こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

38話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 錬金ギルド②
錬金術ギルドのメンバーたちは、その光景に目を奪われて見守った。
「え…?あれ何!?」
「誰かが魔法を使ったんじゃ? 何か仕掛けたんですか?」
「私たちの中に魔法使いがいれば、とっくに気づいてるはずでしょ!」
しばらくして、彼らはお互いを見つめ合い、どよめき出した。
一瞬で芽が動き、茎が伸びて、花が咲くという一連の過程は、常識では説明できない出来事だった。
「こんなことって、あり得るの?」
「誰がやったのよ、誰が!」
先ほどとは比べ物にならないほど、ギルドは騒然となった。
彼らは今見たことが魔法で可能なのか、錯覚なのかを議論しようとし始めた。
その騒然とした場の中で、ユリアの声が静かに響いた。
「私がやったんです。」
静かに見守っていた先ほどとは異なり、
真剣な雰囲気の中、すべての集中が集まり、瞬く間に周囲が静まり返った。
「私はギルド長から聞きました。錬金術ギルドの皆さんには実力と熱意はあるけれど、いろいろと条件が合わずに苦労されていると…。」
「……」
「実は、私は『成長の祝福』という力を持っています。」
「き、聞いたことあるよ。プリムローズ公爵家に与えられる祝福の力!今、令嬢があの花を咲かせたのか?」
「…プリムローズの若公爵が『剣の祝福』を受けて上級の実力を持っているって。それと同じようなものなのか?」
沈黙の中、ユリアは落ち着いた口調で話し始めた。
「ご存じの方がいらっしゃるんですね。私の持つ祝福の力がどんなものか、この場で説明するのは難しいですが……」
ユリアは言葉を切ると、やわらかく微笑んだ。
「ええ、入手が難しい貴重な薬草も、温室のように育ててさしあげられますよ。」
育つ気候が限られており、採取が困難な場所にしか咲かない薬草。
どこにでもある植物ではないため、何度も努力しても入手できないこともあった。
そしてそれらにはお金と時間、運などすべてが必要だった。
『近くで手に入りやすく、でも効果は落ちない薬草で代替できたらいいな。いくつかの薬草だけでも簡単に供給されれば、研究の進展が早まるだろう。』
ユリアが示した言葉と行動を理解したギルド員たちの目つきが変わった。
徐々に成長の祝福の可能性を解き明かし始めたのだ。
特に一人の目つきが鋭くなった。
『間違いない。あの人だ。』
前世でユリアを探していたダニテルだった。
『薬草をくれると言っているのに、反応が大きくないな。』
もしエリクサーを研究しているなら、今は材料不足で悩んでいる時期のはずだ。
しかし、彼女は黙って同意することなく前に出ようとはしなかった。
『私を訪ねてきたのが1年ほど前だから……今になって姿を見せないのも理解できる。世に出す覚悟が決まっていないのか、まだ研究が完成していないのか。』
どちらかはわからない。
反応を見る限り、研究自体はしているようだった。
他の人々が漠然とした夢を語る雰囲気だとすれば、
ダニエルは薬草の話を聞いた瞬間に何かを考えているように、じっと沈黙していた。
「これが、噂に聞いていたプリムローズ公爵家に宿る祝福の力なのですね。」
沈黙していた前のギルド長が口を開いた。
「皆さん……この方がどなたかわかりますか?」
「プリムローズ公爵令嬢だと申しませんでしたか?」
何度もプリムローズ公爵家の話が出てきた。
バカでない限り覚えていた。
だが、元ギルド長が語ろうとしたのは身分についてではなかった。
彼は問いかけた。
「この方がただの貴族に見えるか?」
「え?」
「私から見るに、この令嬢はお金持ちの方だ。」
「……!!!」
ギルド員たちの反応はさまざまだった。
口をぽかんと開ける者、大きく目を見開いてのけぞる者、感嘆の声を漏らす者、軽く息を呑む者もいた。
だが全員、気持ちのよい衝撃を受けたような反応は同じだった。
『いい助けね。』
ユリアは前ギルド長の言葉に微笑み、ついてきたセリアンに手を差し出した。
彼女が鞄を開けると、キラキラと輝く品々がざらざらとこぼれ出た。
金貨や宝石だった。
「……」
騒がしかったギルドの建物が再び静まり返った。
上の階から聞こえるわずかな騒音だけが響いていた。
「今まで各自で手がけていた研究が多かったと聞いています。ギルド員の研究を統合するのにも時間がなくて困難だったでしょうし……」
「……」
「でも、これからは一緒にやってみましょう。」
ユリアは穏やかに笑った。
「希少な薬草だけでなく、必要な薬材はすべて私が提供します。それだけではなく首都にいるときの宿泊費も責任を持ちます。地方から上京するときの交通費までも全部。」
これなら錬金術の可能性が大きく発展することもできるだろう。
前世で劣悪な環境で作ったものよりも、多くの成果が出るかもしれない。
作るのが難しい薬だからといって、どんな状況やすべての条件において最善というわけではないのだから。
そして、静寂は……思ったより長くは続かなかった。
ギルド員の一人が手をぴょんと挙げた。
「私は新しいギルド長に反対しません!」
「立派なギルド長が連れて来た方なのだから、当然良い方だと思っていましたが、思っていたよりも視野が広く、未来を見通せる方なんですね!」
「おい、お前さっきは一番反対してなかったっけ?」
まるで何もなかったかのように、ギルドのメンバーたちはそわそわと手を挙げ始めた。
「今やっている研究があるんですけど、お金さえ支援してもらえれば…!」
「いえ、私も必死で進めている研究があるんです!」
彼らは、うるうるとした目でユリアに一言でも多く言おうと必死だった。
その騒ぎの中で、ユリアはさっぱりと笑った。
「全部やってあげますよ。今や私たちは時間がないだけで、お金がないわけじゃないですから。」
「はあっ。」
「心臓が爆発しそう…。」
一瞬にして、同僚からライバルになったギルドメンバーたち。
「すべて支援してくれる」という言葉に、ギルドのメンバーたちは感動に浸って呆然としていた。
「我々のギルドに…貴人がいらっしゃったのか。」
ユリアが思い出した前世の記憶によれば、錬金術ギルドは様々な試薬を作る技術力があった。
だが神殿では神聖な毒だとして阻止し、様々な支援を行わなかったため、進展はなかった。
それでも…様子を見ていると、
『まだギルド長や数人程度しか気づいていないようだが。化粧品は単にお金が儲かるからいいというわけじゃない。』
化粧品から煙、煙から薬へと段階を踏んで発展していったら?それでも人々が今のように神の摂理を否定する行為だと震え上がるだろうか?
化粧品のおかげで人々の間に「特定の物品を使うと体調が良くなる!」というような認識が強く生まれた。
まず化粧品に対する拒否感をぐっと下げただけでも大きな成果だった。
『そこに侯爵の力、皇族の力が後ろ盾となれば、十分に問題ないだろう。』
このような影響力を察知した、もしくは気づかなかった人たちも、ユリアの圧倒的な支援の約束にすぐさま万歳を叫んだ。
「新しいギルド長、万歳!」
「実は私、ただの代理なんですけど…。ギルド長は母でして…。」
「はい、代理様も万歳!」
ユリアはそれでも錬金術ギルドでは薬草を育てられるという自信が湧いてくるような言葉を続けた。
「私は薬草を。事務仕事は母がたくさん引き受けてくれるはずです。ではまずギルドの円滑な研究活動のために、隣の建物まで買い入れました。一緒に見学に行きましょうか?」
「いや、時計塔くらい高くて、どっしりと建てられたあの建物…?」
今までみすぼらしい酒場の地下で、窮屈な倉庫の中を歩きながら研究してきたのに。
彼らが内心うらやましく思っていた隣の建物を――
「まるごと買いました。」
「うわー!すばらしいです!」
新しいギルド長、いや、ギルド長代理はそんなふうにすんなりと受け入れられた。
錬金術ギルドをユリアが掌握した瞬間だった。
ユネットを準備しながら、エノック皇太子の仕事は大幅に増えた。
しかし、それは開店以降は少し忙しい程度では済まなかった。
ユネットの化粧品は予想以上に好評で売れ、それがきっかけで個別に対応しなければならない仕事が次々と生まれた。
それだけではなかった。
エノック皇太子には、もともと王室の相談役としての業務もあった。
そこに一度も手を抜いたことがない自己鍛錬。
学業に近いほどの厳しい日課であったにもかかわらず、本人は飄々としていた。
むしろ心配していたのは、見守る側近たちの方だ。
「なんか新鮮ね。夏はいつもこんな感じだったじゃない。」
「それは分かってるけど… それでも、これはちょっと体を壊されますよ。今年は流行病もひどいではありませんか。」
「眠れないなら、その時間に何かする方がましだ。」
程度が過ぎているという言葉にも、エノック皇太子は「考えてみる」とだけ言うにとどまり、大して気にする様子はなかった。
彼は依然として目を開けた瞬間から、少しも休まずに何かをしていた。
まるで何かに追われているかのように。
「はあ…このままだとどこか悪くなられるのでは。」
「どんなに実力のある魔法使いでも他の人より多少無理がきくとしても、それでもこれはさすがに酷すぎます。」
「合間にうたた寝をしておられるとはいえ…それでもベッドで長く休むのとは違うでしょう。」
強く言ってみたり、哀願してみたり。
しかし、何をしても効果はなかった。
「普段ならビビアン皇女殿下に頼んで止めてもらえたのに…」
だが最近のビビアン皇女は、社交界の復帰で目まぐるしい日々を送っていた。
そんな彼女を呼び出して、兄である皇太子が忙しすぎるから少しは休ませてほしいと頼むこともできなかった。
「実際、ビビアン皇女殿下だっていつも成功していたわけじゃないでしょ。たまに殿下から話を聞いてくれるくらいよ。」
「ユネットの仕事まで関わってるからか、去年よりもさらに熱心に働いていらっしゃるようだし… このまま倒れた後じゃ遅いよ。」
側近たちは何もできず、長いため息をついた。
皇太子を止めようとしたり、声を上げてみたり、懇願もしてみたが、まったく通じなかった。
ただ彼の気難しさを刺激して、ストレスを与えるだけだ。
「いっそ死ぬまであのままでいらっしゃるかもしれませんね。私たちが諦めるのが正解かも。」
「その通りです。誰が皇太子殿下に口出しできますか。」
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
エノック皇太子は魔力灯がぱっと消えるのを見て、少しだけ咳をした。
十分に魔力を注げなかった器では、周囲を照らす光も消えていた。
「うむ。」
皇太子宮の人々が仕事を怠けたわけではない。
魔力灯を交換するわずかな時間さえ惜しむほどに、彼は一瞬たりともその場から離れようとしなかった。
ずっと酷使していたので、宮廷に納品された品物でも故障するのは当然だった。
『誰もいないな。』
エノック皇太子を見て落ち着かなくなっていた側近たちすら、いつの間にか姿を消した夜。
彼が嫌がるほどに周囲をうろついていた作戦も失敗した。
皇太子の側近である彼らもまた忙しい身であり、どうしようもなく眠らなければならない人間だからだ。
『こうして何日か経てば、いつものように諦めるしかなくなるんだろう。』
サアア——
彼は窓を打つ雨の音に、しばしそちらへ視線を向けた。
『だいぶ時間が経ったな。』
夜だった。
誰かを呼んで明かりを灯してもらうには、あまりにも遅い時間。
だが、使用人を呼べないからといって、特に問題があるわけでもなかった。
エノックは躊躇うことなく、魔力灯に手を伸ばした。
彼の専門分野は攻撃魔法だったが、それでもやはり魔法使い。
魔力灯を扱うくらいは数十秒もあれば十分だった。
こうして、エノック皇太子の休息はたった一分で終わった。
「……」
エノック皇太子は再び席に着いた。
そして直前にも読んでいた書類のページをもう一度、指でなぞるようにめくって読んだ。
それしかなかったのだ。
目に入らなかったからだ。
じめじめした湿気と重苦しい空気、暗くて外が見えない……
そんな夏の夜は、かえって昔を思い出させた。
『ちょっと違うことを考えただけなのに、もう乱されるとは。』
しばらく窓の外に気を取られただけで、エノック皇太子は再び書類に目を落とした。
呆れるほどに几帳面な態度だった。
『やるべきことがあってよかった。』
もちろん、これは健康的ではないやり方だということはわかっており、側近たちに心配をかけることもしたくなかった。
だが……エノック皇太子は、ただ黙って座っているだけの人間ではなかった。
こんな日は目を閉じると、よくない考えが込み上げてくる。
ベッドに横になっていても、いつかは過去に引きずられてしまう。
何もできない子どもになったかのような、その無力感に陥って呆然とするばかり。
少しでも体に負担がかかる方法だとしても、仕事や訓練をした方がましだった。
『こんな感情は無理に吐き出す必要はない。』
もちろん、正確な事情は知らない。
彼が夏を嫌っているという程度のことは、誰もが知っている事実だった。
しかし、なぜ夏に限って過ごすだけで身体を酷使するのかについては、説明したがらなかった。
どうせ彼らにも明確な解決方法がわかるわけではなかったのだから。
いたずらに夏に気を遣っている人が増えるだけだろう。
「ふむ。」
何気なく書類を読み進めていたエノック皇太子の視線が、ある一文で止まった。
ユリアがラインナップに追加した日焼け止め。
それが夏に合わせて大きな成果を上げていた。
彼は無意識のうちに口元が自然と緩んだ。
『開店時期が夏であることを考慮して、良い製品を出したな。』
研究開発も素晴らしいと感じたが、それに加えて広い視野も持ち合わせていた。
敏感肌のようなものは、あくまでその記者が取り上げるべき事柄の一つにすぎなかった。
だがエノック皇太子は、思いもよらなかった階層にまでユリアがターゲットを設定していたことに気づいた。
そのため、化粧品はもはや一部の貴族だけの専有物ではなかった。
エノック皇太子は書類を次のページへとめくった。
続く内容には、最初の顧客層だった騎士だけでなく、屋外で働く人々の関心も集まっているという報告があった。
価格も安く設定されていて、貴族だけが買えるものでもなかったのだから…。
それにもかかわらず、供給が追いつかず純利益が十分に出ているという点がさらに驚異的だった。
『そして日焼け止めに続いて、制汗剤も…。』
製品を思い浮かべながら、自然と「におい」という言葉が頭に浮かんだ瞬間。
すぐさま体に塗るにおいが連想され、歯ぎしりした。
制汗剤という言葉は、事業をしながら何度か耳にしていたが、需要があるにもかかわらず簡単には手を出せない品だった。
それはなぜだろう。
『最悪の夏……』
誰にも言えない、共有もできない、共感も得られないこと。
「ふぅ……」
完全無欠な皇太子でありたい。
それこそが、自分が生きている理由だから。
誰にも弱い姿を見せたくなかった。
ただ、暑さのせいで眠れないという習慣。
それをむしろチャンスと捉えて、仕事に没頭する少し風変わりなワーカホリックのように見られたかった。
『本当にこのままで大丈夫なんだろうか。』
そんな自分に、知らないふりをしても、そろそろ限界が近い――気力がどんどん削られていくようだった。
崩れた馬車の中で、何もできなかった無力な子どもだったあの時のように。

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