こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

154話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 原初の存在②
その時、誰かが声をかけてきた。
「こんにちは?」
びくっ!
ナビアは驚きの表情を浮かべながら周囲を見渡した。
だが、ここに落ちてきた時と同じように何も見えなかった。
ただの暗闇が広がっているだけだ。
『何?手がかりもなく、特に異様な雰囲気も感じられないのに。』
「無駄な心配はやめたまえ。結局、君の目に見えるものが全てなのだから。」
「目に見えるものが全て……」
ナビアは落ち着いた表情で静かにその視線を受け止めた。
これが本当の正体かどうか、それを知る必要はなかった。
自分に語りかけているのは「闇」そのものだと気づいたのだから。
「“カオス”様ですね。」
すると、その正体を的確に指摘された闇が、嬉しそうにざわめき始める。
「その通りだ。私は永遠に続く人間たちを好むものだ。」
それは自分がカオスであることを認める言葉だ。
ナビアは冷静な表情を浮かべながら、少しぎこちなかった姿勢を整えた。
礼を尽くすためだった。
相手がただの人間ではなく、神であることを理解していたからだ。
しかし、彼女が示すことのできる最善の礼儀は、人間的なものだった。
『それでも、相手に敬意を示すことは伝わるだろう。』
「このようにお会いできることは光栄です、カオス様。私はニクスの化身であるナビアと申します。」
「知っている。私の娘の化身だろう。」
カオスの声から、笑みを浮かべているような響きが伝わってきた。
『どうやら好意的なようだ。』
それは幸運だったが、ナビアには、カオスがなぜ自分をここに呼び出したのか、まだわからなかった。
彼女が訝しんでいるとき、闇が大きくうねり、変化の兆しを見せた。
それが彼女の予想を超えたかのように、闇が動き、光景が変わり始めた。
床に敷かれた豪華なカーペット、高級感漂う丸い柱が見えた。
金でできた車輪、装飾品、砂漠の部族の王のハーレムを連想させるような光景だった。
『こういうのがカオス様の趣味なのかな……?』
その時、空間の中央で闇が渦巻き、嵐のような音が鳴り響く中、小さな黒い形が徐々に浮かび上がってきた。
それは一つの塊が形を変え、新しい人間の形状を取っていくようだった。
ナビアは直感的に、その形がカオス自身であると察した。
彼女は緊張した目で、その黒い形状をじっと見つめた。
スススス。
形状を包んでいた闇が解け始め、やがて人間の形が明らかになる。
その中に現れたのは男性だった。
月光のように淡い白い肌、深くて長い睫毛を持つ目、鋭い鼻筋と薄い唇。
全体的に精悍で美しい顔立ちだった。
カオスを包んでいた闇が完全に消え去った。
彼は目を閉じているにもかかわらず、圧倒的な存在感を放ち、息が詰まりそうなほどの威圧感を漂わせていた。
誰が見ても、証明する必要すらないほど、彼が偉大な存在であることを理解できるだろう。
カオスはゆっくりと目を開いた。
そして、揺らめく光の中で瞳が輝きを放った。
その瞳はナビアを正確に捉え、彼女を見据えながら微笑みを浮かべた。
「会えて嬉しいよ、ナビア。」
『声が人間らしくなってる……。』
ついさっきまで、カオスの声は空間全体を震わせるような重々しい響きだった。
しかし今や、話し方から声色までが人間そのもののように感じられる。
彼のうなじに垂れる黒髪は耳の後ろで滑らかに流れており、その一連の仕草はどこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。
『神に対して、あまりにも失礼な考え方かしら……?』
カオスはラルクと比べると背が低く、体型もずっと細身だった。
しかし、そのためか、より妖艶な雰囲気を漂わせているように感じられた。
彼は目を半分だけ開いたまま、薄い唇を上げて、意図の読めない微笑みを浮かべていた。
『服装も独特ね。』
ラルクが神界から戻ってきた初日にも似たような特異な装いをしていた。
あれが神界特有の正装なのかどうかはわからないが、カオスも同様に、床に擦れるほど長いローブを身にまとい、一方の耳には金で作られた華やかなイヤリングをつけていた。
『あんなに大きなイヤリングが似合う男性を見るのは初めてだわ。』
ナビアは少し口を開けたまま、その独特な雰囲気に見とれてしまっていた。
周囲の雰囲気を支配するカオスを呆然と見つめた。
誰かからこれほどまでに魅惑的な印象を受けたのは初めてだった。
『クリードも誰にも負けないほど魅力的だけど、こんな妖艶な感じはないわ。』
もちろん、ナビアと一緒にいるときのクリードは特別な雰囲気を醸し出していたが、それでもこのような感じとは違っていた。
カオスはナビアの視線を感じ取り、さらに深い微笑を浮かべた顔でゆったりと彼女に近づいてきた。
「僕の外見、気に入った?」
ナビアは少し動揺しながらも、恥ずかしげに視線をそらした。
単に美しいとか魅力的だという言葉では言い表せない、カオスが放つ独特な雰囲気に圧倒されていた。
ナビアは正直に答えた。
「よくわかりません。いえ、そうかもしれません。」
「正直な子だね。」
カオスはクスクスと笑いながら、ナビアの前に身を屈めて近づいた。
その長いまつ毛が美しい角度で影を落としていた。
「君、かわいいね。」
「……!」
ナビアは急に近づいた顔に驚き、思わず身を引いた。
しかし、背後に壁が現れ、逃げ道をふさがれた。
カオスはそっと頭を傾けながら尋ねた。
「どうして僕を避けるんだい?」
ほとんどキスでもするかのような近い距離まで顔を寄せられたら、誰だって避けるのではないだろうか?
「顔があまりにも近すぎるからです。」
彼女の説明にもかかわらず、カオスの視線は依然として「理解できない」とでも言いたげなものであった。
「それが問題になるのか?」
「はい、人間にとっては。」
「なるほど、人間か。でも私は神だよ?私は人間ではないのに、不快に感じる理由が何かあるのか?」
カオスは無邪気な表情で興味津々に問いかけた。
その質問の内容と行動が、あまりにもズレているように思えた。
『本当に知らなくて聞いているの?それとも私をからかっているの?』
いずれにせよ、説明することにした。
「それはそうでしょう。ただ、外見が人間と同じである以上、私たちは意識せざるを得ません。」
さらには、彼には未来を約束された恋人もいた。
「ふーん、そうか? 俺を意識してるって?」
カオスはナビアの言葉から、自分に対する興味の部分だけを深く掘り下げた。
顔を離してほしいという要望を完全に受け入れるつもりはなさそうだ。
彼は少し距離を取りたいというメッセージを込めた強い視線を送るナビアを見て、薄く微笑んだ。
「みんながどうして君を好きなのか、なんとなく分かる気がする。」
「そうなんですか?」
「うん。可愛らしい顔立ちをしていて、しかも愛嬌があるんだから。」
「……」
もし彼が人間だったなら、間違いなくその言葉に赤面していただろう。
『どんな神でもこんな風に振る舞うものなの……?ニクスとは全然違うじゃない。』
もちろん、ナビアが知る神というのは、ニクスだけだったので、比較対象が少なすぎるのは事実だ。
性別が存在するのかどうかも分からない神を相手に、自分なりに人間のルールを適用して考えすぎているのかもしれない。
『そもそも神が私に何か企みを持つ理由なんてないはずだわ。』
ただ、妙に落ち着かない気持ちになるのは完全に錯覚である。
とはいえ、カオスの瞳には純粋な好奇心と興味が映っていた。
だからこそ、威圧的でも不愉快でもない。
『はっきりとした答えが出ない問題について考えてみただけ。どうするべきだろう?勇気を出して話を終わらせ、元の人間界に戻してくれるよう頼むしかない。』
「私をお呼びになった理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「君に会いたかったんだ。興味があってね。」
……ただそれだけの理由で自分を呼んだというの?
ナビアが戸惑っている間に、カオスは彼らの横にあるテーブルへ行き、椅子を引き出した。
「さあ、ここに座りたまえ。」
ナビアはしばし固まった。
相手が神だとしても、これは普通の人間がやるような行動だ。
この過剰な好意を受け入れても良いものだろうか?
『そもそも人間のルールが通じる相手ではない。私も常識を捨てて、この相手に合わせてみる方が良いのかもしれない。』
「ありがとうございます。」
カオスは彼女が椅子に座ったのを確認してから歩みを進めた。
ナビアは当然、彼が対面の席に座ると思っていた。
だが、カオスはそんな常識には一切関心がないかのように、テーブルの上に軽く腰を下ろし、体を少し前に傾けて肘を膝に乗せ、顔を近づけるという行動に出た。
非常に突飛な位置取り。
しかし、ナビアは驚かなかった。
先ほどまで彼が人間の常識を適用しない相手だと理解したおかげだった。
ただし、問題は別のところにあった。
彼の顔が再び不自然なくらい近づいてきたことだ。
ナビアはしばし逡巡し、ついに問いかけた。
「さっきから、なぜそんなに顔を近づけるのですか?結婚するつもりですか?」
カオスは目を丸く見開き、当然のことを尋ねられたかのような表情で答えた。
「そうだよ。君が気に入ったから、近くで見たいんだ。」
「ああ、そうなんですね……。」
カオスはナビアの反応を聞いて、微笑みを浮かべた。
本人は冷静を保っているつもりだろうが、その微妙に浮かぶ動揺の色が明らかに感じ取れた。
そのテーマについて素直に応じる姿勢が、本当に愛らしかった。
「人間たちは相手を気に入ると、大抵結婚するそうだけど、僕とする?」
「……はい?」
唐突に「結婚」という言葉が出たようだが、聞き間違いだろうか?
カオスは柔らかな笑みを浮かべながら、ナビアの髪を指先で優しくいじった。
「俺には子供が結構いるけど、みんな能力は確かだよ。結婚したら極上の恩恵を一緒に受けさせてあげる。どう思う?」
ナビアは戸惑いながらも微笑み返した。
「冗談ですよね?」
しかし、カオスは答えずに、またも意味深な微笑みを浮かべるだけ。
それがさらに彼女の不安を募らせた。
彼の真意を読み取ることができず、ナビアは心の中で葛藤を抱えていた。
『冗談だよね。』
いや、そうでなければならない。
『お父さんに会いたい……。』
こんな幼稚な考えが頭をよぎるとは、彼女は自分が精神的に疲れ切っていることを痛感していた。







