こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

43話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- お披露目パーティー
ふう。
私は大きく深呼吸をした。
宴会場の扉の前に立ったとたん、急に脚がガタガタ震えるような気分になった。
私とアルセンが緊張していることに気づいたのか、ケンドリックが優しく言った。
「無理そうなら、挨拶だけして後は2人で遊んでてもいいんだよ。」
「……本当に?」
「でも、わざわざ私たちのために遠くから来てくれたお客様だからね。」
それはむしろ礼儀にかなわないことではないかと一瞬思った。
「構わない。君たちはこの宴の主役だから。」
ケンドリックは私とアルセンの手をしっかりと握ってそう言った。
その時だった。
「ケンドリック・エクハルト様のお出ましです!」
門を守っていた騎士たちが声を上げ、ケンドリックの入場を知らせた。
巨大な門が騎士たちの手によってすーっと、静かに開いた。
ケンドリックは私たちの手をしっかり握ったまま、華やかな宴会場の中へとゆっくり足を踏み入れた。
私とアルセンは、しっかりとケンドリックの手を握ったまま、ケンドリックの後について慎重にカーペットの上を歩いた。
私はそっと、襟元を引き上げた。
『うわ、人がすごく多い……』
窓の外から見たときより、ずっと多く感じた。
私は再び視線をケンドリックへと戻した。
数えきれないほど多くの狼族たちの視線が、私とアルセンに注がれていたからだ。
『しかも、今回が初めての紹介なんだもん……』
まだ私たちは正式に紹介されていなかったため、視線が一層集まっているようにも感じた。
私は緊張でわずかに体がこわばり、うっかりドレスの裾を踏んでしまった。
「おっと?」
「気をつけないと。」
そのとき、ケンドリックが私が倒れないように背中を支えてくれた。
私は、えへへと笑いながらケンドリックの方に視線を向けて肩をすくめて見せた。
ケンドリックは私たちを連れて、2階の階段上、人々から最もよく見える席にしっかりと立った。
私とアルセンは少し緊張しながらもじっと黙ったまま、ケンドリックの手をぎゅっと握った。
「まず、宴に参加してくださった各一族の皆さまに感謝のご挨拶を申し上げます。」
ケンドリックが口を開いた。
「今日のこの晩餐会は、私の息子アルセン・エクハルトを正式にエクハルトの後継者として発表する場だ。」
彼は少し息を整えてから続けた。
「そして、新しい一族であるリンシー・ラニエロが正式にエクハルトの一員となることを発表する場でもある。」
ケンドリックの言葉に、会場内に一瞬で静寂が訪れた。
私はなぜか手のひらに冷や汗をかいた。無意識にドレスの裾をぎゅっと掴んで放した。
数百もの視線が私に向けられているのを、ひしひしと感じた。
私は「ひっ」と小さく息を飲み込み、反射的に一歩下がった。
だが、すぐに気を取り直してケンドリックの手を離さないまま、再びまっすぐ立った。
『緊張しないで、大丈夫だから。』
私にはケンドリック様がいるから。
いくらラニエロとエクハルトが敵対関係にあるとしても、堂々と公の場では無礼なことはしないだろう。
そう思うと、少し気が楽になった気がした。
ケンドリックは続けて、「この二人の子をよろしくお願いします」といった内容の挨拶を終えた後、他の人々と話があると言ってすっとその場を離れた。
私とアルセンはぽつんと残された。
すると、「私はパトロス家門のロベルトと申します。お会いできて光栄です。」
「噂はかねがね伺っております。ゲオルク家の……」
「カヌート家の……」
多くの貴族たちがアルセンのもとにやって来て、次々と握手を求めた。
その中で、私に挨拶をしてくる者は一人もいなかった。
それでも構わなかった。
『これくらいなんてことない。』
透明人間のような扱いは、前世で嫌というほど慣れていた。
アルセンは、自分に群がる人々をやんわりかわしながら、私の足を軽くつついた。
『もう?』
もう出るの?
私はアルセンをじっと見つめながら、ゆっくりと顎を引いた。
アルセンに挨拶したいという人がこんなに多いのだから、外に出ていくのは礼儀に外れることではなかった。
そのとき。
「申し訳ありません、お嬢様。少しだけ場所を譲っていただけますか?」
鋭い目をした男性が私に丁寧に尋ねた。
私は目を丸くしたままアルセンを一度、それからその男性を一度見つめた。
「坊ちゃまにご挨拶をしたくて。」
男性ははっきりとした口調で言った。
しかし、アルセンは行かせまいとするかのように私の手をぎゅっと握りしめた。
私がもうすでに避けていた男の人と、行かないでとアルセンの神経戦の真ん中で困っていたちょうどその時。
「お嬢様、おめでとうございます。」
人混みの中で見覚えのある顔がふと現れた。
私は嬉しさのあまりにぱっと笑って、扇子を軽く持ち上げた。
「トリスタン様!」
トリスタンが笑いながら近づいてくると、他の貴族たちは自然と道を開けた。
トリスタンは私とアルセンを順に見つめて、温かく微笑んだ。
「神殿での件がうまくいったと聞きました。」
「おめでとうございます、お嬢様、坊ちゃま。」
「はい、ありがとうございます。」
「正式にエクハルトの一員となられたことをお祝い申し上げます。これからは“お嬢様”ではなく、“若奥様”とお呼びしなければなりませんね。」
トリスタンが「若奥様」という言葉に再び強調して言うと、他の貴族たちがざわめいた。
「まだ結婚式もしてないのに……ただ宴会が先に開かれただけなのに。」
「そう、結婚式はまだしてないんだ。」
アルセンが慌てて言った。
トリスタンは「そうですか?」と笑いながらうなずき、他の貴族たちをぐるりと見回した。
そして——
「では、今もお嬢様とお呼びしますね。ですが、皆さん、お嬢様にご挨拶もせずにどうしたのですか?」
大元老トリスタン。
元老とは通常、一族の貴族の中から、功績を立てた人物を選出して構成される。
トリスタンもまた元老であると同時に、狼族一族の高位貴族だった。
トリスタンが他の貴族たちに目配せすると、ようやく貴族たちは私にぽつぽつと挨拶をし始めた。
そして彼らは静かにその場を後にした。
私はアルセンの手をぎゅっと握りしめたまま、彼らが立ち去った席をぼんやり見つめていた。
「失礼な態度をとる者がいたら、いつでもお知らせください。お嬢様はもう、エクハルト家の奥様になられる方ですから。」
「ううん、いいんです。わかっています。私のような、敵対家門の娘が奥様になるなんて、嫌な気持ちになるのも当然ですから……。」
「ご理解いただく必要はありません。ケンドリック様が直々のエクハルトの一員だと公表されたにもかかわらず、無礼な態度を見せる者たちは、まさに狼族の族長の言葉を無視するのと同じです。」
トリスタンがきっぱりと言い切った。
私はコップをぎゅっと握りしめた。
トリスタンがもう一度、にこやかに笑った。
老人が笑うたび、顔には深いしわが刻まれた。
「今日の宴会には私の孫娘も参加しているんですよ。お嬢さんに会いたいと、どれだけせがまれたことか……、一度ご挨拶いただければありがたいです。もしかしたら良い友達になれるかもしれませんから。」
トリスタンがさりげなく言った。
「トリスタン様のお孫さんですか?どこにいらっしゃるんですか?」
「私の子たちと一緒にいるはずですが……あっ、あそこですね。」
私はトリスタンが指差した方向に視線を移した。
私の弟妹たちが子供たちと輪になって話をしているのが見えた。
そしてその隣に。
「……っ!!!!」
私をじっと見つめていたその子は、トリスタンで自分を隠そうとして驚いたように、目を大きく見開いた。
「この子が私の孫娘です。今年で八歳になりました。」
トリスタンはその言葉を終えると、「おめでとうございます」ともう一度言い残して席を立った。
私は唇をぎゅっと結んでいたアルセンをじっと見つめた。
「アルセン、つらい?」
「うん……、もう帰って休みたい。」
アルセンは少し顔色が悪くなったような声で弱々しく答えた。
私に出会う前は、庭園の散歩さえ思うようにできなかったアルセンの体力のことを思うと……。
『今まで耐えたのが奇跡だね。』
私は周囲をくるりと見回した。
トリスタン様が一度整えてくださったが、その後も次々と貴族たちが現れて、私とアルセンに挨拶を求めてきた。
私たちがこの宴の主役なのだから当然のことだったが……。
挨拶を交わすたびに、アルセンの顔色がみるみるうちに暗くなるのが見えた。
これはまずい。
私はアルセンの手をぎゅっと握った。
「先に行って休んでて。ケンドリック様も、しんどかったら行ってもいいって言ってたでしょう?」
「君は?」
私は唾をぐっと飲み込み、周囲を見渡した。
「私は……、もう少しいるわ。」
やはり狼族の貴族たちは私に対して良い感情を持っていなかった。
それはさっき起きた一連の出来事ではっきり分かった。
『ああ、私を嫌っているんだな。』
人は、自分を好いてくれている感情には鈍感かもしれないが、
自分を嫌う人には敏感に気づくものだ。
私はそれをはっきりと感じ取れた。
宴会の主人公は「私とアルセン」の二人ではあったけれど、私は明らかによそ者扱いされていたということを。
正直なところ、私もアルセンと一緒に行って休みたかった。
『でも……。』
どうせ私に良い感情を抱いていない人たちなのに。
宴の主役である私が、こんなに早く席を外してしまったら、
さらに悪い噂が立つのは明らかだった。
私はアルセンのように「体調が悪い」という言い訳は使えなかった。
新しい一族、ラニエロの娘だから。
もちろん、異能で自分を治療することはできないけれど、「治癒の異能を持つ一族が体調不良とは…」と、妙に哀れに思われてしまいそうだった。
私はアルセンの手を引いて、そそくさとエダンのもとへ向かった。
内側の席で宴会を見守っていたエダンが、私とアルセンを見てメガネを外した。
「何か問題でもありますか?」
「アルセンがつらそうで……アルセンは休ませたほうがいいと思います。」
私はアルセンの手をエダンに渡した。
エダンはアルセンの様子を一目見て、子どもをひょいと抱き上げた。
「では、お休みください、坊ちゃま。ご無理なさらないように。お嬢様は?」
エダンは疲れてぐったりしているアルセンの背を軽く叩きながら尋ねた。
「私は……、もう少しいるわ。」
まだトリスタンの孫娘と挨拶もしていなかった。
エダンはにっこりと笑い、ゆっくりとマントを正した。
「お嬢様も休みたいときは、いつでもおっしゃってください。無理なさらなくて大丈夫です。」
エダンはアルセンを抱えて席を立った。
私は宴会場にぽつんと残されて、目をぱちぱちさせた。
アルセンがいなくなると、本当に誰も私に近づいてこなかった。
『大丈夫。』
私は新しい一族だから。狼の一族が嫌がるのも当然だ。
でも、無理に付き添う必要はなかった。
私はテーブルの上に置かれていたオレンジジュースを手に取ってごくごくと飲んだ。
少し時間をつぶしてから戻ろうかと思っていた。
その時。
「……あの……」
誰かが私の肩をトントンと叩いた。
私は驚いてカップを置き、後ろを振り返った。
見慣れた顔の少女が顔を赤らめたまま私の後ろに立っていた。
「え? 君は……!」
一瞬、少女の顔の上をトリスタンの顔がよぎった。
『今日の宴会には私の孫娘も参加しました。お嬢様に会いたいとどれほどせがんできたことか……、一度ご挨拶していただければ嬉しいです。もしかすると良い友達になれるかもしれません。』
「私はアンシア・トリスタンです! リンシお嬢様……、ですよね?」
アンシアが恥ずかしそうに頬を赤らめて私に挨拶した。
私は緊張しながらも、マントを軽く持ち上げてお辞儀をした。
「はい、私がリンシー・ラニエロです。」
「わ、わたし、実は前からお嬢様にすごく会いたかったんです。おじいさまからお話、たくさん伺ってました。」
アンシアの目がキラキラと輝いた。
「一緒に遊びましょう、こっちへ。」
私はアンシアが導く場所へおとなしくついていった。
他の狼たちが疑いと敵意に満ちた目で私をじろじろ見ているのが感じられた。
『……うぅ、嫌だ。』
透明人間としての扱いには慣れているが、
慣れているからといって、それが好きというわけではない。
私はアンシアについていきながら、自分のドレスの裾をしっかり握った。
手のひらにはじんわりと汗がにじんでいた。
着いた場所には、私と同じ年頃の子どもたちが三々五々集まって騒いでいた。
ほとんどが私と同い年に見えたが、大半は私よりも背がずっと高かった。
『狼族だからかな。』
確かに新しい一族の子供たちとは雰囲気からして違う。
子供たちは皆、きれいなドレスやタキシードを着て、お菓子やジュースを飲みながら自分たちだけのパーティーを楽しんでいた。
「見て見て、私がお嬢様を連れてきたよ!」
アンシアが誇らしげに、そして嬉しそうに私のことを自分の友達たちに紹介した。
すると、それまでグループで遊んでいた他の子供たちの視線が一斉に私へと向けられた。
「あ、こんにちは……。」
私はぎこちなく挨拶した。
ところが、何人かの子供たちが真っ先に私を上から下までじろじろ見て、ふと視線をそらした。
そして、また自分たちだけで面白そうに話しながらケラケラと笑った。
『……ううん。』
私は気まずくなって、つい手のひらばかりいじっていた。
また行こうか。
私を見た子どもたちの視線が冷たく突き刺さったように感じたのは、たぶん気のせいではないだろう。
子どもたちの親が、私と仲良くしないようにと教育していたに違いないから。
だから私は、アンシアがどうして私に親しくしてくれるのかすら理解できなかった。
「うん、楽しく遊んでてね。私はちょっと用があるので、これで……。」
「え?もう帰るの?」
アンシアは名残惜しそうに目をしょんぼりさせて、私の手をぎゅっと握った。
「はい、ちょっと用事があって。」
「ふん、用事なんて嘘。ただ私たちが嫌いなだけでしょ。」
「イヴェリン!」
アンシアが静かにするように大きな声を上げた。
イヴェリンと呼ばれた女の子は静かに視線を私に向けた。
私よりずっと背が高く、おそらく十歳くらいに見える子だ。
艶やかに垂れ下がった黒髪と、黄色い瞳が印象的な子。
彼女はアンシアを慰めるようにくすくす笑いながら言った。
「私、間違ったこと言った?うちのお母さんが言ってたの。新しい一族はみんな悪いやつらだって。そんな新しい一族がどうして狼一族の一員になれるのかって。」
イベリンは私に対する敵意を少しも隠そうとしなかった。
私はその話を静かに聞いていたが、席を立つために歩き出した。
『もうアルセンのところへ行こう。』
いくら私がこの宴の主人公とはいえ、途中で席を立ったと聞かれるのは嫌だったから少し残っていたのに。
こんな扱いを受けるくらいなら、いっそ途中でいなくなった子として記憶されるほうがましだと思った。
『どうせ大人になったら出ていくんだから。』
うん、だから大丈夫。
そのとき。
「ふん、逃げるのはちゃんと見ておかないとね。だから新一族は……」
イヴェリンが鼻で笑った。
背後では他の子どもたちがクスクスと笑う声が聞こえた。
隣にいたアンシアだけがどうしたらいいか分からず、うろたえていた。
私は呆れたように身を翻した。
『え、でもこの宴会の主人公は私とアルセンなんだけど……?』
宴の主人公をこんなふうに堂々と侮辱してもいいの?
宴は初めてのことで、理解できないことがたくさんあった。









