こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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80話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自身の過去③
年を重ねるにつれ、ルイーゼがどこか気難しくなってきたのを感じ取ったのか、レンシアは10歳の誕生日を迎えた記念に、彼女とマクシオンを近くの村のお祭りに連れて行く約束をした。
「カバン」という村で開かれる冬祭りは、この地方の祭りの中でも規模がとても大きなものだった。
新年の最初の月に開催され、かなり長い期間続く祭りだ。
厚い服を重ね着したルイーゼは、忙しそうに目を動かしていた。
不思議な建物の前にカードを並べる占い師、見たこともない食べ物を売る露店商、見た目は良くないが派手な武器を扱う武器商人、小規模な劇団まで。
その場所は初めて目にするものばかりで満ち溢れていた。
「もし迷子になったら、人に聞いて中央広場で会おうって言われたよ。そうならないように、ちゃんと気を付けて。」
「はい!」
ルイーゼは無邪気に手を引かれながら、マクシオンのそばでレンシアをしっかりと追いかけた。
好奇心であちこちを見回しながらも、ほんの少しずつ不安が影を落とし始めていた。
始まりのざわめきの中、行列は街路に置かれた椅子に座る語り手の話を聞いていた。
「昔々、二匹のドラゴンが住んでいました。一匹は北部のホワイトドラゴン、ロン。そしてもう一匹は?皆さんご存知ですね!そう、ドラゴンスレイヤーのレンシアが倒した光竜ルンのことです。もうお気づきでしょうが、これはその二匹のドラゴンにまつわる物語です……。」
レンシアとマクシオンがその話に集中している間、ルイーゼはどこかから感じる違和感に気付き、こっそりと視線を動かした。
黒いマントを羽織った男たちが語り手の舞台の横にある薄暗い路地へと入っていくのが見えた。
彼らはまるで北部の巨人のように巨大な体格をしており、まるで見せ物として出ていたかのようだった。
ルイーゼの視線は、彼らが引っ張るように連れていく一人の少年に釘付けになった。
雪のように白い肌に、宝石のように赤い瞳を持つ少年だった。
その少年もまたマントを羽織っていたが、帽子の隙間から見える髪は夜空のように濃い黒色だった。
一見しても非常に整った顔立ちだった。
どうしてこんなにも人混みの中で、彼に目が行ったのか自分でも分からなかった。
ルイーゼが不思議そうな表情で彼を見つめた瞬間、少年と目が合った。
「……きれい。」
微かな熱を帯びた赤い瞳は、手を伸ばせば触れることができるかのように温かく見える一方で、冷たい氷よりも冷たく感じられることもあった。
まるでこの世で最も美しい赤い光を放つ薔薇を見ているようだった。
それは何よりも華やかで美しく、それでいて危険な香りを漂わせていた。
鋭い棘を持つ危険な花。
その瞬間、ルイーゼは魔法のようにどこからか漂ってくる薔薇の香りを感じた。
明らかに薔薇が咲かないはずの冬の季節に、奇妙な出来事だった。
少年が姿を消し、しばらく時間が経った後、ルイーゼは決意を固めた表情で席を立ち上がった。
少年が向かった方向から漂ってくる不思議な薔薇の香りが、ルイーゼを導いていた。
その間に彼女たちはかなりの距離を移動していたようだ。
迷路のように複雑に入り組んだ路地は、暗くて不気味で、ぞっとする雰囲気を醸し出していた。
「降りろ。」
「おい、叫んだら殺すぞ。」
「……ふ。」
少年は口角を歪めて持ち上げ、笑みを浮かべる。
「そうすると死ぬのはあいつらのほうだろう。」
「声を聞くに、かなり高貴な家の子供ってところかな?だけど、俺たちはそういうのには従わないんだよ。まあ、良いコルティジャン(高級娼婦)に仕立ててやるけどな。」
卑劣な顔つきの男が言葉をつまらせ、口を閉じた瞬間だった。
その背後から何かが飛び込んできた。
「ぎゃっ!」
「な、なんだよ!」
手を振り上げていた少年の動きが止まった。
男たちは慌てふためき、後ろを振り返ると、そこには銀色の髪を持つ小柄な少女が立っていた。
ルイーゼだった。
「おじさんたち、その子を放してあげてください。その友達をいじめないで。」
「友達?あいつと友達なのか?そう考えるとお前もなかなか面白いやつだな。」
男がルイーゼを見て、後頭部を手のひらでさすりながら言った。
「偉そうに剣なんか持ち歩いてるんだな。女のくせにそんなの許されると思うか?お前も俺たちの玩具にしてやるよ。ハハハ!」
「嫌ですね。」
ルイーゼが目をしっかりと見開き、抜こうとしていた剣をゆっくりと鞘に戻した。
「母が言ってました。森の外では人を乱暴に扱っちゃいけないって。だから、おじさんたちにはこれで対応します。」
少女の毅然とした声に、男たちは笑い声を漏らした。
そのうちの一人がルイーゼの頭にかぶっていた黒い帽子を掴み取った。
笑い声は一瞬で途絶えた。
マントを軽やかに脱ぎ捨てたルイーゼが素早く体をねじり、男の手から逃れた。
そして素早い動きで路地の壁をよじ登り、男たちの後方を取りながら注意を引きつけた。
大柄な男たちは次々とルイーゼの手によって倒れ始めた。
ルイーゼの動きに合わせて揺れる銀色の髪は、月光に反射して波のように輝いた。
やがて最後の男が地面に崩れ落ちた。
ルイーゼは地面に落ちていた自分のマントを拾い上げ、それを軽く払い大衆の肩に掛け直した。
少年は混乱した群衆の中で逃げ出すことなく、その場に立ち尽くし、彼女が最後の男を倒すまで見守っていた。
内に秘められていた衝動が解き放たれたように、光のような速さで動く彼女の姿から視線を外すことができなかったのだ。
その瞬間、ルイーゼの背後に倒れていた男の一人が意識を取り戻したように手をピクリと動かした。
その様子を見て、自分のすべきことを思い出したのか、少年は即座にその男の手を叩きつけた。
「パシッ」という音が響いた。
動きかけていた男は再び力を失い、その場に崩れ落ちた。
ルイーゼは少年の方へ歩み寄った。
「大丈夫? ケガはないみたいね。」
「……はい、大丈夫です。助けていただきありがとうございます。」
柔らかな瞳を持つ少年はルイーゼを見上げた。
少年はルイーゼよりも少し背が高かった。
近くで見ると、遠くから見たときよりも彼の瞳が一層輝いて見えた。
彼からは濃いバラの香りが漂ってきた。
「香水を使っているの?」
「使っていませんけど。」
「じゃあ自然と香るんだね。君からバラの香りがするなんて、すごく素敵だ。」
ルイーゼは明るく笑った。
「あなたはバラが好きなんですか?」
「うん、そうだね。好きだよ。」
「それでは、お礼として次にお会いする際にバラをお持ちします。」
「本当に? ありがとう。冬は花を手に入れるのが難しいって聞いたけど、君の瞳のような赤い色の花だと嬉しいな。」
「赤いバラを用意しますね。」
「ところで、君の名前は何?」
ルイーゼの問いかけに、少年は何かを考え込むように少しの間黙っていた。
「エリオットと申します。」
「私はル……」
ルイーゼは言いかけて口を閉じた。
レンシアは、彼女が外部に素性を明かすことを極端に嫌がった。
初対面の相手に名前を教えたことが知られたら、きっとお小言を言われるに違いない。
「ル?」
「うん。ただルと呼んで。」
「はい。」
少年の口元には、穏やかな微笑みが浮かんだ。
清々しいほどに端正な顔立ちだった。
今まで見た男性の中で一番ハンサムなのは、間違いなくアレンおじさんだと思っていたのに、それを超える美しい顔立ちの人がいるとは思わなかった。
ルイーゼは心の中で感嘆の声を漏らした。
「ご両親はどこにいらっしゃるの?」
「ご両親は遠くにいらっしゃいますが、行列は中央広場にいると思います。」
「そっか、私も中央広場に行かないといけないの。」
「この場を移動する必要があるみたいなので、一緒に行かれますか?」
少年が短くためらってから、少し恥ずかしそうな表情で尋ねた。
そうして気が付けば、少年の後を追う形で祭りの通りからだいぶ離れていた。
ルイーゼはこの場所の道をよく知らなかったので、彼が一緒にいてくれるのがありがたかった。
「中央広場がどこにあるか分かる? この辺の人に聞いてみようか?」
「ここ出身ではありません。でも、近くの地形は覚えています。」
「そう? じゃあ、この小道を行こう。母と友達がきっと私を待っているから。」
「はい。」
二人は複雑で長い路地を歩き始めた。
徐々に祭りの喧騒が近づいてきた。
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