こんにちは、ちゃむです。
「継母だけど娘が可愛すぎる」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

354話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 新しい命④
朝、雪は静かに降り続けていた。
空気は穏やかで、雪というよりは小さな霧雨が降り注いでいるかのように見えた。
王城とその周囲が次第に薄い白に包まれていく。
レイヴンはしばらく窓の外を眺めていた。
風のない天候が影響してか、窓越しに見える景色はまるで絵画の一部のように穏やかだった。
彼はその白い風景を眺めながら、ブランシュが生まれた冬を思い出していた。
そう、あの時も今日のように雪がたくさん降っていた。
外は静かだったが、内側はざわめいていた。
その日とよく似た一日だった。
ミラードの慌てた声が、遠くから響いてくるように聞こえた。
「殿下!もうすぐご出産のようです!」
今日は王妃の出産予定日だった。
昨夜から宮殿の中はあちらこちらで慌ただしさを見せていた。
そして待機室もまた騒然としていた。
産室の隣に設けられた部屋で、セイブリアンが緊張した様子で横になっていた。
ミラードと7~8人の中年の侍医たちがそのそばに集まっていた。
ミラードは少し怒り気味の顔で主治医を叱責した。
「何をしているのだ!もっと鎮痛剤をお出ししなさい!」
「ミラード、落ち着け……いい……私は大丈夫だ……」
セイブリアンはそう言ったものの、全身が冷や汗でびっしょり濡れていた。
実際、これほど激しい痛みを経験したことは一度もなかった。
子どもを産んだ女性たちに敬意を払いたいと思うほどだ。
陣痛を忘れたくて、悲鳴を上げたくなった。
もし産室から遠く離れていれば、思い切り叫んだかもしれない。
もし自分が悲鳴を上げれば、リリーもそれを聞くだろう。
優しい王妃はその声を聞いてさらに心を痛めるに違いなかった。
だから彼は全力で声を押し殺した。
そばで使用人たちがせわしなく声をかけているのが神経に触った。
「殿下、もう少しです!もうすぐ赤ちゃんが生まれます!」
「頑張ってください!」
侍医たちはベッドの両側から一生懸命応援していた。
セイブリアンは彼らをすべて振り切ろうとしているようだった。
彼はリリーの元に行きたかった。
彼女が見たくてたまらなかった。
今、子どもを産むために苦しんでいるリリーの手をしっかり握ってあげたかった。
控室では臣下たちの声援が響いていたが、産室ではやはり出産のために騒然としていた。
リリーは痛みを感じることはなかったが、身体にかかる負担は相変わらず大きかった。
セイブリアンが冷や汗でびっしょりだったように、リリーもまた緊張の汗で濡れていた。
セイブリアンもその状況を感じ取っていた。
彼女がどんな状態かを鮮明に理解していた。
痛み、そして懐かしさ。
お互いにお互いを見たいと願っていた。
セイブリアンは席をしっかりと移動させた。
「殿下!頭が見えたようです!」
「セイブリアン殿下、頑張ってください!」
全員が退室するよう叫ぶ声が響き、扉が開かれた。
扉がぱっと開き、隣の部屋から産婆が入ってきた。
彼女の顔も汗でびっしょりだったが、微笑みを浮かべていた。
「おめでとうございます、陛下!王子様が誕生されました!王妃様もご無事です!」
その報告を受けて、ミラードの目には涙が浮かんだ。
彼は感動したようにセイブリアンを見つめた。
通常であれば、緊張して身動きが取れないはずだったが、セイブリアンはミラードを無視するようにして突然立ち上がった。
いや、立ち上がろうとした。
痛みのために身体を動かすのは容易ではなかった。
全身が砕けそうなほど痛んだ。
しかし、彼はただ横たわっているわけにはいかなかった。
「ミラード、肩を貸してくれ。」
「はい、陛下!」
彼は慌ててセイブリアンを立たせ、支えた。
セイブリアンは祝福を受けながら静かに産室へと足を運んだ。
「リリー……!」
ベッドに横たわるリリーを見た瞬間、彼は胸が押しつぶされそうだった。
痛みをセイブルに移しても、彼女は疲れ果てていた。
「本当にお疲れさまでした、あなた。大変でしたね?」
セイブリアンはリリーのそばに座り、しっかりと手を握った。
リリーは涙を浮かべながら、その手を包み込むように握り返した。
「セイブル、あなたの方がもっと苦しんだでしょう?」
「この痛みがあなたのものだと思うだけで、こんなに辛いなんて思いませんでした。」
二人は疲れ切った表情で微笑み合った。
その時、産婆が慎重に赤ちゃんを抱いて近づいてきた。
「陛下、抱いてみられますか?」
リリーは少し緊張した顔で首を縦に振った。
赤ちゃんは布に包まれており、その顔はまだ見えなかった。
この子は誰に似ているのだろう?
布をそっとめくると、穏やかで柔らかな顔立ちが現れた。
赤ちゃんの髪は二人と同じように黒かった。
そして……赤ちゃんの顔はリリーとセイブリアン、両方にそっくりだった。
全体的な目鼻立ちはセイブリアンに似ているようで、口元と鼻はリリーを思わせる。
リリーはぼんやりと赤ちゃんを見つめていた。
自分に似ていることが信じられず、赤ちゃんの美しさに目を奪われ、一瞬涙があふれそうになった。
そして、不思議なことに以前両親と交わした会話を思い出した。
「私は後で改名します。『白百合』という名前、本当に私に似合わないのに、なぜそんな名前をつけたんですか?」
「それはお前が白百合のようだからだよ。」
そのときはその意味が理解できなかった。
しかし、赤ちゃんを腕に抱いた瞬間、彼女にはその意味がすべて分かった気がした。
二人も同じように感じていただろうか。
たとえ私が美しくない子どもだったとしても、二人の目には私が百合のように見えたのだろうか。
「リリー、あなたに似ていて、この子は本当に美しいですね。」
セイブリアンは生まれて初めて宝石を見つけたような表情で赤ん坊を見つめていた。
その瞳には、これまで味わったことのない感動があふれていた。
リリーはクスッと笑いながら、赤ん坊をセイブリアンの腕にそっと抱かせた。
「ほら、抱っこしてみて。我が子ですよ。」
彼は緊張した様子で赤ん坊を受け取った。
産婆から細かい抱き方の指示を受けたものの、依然としてぎこちなく硬直していた。
赤ん坊が何度か体を動かしながら小さな声で泣き声を上げたあと、ようやく落ち着きを取り戻した。
セイブリアンは何かに取りつかれたように、その様子を見つめ続けていた。
「……赤ん坊が生まれるって、こんなに幸せなことなんですね。」
リリーはその言葉にどう返答すればよいかわからず、喜びと同時に悲しみ、そして安心感に包まれながら静かに立っていた。
その瞬間、扉が開き、中に入ってきたのはブランシュとベリテだった。
リリーの顔には驚きの表情が一瞬浮かんだが、すぐに平静を取り戻した。
少し前、セイブリアンが何かをブランシュに言ったのではないかという不安がよぎった。
しかしブランシュの大きな目にはただ心配の色だけが浮かんでいた。
彼女はリリーの顔色を心配そうに見つめていた。
「お母様、大丈夫ですか?たくさん痛かったでしょう?」
「ええ、大丈夫です。お父様がたくさん頑張ってくれましたもの。」
ブランシュは今度はセイブリアンに目を向けた。
心配そうな視線はまだそのままだった。
セイブルアンは少しぎこちなく笑った。
「……私は大丈夫です。本当に、何ともありませんから。」
その言葉は、少し前に言った言葉が心に引っかかっているようだった。
その間に、ベリテがセイブリアンの腕に抱かれた赤ん坊を見て感嘆した。
「わあ、ツルツルしたじゃがいもみたい。」
「じゃがいもだなんて、ひどい言い方だ。」
「ツルツルしたサツマイモみたい。可愛いね。人間の赤ん坊ってこんな感じなんだ。」
ブランシュもベリテの隣にぴったりとくっついて赤ん坊を見つめていた。
大きな声を出すと驚かせるのではないかと、小声で話しかけた。
「こんにちは、私は君のお姉ちゃん、ブランシュだよ。」
「うーん……。」
赤ん坊は声が聞こえた方向に首を傾けた。
まだ目を開けきれていない様子だ。
ブランシュは不思議そうな顔をしてリリーに尋ねた。
「ねえ、私の弟の名前は何なの?」
「まだ決めていないの。何か思い浮かぶ名前はある?ブランシュ?」
「うーん、考えておいたものがあるんですが……。」
セイブリアンが続きを促すようにブランシュを見つめた。
ブランシュは得意げな表情で話した。
「私が生まれた時も冬だったし、弟が生まれた今も冬だから……冬、イベールはどうでしょう?」
そして慌てて付け加えた。
「単純すぎますか……?」
「イベール。素敵な名前ですね。」
セイブリアンの声には満足が滲んでいた。
リリーも無意識にそれが心地よく感じた。
「イベールが微笑んでいますね。この名前が気に入ったみたいです。」
イベールは口元をわずかにほころばせて笑っているように見えた。
その姿に名前がよく似合っているとリリーは感じた。
「白い冬。私たちが守りたい色とぴったりの名前だわ。」
そのように話している間に、ノマがそばにやってきた。
彼女はいつもより少し微笑みを浮かべながら話した。
「ブランシュ姫様、王妃様はそろそろお休みになられた方が良いかと思います。」
「あ、はい。分かりました。お母様、お父様、どうぞゆっくりお休みください。」
リリーは微笑みながら軽く会釈した。
ブランシュもまた微笑んで立ち上がった。
静かに部屋を出て行く途中、ドアが閉まる直前、ブランシュはふと後ろを振り返った。
ベッドのそばに集まる3人の姿が目に入った。
リリーとセイブリアン、そしてイベール。
無言ながら幸せそうな様子だった。
ブランシュの顔に一瞬、何か感情がよぎったが、それはすぐに消えた。
そしてドアが閉まり、去っていく足音がほのかに聞こえた。







