こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

82話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 聖女の死③
少し前。
先に聖殿に入ったラビエンヌは、人々に見せるために冷静な表情を保っていた。
しかし内心では、セスフィア聖女ではなく、たまたま遭遇したエスターについて考えていた。
『事前に調査していなかったら、分からなかっただろう。どうしてあそこまで変わったの?まるで別人じゃない。』
萎縮して何も言えなかった当時の姿とは、天と地ほどの違いだった。
雰囲気まで変わってしまい、今やどこか高貴な貴族の娘に見えた。
もちろん、平民出身という事実が消えるわけではないが、ラビエンヌとしても大公の娘となったエスターを無視するわけにはいかなかった。
『少し優しく接してやれば、昔みたいに驚いてくれるだろう。まあ、大したことないさ。』
以前から彼女に一言話しかけるだけでもどうなるかわからなかった。
今でも少し親しげに接すれば、当時のように自分に好意を持つだろうと考えていた。
『それが大公の娘だなんて、利用しやすそうね。』
彼は小さく嘲笑を浮かべた。
ドフィン大公に拾われたあの子が、本当に大公の娘になったと知ったとき、どれほど気まずく感じたかわからない。
名前まで変えたせいで、まるで別人のようだった。
一体どんな考えで、あのような大したことのない子を引き取ったのか、いまだに疑問は残るが、一方でうまくいったことに感謝する気もした。
ちょうど一度会ってみたいと思っていたところ、神殿を訪れた際に出会うことができるとは、物事が順調に進んでいる気がした。
ラビエンヌは代神官たちとともに、セスピアの棺に最も近い場所に席を取った。
堂々と葬儀に参加した人々を惹きつけるラビエンヌの声は非常に荘厳に響いていた。
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葬儀が進行する中、ラビエンヌが壇上に立つ。
聖女に捧げる送辞を読むためだった。
「聖女様はいつも慈悲深く温かい方でした。私が最も尊敬する方であり、見習いたい方でした。このように早く女神様のもとへ行かれるなんて、とても残念で悲しいです。」
感慨深げな声で読み上げられる送辞だ。
エステルは送辞を読むラビエンヌから目を離せなかった。
心の中では様々な感情が入り混じり、静かに揺れていた。
隣に座っていたドフィンは、そんなエステルの様子に異変を感じ取る。
『何かあるのか? 送辞を読んでいる子がブラウンス公爵の娘だと言われていたが・・・』
どこかチクチクする違和感を覚えたドフィンは、かつてエステルに聞いた名前を思い出した。
『まさか、あの時のラビエンヌという名前が本当にブラウンス公爵の娘を指していたのか?』
ドフィンは何か繋がりがあるのではないかと予想し、エステルに直接聞いてみることに決めた。
少し経ち、30分間の休憩時間が与えられた。
周囲が静まり返った後、ドフィンはエステルに近づいて尋ねた。
「さっきは式がすぐ始まると思って、まともに話もできなかったな。道中、何もなかったか?」
「ええ、無事に着きました。」
エステルは少し照れくさそうに微笑んだ。
神殿の中ではないが、ドフィンの隣にいるおかげで、こんな風に笑顔を見せることができた。
「君が来たいと言うから許可はしたけど、本当は迷っていたんだ。神殿で君に会った時のことを思い出してね。」
そう言いながら、ドフィンの瞳は穏やかで落ち着いていた。
「神殿にいい思い出はなかったように思うけど?」
「聖女様のことが、前回神殿を訪れた時の縁でありました・・・。行かれる道すがら、感謝の気持ちをお伝えしたかったんです。」
ドフィンは納得したように頷きながら、微笑みを浮かべる。
会話を交わす最中にも、エステルの目には微かな涙が浮かんでいた。
彼女は無意識にラビエンヌを見つめていた。
それに気づいたドフィンが尋ねる。
「初めて君が家に来た時、雨の日だったのを覚えているよ。その時、君が言った名前もはっきり覚えている。」
エステルは動揺しながらドフィンを見上げた。
その瞳は深く真剣だった。
「あの子か?ブラウンズ公爵の娘?」
「・・・」
エステルは答えることができず、困惑していたが、そこに貴族の一人がドフィンに近寄ってきた。
「大公様、少しお時間をいただけますでしょうか?向こうで皆が集まっており、お話を伺いたいと言っております。」
「今?わかった。」
エステルとしっかり話をしたかったが、注目の目が多く、この場で話すのは適切ではないと感じた。
公の場にいる以上、ドフィンにはやるべき役割がある。
そのために名残惜しさを感じながらも、エステルの髪を撫でながらドフィンは言った。
「話は家に戻ってからしよう。ちょっと出かけてこなきゃいけないんだが、一人で大丈夫か?」
「心配しないで、行ってきてください。」
エステルはむしろ安心したように微笑みながらドフィンを送り出した。
一人残って周囲を見回すと、隙間もないほど大勢の人々が聖堂内に入っていた。
そのうちの半分以上は、どうにかして聖堂に入ろうと並んでいる人々だ。
混み合った群衆を眺めていると、壇上に立つラビエンヌと目が合った。
ラビエンヌは待っていたかのようにわずかに頭を下げて、静かに外へ出て行った。
『私に用があるのかな?』
エステルはしばし微笑みを浮かべた後、立ち上がりラビエンヌが消えた方へと向かった。
知らず知らずにテラスと庭園に繋がるドアを見つけた。
外へ出てみると、かなり広い空間が広がっていた。
どこにもラビエンヌの姿が見えず、あたりを探していると、柱の後ろから飛び出してきた影がエステルの手首をしっかりと掴んだ。
「ここだよ。」
ラビエンヌは、驚いた目をしたエステルを見て、微笑みを浮かべた。
「さっきは人目が多くて、ちゃんと聞けなかったけど、一体どうなってるの? ダイナ、君が養子になったって話を聞いて、本当に驚いたよ。」
やはりエステルの考え通り、ラビエンヌはすべての事情を既に知っていた。
「いや、私も落ち着いて考えないと。もうダイナじゃなくなったんだよね。名前が変わったって聞いたけど・・・。」
「エステルです。」
「そうだね、エステル。何か話してみてよ。」
「ただ運が良かったんです。私が大公様の目に留まっただけかと。」
エステルの口調は以前のように素直ではなく、ラビエンヌは少し戸惑った。
それでも冷静さを失わずに軽く言葉を返す。
「ふむ、どちらにせよ本当に良かった。あなたにとっては二度とないチャンスだっただろうしね。」
励ましているようでありながら、どこかに潜む微妙な嫉妬心を含んだ気持ちは、エステルにもなんとなく伝わってきた。
「これからは顔を合わせることも増えるだろうし、また仲良くやろう。よろしく頼むよ。」
ラビエンヌは明るく笑い、新たな親愛の情を示すように白い手を差し出した。
『仲良く・・・』
エステルは、世の中で一番嫌いな人物の手だと思いつつも、冷静に考えながらゆっくりとその手を取る。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。」
「じゃあ、私は行くね。次の準備をしなきゃいけないんだ。やることが多いんだよ。」
そう言って立ち去るラビエンヌは、おもちゃを待つ子どものように軽やかに見えた。
セスフィアの葬儀が終わったばかりだというのに、悲しみの影も涙の跡も見当たらなかった。
「私に会いたいときはいつでも来てよ。ただし忙しいときは会えないこともあるけど・・・できるだけ時間を作るから。」
そう締めくくり、ラビエンヌは未練もなく背を向ける。
最後まで自分が恩を施す立場であるという態度を崩さなかった。
その一方で、エステルの表情はこわばっていた。
ラビエンヌの手を握ったときの感情が逆流し、彼女の心に渦巻いていた。
少し離れた柱の影から、やや馴染み深い人物が突然現れた。
「え、二人とも知り合いだったの?かなり親しそうに見えたけど。」
「・・・いつからそこにいらっしゃったのですか?」
二人よりも先にそこに来ていた来客がいた。
しかも、その人はエステルとすでに面識がある人物だった。
「君たちが来る直前さ。でもどうしたの?なんだか表情が硬いね。覚えているだろう?」
「はい、皇太子様。」
気品と威厳を兼ね備えたデイモンは、一度会えば忘れることができないほど印象的な人物だった。
「驚かせるつもりはなかったけれど、どうやらそうなってしまったようだね。でもラビエンヌと知り合いだというのも驚いたし、神殿で養子に迎えられたという噂も本当だったのか?」
エステルの表情がさらに硬くなった。
以前にも感じていたが、デイモンの質問はまったく無駄がなく、その鋭さが彼女を困惑させた。
「・・・父が待っているので、先に失礼いたします。」
これ以上関わりたくなくて、質問を聞かなかったふりをして振り返る。
しかし、数歩も歩かないうちに、デイモンがエステルの前に立ちふさがり、腕をしっかり掴んで道を塞いだ。
「ちょっと待って。」
エステルは、自分を遮る腕を見つめて一息ついた。
「まだおっしゃることがあるのですか?」
「うん。君、僕と婚約してくれない?」
あまりにもあっさりした口調での問いかけに、一瞬耳を疑い、その後理解した瞬間、目を見開いて呆然とした。
「それはどういう意味ですか?」
「もともとはラビエンヌと婚約するつもりだったんだ。僕の弟と婚約していたこともあるし、彼女が聖女になれば結婚できないだろう?」
「だから・・・次は私というわけですか?」
「最初は候補にもなかったけれど、でもまあ、いいかなって思う。出自がちょっと曖昧でも、大公が驚くほど気に入ったんだし、いいんじゃないか。」
エステルは、自分でも気づかないうちにデイモンをじっと見つめていた。
彼の目は、世の中が自分の思う通りに回っていると信じて疑わない人間特有の独善性を表していた。
それはどこか、ラビエンヌに似ている。
「申し訳ありませんが、私は嫌です。」
エステルは、デイモンの目をしっかりと見つめながら、毅然とした口調で答えた。
デイモンは、まさか自分が拒絶されるとは思いもよらなかったのか、驚きの表情を浮かべた。
「わあ。こんなにあっさり断られるとはね? 俺はデイモンだよ? こんなこと言いたくなかったけど・・・俺、次の皇太子になる予定なんだ。」
秘密を打ち明けるような口調で話す彼の言葉に、エステルは呆れるばかりだった。
彼女は冷静さを保ちながら、彼の前から身を引く。
「他を当たってください。」
「・・・本当に俺が嫌いなのか?」
「皇太子様が嫌いだからではなく、婚約自体が嫌なんです。申し訳ありません。」
どれだけ理由を述べても、デイモンはその言葉を真剣に受け取る様子はなかった。
「君の意志なんて関係ない。大公に直接話せばいいだけだ。」
「そうですか、ではそうしてください。」
ドフィンに相談したとしても、こんな形での婚約を許可するはずがなかった。
エステルには、誰であってもドフィンが自分の意思を無視することは決してないという確信があるから。
デイモンはまだ道を塞いでいたが、エステルは彼の腕を避け、静かにその場を離れた。
ショックが大きかったのか、デイモンはエステルを追おうともせず、ただ呆然と見送った。
「チャンスはそう何度も来るものじゃない。よく考えるんだ! 近いうちに正式に婚約状を送るから。」
出ていこうとするエステルの背中に向かって、デイモンの声が響いた。
もちろん、エステルが歩みを止めることはなかった。
再び聖殿に戻ったエステルは、深く息をついた。
『ノアとどうしてこんなにも違うのだろう?』
同じ皇太子でありながら、性格はまるで正反対だ。
無理やり自分本位なデイモンと向き合った後、自然とノアのことが頭に浮かんだ。
どう考えても、デイモンよりもノアのほうがはるかに皇太子にふさわしかった。
特にデイモンは、聖殿と妙に親密であり、いずれ皇帝になることがあれば聖殿をも利用するだろうと感じた。
『どうしようもない人だわ。』
エステルが振り返りながら溜息をつくと、心がぐらつき、気分が悪くなる。
デイモンに対する彼女の印象は最悪へと変わっていった。






