こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

32話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 判決結果
「ラニエロの家庭教師が子供を虐待したって話は?」
ケンドリックの言葉に、アーサーは初めて聞く話でも聞いたように、呆れたような顔をしていた。
「そんなことはない。ラニエロの教師たちは子供を虐待したりしない。あの子が今ちょっと情緒不安定なだけで……」
リンシーとアルセンが出て行った後も、二人に対する意見は真っ二つに分かれていた。
まだ13歳という幼い年齢なので、当然保護者のもとに戻すべきだという意見が大半。
一方、虐待を受けたという話を聞いた以上、戻すことはできず、むしろエクハルトで保護されることを本人も望んでいるようなので、エクハルトに留めておくべきだという意見も半数あった。
大神官は困ったような顔をして、アーサーとケンドリックを見た。
『誘拐だと思ってこんな場を設けたのに。』
本当に誘拐だと思っていて、リンシー・ラニエロの返還を要求するために開かれた場だったのに、当の本人が戻ることを望まないのだから、返すのも難しかった。
それに加えて。
『虐待されたって発言もしてたし……』
その発言を十数人の神官たちが聞いていた。
子どもが直接「虐待された」と言った以上、神殿にはその子どもを保護する義務があった。
そして──
ラニエロとエクハルトの政略結婚も確定している状況。
子ども自身も結婚したいと言っていたし、リンシーを送ればすべてがうまく収まるはずなのに、なぜあそこまでごねるのか理解できない。
大神官は深く息をついた。
彼はケンドリックとアーサーに軽く会釈したあと、十数人の神官を引き連れて小部屋へと入っていった。
意見を交わして決定を下すためだ。
円卓に集まった神官たちは、それぞれ意見を述べた。
「リンシー様はまだ幼いので、当然保護者に戻すべきです。」
「しかし、虐待されたと言っていましたよね?神殿には神の名のもとに子どもを守る義務があります。」
「それが事実かどうかはまだ分かりません。子どもの嘘かもしれません。」
「ですが……リンシー様ご本人とアルセン様が結婚したいという意志をはっきり示されましたし……」
一人の神官が慎重に口を開いた。
「どうせ政略結婚を破棄するつもりがないなら――両者の意見が一致しているため、エクハルト側の手を挙げるのが妥当だと考えます。」
大神官はその神官の言葉を聞いて、うんざりとしたように眉をひそめた。
『ラニエロ側からの反発が大きくなりそうだ。』
神殿はラニエロに多くの恩を受けている。
現教皇の体調が思わしくないのは明らかだった。
高齢により体力が衰えており、ラニエロが治療したとはいえ、完全に回復したわけではない。
それでもアーサーは、ラニエロの治癒のおかげで教皇の病状がかなり改善されたと感じていた。
それなのに、ここでエクハルト側の肩を持つと──。
『ラニエロが治療を拒否するかもしれない。』
現教皇の後継者がまだ定まっていない状況。
教皇の病状が悪化すれば、状況はますます困難になる。
大神官は頭を抱えた。
しかしリンシーの意思を完全に無視して、ラニエロに戻すこともできなかった。
神殿では、こうした問題が発生した場合、神の教えに従い、常に当事者の意思を最優先にしてきたからだ。
大神官はしばらく悩んだ。
そして、やがて紙に羽ペンで何かを書き始める。
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大神官と神官たちが全員入っていた部屋のドアがばたんと開いた。
口を閉ざしていたアーサーとケンドリックがそちらへ視線を向けた。
大神官は祭服の装いを整えながら、落ち着いた足取りで席についた。
他の神官たちも同様だった。
アーサーとケンドリックは、神殿がこの件に対してどのような立場を示すかを黙って待っていた。
大神官は一度喉を整えると、口を開いた。
「リンシー・ラニエロは本人がラニエロに戻ることを望まず、諸々の状況を総合的に判断した結果、エクハルトの行動が『誘拐』ではなかったと結論づけました。」
「えっ?」
「そうだ。」
封蝋が押された。
「これにより、神殿は教義に従い当事者の意思を尊重し、リンシー・ラニエロとアルセン・エクハルトの結婚を承認し、二つの一族の政略結婚を認めます。」
アーサーが席からばっと立ち上がった。
抑えきれない殺気が空気を鋭く切り裂いた。
それに対し、ケンドリックが眉間にしわを寄せ、自らの異能を使った。
指先から黒い煙がもくもくと立ち上り、小さな輪となってアーサーを囲んだ。
「神殿の意向に逆らう一族がどうなるか、わかっているだろうな。」
低く鋭い警告。
これに反対する一族は連盟から除名処分とする。
規則を破ったアーサーはその場を離れることを拒み、ケンドリックもまた彼に従った。
「では、これで失礼します。アシダシ様はお忙しいでしょうから。」
「……くふっ。」
「ヘムトン侯爵であれば十分な報酬になると思うが、どうしてリンシーはあの子にそこまで執着するのか分からない。」
ケンドリックが通りすがりに言った。
「婚姻届は後日、神殿に再び提出するように。」
「お疲れさまでした、ケンドリック様。」
「はい、ご苦労様でした、大司教様。」
アーサーは拳を握りしめたまま、怒りで体を震わせていた。
ラニエロとエクハルトは長い間宿敵関係だったのに、神殿で敗北を喫したという事実は到底受け入れがたかったのだろう。
あまりにも見苦しいと考えたケンドリックが席を立った。
そして大司教に礼をしてから、真っ先に席を後にした。
アーサーはケンドリックが去った席を見つめながら、やがてぎゅっと歯を食いしばって口を開いた。
「……異議を申し立てます、大司教様。神殿がラニエロに対してこのような仕打ちはあり得ません!」
アーサー・ラニエロが声を張り上げた。
かすれ声混じりのその声が室内にビリビリと響き渡った。
神官長は困ったようにアーサーを見つめ、口を開いた。
「明らかにエクハルトが子どもを誘拐したとおっしゃったのでは?発言と状況が食い違っていて、神殿も対応に困っております。」
神官長は白いハンカチで既に汗ばんだ額を拭きながら言った。
神殿がラニエロ側について争いの仲裁をしようとしたのは、ラニエロから恩義を受けていた過去もあったが、本質的にはエクハルト家の勢いを抑えようとする狙いがあった。
『狼族の力は、圧倒的に強大だ。』
狼族と獅子族はどちらも強力な異能を持つ一族である。
それだけ広大な領土を所有している一族だった。
しかし、これまでは問題になることはなかった。
狼族も獅子族も、他の一族たちと同様に神殿に対して友好的だったからだ。
だが、今回、狼族の長であるケンドリック・エクハルトが家長の座に就いたことで、状況は一変した。
神殿を裏切ろうとする動きがエクハルトから見え始めたのだ。
その理由は――
『アルセン・エクハルト。』
あの子供のためだった。
7年前のあの出来事以来、彼らは今も神殿に対して反感を抱き続けているのだ。
神官長が歯ぎしりしながらため息をついて言った。
「加えて、ラニエロで虐待を受けたという証言まで出ている状況ですから……、すぐにラニエロに戻すには無理がありました。」
「虐待なんてしていません!リンシーはまだ子供で、何か勘違いしているんです。あるいは、エクハルトでそう言うように言われたのかもしれません。」
「ですが……、いずれにしても政略結婚は受け入れられたのですよね? それならリンシー嬢をエクハルトへ送ることで、この件は円満に解決されるのではありませんか?」
神官長は、アーサー・ラニエロの態度をどうしても理解できないといった目をしていた。
その視線に気づいたアーサーは、大きく咳払いをした。
『シュービルの異能を消すことはできない。』
シュービル――あの厄介者を処理できる絶好の機会だった。
他人の生命力を奪う異能。
ラニエロではあってはならない最悪の突然変異。
だが、アーサーはシュービル、あの子を簡単には捨てられなかった。
シュービルが持つ異能を恐れたからだ。
もしシュービルを捨てた後、その子がラニエロに恨みを抱いて復讐しようとすれば、大変なことになる。
だからシュービルには、異能をまともに使えないように教え込んだのだ。
『もちろん、狼一族の家門に行った後も能力を使えなければ困るから……』
シュービルを送り出す前に、狼一族の家門に行ってやるべき仕事を教え、能力の使い方もちゃんと教育しようと思っていたのだ。
アーサーはこめかみを押さえた。
連れていてもいいし、簡単に捨てても構わない存在。
家の中でのシュービルの立ち位置は、まさにその程度だった。
だからこそ今回の政略結婚を利用して、狼一族の後継者もおらず厄介者だった子どもも片付けようとしたのだ。
アーサーは心の中で罵声を吐きながら、ため息をついた。
神官長がアーサー・ラニエロをなだめるように言った。
「機会を見て、後でお連れすればよいのではありませんか。今はひとまず見送ってください。時が来れば、神殿が手を貸しますから。それに……」
大神官が巨大な石の扉の向こうをしばらく見つめた。
教皇が休んでいる部屋の方向だった。
大神官の意図を理解したアーサーが、乾いた咳をひとつした。
そして目を伏せて言った。
「……ご配慮ありがとうございます。時が来れば神殿が力を貸してくれるということですね。」
「はい、もちろんです。」
大神官の返答を聞いたアーサーは、ラニエロへと足早に歩を進めた。









