こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

107話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 意外な出生
カバンに到着する前日、最後に立ち寄った村で騎士団はその場所について詳しい情報を得ることができた。
「村に入ることはできますが、そこから誰も出てくることはできません。」
「一度カバンに足を踏み入れたら、出られないということですか?」
「そうです。まるで透明な保護膜が張られているかのように、内側と外側で互いに見えるのですが、音は聞こえないので、境界線に沿って警告板を立ててあるそうです。文字が読めない人たちは知らずに入ってしまって、そのまま行方不明になる事故が最近も時々起きているようです。」
「……」
村人の証言に基づいて、騎士団は二手に分かれて行動することにした。
村に入る内部チームは、エドワード、ルイーゼ、ヘンドリック、ロビンを中心とし、 外で魔法の解除方法を探る外部チームは、マキシオン、エイボンを中心に分かれた。
今回もまたエドワードが先頭に立って危険な場所へ入ると言うと、 外部チームに配属された何人かの団員が反対した。
「また殿下が無理をなさるなんて! 言語道断です!」
「あなたがルイーゼ嬢よりも私よりも強いと証明できるなら、変えて差し上げましょう。」
「……」
声を荒げていた者たちは、たちまち静かになった。
明らかにどこへ行っても劣らない実力なのに、この二人の前ではどうしてこんなにも無力になるのか。
最初は、二人が変なのかと思っていた。
団員たちが人間の限界に挑戦する存在なら、ルイーゼとエドワードは生まれながらにしてその限界を超えた存在だった。
ルイーゼは一見、ただの貴族の女性に見えるが、手のひらサイズの短剣から自分の体ほどの長さの剣まで、すべての剣をまるで一体化したかのように扱う腕力に加え、驚異的な技術まで備えていた。
エドワードもまた、長く一緒に過ごしているにもかかわらず、未だに信じられないほどの実力の持ち主だった。
皇族だとしても、確かに規格外の存在だった。
それでいて、完璧な外見を持ちながらも汗一つかかず、訓練しなくても常に完璧である姿は頑健な身体状態を誇っていた。
そこに加えて、魔法使いの血統が枯れたこの時代に、魔法使いですら魔力の少ない者が大半であるにもかかわらず、エドワードはまるでドラゴンのように魔法を惜しみなく使った。
もちろん、大半の団員は彼のことをまだ剣士だと思っていたが、元々剣士としての実力も悪くなかった上に、剣術に巧みに魔法を混ぜて使うことで、彼の強さは並外れていた。
「そして、ロビンとヘンドリックも一緒に連れて行くつもりだから、あまり騒がずに。治療師と一緒に入る予定だから、自分たちの身体をちゃんと管理しておくように。洞窟の遺跡の時とは違って、ここはきちんとした村の形をしているから、むしろ宿屋でゆっくり休んで終わるかもしれないからね。」
「わかりました。」
マクシオンは静かにそれを受け入れた。
こうして最後の出征地へ向かう日の朝が明けた。
以前の村で聞いた通り、カバンには大きな円形に村の境界を囲むように、大小さまざまな看板が無数に立てられていた。
看板には警告と共に、食料を求めている内容が記されており、その周辺には村の人々と思しき者たちが巡回しているかのように配置されていた。
中に入る直前に、団員数名が村をぐるりと回って周囲を調べてみたが、特筆すべき情報を得ることはできなかった。
「とにかく詳しいことは中に入らないと分からないようです。」
「では、あらかじめ指示した通りに分かれて行動してください。」
「はい!」
団員たちが指示通りに動いている中で、エイボンがエドワードの元に近づいてきた。
「……エドワード様。」
「何か見つけたのか?」
「もっと調べてみないと確実ではありませんが、ここの魔法は黒魔法とは根本的に異なるように思えます。」
「やはり。私も君と同じ考えだ。」
エドワードは表情を変えることなく、落ち着いた顔で答えた。
黒魔法に関する知識が未来のその時点ではまだ不十分ではあったが、それでも魔法についてまったく無知というわけではなかった。
「……もしこれが魔法使いの仕業であれば、相当な実力者でしょう。危険です。今からでも部隊全員で一緒に入るように計画を変更したほうがいいかもしれません。」
「黒魔法である可能性を完全に否定することはできないので、外部の部隊は外で待機してください。これほどの規模の魔法を使える魔法使いは、帝国の中でも指折りの実力者でしょう。つまりこの中には一人の強大な使い手がいる可能性が高いということ。魔法が解除されなければ、まともに戦うこともできません。」
エドワードの赤い目が鋭く光った。
「だから、魔法が解除されたらすぐに村の中へ入ってきてください。それは戦いが終わった合図か、もっと大きな戦いの始まりを意味するでしょう。」
「……はい。そういたします。」
エイボンは沈んだ顔で返事をしたあと、自分の属する外部チームへと向かった。
外部チームは距離を取り、内部チームが安全に村の中へ入ったことを確認すると、村の外壁に接した崖沿いに移動して、村内の状況を監視しながら、外から魔法を解除する方法を模索することにした。
「それでは私たちもそろそろ入ろうか。」
「はい!」
ヘンドリックの力強い返事とともに、内部チームは村の中へと入っていった。
マクシオンと他の団員たちは、無言の表情でその背中を見つめていた。
カバンは周辺の村の中でもかなり大きな祭りの準備で少しにぎやかになる頃だったが、村はいつにも増して静かだった。
カバンの領主アベル・ディ・モレルタ子爵は、騎士団が村に入ってくるや否や慌てて飛び出してきて彼らを迎えた。
「お久しぶりです、モレルタ子爵。」
「陛下!またお会いできて光栄です!以前のようにおくつろぎください。」
子爵は恐縮した顔でぺこぺこと頭を下げた。
エドワードの立場からすれば、久々に見る反応だった。
十数年前に失脚して以降、彼は皇帝や新しい皇太子の目に留まらぬよう、徹底して存在感を消していたのだ。
派手な装いも極力避け、言動もまた貴族の間で自然に溶け込むように振る舞っていた。
そんな彼に最初は戸惑い、不快感を抱いていた人々も、しばらく時間が経つと今では自然に受け入れるようになっていた。
そもそも首都の貴族でもないモレルタ子爵が彼に出会ったのは、彼が11歳で皇太子だった頃が最後なのだから、気まずさを感じるはずもなかった。
「それなら遠慮なく。快く迎えてくれて感謝するよ。」
「どんなご用でこんな辺境まで足を運んでくださったのですか?今は我々の領地には入れますが、出るのは危険です。」
「その問題を解決せよという皇命を受けての出張だ。協力をお願いしたいのだが、どうかな?」
子爵は目を見開いて戸惑い、視線を伏せた。
「その……まずは、先に到着された大切なお客様がいらっしゃるので、騎士団全員を城でお迎えする光栄は難しいかと存じます。ただし、大公殿下とそのお付きの数名でしたら、城内でお泊まりいただくことも可能です。他の騎士団の方々にはご不便のないよう、外部に別途宿所をご用意いたします。」
「私は騎士団と一緒に外で宿をとるつもりだ。城内に別室を設ける必要はない。むしろ先に到着した重要な客人がいると聞いたので、一度お目にかかりたいのだが、場を設けてもらえるか?」
「もちろんです。客人も同じご意向でした。」
「では、今夜城でまた顔を合わせよう。盛大な歓迎の宴などは不要だ。食事の代わりに簡単に茶でも飲みながら話す席があれば充分だ。」
「承知しました。宿所へはすぐに案内人を向かわせ、ご案内いたします。」
「分かった。」
まもなく子爵が送った案内人が到着し、騎士団は村で最も立派な高級旅館に滞在することになった。
村の人々の表情は全体的に元気がなく沈んでいた。
疲れた顔で通りを避ける人々も少なくなかった。
村に入ってから、持っていた物をすべて失い通りをさまよう人たちのようだった。
旅館に入ってからも騎士団の表情はやはり晴れなかった。
冬の間、通りでさまよう人々を後にして高級旅館で過ごすのは、心が落ち着かなかった。
「こんな場所で気楽に休むよりも、むしろ道端で火を焚いて過ごすほうが気が楽です。私たちは殿下が本城へお戻りの間、村を回って情報を集めてまいります。」
「そうしよう。私はルイーゼ嬢と一緒に本城へ行ってくる。」
ルイーゼは不思議そうな表情でエドワードを見た。
目が合うと、彼女の頬はうっすらと桃色に染まった。
初めてのキスの後、本格的に忙しくなってから二人の間に大きな進展はなかったが、いくつか変わった点があった。
以前は毎朝、ルイーゼが彼の部屋を訪れて彼の支度を手伝っていたが、今では彼が先にルイーゼの部屋を訪れ、朝の挨拶とともに彼女の手の甲にキスをするようになった。
二人が常に一緒に行動しているのも、そうだった。
今では会議を理由に彼女を置いていくこともなく、ルイーゼが休息を必要とする時間や夜眠る時を除けば、二人は常に一緒だった。
しかし、このような重要な場にルイーゼが同行するのは初めてだった。
普段はそのような場にはマクシオンやエイヴンなど、他の団員を同行させていたからだ。
「私ですか?」
「はい。ルイーゼ嬢は私の忠実な部下であり、信頼できる副官ですから。」
「……そうですか。」
ルイーゼは襟元をぎゅっと掴んだ。
こうしてヘンドリックとロビン、他の団員たちは村を回って情報を集めることにし、エドワードとルイーゼは領主に会うために城へ向かった。
宿を失った人々が通りに設置されたテントで過ごしているのを見て、ルイーゼは気まずそうに口を開いた。
「人が住んでいる村がここまで荒廃している姿は初めて見ました。いくらペリルスの近くの村だとしても、こんな雰囲気ではなかったのに。」
「水が不足しているからです。人の数は増える一方で、よくない噂のせいで外部との往来が途絶え、入ってくる物資が明らかに減ったのでしょう。需要はそのままで供給が減れば、当然物価も上がるはずです。」
彼の言うとおり、通りには閉店した商店が多く見られた。
「ここの住民たちでさえ耐えるのが大変な状況で、外部から入ってきた人々は宿に滞在しなければならず、物価が上がって持っていたものがすぐに底をついたでしょうね。」
「まあ、私たちの宿も村の中では一番良い旅館だけど、値札を見てとても高すぎると思いましたよ。通りに出ていた人が多すぎて仕方なかったのですね。それで宴を開こうと考えたのですか?」
「はい。この地の領主は慎ましく領民を大切にする方なので、きっと混乱の後に城の倉庫を開放したのだと思います。しかし今は本城の事情も良くないでしょう。重要な客が滞在しているとなれば、なおさら心苦しい状況でしょう。」
「そうですか。しかし領主の城に何かのお客様が滞在していて部屋を使えないというのは……?」
「皇帝の命によって村に来た騎士団にとって、そこに滞在する重要な客とはそう多くはありません。皇族か、他国の王族、あるいは……」
エドワードの赤い瞳が、通りで身をすくめるように震えている子供に向けられたまま、微かに歯を噛み締めた。
「神殿」
かすれた声が、まるで紙を引き裂くように喉を震わせた。
カバンの領主の城はセレベニアに比べて、城と呼ぶには気まずいほど規模が小さかった。
城というよりは、首都にある中規模の邸宅のような外観だった。
領主は重要な客の頼みにより、一時的に部屋を空けている状況だった。
その空いた席に現れたのは、腰まで届く紫色の髪を持つ女性と、日焼けした肌に短く刈り込んだ白金髪の凛々しい男性だった。
二人はともに黄金色の瞳をしていた。
「光の栄光が共にあらんことを。主の召しを受けし大司教ラファエラと申します。お会いできて光栄です。」
「光の栄光が共にあらんことを。お会いできて光栄です。エドワード E. フォン リンデマン大公爵補佐、主の剣・大信殿第2神聖騎士団団長、マティアス・ディ・エドビンと申します。」
次期教皇候補として挙げられる三人の大司教の一人であるラファエラと、大信殿所属の第2神聖騎士団団長マティアス・ディ・エドビン。
彼らは皇族および王室直属の騎士団に匹敵する存在だ。
大司教は全部で7人で、従来の名前を捨て、大天使の名を使っていた。
神力の大きさ、神殿内での神官や騎士団の支持、信者の間での認知度によって順位が定まる立場だったが、その中でも最も重要視されたのは神力の大きさだった。
普通、大司祭の中でも神力が最も強い者が次期教皇となる。
7年前、一人の大司祭が失踪して以来、現在神殿所属の大司祭は合計6人だった。
その中でもラファエラという人物は、次期教皇になるかもしれない有力候補であり、カバンの領主にとっても負担になるほどの客人であった。
さらに第2聖騎士団の団長まで同行していたことは、その配下の団員たちも一緒に来ているという意味でもあった。
「エドウィン?どこかで聞いたことがあるような……」
ルイーゼが小さな声でつぶやくと、マティアスが無表情な顔で答えた。
「私の姓は表向きには名門騎士家門“エドウィン”の後継者として知られています。」
「そうでしたか。なるほど、だから見覚えがあるんですね。」
ルイーゼが完全には納得していない表情で顎をさすった。
エドワードが口を開いた。
「聖騎士団もこの地の問題を解決するために派遣されたのですか?」
「教皇聖下のご命令による別の任務でここに来ました。奇遇にも、騎士団が到着した日に魔法が発動されました。最初はラファエラ大司教と騎士団を狙った勢力の仕業だと思われましたが、しばらく村の中を調査した結果、特に怪しい者たちの痕跡は見つかりませんでした。」
「神聖騎士団がこの事件の原因だと誤解している者がいるのですね。」
「はい。そのため、現在検問をしている者たちは領主の城の外には出られません。ですので、銀光騎士団にご協力をお願いするために、お会いする機会をお願いしたのです。」
「よく理解しています。」
「ご協力に感謝します。」
ルイーゼがマティアスの目を見て言った。
「神聖力の高い方々は皆、金色の瞳を持っているというのは本当だったんですね。」
「そうです。疑いを避けるために、平服姿の騎士たちが定期的に村を巡回したり、外郭を巡視しています。」
「入ってくる前に見ましたよ。あの人たちが平服姿だったのは神聖騎士団だったんですね。でも、なぜこんな魔法を使って、神聖騎士団とラファエラ大司祭をここに閉じ込めようとしているんでしょうか?」
「ラファエラ大司祭様は次期教皇の三人の有力な大司教候補の中のお一人です。明らかに他の候補側が手に入れようとしているのでしょう。今回の件を成功裏に終えることができれば、教皇様の信任までも得る予定だったのです。」
「でも大司教様じゃないですか。そんな悪いことをするでしょうか?」
「信心深い神父様であっても、ときに道を踏み外してしまうこともあります。正確に言えば、相手の候補を支持している信者の仕業である可能性が高いのです。」
マティアスは表情を変えずに語った。
エドワードが真剣な表情で口を開いた。
「おっしゃった任務とは何か、伺ってもよろしいですか。」
「それはお話できません。」
「……そうですか。」
「ただし、今回の件が第2聖騎士団やラファエラ大司祭様によって引き起こされたものではないとは断言できます。」
マティアスが確信に満ちた声で言った。
エドワードとマティアスは、会話を少し続けたあと、領主を呼んだ。
話が長引くなかで、ただ話を聞いていたルイーゼが、近くでかすかに聞こえてくる声に耳を傾けた。
それは彼女にだけかろうじて聞こえるほど、非常に小さな声だった。
「……そうですね。本当にそうでしょうか。」
ラファエラが小さな声でつぶやいた。
宿舎に戻った二人はヘンドリック、ロビンと合流して会議を行った。
エドワードとルイーゼに話を伝え聞いた二人の表情は暗くなった。
今回の件にも神殿が関与していたことが確認され、何らかの形で神殿と皇帝の間に関連があるという事実が確実になったようだった。
「大司教と聖騎士団がここに滞在していたのですね。どうりで村に入った瞬間から雰囲気が何かおかしいと思っていました。ともかく神殿の奴ら、今度は何を企んでいるのか。」
ロビンがぶつぶつと暗い声で言った。
「君たちは新たな情報を得たか?」
「私たちの側には特に新しい知らせはありませんでした。ただ、通りに出ていた人々の中には深刻な栄養失調に悩まされたり、凍傷で手足の一部が壊死している人が多く、ロビンが見て…」
「殿下、こんなに状態がひどい村を見るのは初めてです!このままだと多くの人が無念にも死んでしまいます。騎士団の物資はすべて軍用のため、個人の持ち物から急いで処置したのですが、それでも患者は回復しませんでした。」
ロビンは気まずそうな表情で顎を引いた。
「人々は中央広場にいちばん多く集まっていました。村の領主は住民のことで手一杯のようで、外部の者たちまで気にかけてはいられないようでした。」
「領地の状況がかなり悪いようですね……。」
「高くてもかまわないので、天幕と毛布を購入して中央広場いっぱいに天幕を張り、毛布を配ってください。内部の物資が不足しているなら、外部の支援を受ける予定だった場所へ行き、そこに滞在している人数分の天幕と毛布を持ってきて。」
「はい!そうします。」
ロビンが嬉しそうな顔で答えた。
「それと、治療に必要な物品も追加購入して構わないよ。費用は私に請求して。」
「殿下、時々考えるんですが、やっぱり殿下の騎士団に入って本当に良かったと思います。太っ腹さが違います。ところで、私たちの給料はいつ出ますか?ここ、物が結構高いのに、もしかしてお金が尽きたんじゃないですか?」
ロビンの遠慮混じりの冗談に、ヘンドリックが大声で笑った。
「ははは!心配ないよ。殿下はそんなふうにいくら使っても尽きない金を注ぎ込む泉をお持ちなんだから。」
「泉?」
ルイーゼが疑わしげな顔でエドワードを見ると、彼の顔に柔らかな微笑みが浮かんでいた。
「フェリス商団は私のものです。」
ルイーゼとロビンの表情は一瞬で驚きに変わった。
「あのフェリス商団ですか?あそこは私が十歳を少し過ぎたころからあった場所ですが、他の国にも支店が多いと聞いています。」
「ご令嬢が似たようなものを運営していたので、それを見習って運よくうまくいっただけです。もともとそんなに大きな商団ではありませんでした。」
エドワードは以前から国民の安定した生活のために、物資を合理的な価格で供給し、損失を被ってでも帝国の外れの小さな村にまで支店を出せるような商団が必要だと考えていた。
しかし彼は、すぐに対処しなければならない他の用事で目が回るほど忙しく、その件に集中する余裕がない状況だった。
何よりも、皇太子が商団を運営した事例がないばかりか、それに似た前例すら全くなく、参考にできるものもなかった。
皇族が商売に手を出せば、間違いなく反発する勢力が皇城の外にまで影響を及ぼすことになるだろう。
そのとき彼が発見したのが、ダイアナ・ルード・サフェルデルのもう一つの名前、「エナ」だった。
「偽の身分か。なるほど。商団はこうやって育てればいいのか。」
似たような事例に触れると、あとは簡単だった。
多くの領地から得られる税金と、浪費する時間もない皇太子の品位維持費を適当に委託して利用すれば多くの支店を出すのも難しくはなかった。
エドワードは王女がやった通りに偽の身分を作り、小さな商団を買い取り全国に支店を出した。
それがまさにフェリス商団だった。
フェリス商団はあちこちでまったく異なる価格で販売されていた物品を、統一された価格で流通させ、既存の物に機能を一つ加える方式で高級品を作って販売した。
生活必需品は帝国全体の状況を考慮して合理的な価格で販売することで、生活必需品が異常に高価だった地域の独占店と市場価格を抑えた。
そして他の場所とは差別化されたオリジナル商品を製造・販売し、そこで発生する利益で商団を維持した。
そんな中、手が空いた彼は本格的に商団の業務に取り組み始めた。
高級品を販売するプレミアムブランドの立ち上げを通じて、貴族社会においても需要の高い商団としての地位を確立し、本格的な利益を生み出した。
生活必需品は彼が自ら大量生産を行うことで単価をさらに下げ、利益率を高めた。
また、フェリス商団によって職を失った人々を彼が再雇用した。
他の国にも支店を設けて収益を積み重ねており、「枯れない泉」という表現は控えめなものであり、商団界の海、大陸の巨大な富と呼んでも差し支えないほどの規模だった。
ロビンは信じられないという表情でエドワードとヘンドリックを交互に見た。
「これも騎士団の中で私だけが知らなかったんですか?」
「はは!そういうことだったんだな。いつ気づくかと思ってたけど、最後まで分からなかったとは!」
ヘンドリックが豪快に笑いながら言った。
「まさかとは思いますが、陛下がご覧になった物が次々にフェリス商団から新商品として発売されるのを見て、もしかして陛下、うちの騎士団にフェリス商団のスパイがいるんじゃないかと真剣にお話しされていたことまでありましたよ。」
「陛下は笑ってごまかしてたけど、最後まで一人で疑って心配している姿がちょっと不満でした。」
「はあ、ここまでくると世の中が自分だけを避けて動いているような気がして……。あの、騎士団の中で私、いじめられてるんでしょうか?」
ロビンが呆然とした顔で尋ねると、ヘンドリックがそれを慰めた。
「神殿で育ったから、世の中の暗闇を知らないんだ。察しが悪いだけかもしれません。教えてほしいのに、いつか気づいてくれるかと見守っていた気がして口をつぐんでいたのですね、エドワード様!
「世の中のどこに察しの悪い人がそんなに多いですか!それは神殿出身者への偏見ですよ。私はそんなにバカじゃありませんよ。」
ロビンがムキになって言うと、ルイーゼは怪訝そうな顔で尋ねた。
「ロビン、神殿で過ごしたことがあるの?」
「はい。幼いころにそこで育ちました。」
「そうだったのね。ロビンは性格がいいから、きっと親しい神官や信者も多かったでしょう。」
「そうでもありません。私は大神官でしたから。」
ロビンは無表情な顔で淡々と答えた。
「そうか、大神官……。えっ、なんですって?」
「騎士団で治療師として働き始める前までは、神殿の大司教の中で、神の第一の使徒ミカエルでした。まあ、もう過ぎたことですけど。」
ロビンは沈痛な表情で肩をすくめた。
ルイーゼは自分の耳を疑った。
「大司教ってそんなに簡単になれる立場なの……?」
「なれませんよ。不在だったんです。7年前、帝国中を騒がせた失踪した大司教。――それがロビンなんです。」
エドワードの補足説明に、ルイーゼは衝撃を受けた顔でロビンを見つめた。
とんでもない爆弾発言をしたロビンは、「私ってそこまで空気読めなかったっけ?」といった表情でただ突っ立っていた。






