こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

100話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 二人の候補者②
今や会議室の空気は嵐の直前のように張り詰めていた。
緊張感が満ちた中、表面上は平静を装っている人々も多かったが、ノアもまた内心では密かに緊張していた。
『大丈夫だ、うまくいく。』
最後まで信頼を得るために自分を支持してくれる人々を一人一人見回しながら、ノアは次の行動に備えた。
不意にドフィンと目が合った。
いつも心の中を読ませない緑色の瞳が、わずかにノアを応援しているようだった。
エステルから「ドフィンが自分に会うなと言っていた」と聞いた後だったからか、なぜかノアは背筋が冷たく感じられた。
一瞬の間、ノアはその視線を避けてゆっくりと周囲を見回すと、その間に会議室には最後に皇帝が登場した。
皆が礼を尽くすために席を立ち、皇帝が着席するとともに、ついに会議が始まった。
「今日は皆さんご存知の通り、とても重要な日です。私の後継者となる皇太子を決める会議ですので、どうか慎重に議論を重ねてください。」
内心で怒りを抑えていたデイモンだったが、この瞬間を逃すまいと手を挙げて発言した。
「異議があります。この場にいるべきではない候補者がいるようです。」
「昨日の夕方から復職したのだから、資格は十分だ。」
しかし、皇帝は冷静にデイモンの言葉を受け流した。
誰が見ても、皇帝はデイモンよりもノアを後継者として考えているのだと感じられる瞬間だった。
デイモンは呆然としながら皇帝を見つめた。
3年間努力してきたことが全て無駄になったような気がした。
「我々は全く聞いておりません。神の呪いを受けた人物を候補にすることなど許されません。」
ラビエンヌの隣に座っていた大神官も反発し、デイモンを支持する形で力を貸そうとした。
こういった反応が出るだろうと予想していた皇帝は、非常に冷静に対応した。
「その神の呪いというのは、ノア皇子がその呪いを克服したのだ。未だかつて治癒した例がないと言われていたが、彼はそれを乗り越えたのだ。奇跡ではないか。」
この事実はノアと皇帝だけが知っていた秘密だった。
その瞬間、会議室内にざわめきが広がった。
「え?治癒されたのですか?」
「その病は、今まで一人も治癒したことのない不治の病です。それゆえに神の呪いと呼ばれる病なのです。」
神官たちは信じられないとばかりに一人また一人と声を上げた。
「それならば、なおさらノアは神の祝福を受けたことになりますね。」
「……信じられません。確認が必要です。」
次々に反論する神官たちを見て、皇帝は静かに彼らをなだめた。
「心配するな。すぐに確認させる。だがこの件は会議が終わった後に再度議論することにしよう。」
ノアについて確固たる立場を示した皇帝は議論を一旦中断させ、会議を続けるよう促した。
ノアを候補から即座に排除することができないという事実に、デイモンの不安はさらに膨れ上がるばかりだった。
『私には神殿がついている。』
そう考え、突然現れたノアに支持が集まるはずがないと思いながらも、デイモンは静かに結果を待っていた。
投票は無記名で行われ、二十数名の参席者に加えて皇太子の2票と皇帝の票、合計で23票。
各自が支持する皇子の名前を書き込み、その結果はその場で全員に公開された。
「……結果は、ノア皇子が13票、デイモン皇子が10票を獲得し、ノア皇子が勝利しました。」
会議を進行していた皇帝の秘書官が結果を発表した。
皇帝は迷うことなく、その結果を承認し、宣言した。
「公正な投票結果に基づき、皇太子はノア皇子に決定します。」
その瞬間、ノアとデイモンの希望が大きく交錯した。
デイモンはこの結果を受け入れられないと席を叩き、立ち上がった。
「こんなの納得できません。突然現れた者が皇太子になるなんて!投票が操作されたに違いありません!」
皇帝はそんなデイモンを穏やかに見つめ、説得しようとした。
「操作などなかった。今すぐ再投票をしても同じ結果になるだろう。」
「しかし、陛下。私たちも納得するわけにはいきません。このままでは皇太子としてふさわしい資格に問題があるのではないでしょうか。」
デイモンだけでなく、神殿側も激しく異議を唱えた。
ノアよりもデイモンが皇太子になる方が神殿にとってはるかに好ましい状況であったからだ。
皇帝は深いため息を漏らした。神殿がこれほどまでに受け入れを拒むとは思わなかったが、大声で反発する彼らの態度には失望の念を抱かざるを得なかった。
「接見室へ行き、個別に話をするようにしなさい。ノアの身体の状態も確認し、不満がないようにするのだ。」
結局、会議の結果は一時保留され、皇帝は大神官とノアを連れて別室である接見室へ向かった。
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大神官がノアの身体の状態を確認し、いくつかの質問に答えた後、ノアは一人で接見室から出てきた。
「父上、お一人で大丈夫ですか。」
今や皇室と神殿の政治的な争いに巻き込まれたノアにとって、この場は幼い自分にはあまりにも重いと感じていた。
心配しながらも、自分の気持ちを整えるため会議室に戻ってみると、他の全員が去り、がらんとした状態だった。
ただ一人を除いて。
「皇子殿下。」
会議室でノアを待っていたラビエンヌが、喜びを込めて彼を呼び止めた。
ノアはラビエンヌをちらっと見て、再び視線をそらした。
その表情はエステルを見たときとは全く異なっていた。
「何かご用ですか?」
ラビエンヌは、自分に敬語を使うノアを驚いたように見つめた。
「……少しお話ししませんか?」
「お気軽にどうぞ。」
「ここではなく、少し一緒に外へ出るのはどうでしょう?」
「会議が終わった後で、貴族たちと個別にお会いすることにしていますので。」
時間が取れないというノアの言葉に、ラビエンヌは淡々とした表情を浮かべ、静かにその場を離れた。
「一体どうしてこんなことになったんですか?城から急にいなくなって、私がどれだけ心配したか分かりますか。」
ノアはラビエンヌの言葉にわずかに苦笑いを浮かべながら、彼女をじっと見つめた。
「私を心配しているのですか?」
「はい!私が定期的に訪ねているだけでも知らせてくれればよかったのに。話してくれれば済む話でしょう?大変なことが起きたのかと思ってどれだけ探したことか。」
ノアの顔を見た瞬間、ラビエンヌは怒りと安堵が入り混じった感情に襲われた。
自分でも何が何だか分からない感情が込み上げ、涙ぐみながらノアを見つめた。
「まさか、私を軽視しているのではないでしょうね?」
ノアはそんなラビエンヌの目を見ても、冷静さを崩さなかった。
「そんなことはありません。」
「ラビエンヌ、いや、もう貴族の淑女と呼ぶべきでしょうか?いずれにしても、私はあなたがなぜそんな風にしているのか理解できません。」
ノアは一歩近づき、ラビエンヌの目線に合わせて静かに言葉を続けた。
「私がどこに住むかをなぜあなたに報告しなければならないのですか?なぜあなたが私を心配しなければならないのですか?」
「それは……。」
ラビエンヌは悔しそうな表情を浮かべながら、ノアを切なげに見つめた。
他の誰かならその純粋そうな顔に騙されたかもしれないが、ラビエンヌの本性を知っているノアは絶対に騙されなかった。
「こうしたことは不快ですので、これ以上線を越えないでいただけますか。過去に婚約者だったかもしれませんが、今の私たちは何の関係もありません。」
はっきりと線を引くノアの言葉を聞いて、ラビエンヌの表情が固まった。
ノアとの婚約が破談になったのは自分のせいだと分かっていながら、ノアに対する感情は複雑なものであり、彼に会うたびにその気持ちは苦々しいものに変わった。
「本当に完治したのですか?」
「はい。」
ラビエンヌの目が揺れ動いた。
大神官がノアの身体を調べた時と同じように、彼女もノアの体を触って確認したいという衝動に駆られた。
「信じられません。本当に奇跡のようなことです。」
「どういうことだ?」
「それは私にも分かりません。」
ノアはラビエンヌを無視するようにちらっと見て、何事もなかったかのようにテーブルを指先で軽く叩いた。
「これからは頻繁に会うことになると思いますので、お互い昔のように過ごしましょう。」
「私がまたあなたの目に煩わしく映っているということでしょうか?」
「そういう意味ではなく……!」
ラビエンヌは一瞬声を荒げようとしたが、それを押し殺し、冷静な声で言った。
「ご存知だと思いますが、私はもうすぐ聖女になります。私とうまくやれば、神殿を味方につけることができるのですよ。良い話ではありませんか?」
ラビエンヌは懸命に穏やかに振る舞いながら、ノアに手を差し出した。
ノアはその手をしばらくじっと見つめた後、軽く笑いながら彼女を横目に通り過ぎていった。
「私は神殿と手を組むつもりはありません。ましてや、あなたとなど。」
そう語るノアの冷たさに、ラビエンヌはしばらく呆然として動けなくなった。
何とか気を取り直して会議室を出て行くノアの背中を追いかけようとした。
しかしその時、デイモン皇子が会議室に入ってきた。
ノアとは鉢合わせしないタイミングだった。
「まだここにいらっしゃるのですか?」
デイモンを見て、ラビエンヌの表情が一瞬固まったが、すぐに穏やかに微笑みながら応じた。
「今日の件は本当に驚きましたよね。大変驚かれたでしょう?」
「その通りです。ただ、結果が保留になったので、神殿の方でも引き続きご尽力いただければと思います。」
「そうですね。もう私たちは同じ船に乗っているようなものです。」
お互いに探り合うような態度ながらも、二人は礼儀を保った。
形式的な礼儀を示すだけで、誠意は少しも感じられなかった。






