こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

183話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑩
ダリアは目を開ける。
窓の外は依然として灰色の空が広がっていた。
どれほどの時間が経ったのか見当もつかなかった。
彼女は白い毛布にくるまれ、すっかり乾いていた。
セドリックが魔法で温めたのか、乾いた布はさらりとしていた。
しかし、ベッドの上には彼女一人しかいない。
どこからか香ばしい香りが漂ってきた。
ダリアはそっと身を起こし、視線をキッチンの方へ向けた。
セドリックは白いワイシャツを着たまま、何かの準備をしていた。
彼はズボンの上にエプロンをつけ、その上から前掛けをしていた。
そしてちょうど鍋からスープを器に移している最中だった。
前掛けを外し、器を持ってベッドへと向かった。
彼はダリアが目を覚ましたことを見ても、特に驚いた様子はなかった。
ベッドの端に腰掛けると、片手に器を持ち、もう一方の手でスプーンを掬った。
ダリアは一瞬顔を赤らめたが、すぐに雛鳥のように唇をわずかに開いた。
セドリックは特に表情を変えることもなく、自然な仕草で彼女にスープを飲ませた。
「食べられそう?」
ダリアはこくりと頷いた。
美味しかった。
それ以上何かを考える余裕もなかった。
セドリックは微笑み、彼女が器を空にするまでゆっくりと食べさせ続けた。
食べ終えると、器を持ち上げ、流しへと運んだ。
次に「口直しだ」と言いながら、ダリアの唇に何かをそっと入れた。
「はい、砂糖だよ。」
甘い香りが口の中いっぱいに広がった。
ダリアは毛布にくるまったまま、ふわりと微笑んだ。
セドリックも穏やかに微笑みを返す。
「それで、僕たちはいつ結婚する?」
「ゴホッ!」
ダリアは驚いて喉に砂糖を詰まらせてしまった。
「け、結婚?」
「うん、結婚。」
「それって……もう決まりなの?」
「僕は君以外の誰ともする気がないけど?」
『それは私も同じだけど……』
ダリアは考えた。
だが、それを口に出してしまえば、すぐに彼に捕まってしまう気がした。
セドリックはまるでガラス細工のように透明で、しかし謎めいた光を宿した瞳で彼女を見つめていた。
この会話は、彼と初めて会った時を思い出させた。
話の着地点が見えないところもそっくりだ。
ダリアは最終的に、この話題を回避することに決めた。
ちょうどいい言い訳を思いついたからだ。
「えっと……腰が痛い。」
セドリックの表情が一変した。
「……ごめん。すごく痛い?ちょっと診せて。」
ダリアは軽く歯を噛みしめながら彼を睨んだ。
一瞬でセドリックの顔が真っ赤になる。
彼はすぐに視線をそらし、彼女の背中にそっと手を当てた。
すると、痛みがすぐに和らいだ。
「……待ってて。」
しばらくして、ダリアはイーブル(毛布)の中から抜け出し、ベッドの端に腰掛けた。
セドリックは一度外に出て、しばらくしてから落ち着いた表情で戻ってきた。
それから彼女の膝の前に座り、優しく背中と腰をマッサージするように撫でた。
「まだ痛い?」
「もう大丈夫です。」
「……。」
なんとか話題をそらすことに成功したダリアは、ほっとしたように息を吐いた。
セドリックは最後に微笑んだ。
「メルドンとは本当に何の関係もないのか?」
そう尋ねる彼の様子を見る限り、まだ記憶は完全には戻っていないようだ。
『身体的な接触なら、これまでに十分すぎるほどしてきたのに。』
それでも、目の前の彼は確かにセドリックだった。
少し不安ではあったが、とりあえずダリアはスプーンを弄んだ。
「本当に違います。」
「そうか。」
「……どうして今まで何も言わなかったんですか?セドリック様が記憶を失ってからまだ一ヶ月も経っていないのに、他の人を好きになる暇なんてありませんよ。」
セドリックは言葉を返さなかった。
彼は相変わらず彼女を膝の上に抱いたまま、少し身を引いて彼女と目を合わせた。
その瞳は真剣だった。
「俺が君のことを忘れてしまって、たくさん傷ついただろう?」
なぜ、急にそんなことを言うのだろう?
ダリアは彼の意図を測りかねて、ただ目を瞬かせることしかできなかった。
セドリックは依然として落ち着いた表情で続けた。
「もし俺のせいで傷ついたなら、君が他の人と会ってもいいよ。」
「……。」
「それが公平ってものだろう?でも、俺も努力するよ。君がまた俺を好きになれるように頑張るから。」
『もちろん、相手の身元を保証することはできないけれど。』
そう言って、セドリックはゆっくりと息を吐いた。
これは少し違うが、以前も彼から聞いた言葉だった。
セドリックは変わらない。
いつも同じだった。
今、安定を取り戻した彼を見ていると、彼は以前と何一つ変わっていないのだと気づく。
「まだ君と過ごした記憶ははっきりとは思い出せないけれど……たとえ思い出したとしても、僕はきっと同じことを言うよ。君が何をしようと、君は何も悪くない。」
セドリックは彼女の髪をそっと耳の後ろにかき上げながら静かに言った。
表情一つ変えず、こんな言葉を口にするのが彼は本当に上手だ。
否定することも拒むこともできないその優しさが、胸を締めつける。
ダリアは喉が詰まるのを感じながら、かすれた声で尋ねた。
「……どうして?」
セドリックは彼女を膝の上に乗せ、穏やかに見つめながら答えた。
「なぜなら、僕は……君を愛しているから。」
その瞬間、窓の外の灰色の空が崩れ落ちた。
その隙間から、青空と陽の光が差し込んできた。
いつの間にか、一日が過ぎ、ルウェインが用意した時間が訪れたのだ。
これで終わりだ。
彼が作り上げた新しい空間が崩れ落ち、世界は元の姿へと再び書き換えられていった。
その中で、ダリアとセドリックの二人だけが取り残された。
そして、セドリックの瞳に今までとは違う光が戻っていた。
一瞬、戸惑うようにダリアの顔をじっと見つめていた彼の目は、次第に穏やかな温もりに染まっていった。
彼は彼女の髪を引き寄せ、そのまま自分の腕の中に抱きしめながら、耳元で優しく囁いた。
「……ダリア。」
ああ、この声。
聞いた瞬間、彼女はすぐに悟った。
これまで一緒に過ごした時間のすべてを知っている、あの声だ。
すべての記憶が戻った、彼女が知る、そして彼女を知るセドリックだ。
もう泣かないと決めていたのに、また涙が溢れた。
彼女は彼に抱きついたまま、こぶしで彼の胸をぽんぽんと叩いた。
「本当に……本当にセドリック様がもう記憶を取り戻せないんじゃないかと……」
「ごめん、本当に、ごめん。」
二人は再び元の世界へと戻ってきた。
何も変わらない、互いに互いしかいなかったあの頃と同じ姿で。
けれど、たった一つだけ変わったことがあった。
「それで、私たちの結婚はいつにする?」
二人の間に、新たな課題が一つ増えたのだった。








