こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

179話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑥
その時、ノックの音が響いた。
侍従が扉を叩きながら言った。
「アドリシャ様、メルデン・アルトス公爵がご訪問です。」
アドリシャの目が一瞬にして鋭くなった。
彼女は慌てて口を閉ざし、手際よく書類を整理して背筋を伸ばした。
セドリックに軽くお辞儀をし、彼は静かに言った。
「申し訳ありません。急用がありまして。」
「……そうか。」
セドリックは内心の苛立ちを抑えながら答えた。
メルデンは一体どうして自分の仕事をこうも軽く後回しにするのか。
しかも、ダリアと一緒に……。
その光景を思い浮かべるだけで、セドリックの胸の奥がざわついた。
彼は無意識に拳を握りしめた。
誰のせいでもないことは分かっている。
もし問題があるなら、それは本人の責任だ。
しかしダリアのことを考えると、どうしても感情が抑えられなかった。
普段なら気にも留めないはずのメルデンの名を聞くだけで、胸の奥で怒りがくすぶった。
「一体、どんな大事な話があって彼女を呼び出したんだ。」
セドリックはもう我慢できなかった。
彼はアドリシャが出て行った扉を勢いよく開けた。
冷静さを装いながらも、彼の足はすぐにメルデンのいる場所へ向かっていた。
アドリシャとメルデンは、ちょうど回廊の奥で話しているところだった。
セドリックはその場に向かって、迷わず足を踏み出した。
二人はとても秘密めいた様子で、身を寄せ合い、小声で話していた。
すると、アドリシャがメルデンの胸元に紙切れのようなものをそっと押し込んだ。
メルデンは素早くそれを拾い、ポケットにしまった。
そして、なぜか不敵な笑みを浮かべ、まるで励ますかのようにアドリシャの肩を軽く叩いた。
セドリックの視線は、その光景に釘付けになった。
「何をしているんだ?」
彼には理解できなかった。
彼の知る限り、メルデンはダリア・フェステロスと深い関係にあったはずだ。
恋人がいる人間が、どうして他の女性とこれほど親密に話し、身体に触れられるのか?
セドリックには到底理解できなかった。
言葉通り、最低の男だとしか思えなかった。
彼は決意した。
何があっても、あの男をダリア・フェステロースから引き離す。
そのためには、どうしてもダリアに会わなければならなかった。
彼は武道会などどうでもよかったが、ダリアに再び会うために、無理に予定を変更し、何が何でも彼女と話す機会を作ることにした。
彼は彼女と会う時間を作るために、急いで書簡を送り、その武道会に参加する意思を伝えた。
そしてその武道会で、混雑する人々をすり抜け、彼は静かな庭園のベンチに座って考え込むダリア・フェステロースを見つけた。
パートナーもおらず、彼女は一人だった。
彼が近づくと、ぼんやりした灯りが彼女の髪の上に影を作った。
彼女は誰かの気配を感じたのか、驚いたように顔を上げた。
彼女の瞳がわずかに揺れた。
「……本当に来るとは思いませんでした。」
彼女が庭園に一人で出てきたのは、彼を再び見てしまうのが怖かったからだ。
しかし、そんな事情を知るはずもないセドリックは、無言のまま、ただ拳を握りしめた。
「最近、よく舞踏会にいらっしゃいますね。」
「………」
「まあ、セドリック様も新しい結婚相手を見つけなければなりませんものね。」
ダリアが視線をそらし、何気なく放った言葉に、セドリックの心臓がまた一つ落ちていくような感覚を覚えた。
彼は言葉を失っていた。
しかし、結局何も言わないのも同じことだった。
彼は低く、震える声でつぶやいた。
「他の誰かと結婚するつもりはない。」
ダリアは依然として彼を見ようとしなかった。
セドリックはわずかに心が揺らいだ。
しかし、今日彼女を訪ねたのは別の理由があった。
彼はしばらく迷った後、口を開いた。
「お前に伝えたいことがある。」
「何ですか?」
「メルデンとは会うな。あいつはいい人間じゃない。」
ダリアは驚いた表情で、持ち上げていたグラスをゆっくりと降ろし、セドリックを見上げた。
彼の言葉が、何か引っかかるように脳裏をかすめた。
彼女は青白い睫毛をわずかに震わせながら、しばらく彼を見つめた。
彼女は痛々しいほど美しかった。
外から見れば完璧な人形のようにさえ見えたが、その奥に隠れた表情は戸惑いを隠しきれなかった。
セドリックは苦々しい表情で、その下の青い瞳をじっと見つめ、深く息を吐いた。
「……とにかく、それだけだ。」
「……私が悪い人と付き合おうが、あなたに何の関係があるんですか?」
言葉に詰まった。彼自身も自分の気持ちを理解できなかった。
ただ、彼女を見ていると心が痛んだ。
自分が口にした言葉に引っかかるものがあるのはわかっていた。
だが、セドリックが言えることは限られていた。
「……そうだな。俺たちは何の関係もない。」
ダリアの瞳に、かすかな失望の色がよぎった。
「……ええ。どうせ関係ありません。メルデンさんが悪い人だろうと、私には関係のないことですから。」
彼女の言葉は、まるで何かを確かめようとするかのようだった。
だが、セドリックはその奥に隠された意図を読み取るには鈍感すぎた。
むしろ彼は、彼女の言葉の裏にある意味を、まったく逆の方向で解釈してしまった。
「関係ないってどういうことだ?あいつが、お前を差し置いて別の女と親しくしていてもか?」
言葉を発した瞬間、彼はすぐに後悔した。
傷つけるつもりはなかったのに。
しかし、なぜか込み上げる感情を抑えきれず、本来なら言わないはずだったことまで口にしてしまった。
それでも、ダリアはその言葉に傷ついたようには見えず、むしろ冷静なままだった。
ダリアがずっと「彼と会う」と言うのではないかと、セドリックは内心怯えていた。
しかし、その次に彼女が発した言葉は、セドリックをさらに驚かせた。
「関係ありません。私も他の人と会えばいいんですから。」
セドリックは、彼女が自分の記憶を失った間に、この国の恋愛観が極端に自由になったのではないかと疑った。
その後のダリアの反応は、さらに奇妙だった。
彼女は耳を赤く染め、唇を少し開けたまま空を見つめていた。
そして、小さくつぶやくように言った。
「……私だけ一人だと悔しいから……。も、もしよかったらセドリック様も誰かと会ってもいいですよ。」
セドリックはしばらく彼女の言葉の意味を理解できなかった。
そして、やがて衝撃を受けた。
「ダリア、俺はこの帝国の皇太子だぞ。今、お前は俺に“二番目の恋人になってもいい”と言ってるのか?」
ダリアは驚いたように彼を見つめた。
彼女はようやく、自分の言葉に込められた意味を理解していないことに気づいたようだ。
「……それは違う……!」
ダリアの耳と頬が一気に真っ赤になった。
彼女は言葉を飲み込み、諦めたようにまぶたをぎゅっと閉じた。
このままではまた泣き出してしまいそうだった。
今日は傷つかないと決めたはずなのに、結局、彼女を二度も傷つけてしまった。
セドリックの胸が痛んだ。
無茶な話を聞かされれば普通は怒るべきだが、彼女の今にも泣き出しそうな表情の方が気になった。
それに、彼女がこのありえない提案を断るのが明らかだったので、余計に気まずかった。
自分がとんでもなく惨めに思えて、じっとしていられなかった。
そして、セドリックは人生最悪の一手を打った。
「……わかった、しよう。」
「えっ……?すみません、今のは何と……?」
「俺は二番目でも構わない。どうせ今はもう、まったくの他人というわけではないんだから。」
彼は、ベンチに座る彼女の前に膝をついた。
セドリックは息を呑み、両手で彼女の頬を包み込んだ。
そして、震える指先で彼女の涙をそっと拭った。
そのまま顔を上げさせ、深く息を吐く。
「だから、頼むから……そんな顔をするのはやめてくれ。お前がそんな顔をするたびに、俺は気が狂いそうになるんだ。」
ダリアは一瞬、驚いた表情を浮かべた。
しかし、すぐに彼女の瞳には涙が溜まり始めた。
未だに彼女がなぜ泣くのか分からないまま、セドリックはただ黙って彼女の涙を拭う。
彼女が何も言わなかったことに、少し安堵すら覚えた。
「……彼女が泣くのをただ見ているくらいなら、二番目の恋人でもかまわない。」







