こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

42話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 異能の力②
私が目を大きく見開いて手のひらをじっと見つめていると、ケンドリックが言った。
「これは狼族が使う方法だ。これとは少し違うが。」
ケンドリックの手から再び黒い球体が宙に浮かび上がった。
そして——
ケンドリックが指をパチンと鳴らすと、黒い球体から絵の粒子のようなものが静かに流れ出した。
そして間もなく、芝生はもちろん、邸宅全体が覆われた。
絵で覆われた邸宅はまるで雨の日のようにしっとりしていた。
私は「うわあ」と、感嘆の声を何度も上げながらケンドリックを見つめた。
「まずは図形を大きく展開する方法を学ぶ。次にその図形を操作する方法を学ぶ。」
ケンドリックが枝でさっと円を描いた。
すると、広がっていた図形たちが一瞬で止まり、巨大な馬の形を成した。
「異能を扱うのは全部同じようなものだ。すべての異能は同じ根を持っているからね。ただ、ラニエロがこういった方法を取らないのは、この方法が非効率だからだ。」
「どうしてですか?」
「リンシー、君の異能がラニエロの中で何番目に強力だと思ってる?」
私は少し考え込んだ。
ゲイルと父、そしてラニエロには……おそらく三番目くらいになるだろう。
「三番目……?」
しかし、ケンドリックは首を横に振った。
「断言するが、ラニエロでお前より強い異能を持つ者はいない。」
「え? そんなことないです。ゲイルがどれほど強い異能を持っているか……父は言うまでもなく……」
「ラニエロではこの方法を使わないのは、運用できる異能の量が少なく、自分のすべての異能を治療対象に注ぎ込まなければならないからだ。」
「はい。」
「だからお前とは釣り合わないんだ、リンシー。お前はラニエロで最も強力な異能の持ち主だけど、異能を少しずつ注ぎ込む方法を使ってるからだよ。」
「つまり……私が強い異能を持っているから、異能と身体がうまく噛み合っていないという意味ですか?」
私は再び問い返した。
ケンドリックが顎に手を当てながら、庭の芝生を指差した。
「ラニエロの異能がこれほどまでにすごいとは思わなかった。」
私はケンドリックが示す方向に、ゆっくりと視線を移した。
「……えっ?」
私が異能を注いだ場所の芝生が、ものすごく青々と生い茂っていた。
こんなはずないのに?
ラニエロの異能は「治癒」であって、「成長」ではない。
私はしゃがみ込んで、勢いよく育った芝をひと束引き抜いてみた。
夢じゃない、本当に芝が異様に成長していた。
「治すものがない状態で、過剰な異能が流れ込んだから、それが成長の力になったんだろう。」
ケンドリックはさほど驚いた様子もなく言いながら、芝生を見下ろした。
私は異様に伸びた芝を一度、
そして汗でしっとりと濡れた自分の手のひらを一度見つめた。
『……私がそんなに強いって?』
「私がそんなに強いなら……どうしてアルセンは完全に治せなかったんですか?」
私はケンドリックを見上げながら尋ねた。
ケンドリックの話が本当なら、私がラニエロで最も強力な異能を持っているのなら、当然アルセンを治療できていたはずではないか。
でも、アルセンを治療するたびに、何度も異能が全部抜け落ちるような感覚がした。
ケンドリックはゆっくり口を開いた。
「それは、私にもよく分からないな。君の異能がアルセンの病と相性が合わないということかも……」
「……うーん……」
ケンドリックの言葉に、私は思わずアルセンを見つめた。
アルセンを治せないのなら、どんなに強い異能を持っていても意味がない。
『最初は確かに、自分が生き延びるために治そうとしていたのに。』
アルセンを治さなければ、私はエクハルトに引き裂かれてしまうだろう。
私は目の前に立っているアルセンをじっと見つめた。
少しだけくせのある灰色の髪に、青い瞳が印象的な少年。
そして唯一の友だち。
私はどうしてもアルセンを治してあげたかった。
前世のような悲劇が繰り返されないように。
ケンドリックが私の背中をトントンと軽く叩いた。
「さあ、もう一度やってみて。リンシー。」
私は首をかしげながら、再び淡い光の球体を作り出した。
巨大なエネルギーを集めた球体は、ふわりと宙に浮かび、またしてもスプリンクラーの形に変わった。
「……ケンドリック様、これをアルセンに振りかけたらどうなりますか?」
私は好奇心に満ちた表情でケンドリックを見つめた。
自分で直接使うわけではないのだから、大丈夫なのでは?
大丈夫かもしれないという期待に、背中の羽がパタパタと揺れた。
「焦るな。まだ早い。君の異能がアルセンの病に効かない原因を突き止めてから試してみよう。」
「でも……、私の異能を使うと好転はしたんです。」
異能を使う私が辛かったからか、一度だけ治療してあげたとき、アルセンの状態は確かに良くなった。
だがケンドリックは、私がアルセンの頭上に異能を注ぐのを止めた。
「庭に撒け、リンシー。アルセンに水をやるんじゃなくて。」
「はい。」
私は再び立派な庭に異能を注いだ。
淡い薄緑色の光が空中から花びらのように降り注いだ。
アルセンは口を少し開けたまま、その様子をじっと見つめていた。
そしてその時。
ポンッ!
おなじみの淡い光の煙が、再び私の体を包み込んだ。
そして──
「羽が入りました!」
私は羽が消えて広くなったワンピースの背中を触りながら言った。
「異能の使い方を間違えたから、体の中で異能が衝突していたんだ。珍しいけど、エクハルトでもそんな例があった。」
私は嬉しさに満ちて、自分の背中を見つめた。
「それじゃあ、水分化も自由自在に調整できるようになるのかな?」
「さあ、それはよくわからないけど、たぶんできるかもな。」
私は座ったまま軽くぴょんと跳ねた。
すると、淡い光の霧が再びふわふわと私の周囲を包み込んだ。
そして——
「ぴいぃっ!」
私は小さな白い鳥の姿に変わって、ケンドリックの肩にぴたりととまった。
そしてすぐに芝生の上に降りて、芝の上に着地した。
私の異能で無造作に成長した芝生のせいで、前方がよく見えなかったけれど——
「びよーんっ!」
私は大きな声で掛け声を出しながら、その場でピョンピョンと跳ねた。
すると、
ポンッ!
淡い色の煙が再び私の周囲を包み込んだ。
「うわあ……」
抑圧感が解けた。
もうある程度コントロールできるようになったみたい。
私はひとりで襟元をいじりながら考えた。
「異能が原因だったのか。もっと頻繁に発散させれば……」
抑圧のコントロールも可能だ。
私はどきどきしながら、何気なく手のひらを見つめた。
『前世ではこんなに強い異能は持っていなかったのに……』
自分が目覚めなかったわけではない。
前世では、本当に異母兄のゲイルの方が私よりずっと強い異能を持っていた。
『十歳までは私と同じくらいだったけど。』
十歳を過ぎてから、私が屋根裏部屋に閉じ込められていた間、ゲイルの異能は日に日に強くなっていった。
けれど、あれほど強かったゲイルの異能も、ここまではなかった。
私は目をぱちくりとさせた。
「無理するなって言われたけど、これはもう……」
ケンドリックがくすっと笑った。
えへへ、と笑いながら襟元をいじっていると、アルセンが近づいてきて私の隣に座った。
「ねえ、リンシー……」
「ん?」
私はアルセンが話しやすいように、少し身を傾けてあげた。
アルセンが私の耳元でそっとささやいた。
「君……本当にかっこよかった。」
そう言ったアルセンは、本当に真剣な顔をしていた。
私はふふっと笑いをこらえながら、アルセンの手をぎゅっと握った。
「君も異能が目覚めたら、私よりもっと素晴らしくて強い異能を持つようになるよ。ケンドリック様みたいに。」
「本当?」
アルセンは目をぱちくりとさせた。
「誰も私がパパのような異能を持つって言ったことはなかった。」
そう言ったアルセンは、どこか寂しげに見えた。
誰もアルセンに異能に関する話をしなかった理由が、なんとなく察せられた。
『その前に死ぬと思ってたんだろうな……』
異能が目覚めて脱皮が始まる前に、死んでしまうだろうと。
私はアルセンの手をぎゅっと強く握った。
「ケンドリックさんよりもっと素敵な異能を持つかもしれないよ、アルセン。」
そして、とても大きな秘密でも打ち明けるように、声をひそめて言った。
「本当だよ。だからそのときまで、一緒に運動頑張ろう。偏食しちゃダメ。元気でいてね。」
アルセンは少しうつむき加減で、襟元をいじっていた。
私の運動の話に少し感動したのか、私は肩をすくめた。
そのとき、ケンドリックが私とアルセンの背中をトントンと叩いた。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか。理論の話はまた今度にしよう。」
私とアルセンは視線を交わしながら、ケンドリックの手を握った。
その後もケンドリックの授業は続いた。
私はケンドリックから、異能をより繊細に扱う方法を学んだ。
しかし。
『ジョウロの形はそのままだよ……』
どうせなら、ケンドリックみたいにもう少しかっこいい形だったらよかったのに。
やれやれ。
ジョウロって何よ、ジョウロが。
あの日、ケンドリックのスプリンクラーの説明を聞いて、初めて異能を別の形で使ったあとから。
私の異能はずっとスプリンクラーのような形状に定着していた。
おかげで私は毎日、あちこちに水をあげているような気分になれた。
私が住宅を回りながら異能を振りまいたおかげで、その家の中には病気の人が一人もいなかった。
『病人がいる方が不思議かも……』
これだけ異能を注ぎ込んだのだから、それでもまだ病人がいたら困ったことになる。
もちろんグレネはまだ目がちゃんと見えていなかったけれど……。
『それでも「少し見えるようになった」って言ってたし。』
グレネの視力は先天的な問題のため、私の異能では完全に治すことはできなかった。
でも、私の異能の影響で、前より少し見えるようになったと言っていた。
『よかった。』
私は庭のベンチにそっと腰掛け、エクハルトの邸宅を見つめた。
もうすぐ開かれる宴の準備で、邸宅内の使用人たちは忙しそうに動いていた。
『宴にはあの人も来るかな?』
エステル。
私は何となく首筋の肌が熱くなるような気がして、その辺りをさわっていた。
再び、そこにあるはずの刻印を思い出してしまって、喉が詰まったような感覚がした。
そのとき、
「えっ?グレネ?」
少し離れた場所で、グレネがよろよろと手探りで壁を触っていた。
私は素早くベンチからパッと飛び降りて、グレネのもとへと駆け寄った。
「グレネ?ここで何してるの?」
グレネが私のいる方向にゆっくりと体を向けた。
真っ直ぐに切りそろえられた白髪が、体を回すたびにさらりと揺れた。
「あ、あの、お嬢さま……?」
「うん、グレネ!」
最初の頃とは違って、グレネがかすかに微笑んだ。
ケンドリックが私の頼みを聞いてくれて、グレネが邸宅に滞在できるようにしてくれた。
グレネは邸宅に滞在しながらできる仕事を探していたが、目が見えないため、できる仕事を探すのは難しかった。
けれども、本人は一生懸命頑張っていて、使用人たちから可愛がられていると、ベティから聞いたことがある。
私は定期的にグレネに会いに行った。
グレネは禁制(=制限)の話が出ると、必ず口を閉ざしたため、意味のある会話をすることはできなかった。
それでも「黒の記録」を読むことができる人物は一人でも多く癒せたと思うと、安心感が湧いてきた。
「ここで何してるの?花壇を触ってるの?」
グレネがゆっくりと襟元をいじった。
「お花、花は……触れることができるから……」
手で触れて、状態を確認している最中だという話だった。
私は明るく笑ってみせた。
「そうだね、グレネ。頑張って!それから……これ、食べて!」
そしてポケットから、端っこまで丁寧に包装されたクッキーを一つ取り出して、少女にそっと差し出した。
するとグレネはそのクッキーを受け取った。
そして、意味深な言葉を口にした。
「……もう少しだけ、我慢してください。」
うなずくことなく、ぽつぽつと。
「ん?」
私はすぐにグレネに、それがどういう意味なのか尋ねようとしたが、グレネは何も答えなかった。
静かに花壇の手入れをしているだけだった。
当時はそれがどういう意味なのか分からなかった。
あくまで“その時”の話だ。
宴会の日は、あっという間に近づいてきた。
エダンとロドリーは、それぞれの家門に招待状を配り、邸宅を華やかに飾りつけた。
アルセンの瞳の色と同じ青い花々と、私の瞳の色と同じ淡い水色の野花が邸宅を彩っていた。
ベティは朝から忙しく動き回って、私をきれいに洗って、かわいいドレスを着せてくれた。
そして靴を履かせたあと、きちんと髪を束ね、頭にかわいい造花の髪飾りをたくさん飾ってくれた。
私はそっと窓の外を見やった。
邸宅の外には、見知らぬ人々が雲のように押し寄せていた。
ごくり。
私は唾を飲み込んだ。
緊張したせいで、両手のひらが何度もこすれた。
『こんなにたくさんの狼族を見るのは初めて。』
以前に通りで見かけたことはあったが、その時は遠くから見ただけだったので、こんな気持ちにはならなかった。
その時。
トントン。
誰かがノックした。
「リンシー……。」
扉を開けて入ってきたのは、アルセンだった。
アルセンはきれいな濃紺のジャケットに、少し青みがかった蝶ネクタイを締めていた。
私はドレスのすそを握りしめて、アルセンのもとへ駆け寄った。
「アルセン、何かあったの?」
アルセンの顔色は真っ青だった。
私はアルセンの額に手を当ててみた。
『熱はなさそうだけど。』
どうしたんだろう?また病気がぶり返したのかな?
私はひざまずいて、アルセンの顔をまっすぐに見つめた。
そして襟元を整えながら尋ねた。
「アルセン、どこか痛いの?痛いなら今言ってね……」
「そんなことじゃないよ、バカ……」
アルセンの声は次第に小さくなっていった。
私はアルセンの手首をしっかり握りしめて、自分の部屋へと連れていった。
着替えを終えたベティは、私のドレスがしわにならないように気をつけるよう注意し、毅然とした態度で後ろの席を空けてくれた。
「絶対、しわをつけちゃダメよ。」
「うん、わかったってば。」
ベティは疑わしそうな目つきでしばらく私を見たあと、部屋を出て行った。
私はお尻をずらして、アルセンにもう少し近づいて座った。
「どうしたの、うん?」
「……人が、多すぎて……。」
ああ。
私はようやく、アルセンにとっても今回の集まりが初めてであることに気がついた。
昼間に見慣れない人たちが多くて緊張していたのは、ただそれだけが原因ではなかった。
私は眉間をしかめてからそっと息を吐き、アルセンの耳元に顔を寄せてこっそり囁いた。
「実は、私もそう……」
「君も?」
私とアルセンは窓辺に寄りかかって、手を握ったまま外を眺めていた。
馬車たちが次々に到着していた。
いつも固く閉ざされていた巨大な正門が、ぱっと開け放たれていた。
「式は何時からだって言ってたっけ?」
アルセンに尋ねると、アルセンはぼんやりと人々の様子を眺めながら言った。
「2時……、行きたくない。」
「私も行きたくないけど……」
私たちが抜けられない立場だというのが問題だった。
今日の集まりは、私とアルセンを正式に狼一族に紹介する場なのだから。
私はアルセンの髪をそっと撫でて整えてあげた。
「適当にいて、頃合いを見て出よう。」
私の言葉に、アルセンは静かにうなずいた。
私も、アルセンも、人見知りがひどかった。
エクハルトの人々は皆そのことを知っていた。
だから……。
『できる限り少人数にしたって言ってたけど。』
それでもこれくらいとは。
私はひしめき合うように押し寄せた人々を見下ろしてため息をついた。
口の中がカラカラに乾くような気分だった。
アルセンがとても真剣な表情で私に尋ねた。
「……挨拶だけして出てきちゃダメかな?」
「……当然ダメでしょ。」
「じゃあ、挨拶してちょっとだけいてから出てくるっていうのはどう?」
「……挨拶してちょっとだけ? うん。じゃあ、出たいときは君の足を2回とんとん叩くね。どう?」
「うん、わかった。」
私たちはお互いの顔を見つめ合って、襟元を整えた。









