余命僅かな皇帝の主治医になりました

余命僅かな皇帝の主治医になりました【43話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【余命僅かな皇帝の主治医になりました】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載...

 




 

43話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 火事③

ノクターンは目の前の相手を見て身じろいだ。

本来なら密室にいるべき人物が堂々と本性をあらわにしていたからだ。

「驚いた顔だな。」

ジェイムズが満足そうに笑いながらノクターンを見つめた。

ジェイムズは以前見たときとは違い、毒気のない穏やかな表情をしていた。

「密室に入っていたのかと思った。」

ノクターンは特に気にした様子もなく言った。

しかし、その内心では密かにジェイムスの様子をうかがっていた。

密室は一度入れば、少なくとも一週間は外部との接触が禁じられる場所。

なのに、サフルの調査もされずに出てきたとは。

ノクターンはジェイムスを疑っているように、じっと観察していた。

「前から考えてた。」

そのとき、ジェイムスが書類を置いて視線を合わせ、言葉を続けた。

「閣下がなぜお前を特別に大事にされるのか。なぜお前がもう密室に入らないのか。」

「で、結論は出たのか?」

「出たよ。とてもスッキリとね。」

ジェイムスが静かに微笑んだ。

ノクターンは、その笑みが浮かんだ瞬間の彼の顔を見てすぐに悟った。

『自ら扉を開けたのか。』

グリーンウッド公爵は、人々の上に立って権力を振るい操作するのを楽しんでいた。

密室は、そのような公爵の仕組みの一つといっても過言ではなかった。

最初から密室が開かれていたわけではない。

完全に訓練されて無力な状態になってから初めて扉を開く。

そして、自分で扉を開けて出てきた者は、公爵から認められる。

ある種の精神力テストだ。

扉を開けて出てきた儀式には、報酬が与えられる。

「権力」という報酬だ。

公爵の手法は常に、飴と鞭を使った巧妙な策略だった。

ノクターンは公爵に弄ばれたと感じ、精神が揺らいだ一方で、ジェイムズは早々に権力を握ることを狙っていたようだった。

とはいえ、その報酬というのが、実に甘美で魅力的なのだから。

「密室に入っていく兄弟たちの表情を見るたびに楽しかったよ。」

「まさに。」

ノクターンは少し苛立ち気味に、皮肉を込めて軽く返事をして通り過ぎようとした。

そのとき、ジェイムスがノクターンの腕をしっかりとつかんだ。

「お前のせいでパトリックが破滅したんだ。」

「それがなぜ俺のせいなんだ?」

ノクターンは止まった足をゆっくりと止め、鋭い目つきでジェイムスを見つめた。

もう無言では済ませなかった。

ジェイムスが少し動くと、ノクターンは彼の手を振り払うようにして押しのけた。

「それはパトリックが無能だったからだ。」

「何?」

「後ろ盾がないなら、状況を見極める能力くらいは必要だろ、生き残るには。」

「血も涙もないやつめ。」

「兄さんにそんなことを言う資格があるのか?」

ノクターンが口の端を少し上げて皮肉るように言うと、ジェイムズは苦笑いを浮かべた。

「余裕ぶっていられるのも今のうちだ。今日の発表が出れば、どうせお前も俺の下になるんだから。」

そうだ、密室から出た者は後継者になる資格を得る。

公爵の忠実な犬となり、裏では汚れ仕事を引き受け、表では名誉ある地位を手に入れるのだ。

ノクターンはその地位を拒んだが、ジェイムズはその席にあっさり座った。

まるであらかじめ準備していたかのように。

ノクターンは怒りを抑えようとしたが、つい肩をすくめてしまった。

しばらくして、ノクターンは豪快に笑いながら言った。

「ハハハ!ジェイムズ、お前はまだ密室の中に生きているんだな。俺が捨てた席を取っておいて、態度はよくもまあそんなに偉そうにできるな。」

「この野郎が……!」

ノクターンの挑発に、ジェイムスは怒りで震えた。

彼は公爵に約束されていたのだ。狩猟祭が終わったら小公爵の座を与えると。

その座さえ得られれば、ジェイムスにとってこの世のすべては手に入れたも同然だった。

かつて兄が欲しがっていたが手に入れられなかったその地位を、今や彼が手にするのだ。

ところがノクターンのその冷ややかで嘲るような表情を見ると、胸の奥から怒りがこみ上げてきた。

かつての劣等感に火がついたのだ。

『お前ごときが、俺を乞食扱いするのか?俺は、あの下等な連中とは違う人間だというのに!』

ジェイムスは怒りを抑えきれず、ノクターンの喉元をつかもうとしたその時だった。

「まだ正気を取り戻していなくて……うわっ!」

バチッ!

荒々しい火の道が彼の手をはじいた。

先日のパーティー会場での鈍い動作とは違って、素早い動きだった。

ジェイムズが悲鳴を上げて後ずさると、ノクターンが冷静に警告した。

「俺の上に立てるのは、皇帝陛下だけだ。」

「………」

「つまり、お前のようなやつが超えていい位置ではないってことだ。」

「お前……」

「その座を手に入れたからといって、傲慢になるな。その始まりが不正であると悟った時点で、いつでもお前を引きずり下ろす。」

ノクターンはわざわざする必要もない忠告を口にしながらも、落ち着いた足取りで歩みを進めた。

後ろではジェイムスが怒鳴り声を上げて悪口を浴びせていたが、それを無視した。

ノクターンの表情はいつも以上に冷たかったが、その内側では燃え盛る怒りが渦巻いていた。

あいつらが公爵の庇護のもとで、こそこそと権力を狙って動いているその姿を見るのが不快だったのだ。

通りすがりの侍女がノクターンの険しい表情を見て、息をのんだ。

いつもなら笑顔でその侍女たちの顔を照らしていたかもしれないが、今のノクターンにはその余裕はなかった。

目的も定まらないまま、どれくらい歩いただろうか。

「ノクターン様?」

ちょうど通りかかったセリーナがノクターンを見つけて声をかけた。

本音ではそのままやり過ごしたかったのだが、正面からばったり出くわしたため避けようがなかった。

ノクターンは表情を取り繕い、平然と微笑みながら挨拶をした。

「書庫へ向かう途中のようですね。」

ノクターンの視線はセリーナの脇に挟まれた本へと向かった。

セリーナはそれに気づき、ぎこちなく答えた。

「返却する本があって……ノクターンさんはどこへ行く途中なんですか? そんな怖い顔をしていらっしゃって。」

「私のことですか?」

ノクターンはそんなことはないと肩をすくめた。

その時、セリーナがそっと近づいてきた。

「まあ。私、空気が読めないんでしょうか?」

「否定はしません。」

「でも、あんなに遠くからでもただならぬ気配がビリビリと感じられましたよ。…胸がいっぱいになって、そのまま通り過ぎることができなかったんです。」

「優しいんですね。」

ノクターンがうっすらと微笑んだのを見て、セリーナは「少し待ってください」と言ってポケットをごそごそ探った。

「手、こんなふうに出してもらえますか?」

セリーナが両手を差し出すしぐさを見せると、ノクターンもそれにならった。

すると、彼の手のひらの上に砂糖がさらさらとこぼれ落ちた。

「これは……」

「陛下の寝室に隠されていたおやつを偶然見つけたみたいなものなんです。」

「え?」

「他人の家なのに気づかずに入り込んじゃったみたいで。すでに陛下の行動パターンにすっかり馴染んじゃってるみたいですね。」

セリーナは気まずそうに笑いながら、アジェイドの良くない食習慣に対する不満を吐露した。

もちろん本気で怒ったというよりは、愚痴に近いものだ。

どちらにせよ、ぶつぶつ話しているのを聞いてやらないと申し訳ない気がするほどだった。

ノクターンは目を逸らしてセリーナを横目に見たあと、手に持っていた飴玉に視線を移した。

手を動かすと、キャンディーの包装紙がカサカサと音を立てた。

その音を聞いた瞬間、思い出したくなかった幼い頃の記憶がよみがえった。

グリーンウッド公爵家に養子に入る前、ノクターンは亡き実母の姉の手で他人として育てられた。

実母はノクターンを産んですぐに亡くなり、父親も誰か分からない孤児だった。

本来なら孤児院に預けられていたはずだが、幸いにも実母の姉が彼を引き取った。

ただし、彼女がノクターンを実の子のように扱ったわけではない。

彼女は自分の子にはいつも良い服を着せて良いものを食べさせたが、ノクターンにはいつも残り物を与えた。

それでもノクターンは「家」があるということに安心していた。

孤児院の子どもたちに比べれば、「叔母さんがいる」と自分を慰めたこともあった。

だが、それは幼い心の幻想だった。

ノクターンが執務室から帰ってきたとき、家は空っぽで、テーブルの上には砂糖の入った袋が一つあった。

ちょうど空腹だったノクターンは、何も考えずにその砂糖を袋のまま全部食べてしまった。

砂糖は甘くておいしかった。

口の中でシャリシャリと溶けるその感触が心地よく、やめられなかった。

だが、その甘さは実は毒のようなものだった。

現実を思い知らされる、最も苦痛な毒だった。

「うぇーん!僕のさとう~!」

彼女の息子が泣き出し、彼女はノクターンを冷たく見下ろした。

その目つきは、まるで「お前、うちの子の食べ物を奪ったのか」と言わんばかりだった。

家族だと思っていたが、家族ではなかったのだ。

そのとき、彼女から容赦なく叩かれた。

それでもなお、口の中に残っていた砂糖は甘くておいしかった。

ノクターンはそれがたまらなく悲しかった。

その後、関係は次第に疎遠になっていった。

だが、グリーンウッド家の血縁として認められ、公爵城にやって来たことで叔母との音信も途絶えた。

彼女も後ろめたさを感じていたのか、会いに来たりはしなかった。

ノクターンが飴をじっと見つめたままだったので、セリーナが尋ねた。

「もしかして、飴お好きじゃないんですか?」

ノクターンはセリーナに視線を向けて短く答えた。

「いえ。好きです。」

「じゃあ、もっと差し上げましょうか?実はまだたくさんあるんです……」

セリーナは別のポーチを探って、飴をさらに一握り取り出して差し出した。

ポーチに魔法でもかかっているのかと思うほど、飴が次々とソーセージのように出てきた。

「仲がいいのですね」

「まさか、陛下と私がですか?」

セリーナは目をパチクリさせて、固まった表情のまま言葉を繰り返した。

「噂は事実じゃないってことですか?」

「私は、二人がとても親しい友人として仲良くしているという意味で聞いたんですけど。」

ノクターンが静かに笑いながら釈明すると、セリーナは口元をぎこちなく動かした。

ノクターンはもらった飴をポーチにぎゅうぎゅうに詰めながら礼を述べた。

「飴、ありがたくいただきます。」

「はい。食べて気分を和らげてください。今見たら、笑っている姿のほうがずっと素敵ですから。」

「自分では、よく笑うほうだと思っていたのですが……」

「…ただ口元だけ笑わせるのが得意なんですよ。」

セリーナは口角を手で押し上げるようにして、冗談めかしたしぐさを見せた。

「それでは、失礼します。」

セリーナは軽やかに、足早にその場を離れた。

ノクターンはその後ろ姿を見つめながら、微かに笑みを残していた。

だが、ふと背中に何か気配を感じ、ぞくっとした。

不審に思って後ろを振り向くと、アジェイドが柱に寄りかかるようにして、無言でこちらを見ていた。

「陛下、いつからそこにいらしたんですか?」

ノクターンが何気なく尋ねると、アジェイドはゆっくりと柱から身を離し、ノクターンの方へとゆらりと近づいてきて言った。

「そうだな。二人で俺の砂糖を手に取って、きゃっきゃしていたあたりから、かな?」

「おや、飴を探しに戻ってこられたんですか?」

「まだ隠してある飴がたくさんあるので。」

アゼイドは「そんなことを聞くのか?」と言わんばかりにくすっと笑った。

しかし目はわずかに引きつっていて、ノクターンには冷や汗がにじんだ。

セリーナが「口先だけの笑い」という言葉をまさに体現していた。

どうやら飴のせいというよりは、やはりセリーナのせいに思えてならなかった。

ノクターンはわずかに微笑みながら尋ねた。

「セリーナ嬢は、すぐに飴を見つけ出す特技でもお持ちなんですか?」

「そう、それが不思議なんですよ。私がどこに隠していても、まるで霊感でもあるかのように見つけ出すんです。まるで魚の匂いを嗅ぎ分ける猫みたいに。」

アゼイドはノクターンの皮肉にも反論せず、ただしばらくの間しっかりと黙り込んだ。

そして深刻な表情を浮かべながら、セリーナがもしかして妖術か何かを使っているのではないかと真剣に疑っているようだった。

もちろん本気とも冗談ともつかない言い方だった。

だが、アジェイドがセリーナを信頼している気配は明らかだった。

ノクターンにはそれが不思議だった。

セリーナに初めて会ったとき、彼女はそれほど有望には見えなかったし、まさかアジェイドがあそこまでかばうとは思わなかった。

その時、アジェイドがノクターンを見つめて言った。

「俺、本気で言ってるんだけど。」

「それなら、陛下の私物を確認してみてください。もしかしたら、位置追跡機か何かが付いてるかもしれませんし。」

「ノクターン、お前がセリーナにしたみたいに?」

「………」

ノクターンは笑みを作ろうとしたが、それをうまく保てず、アジェイドを見つめ返した。

思いがけない一言に、ノクターンの目がかすかに揺れた。

一方のアジェイドの目は、驚くほど静かだった。

まるで、友人に会ってきた帰り道に軽く挨拶を交わすような軽やかな声だった。

「セリーナ嬢も知ってるのか?」

ノクターンが困ったような表情で尋ねた。アゼイドが首を振った。

「いや。知っていたら、さっきみたいに笑って騒いだりはしなかったはずだ。」

そう言って、手に持っていたバッジを宙に投げてキャッチしながら、さらに言葉を続けた。

「説明する時間は十分にあげたと思うけど?いつまで俺に隠しておくつもりだったんだ?」

「隠せるだけ隠すつもりだった。」

ノクターンがにやりと笑っておどけてみせると、アゼイドはじろりとにらみつけた。

だがノクターンは表情ひとつ変えず、穏やかに言った。

「君も分かってるだろ。俺が疑い深くて秘密主義だってことは。」

「今回も、俺のためにやったって言いたいのか?」

「うん、そうだよ。だからもう水に流してくれない?」

ノクターンが素直に答えると、アジェイドは深くため息をついた。

実のところアジェイドにとって、他の3人の友人たちよりもノクターン一人の本心を見抜くほうがずっと難しかった。

ノクターンはまるで吸血鬼が狡猾に血を隠すように、内心を決して表に出さなかった。

答えを当てるまで決して言葉にしないため、自分で推測するしかなかった。

ノクターンはグリーンウッド公爵の最側近にいたおかげで、この手の裏工作には非常に長けていた。

そのおかげでアジェイドは多くの助けを受け、数々の危険を事前に回避することができた。

彼の働きぶりはもはやスパイと呼んでも過言ではないほどで、ノクターンはアジェイドに絶対的な忠誠を誓っていた。

セリーナに追跡装置を仕込んだのも、その忠誠心の一環だったのだ。

考え込んでいると、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような気がした。

「頼んでもいないことまで、わざわざしなくていいんだ。」

「今回も俺が不快にさせたのか?許可もなく押しかけて?」

「そうじゃない。」

「じゃあ?」

「君がグリーンウッド家で俺に何かをしてくれるからって、そんな風に忠誠を尽くさなくてもいいんだよ。」

ノクターンは理解できないといった様子でアゼイドを見つめた。

アゼイドはきっぱりと続けた。

「俺が必要なのは、友達だ。僕の部下でも、従者でもなく。」

「わかってる。だから俺はお前が好きなんだよ、アゼイド。」

ノクターンがニヤリと笑うと、アジェイドは言葉を失った。

「狩猟犬として育てられた自分にとっては、もう習慣みたいなもんさ。万が一の保険でもあるし。」

「なるほどね。」

「ただ、俺が友達に対して取る態度だと思ってくれればいいよ、アジェイド。」

「本当にとんでもない友達を持ったもんだ。」

アジェイドが首を左右に振ると、ノクターンはくすくすと笑った。

「ちょうどどうやって回収しようか悩んでたけど、お前が持ってて助かったよ。最悪、盗賊“クムナム”に助けを頼まなきゃって思ってたくらいだ。」

「盗賊クムナム?」

「ファイ。俺の猫が最初にそのバッジを盗んだんだ。」

ノクターンは素直に答えながら、くすっと笑った。

アゼイドは、彼がいつも連れて歩いていた灰色の猫を思い出した。

ファイは猫とマウスの混血種だった。

「それで最近見かけないけど、また何かやらかしてるのか?」

「もともと自由な子だから。俺じゃない別の主人でもできたんだろうさ。」

「ともかく、俺に向けたお前の愛情があふれすぎてるのは分かってるから、もうこんなことするな。」

「冷たいな、アゼイド。その言い方じゃ、まるで“俺のことだけ好きでいろ”って聞こえるぞ。」

ノクターンがしれっとした表情で言い返すと、アゼイドがすぐさま嫉妬交じりに反論した。

「そんな冗談はやめろ。」

「聞いたか?くくっ。」

ノクターンはまだ笑いをこらえきれずに肩を震わせていた。

それをアジェイドが不思議そうな表情で見つめていた。

ノクターンはやっと笑いを収めながら言った。

「ただあまりに一生懸命にやってるようだったから、幽霊でもついてるのか確認しようとしただけさ。」

「それで、その幽霊は見つけたのか?」

アジェイドの問いかけに、ノクターンは軽く肩をすくめて答えた。

「ただ仕事ができて、まじめにやってる人みたいだったよ。」

「中途半端に何もできずに死んだ幽霊みたいなやつじゃなくてよかった。」

アジェイドは納得したようにくすくす笑った。

ノクターンも肯定するように、続けて言葉をつないだ。

「それでも感心するよ。いつの間にか俺をとても巧みに避けて、君に関する重要な情報は一切口にしないんだから。」

「俺の友達だから、簡単に話すと思ったのに意外と口が堅いんだな。」

「友達だからこそ、もっと慎重になってるのかもしれない。しかも、俺はグリーンウッドでもあるし。」

「勘の鋭い女だな。」

アゼイドはセリーナを思い出したのか、口元を緩めて微笑んだ。

ノクターンはその様子をじっと見つめながら尋ねた。

「それで、好きなのか?」

「……なに?」

アゼイドはしばし呆然とし、まるで聞こえてはいけない声を聞いたかのようにびくりと跳ねた。

「好きだって?俺が?セリーナを?」

「そうかと思ってたけど。」

「全然ちがう。」

アジェイドはきっぱりと否定した。

強く否定するその様子から、むしろ何らかの感情があることは明らかだった。

アジェイドは言い訳のように続けた。

「これはつまり、同僚みたいなものだよ。長く一緒にいたから情が湧いただけだ。」

──同僚って。

ノクターンは恋愛に関して子どもっぽい態度をとるアジェイドを見て、呆れたように肩をすくめた。

他人には明らかに見えることでも、彼の目にはまったく映っていないようだった。

「じゃあ、お前が長く一緒にいたって理由で情が湧くなら、グリーンウッド公爵にも情を持ってたはずだろ。」

「セリーナとあの人を一緒にするなよ?」

どう違うって?

ノクターンはその言葉をぐっと飲み込んだ。

わざわざ「お前、あの女のこと好きなんだな」と言うのも面倒だった。

いずれ気づくだろうし、最後まで気づかないとしても、別に構わない。

「いい仲間ができてよかったな、アゼイド。」

「なんかすごく皮肉に聞こえるけど。」

「そんなわけない。」

アゼイドが目を細めると、ノクターンは話題を変えた。

「レオナルドは?いつもくっついてたのに、最近よく席を外してる気がするけど。」

「まあ、レオナルドにも休憩時間は必要だからな。」

アゼイドがあっさりと答えると、ノクターンは真剣な面持ちだった。

それを見たアジェイドが尋ねた。

「レオナルドに何か言うことでもあるのか?」

「もちろん。」

ノクターンはしばらく懐中時計を見つめたあと、口を開いた。

「俺が行かないと。」

「首都に行くつもりか?」

「一通りの始末は終わったから、行っても問題ないだろう。」

「そうか。じゃあ後で首都で会おう。」

「じゃあ、首都で会おう。フェア。」

ノクターンは丁寧に一礼して去った。

アジェイドはそんな彼の後ろ姿をしばらく見送ったあと、歩き出した。

 



 

 

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