こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

86話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 別人②
記憶を失ったエドワード。
自分の意識とは裏腹に、7年も若返った彼は、精神年齢で考えると騎士団の末っ子になってしまった。
未成年の見習い騎士たちはすべて、リンデマン大公邸で訓練中だったため、彼が最年少というのは自然なことだった。
「では、彼らが被害者ということか?」
「その通りです。」
黒魔法が消えたその場には、エドワードとルイーゼ、そしてルイーゼが乗っていた白馬を除いて、魔法の影響を免れ生き残った数名だけが残っていた。
魔法に支配されていた村は、広大な空き地となっていた。
そこにあった村の建物も、動物も、住民も、跡形もなく消えてしまっていた。
黒魔法から生き残った人々は、皆正気を失っていた。
「ひっ、ひひっ。俺だ、俺だ、ひひっ。」
「あ……あぁ……あぁ……。」
彼らは騎士たちに導かれ、小さな仮設テントの近くに座らされていた。
「つまり、セレベニアが我々の側についたということか?」
「その通りです。」
「……そういうことになったのか。」
エドワードは喉を鳴らした。
7年前の彼の立場からすれば、ほんの少し前まで彼に背を向けていた者たちが、今こうして彼の前にいるのは複雑な心境だった。
エドワードはマクシオンと協議し、黒魔法にかかった人々を最も近くにあるセレベニアが運営する療養院へ送ることを決定した。
遠征が終わった後、皇室へ報告を済ませ、新たな住居を探すまでは時間がかかる見込みだった。
とはいえ、彼らを連れて回るわけにもいかなかった。
「今のセレベニアなら、神殿や皇立療養院よりも信頼できるだろう。」
「……私もそう思います。二つの施設で運営されている療養院は、この7年間で受け入れ数は増えましたが、患者の平均寿命はセレベニアが運営する施設の方がはるかに長いと聞いています。」
「しっかり調査していたんだな。」
「エドワード様のご指示でした。」
エドワードは目をわずかに見開いたが、すぐに普段の表情に戻った。
「そうか。恋に溺れてただただ腑抜けになっていたわけではないんだな。」
「その“恋”ということですが、お二人は実際には恋人関係ではありませんでした。」
「恋人じゃない?だが、他の者たちはそう認識していたようだが。」
「事情があって、契約上の恋人関係として振る舞っていただけで、それが続いていたという状況です。」
「つまり、契約恋愛の関係であり、個人的な後援者でもあったということか?以前も後継者の座を提案しようとしたことがあったかもしれないな。」
「後継者ではありませんでした。詳しく申し上げると……。」
「待て、当事者がこちらに来るな。関連する話は本人から直接聞くとしよう。」
エドワードは興味深そうな表情で、こちらへ向かってくるルイーゼを見つめた。
「……はは。はい。そして、あなたが魔法士であることや皇位放棄についても、ルイーゼはまったく知りませんでした。それは事前に知っておいていただくべきかと思い、お伝えします。」
「皇帝が送り込んだスパイ、という可能性は?」
「それはありません。」
「それでもないのに、今まで何も話してこなかったとは……随分と興味深い内容だな。ありがとう。」
彼は笑いながら答えると、半ば無造作に席を立った。
マクシオンは気を利かせ、そっと席を外し、ヘンドリックとロビンが座っている場所へ移動した。
ルイーゼは口を尖らせながら、エドワードのもとへ向かった。
「えっと、こんばんは。エ……ドワード。」
「表情が冴えませんね。何か不都合なことでもありましたか?」
「エドワードと呼ぶのが、何となくぎこちなくて……。少し別人のようにも感じますし……知らなかったことを聞いて驚いたりもしました。」
ルイーゼは彼と視線を合わせられず、戸惑いの表情でそう答えた。
「うん、それなら戸惑うのも無理はないですね。実は、私も知らない相手に名前を呼ばれるのは少し気まずいものです。」
—— 知らない相手。
ルイーゼは驚いた表情でエドワードを見つめた。
確かに、過去の出来事を考えれば彼が親しげに接するのは不思議ではない。
しかし、今の彼にとってルイーゼは「知らない相手」なのは事実だった。
エドワードはしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「では、エリオットというのはどうでしょう? 私のミドルネームです。割と気に入った相手や初対面の人に仮の名として使うこともあります。私たちが初めて出会った時も、そう紹介した記憶があります。記憶を取り戻すまでは、お互いにその方がいいかもしれませんね。」
「エドワードのフルネームのミドルネームに『E』があったのね。エリオット……いいですね。じゃあ、そう呼びます。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、お祭りで出会ったあの少年も、そんな風に紹介していた気がします。」
「覚えていませんか?」
「あまりに昔のことなので……。」
「……私はその出会いを、ずっと胸に刻みながら生きてきました。ルー嬢、あなたがそう紹介してくれたことを。あの時のことも覚えています。」
「そうだったのですか。」
「私だけがあの出会いを特別に感じていたんでしょうか?まあ、ルイーゼ嬢なら、私以外にも多くの人を助けたはずですから、記憶が曖昧になっているのかもしれませんね。」
彼は少し残念そうな口調で言った。
ルイーゼは彼を慰めるように、ゆっくりと話し始めた。
「私は会話よりも、映像の方が鮮明に覚えています。最初にあなたの顔を見た時、ランタンが浮かび上がる場面。それを見つめていたあなたの姿。記憶の仕方が違うだけかもしれません。」
エドワードは穏やかに微笑んだ。
「共有できる記憶があってよかったですね。どんな経緯であれ、恋人になった人と少しの共感も持てなかったら、親しみを感じることも難しかったでしょうから。」
「はあ……」
「でも契約恋愛とは意外ですね。正直、私は当然、自分があなたと恋に落ちたのだと思っていました。」
「え?」
ルイーゼは驚いた表情で問い返した。
エドワードは微笑みながら、彼女をまっすぐ見つめて言った。
「そのままの意味です。その日以来、ずっとあなたに会いたかったし、優れた人物としてそばに置きたかった。私の人生でこんなに強い印象を残した人は、ルイーゼ嬢だけでした。だから、もし恋に落ちるとしたら、それはあなたしかいないと思ったんです。どんなに美しい人を見ても、ルイーゼ嬢ほど記憶に長く残ったことはありませんでしたから。」
「それはただの印象じゃないですか。」
「人は時に、それよりもずっと些細な理由でも恋に落ちるものです。皇太子宮の庭師と恋に落ちるように。侍女が恋に落ちた理由が、初対面で手袋を拾ってくれたことと、目が合ったことだなんて。何度も転んでいたことを考えれば、生きていたら今頃は冷めていただろうけどね。」
彼の淡々とした声には、二十歳特有の若々しさが滲んでいるようだった。
(過去のエドワードはこんな感じだったのね。)
ルイーゼはそう考えながら、穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうだったのね。」
「ええ。誰かのことを何度も思い出し、会いたくてたまらなくなり、胸をときめかせながら待つことが恋なら、もしかするとあの日以来、私はもうあなたを愛していたのかもしれません。」
「それは誇張しすぎです。私がどんな人間かも分からないのに、そんなふうに言うなんて。それに、エリオットは再会してからの初対面で私に恋なんてしませんでしたよ。」
「思ったよりも先を見通す目がない愚か者ですね、未来の私は。」
「私は聡明で良い人間だと思っていたんですけど。」
「そう思ってもらえていたなら幸いです。ルイーゼさんは以前はもう少し明るく笑う方だったと記憶していますが。」
ルイーゼは小さく笑った。
7年前のエドワードは今よりも率直で親しみやすい雰囲気を持っていた。
「生意気でしたね。」
「今は違うのですか?」
「少し無鉄砲になりましたね。マクシオンの言葉も無視して、エドワードを助けるために
黒魔法の中へ飛び込んでしまったのですから。」
ルイーゼは気まずそうに笑った。
そんな彼女を、エドワードは楽しげな目で見つめた。
「戻ってきたのが完全なエドワードではないので、適応するのは簡単ではなさそうですね。」
「慣れようとしているところです。こっちのほうが悪くない気がします。」
エドワードの視線は、彼女の腰にある剣に向かった。
「マクシオンから、私たちが契約恋愛をしていたと聞きました。詳しい事情は、ルイーゼさんの口から直接聞きたいのですが。」
「あ、はい。どんな経緯だったのか、お話ししますね。」
ルイーゼ表情が少し固くなった。
彼女は、二人の初めての出会い、レイアードと一緒にいたときのこと、首都の外郭で彼を治療したことから、彼が彼女の情婦(?)になった経緯について語った。
そして、彼が彼女に剣を教え、剣術を交わしたことも——会議に参加した出来事まで話して聞かせた。
「考えてみると、あのすべての魔法をエドワードが直接かけたのですね。よく知る魔法使いだと嘘をついたのですか。」
「完全に間違いとは言えませんね。自分自身がよく知る魔法使いであることは確かですから。」
「それを自己弁護するつもりですか?」
「特に弁護するつもりはありません。それより、その剣はつまり、剣術大会で優勝してルイーゼさんが手に入れたものですか?」
「あ、はい。そうです。」
「ルイーゼさんに訓練まで受けさせておいて、未来の私は無能になってしまったのですね。」
「私が優れていたということでしょう。」
エドワードはしばらく彼女の剣を見つめていたが、やがて顔を曇らせ、呆然とした表情になった。
「……探しに来なかったということは、すでにそれがそういうことになった、ということか?」
「はい?」
「いいえ。」
ルイーゼは話を続けた。
彼女は二人の間にあった出来事を、できるだけ簡潔に要約して話した。
ただ、一つだけ見落としていた点があるとすれば、ルイーゼは誰かと会話をするとき、習慣的に母親のことを隠してしまう癖があった。
それは本人すら気づいていない習慣であり、そのため記憶を失ったエドワードは、ルイーゼの母親がレンシアであることを知らなかった。
二人は、このことが後にどんな波乱を巻き起こすのか、まだ知る由もなかった。
「マクシオンとルイーゼさんは、もともと知り合いだったのですか?なるほど。俺たち三人は、やはり運命的な縁でつながっているようだ。」
「エリオットは本当に率直ですね。」
ルイーゼは笑いながらフォークを持ち上げた。
話がひととおり終わったころ、エドワードが真剣な表情でフォークを止めた。
「ちょっと待て。恋人でもないのに、一緒の寝床で寝たってことか?」
エドワードが衝撃を受けた顔で口を開いた。
「婚約者に対して、ずいぶんと寛大だったんだな。そんな浮気者を助けるとは、心が広すぎる。」
「誤解があるようですが……ただ寝ただけですよ。ぐっすりと。」
「一つのベッドで?」
「はい。」
エドワードはしばらく黙っていたが、疑わしげな表情でゆっくりと肉を噛みしめた。
「自分なりに人生で人を助けてきたようですが、それはそれとして傷ついてはいませんか?治療師がまだロビンのようなので、いくつか検査をしてみた方がいいかもしれません。」
「……たぶん大丈夫だと思います。」
「え?」
「いいえ。それより皇位の簒奪(さんだつ)……本当なのですか?」
エドワードは無表情のまま答えなかった。
「はい。その話を持ち出したとき、なぜマクシオンが動揺していたのか分かりました。未来の私はルイーゼをこの件に巻き込みたくなかったのでしょう。前世の記憶によれば、皇帝と親しい関係だったなら、私と共に行動することで自然と彼と敵対することになります。」
「やはりそうだったのですね。先ほどその話を聞いた後、考えてみましたが、やはり答えはそれだけでした。私に秘密にしていた理由も、私を遠ざけようとした理由も。」
「それでも私と一緒にいることを望みますか?」
エドワードの率直な質問に、ルイーゼは深く考え込んだ。
しばらくして、彼女はゆっくりと口を開いた。
「今回の件で、前皇帝が死ぬことになりますか?」
彼がじっくり考えた後、少し不安げな表情で口を開いた。
「彼が犯した罪の重さによるでしょう。確実なことは言えませんが、ルイーゼが望まないのであれば、できるだけ生かす方向で進めてみます。」
「……ありがとう。とりあえず、残った作戦は一緒に進めましょう。そして、この先のことはもう少し考えてみようと思います。」
「分かりました。」
「先に休ませてもらいますね。」
「ええ。」
ルイーゼは硬い表情のまま席を立ち、自分の幕舎へ向かった。
無表情な顔の赤い瞳孔が、彼女の後ろ姿を長く追っていた。






