、家にいますか?」
「いいえ。」
ドフィンの一瞬柔らかかった目が、再び冷たくなった。
「今日はパーティーがあって、息子たちと一緒に出かけました。」
「パーティー?誰のですか?」
「ビスエル侯爵の息子のものです。」
ノアは「ビスエル」という名前を聞いた途端、大きな声で驚きの声を上げてしまった。
「セバスチャン?」
「その通りです。」
最近エステルの名前とともによく耳にする名前だったため、ノアはその名に過敏に反応し、心配になった。
「まさかエステルとその侯爵の息子が婚約しているとか、そういう話では……ないですよね?」
「そんなことはありません。」
ドフィンはきっぱりと答え、少し威圧的な雰囲気を醸し出した。
急に張り詰めた空気にノアは息をのんだ。
「婚約の話なら、デイモン皇太子も申し出ていました。」
「兄上がエステルと?ありえない。」
驚きと動揺が入り混じったノアの表情は、言葉以上に明確にその感情を伝えていた。
以前には見られなかったほど感情的なノアの声は、周囲の空気を震わせるほど強く響いた。
「まさか受け入れるつもりですか?」
ドフィンの冷静さを欠かない態度も、この瞬間だけは少し乱れたように見えた。
動揺した感情はそのままドフィンに伝わる。
(やはり私たちのエステルに対して特別な想いがあるんだな。)
最初に訪れた時は緊張感だけが伝わってきたが、ここまで感情を露わにする様子を見て、ドフィンは疑いようもなくそう感じました。
固い表情のままのドフィンがノアを少し安心させようとするように、静かに言葉を発した。
「誰にも彼女を渡すつもりはありません。」
「……本当ですか?」
「はい。私たちのエステルは結婚するつもりがないと言っています。」
「しかし、それでもエステルが成人した後も彼女をずっと側に置いておくのは問題になりませんか?」
「何も問題はありませんよ。資金も、影響力も、すべて十分にありますから。」
ドフィンの言葉は正論だが、エステルとの将来を考えていたノアにとって、それを納得させるのは容易ではなかった。
何とかしてドフィンを説得しようと考え続けていた。
ドフィンは時計をちらりと見て、時間が来たことを確認すると立ち上がる。
「話は十分にしたようですね。」
「……はい。それでは会議の時にお会いしましょう。」
その言葉を交わした後、ドフィンは一礼し、素早く店を出て行く。
外へ出てきたノアは、どこか放心状態で小声でつぶやいた。
「デイモン兄がエステルに特別な感情を抱いているなんて……こんなこと、考えもしなかった。」
「お嬢様に会いに行かれるべきでは?」
「ここにはいない。今はビスエル公爵家の誕生日パーティーに行っている。」
そう言いながら、ノアは肩を落とし、階段に腰掛けた。
彼の肩を見守っていたファレンはそっと肩を叩き、困惑気味に見つめる。
ノアは、テレシアに来ればエステルに会えるかもしれないという淡い希望を胸に抱いていたが、彼女の姿を見ることができなかったことで、苛立ちと失望が募っていた。
「ここで時間を潰している場合じゃない。ビスエル邸に向かわないと。」
「次元で行くというのはどうですか?」
「どうせ遅れはしないだろうか?」
「いいえ、すぐ隣の領地なので、1時間もあれば到着するでしょう。うまくいけば、開始時間にも間に合うかもしれません。」
たとえビスエル領地に行っても、顔を見せるだけでパーティーに参加することはできないので、特に問題はない。
それでも、なぜか不安な気持ちが湧き上がり、少しでも早くエステルの前に現れたいと思った。
「ファレン、出発しよう。」
とりあえず行くと決めたノアは、立ち上がる。
どうせ今の状態ではここにいても、何をしても集中できないと感じた。
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